魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3― 作:神谷萌
左海市の人造魔法少女研究所での事件について、その詳細は公には明るみにされなかったが、魔法の国、魔法少女部門・外交部内の内部情報のリークがあった。
『人造魔法少女ミクセリクサーと魔法少女ファニートリックが、地域魔法少女のプリズムスプリントの協力を得て、研究所の捜索・発見に成功したものの、グリムハートとシャッフリンなる
意図したリークであることは明白だった。目的は2つ。
ひとつは、魔法の国の、魔法少女部門よりさらに上層部に対する牽制。
もうひとつは、人造魔法少女開発に対する牽制だ。
シャッフリンの開発意図は、既存の魔法少女に対する消耗戦兵器だ。
死を恐れず、主人に唯々諾々と従い、敵戦力に突撃する兵力の確保である。
そして、この発想そのものはミクセリクサーのコンセプトと近い。と言うより、ほぼそのままだった。
──────── だから、ミクセリクサーは “失敗作” だった。
それは必ずしも、初期における魔法の自発励起不可能状態のみを指して言うものではない。
むしろ、それ以外がより、開発目的に対して失敗だった。
以前、ネドとプリズムスプリントの会話に出てきたとおりだ。
単一の司令系に絶対服従しない。命令以外のことを考え、判断し、独自の意志と意図を以て行動する。使役者以外と社会関係を成立させられる。善性と優しさがあって自分の価値観を持つ。不快なことは不快だと言う。
要するに、開発要求としては文句を言わない機械が欲しかった。だが、ミクセリクサーはそういうふうに動かない。
だから、 “失敗作” になった。
だからこそ、この情報はリークされた。
戦略的なミスで戦闘目的、ピュア・エレメンツを全員保護し連れ帰ることについてはその成果が小さくなり、現実にはミクセリクサーたちが確保できたのはプリンセス・インフェルノだけだ。
だが、その戦闘経過は、シャッフリンを開発したオスク派に冷水をぶっかけることになった。ほぼ終始、シャッフリンに対してミクセリクサーが優位なのだ。特にシャッフリンの切り札たるスペードのエースが、ミクセリクサーの最強札であるハートの2にまったく歯が立たなかった。
しかも、世代的にはシャッフリンの方が後発、というか、ミクセリクサーの欠点の由来である人格の強度を押さえ、さらに53体にそれを配分する事で命令に忠実になるようにした、ミクセリクサーの “抜本改良型的存在” がシャッフリンだったのだ。
そのシャッフリンがミクセリクサーに対し、ほとんど優位を取れなかった。それどころか、左海の事件におけるミクセリクサーは、 “シャッフリン処刑装置” 以外の何物でもなかった。
この結果を元に、オスク派の人造魔法少女開発技術陣は、方針を修正する。
一方、もうひとつの人造魔法少女開発勢力に与えた影響は、より劇的だった。
左海市の人造魔法少女研究所、それそのものの陣営である。
こちらの陣営は、ミクセリクサーのより致命的な欠点として “コスト” を重視した。
ミクセリクサーは結果的に、放り込まれた “ラ・ピュセル最初の魔法少女選抜試験” 事件において、ようやく魔法の励起に至った。その後、そのラ・ピュセルを師と仰ぎ、 “名深の4人組”と 行動をともにすることで、現在の戦力として完成した、と評価できる。
だがこれは人造魔法少女のもうひとつの側面、コストの廉価化という価値を著しく毀損する。
なので、この陣営が目指したものは、魔法少女を完全にイチから建造するのではなく、魔法少女の適性がない女性を強引にでも、それも戦闘に特化した形で魔法少女にしてしまえばいいというものだった。
