魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3―   作:神谷萌

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第26話

 ─☆──☆──☆──☆─

 

「わたし、シャッフリンはだいきらいです!」

 

 シャッフリンはわたしがああなっていたかもしれない姿です。認められないです! 吐き気がします!

 わたしは戦いました! あの研究所で、 “最初の魔法使い” の遺跡で。どの人造魔法少女よりもわたしが強いと証明しました!

 人造魔法少女自体が失敗だと言うのならそれはそれで構いません。それはわたしがわたしであることとは関係ありません!

 人格を切り分けて、あるいは何も知らない女の人達を騙して! そこまでしても、わたしの方が優秀だと証明しました!!

 

「──── なのにまだやるのですか」

 

 

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 ─☆──☆──☆──☆─

 

「やはり、間に合わなかったか……」

 魔法使いの1人が呟く。

 ビルの一角の狭い部屋に、中古機材を用意してなんとか体裁を整えた研究室。

 他の2勢力を追いかけて、泥縄式に始まったプロジェクトは、予算は足りず、それ以上に人材が足りず、予定したロードマップから遥かに遅れていた。

「カスパ師はなんと?」

「是が非でも、と」

 研究室の他のメンバーの会話に、そんな言葉が混ざる。

「ここで出せない、とは言えないか……」

「仕方ありません」

 心苦しそうな声が聞こえてくる。

「ミクセリクサーに連絡を」

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

 初代ラピス・ラズリーヌであるオールド・ブルーは、最近少し機嫌が良かった。

 彼女の真の目的に対する最大の障害になる三賢人、そのうちの2派閥が零落(おちぶ)れた。

 最初に崩壊したのはプク派だ。頂点であるアヴ・ラパチ・プク・バルタの(うつし)()であるプク・プックが殺害された。

 殺害したのはラ・ピュセル。

 もちろんこのことは公表されていない。プク派は最初は隠蔽しようとしていたし、他の2派閥にしても、三賢人の現身が自宅で殺害されたなど公にされては自分達の権威に関わる。

 このことを知った時、オールド・ブルーはさもありなん、と思った。

 プク・プックの魔法は “誰とでも仲良くなれるよ” 。そう書くと穏当なものに見えるが、実際、プク・プックに対して好感を抱き、彼女を信頼できる存在だと認識させ、その “お願い” (つまり、 “命令”)に従うようになり、同時に彼女に対して危害を加えられなくなる。一種の洗脳魔法だ。

 これはただ会話しているだけで成立してしまうため、プク・プックにはどんな交渉もプク・プックに有利に進み、その相手は、従属、隷属と言っていい関係に貶められてしまう。

 ラ・ピュセルに対しても、その魔法が間違いなく効いていると信じて、プク・プックの側は最後まで強硬手段での対処を避け、斬られたのだろう。

 オールド・ブルーもこのトラップに嵌ったことがあった。現在では、 “ラ・ピュセル最初の魔法少女選抜試験” 事件、 “ラピス・ラズリーヌ一門騒動” でラ・ピュセルとの関係は途絶しているに等しい。 ──── が、それ以前、ラ・ピュセル達 “Clamberry's youngest (クラムベリーの末の)quadruplets(四つ子)” が魔法少女になった “クラムベリー最後の魔法少女選抜試験” 事件の終結から半年後ぐらいに、オールド・ブルーも他の有力魔法少女のように、ラ・ピュセルを招いたことがあった。

 そして、ラ・ピュセルを “見た”。

 そして ──── 吐いてしまった。

 …………オールド・ブルーの魔法は “目で物事の真実の本質を見ることができるよ”。人や物、あらゆるものの真の姿を見抜き、潜在している部分まで見通し、更には向かっている未来まで見通すことができる。

 それでラ・ピュセルを見てしまった結果、吐いてしまった。

 ただ、オールド・ブルーはその理由をすぐに理解した。

 それは ────────

 