個々人に自我がある問題は、魔法少女選抜試験と、その後の成熟にかかる期間を省略することで、魔法少女の何たるかを知らないままにし、それに魔力供給を外部に依存する構造と合わせて、ホストに従う以外の思考を塞いでしまう。
更には、素体について既存の魔法少女の希少例から、生物学上の男性に広げることまで成功した。
だが、他の2種の人造魔法少女にまったく及ばなかった。
ピュア・エレメンツは確かに実証実験機に過ぎなかった。
だから、その適性を評価するために、素体の年代、さらに性別までバラバラにして製作された。
──────── だとしても、だ。
シャッフリンにピュア・エレメンツ単独ではまったく歯が立たなかった。ミクセリクサーの加勢があって、というより、主力のミクセリクサーに対して補助戦力として機能することでようやく戦果を上げた、というのが正しい評価だろう。
そのミクセリクサーとの行動でも、結果的に分断されて、各個撃破されて被害を出し、結果的に回収できたのは
まだ開発が途上だとしても、いやだからこそ、この実態が先に出回っていたらそもそも自分達の
プリンセス・シリーズの陣営もまた、抜本的な改善策を要求されていた。
─☆──☆──☆──☆─
東京都若葉市。
ラ・ピュセルはこの日、とある人物に呼び出され、その邸宅を訪れていた。
とある人物とは、魔法少女プク・プック。とは言っても、プク・プックの実態は、オスク派のトップであるシェヌ・オスク・バル・メルと並ぶ、 “魔法の国” の絶対的指導者である三賢人のひとり、アヴ・ラパチ・プク・バルタが、現世で活動するための
一見、豪奢な日本邸宅に見えるプク・プック邸だが、一度中に入ると、それぞれの様式を冒涜するかのように世界各地の芸術と建築様式がデタラメにバラまかれた、珍妙な場所だった。庭には巨大な木が植わっていて、最寄り駅に到着する3駅も前の車内からでも確認できた。
「ども、ども、どうもぉ、ラ・ピュセルお兄ちゃん。よく来てくれました!」
星があしらわれた金髪を持ち、ピンクのフリフリな衣装を着た魔法少女が現れた。それだけだととてもそんな偉人には見えないが、この人物こそプク・プック本人だ。
その挨拶の言葉を聞いて、ラ・ピュセルは背筋をゾワゾワとさせた。ミクセリクサーの話し方に慇懃無礼を120%充填したような喋り方だと感じた。ラ・ピュセルお兄ちゃん、というのも落ち着かない。最近、鳴に「そうにぃちゃん」と呼ばれるようになったことも関係しているのだろうか。
「どうぞ、どうぞぅ、食べてくださいな」
プク・プックは、そう言って大きな卓袱台の上に用意されているものを勧める。
それは、ポテトチップが盛り付けられたパーティーボウルと、コーラの注がれた大きなコップだ。
コーラはまだわかるとして、
「食べないの?」
と、手を付けずにいたところへ、プク・プックが再度勧めてきたところで、
「じゃあ、いただきます」
そう、恐縮した言葉を出してから、手を伸ばした。
コーン……
庭の方で、何度目かに聞く乾いた音がした。
「それで、ボクに何の用でしょうか?」
ひと口目を咀嚼し嚥下して、少しコーラを口に流し込んでから、ラ・ピュセルはプク・プックに訊ねる。
「プクはね ────」
ラ・ピュセルはまた背筋をゾクゾクとさせた。まるで、見た目通りの年格好の幼女が話すような話し方だ。鳴に見せたら「私でももっとオトナな喋り方するもん!!」と言うだろうか。死んでなかったらスイムスイムをここに連れてきたい気分になった。もっとも生きていたらもう小学4年生だから説得力に欠けるか。
「プクはね、ラ・ピュセルお兄ちゃんと仲良くなりたかったの」
── だから! 鳴ちゃんみたいな話し方はやめてくれ!