 ラ・ピュセルは、その本質が矛盾で歪んでいた。

 男であり、女であり、そのどちらでもない。

 英雄であり、敗北者であり、そのどちらでもない。

 被害者であり、加害者であり、そのどちらでもない。

 自身の姿と性を喪失し、自身の姿とあり方に誇りと幸福を感じる。

 ラ・ピュセルはこうした本質の矛盾を多く抱えていたが、その一つひとつは抱えている人間が他にもいないでもない。

 だが、ラ・ピュセルは、他の人間が抱え得ない矛盾を、無数の矛盾の中に含んでいた。

 

 ──── 死者であり、生者である。

 

 本人の、意識、人格、記憶には無欠に連続している。だが、 “岸辺颯太” としての未来は途絶している。つまり、生きながらにして死者の本質を抱えている。

 こんなものが含まれている本質の矛盾の塊だから、オールド・ブルーがそれを見ようとしてしまうと、要するに、視力に問題のない人物が強度の乱視鏡をかけている状態になって、三半規管を激しく狂わされ、強度の乗り物酔いの状態に陥ってしまって、結果吐いてしまったわけだ。それでなくとも生者か死者に直接接続するのは禁忌に近い。

 

 この無数の “本質の矛盾” が、ラ・ピュセルという()()に、誰も正確に認識することができない “認知の空白帯” を作り出している。

 そのため、本質を書き換えようとする魔法なり術なりを使おうとすると、この “認知の空白帯” を形成している “本質の矛盾” に作用して効果が変わってしまう。

 具体的に言うと、その効果を狂わされる。大抵の場合、それは逆の結果をもたらすことが多い。

 例えば、 “ラ・ピュセル最初の魔法少女選抜試験” では、マイカホワイトという候補生がいた。

 マイカホワイトの魔法は “相手に"後回し"だと思わせるよ” だった。これは、本人が今しようとしていたこと、今すぐしなければならないと考えていることを、相手の中での優先度(プライオリティ)を下げて、文字通り “後回し” にさせてしまうものだ。

 ところが、マイカホワイトがラ・ピュセルにこの魔法を使った結果、まるで逆に、「これはこの瞬間にも解決しなきゃならない!」と思わせてしまった。

 マイカホワイトが候補生だから効かなかったのではない。明らかに()()()()()()()のだ。

 

 この “認知の空白帯” の存在の厄介なところは、ラ・ピュセル自身もまったく認識できていないところだ。(かのじょ)の精神自体に病理性はないからだ。

 

 話をプク・プックに戻す。

 彼女も同じことだろう。

 本来、好感、信頼、庇護、従順を生み出すプク・プックの魔法が、ラ・ピュセルに対しては嫌悪感、不信感、反発、加害を生み出してしまい、プク・プック自身を排除しなければならない、とラ・ピュセルに確信させてしまった。これが起こった事実だろう。

 

 プク・プックが不慮の落命の憂き目にあった後、プク派の崩壊はちょうど2週間経った頃に始まった。プク・プック自身を中心とした洗脳で組織をもたせていた派閥だったので、その洗脳の発生源がいなくなり、効果がなくなってきたことで維持できなくなった。プク派は半壊した。

 

 

 三竦みを形成していたひとつのプク派の零落は、オスク派と、もうひとつの勢力カスパ派の間で、プク派の権益をどれだけ自分達が回収できるかの競争を生んだ。

 その中でも苛烈な戦場となったのが、プク・プックが最重要視して確保していた “最初の魔法使いの遺跡” だった。

 左海の事件が起きる前、ここはオスク派が管理している場所だった。だが、グリムハートとシャッフリンが、絶対多数でもない普通の魔法少女によって排除されたことで、弱体化したと見たプク派が奪取した。

 当然、オスク派は高い優先度で奪還を考える。

 一方、遺跡にある存在の重要性から、カスパ派もこれを無視できない。

 遺跡を守るプク派残党は両者を天秤にかけ、勢力としてはやや弱小だが、比較的穏健なカスパ派に下った。カスパ派とプク派もまた簡単には相容れない存在だったが、オスク派に下って虐殺されるよりはマシだ。

 そしてカスパ派・プク派は必要な戦力を集めるため、魔法少女部門・外交部に要請を出した。

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

「なんでこんなところにミクセリクサーがいるのかなー!?」

 部隊を率いて遺跡の奪還に向かわされた魔法少女・CQ天使ハムエルが絶叫した。

 オスク派はこの戦いを圧倒すると同時に、人造魔法少女の技術的優位を示すため、シャッフリンの改良型であるシャッフリンIIを投入した。

 シャッフリンの欠点を補うために、ジョーカーが要になるという初代の構造を変更した。

 前者はミクセリクサーとの比較の結論だった。初代シャッフリンの欠点のひとつを、個々のシャッフリンが判断をできない点にある、と判断した。

 ただ、それでも “独自の行動を取り得る” ミクセリクサーまで回帰することはなかった。あくまで、シャッフリン、と言うより、魔法少女は消耗する道具に過ぎない、というオスク派の価値観の限界だった。

 

 ──────── “シャッフリン処刑装置” は健在だった。

 

 ジョーカーを中心としたシステムを廃したシャッフリンIIは、その為にデッキ再補充の能力も完全に喪失した。

 それはミクセリクサーにとってシャッフリンIIをより相性のいい相手にした。再補充のできないシャッフリンIIは削られたら補充ができない。対するミクセリクサーはノーウェイトで反復召喚可能だから、いずれシャッフリンIIがジリ貧に陥る。

 一方のミクセリクサーは、偶発戦だった左海の事件の時と異なり、ただシャッフリンIIの排除に専念できる。

 

 ミクセリクサーにとってシャッフリンは絶対の生理的嫌悪対象だ。

 左海の事件でプリズムスプリントが言った、

『人のこと言えたもんじゃないけど、お前、シャッフリン相手になるとエゲツない真似フツーにするな……』

 と、いうのも、これに由来している。

 爛漫に見えるミクセリクサーも、相手によっては、怒り、憎み、嫌う。

 これもまた、オスク派には評価しきれない点だった。

 

 魔法少女を圧倒し、ただの道具以下の存在に貶め、恐怖を以て支配せんとしたシャッフリンの評価は地に落ちた。

 改良型ですら、 “原初の()()人造魔法少女” に歯が立たなかったのだ。

 それは同時に、オスク派の権威の失墜を意味した。

 それでなくても、現身グリムハートとその先行試作型グリムローズが、どちらもラ・ピュセルに殺されたという噂が蔓延しているのだ。

 その上、 “ラ・ピュセル最初の魔法少女選抜試験” に、オスク派が干渉していた()()()()が、魔法少女部門・外交部に押さえられ、その情報が敵対勢力に流れてしまった。その魔法少女選抜試験に干渉していた勢力はオスク派だけではなかったが、物証を押さえられたのはオスク派の大失点になった。

 崩壊が始まった後のオスク派はプク派より悲惨だった。魔法少女を殺しすぎた。洗脳で支配しつつも、仲間には一本筋を通すところもあったプク・プック故にプク派残党はカスパ派にある程度庇護してもらえたが、オスク派にはそれもなかった。

 グリムハートの消失後のリーダーだった、レーテも行方不明になった。レーテもまたシェヌ・オスク・バル・メルの現身の別個体だった。それ故に、

「レーテもラ・ピュセルに殺された」

 と、いう噂が流れた。これは事実無根の流言であることははっきりと記しておく。

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

 オールド・ブルーは鼻歌を歌い、上機嫌で通路を歩いていた。

 目障りだったオスク派とプク派は崩壊した。カスパ派は穏健派で、()()()()()()()()()表立って対立する必要はない。

 人造魔法少女技術でも、シャッフリンが無価値化し事実上断絶したことでオールド・ブルーのプリンセス・シリーズが絶対の存在になるはずだ。

 ミクセリクサーの “失敗” 後、自分達の魔法少女部門・研究部と、オスク派とから、ミクセリクサー開発に携わった者が少数ずつスピンアウトして、ミクセリクサーを囲った外交部に保護を求めた少数グループがいる。あちらも左海の事件でシャッフリンにミクセリクサーが “勝ちきれなかった” ことから、次世代型の開発をしているという情報が入っていたが、やはりというか、間に合わなかった。間に合わなかったから本来、新型が相手すべきシャッフリンIIをミクセリクサーが相手したのだ。