ラ・ピュセルは心のなかで絶叫していた。そして、胸中でだけはっと我に返った。プク・プックの話し方は確かに万人受けするものには聞こえないが、それだけで
「それは……でもどうして?」
ざわつく胸中を、相手が相手だから、となんとか抑えつけ、ラ・ピュセルはプク・プックに訊き返す。
「知ってるよ」
ニコニコと笑いながら、プク・プックは言う。
「グリムハートを倒したのは、ホントはミクセリクサーじゃなくて、ラ・ピュセルお兄ちゃんなんだよね?」
「知りませんね」
ラ・ピュセルは咄嗟に誤魔化していた。
「まぁたまた~。それにその1年前、その試作型のグリムローズをやっつけたのもラ・ピュセルお兄ちゃんでしょ?」
── また、偉くて優秀な人を使える人物が肝心なところで実地調査をチグハグにしているな……
プク・プックの言葉に、ラ・ピュセルは内心で呆れた。
グリムローズのときは、表向き ──── と言っても、これも公式に発表があったわけではないのだが ──── ラ・ピュセルとリップルがグリムローズを排除した、と情報が流されていた。こちらは逆で、グリムローズを倒したのはミクセリクサーだ。まだ不安定だった当時のミクセリクサーを守るためにそう偽情報が流された。
── でも、そうか。グリムローズはグリムハートの “先行試験機” だったってことか。
そのことだけは納得した。だから姿が似ていて魔法も同じだったのか、と。
そのラ・ピュセルの胸中を知ってか知らずか、プク・プックは、ニコニコとフレンドリーに笑いながら、言う。
「そのことで、オスク派はお兄ちゃんをマークするでしょ? ひょっとしたら、もっと酷いことをしてくるかもしれないでしょ? でも、お兄ちゃんとお友達になってくれたら、プクがお兄ちゃんを助けてあげられるし、守ってあげられるのよね」
ピタリ、と、コーラのコップに再度手を伸ばしかけたラ・ピュセルの動きが、突然止まった。
「酷いこと、とは?」
ラ・ピュセルが、表情を強張らせて訊き返す。
── あれーぇ? 様子が変……
プク・プックの方が、そう思って小首をかしげつつ、
「もちろん、お兄ちゃんを殺すとか、洗脳して道具にするとか、そういうことだよぅ?」
と、言う。
「それは……」
ラ・ピュセルは短く声を出す。プク・プックの言葉に対する不快感が急速に高まるのを抑えきれずにいた。さっきから、背骨の神経を直接掻きむしられているかのような気分だ。
「お兄ちゃんだけならまだしも、お兄ちゃんの周りにそういうことをするかもしれないよ? オスク派って、そういうところだからねぇ」
「周り……」
「幼馴染のスノーホワイトとか、プリズムスプリントとか! あとは…………」
「リップルに、とか」
それが、逆鱗だった。
── こいつは悪だ。どす黒い悪だ。クラムベリーやカラミティ・メアリなんてもんじゃない、完全に腐敗しきった絶対悪だ。
すっ、と、ラ・ピュセルは立ち上がった。
「それは、お前がボクにそうしたいってことだな!?」
「え、ちょっと」
プク・プックの視点では、それまで素っ気ないながらも最低限の礼儀はわきまえようとしていたラ・ピュセルが、突如豹変したように見えた。
「プク、そんなこと言ってな ────」
「煩い!」
慌てるプク・プックの言葉を遮り、ラ・ピュセルは抜剣した。
「ちょっと待って! プクはホントにラ・ピュセルお兄ちゃんと ────」
「誰が、お前みたいな悪そのものと仲良くなりたいと思うか!」
「なんで、なんでそうなるn ────」
「煩い! お前は生きていちゃいけないんだ! クラムベリーも、メアリも、メルヴィルも、グリムハートも、どうしても名前の覚えられないあの変態女も死んだ! どいつもこいつも救いようのない悪人だったが、お前はそれを上回るどす黒い絶対悪だ!! だからお前を生かしておいちゃいけないんだ!!」
病的にギラギラと輝くかのようなラ・ピュセルの目は、既に交渉で状況をひっくり返せるようには見えなかった。
「やめて、やめてよぅ」
それでも、プク・プックはなお、ラ・ピュセルに訴えかける。
「プクはそんなことしないよぅ……プクはただ、魔力が ────」
必死に懇願するプク・プックに対し、正義の剣は執行された。
「なにやってるっすか!? 逃げるっすよ!?」
ラピス・ラズリーヌ
我に返った、というわけではない。若干の高揚と興奮があったのは事実だが、変態女を殺した時のような無我夢中感はなかった。間違いなくこいつは、プク・プックはどうしようもない絶対悪だった。だから斬った。
ラズリーヌIIがラ・ピュセルの、左の上腕を掴み、テレポートでプク・プック邸を逃げ出した。ラ・ピュセルが非常用として持ち歩いていた、ラズリーヌIIのテレポートマーカーである人造イエローコランダムだけが、畳の上に残された。
プク・プックはラ・ピュセルがこれまで遭遇したことのなかった、吐き気を催す邪悪だった。存在していてはいけない絶対悪だった。だから斬った。
変態女を殺したときとは違う。爽快感などない。むしろ見た目に幼いあの姿を手に掛ける心苦しさ、殺しの後味の悪さはちゃんとある。
プク・プックは許してはならない悪だった。それは間違いなかった。 ──── ただ、それは具体的にどういうことなのか、ラ・ピュセルはそれを言葉にして説明することが、一切できなかった。
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