 

 オールド・ブルーは、白い扉をノックする。

「はい、どうぞ」

 中から返事があってから、オールド・ブルーは自ら扉を開けて、室内に入った。

 そこは、清潔感のある白い壁と天井に、白いシーツが敷かれた金属製のベッド、と、まるで病室のような ──── 否、現状に限って言えば、完全に病室だった。

「初代。どうかしましたか?」

 まず、視界の真ん中にいた、パイプ椅子に座っていたラピス・ラズリーヌIII(3)rd()の姿だった。相手も気がついて、声をかけてきた。

 本来、ラズリーヌIIIはそれほどお硬い人間ではない。ラピス・ラズリーヌII(2)nd()()()()()TPOを弁えているが、目上の相手だからといつまでも硬い口を聞く人物ではない。

 それが、オールド・ブルーにラピス・ラズリーヌを名乗るように言われてから、だいぶ時間が経つが、今でもオールド・ブルーに対する口調は硬いままだ。

 ベッドの上にこの部屋に()()()()()()人物がいた。ラズリーヌIIIは、その人物と談笑していたようだ。

「体調はどうですか?」

 オールド・ブルーは、ベッドの上で身を起こしていた青木奈美に、優しげな言葉で問いかけた。

「はい、だいぶ楽になりました」

 奈美は、まず苦笑交じりながらも嬉しそうに笑って、オールド・ブルーにそう言ってから、

「そろそろ、身体を動かすことを考えたいです」

 と、言った。この場合、もちろんそれは魔法少女プリンセス・デリュージとしてだ。

「あなたが大丈夫だというのなら、そろそろ考えてもいいかもしれませんね」

 オールド・ブルーも、柔和に笑ってそう返す。

 その一方で、ラズリーヌIIIだけが、

「大丈夫なの? デリュージちゃん」

 と、少し心配げな表情で訊ねるように言う。

「うん。ずっと、ここで腐ってるわけにもいかないから」

 奈美がそう返す。

 それでも、ラズリーヌIIIの心配は晴れない。

 奈美がマトモに他人と会話できるようになったのは、ここ2~3週間のことだ。ここに運び込まれた頃の奈美は、精神的に廃人に近かった。

 療養に加えて、ラズリーヌIIIが自身の魔法 “気分を変える魔法のキャンディを作るよ”、相手の顔に触れることで感情や記憶をキャンディとして取り出し、またそれを与えることができる、その能力で調整して、ようやくここまで回復した。

 それをずっと見ていたから、ラズリーヌIIIは奈美、デリュージのことを気にかけていた。

 ── たしかにあれは、デリュージにずっと伝えないでおける内容じゃなかった、けど……

 ラズリーヌIIIは、それが少しだけ気にかかる。

 

 ラズリーヌIIIがデリュージをここまで連れ帰った時。

「あなたには、とても辛いことを伝えなければなりません」

 オールド・ブルーは、自らも哀しそうな表情をして、デリュージにそのことを伝えた。

 

「ピュア・エレメンツは、あなたを除いて死にました」

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

 魔法の国 魔法少女部門・外交部の入っているビルの、ひとつの片隅に、彼らの研究室はあった。

「ミクセリクサーが行かなければならないとなったときには、どうなるかと思ったが、無事に帰ってきてくれてホッとしたよ」

 魔法使いの1人が、心底から胸を撫で下ろすようにしてそう言った。

「オスク派に作れるのはせいぜいあれが限界だとわかってはいたが、な」

「まぁ、この子が完成していれば、生存性の心配はほとんどしなくてよかったものね」

 研究員の1人も言う。

 2人は、培養液で満たされたカマボコ型のガラスドームの中のベッドに横たわる、少女の姿を見る。

 研究室内の、明らかに型遅れのパソコンのディスプレイに、プロジェクトのツールが表示されている。

 そのプロジェクト名は ────

 

 Artificial Magical Girl

 Project:Mixelixir II

 

 





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