魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3― 作:神谷萌
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紅葉の季節も終わりに近づき、朝に霜が下りる日が出始めた頃。
「ミクセリクサーのやつ、大丈夫かな」
つばめが呟く。そのとおり、外交部がカスパ派の要請を断りきれず、ミクセリクサーが “最初の魔法使いの遺跡” の防衛に着いていた頃だ。
アシスト役としてはカフリアがついていった。フリーランスだから報酬次第で戦場も引き受けたのだろう。だから、名深、左海、盤洞の固定メンバーはついていっていない。
ネドとネクのリンクが繋がったままだから、
そうしている間にも、つばめは、小さな
看板には『車検代行 用品販売
店舗の一方の端には建物の裏側に繋がる、いわゆる “4トン車” 程度のトラックまでが通れる程度の通路があり、その通路部分も含めて、その先には自動車の部品や部品取り用の廃車体が雑然と置かれている。
ジムニーノマドから降りたつばめが、その店舗部分に入っていく。
「ちっす」
軽い挨拶で入ってくるつばめに対し、
「よぉ」
と、これまた客に対する挨拶とは思えない様子の挨拶が返ってくる。
店舗内にいたのは、メガネをかけたエラの張った顔、中背と言うにはやや低めの身長で中肉の、作業着姿の男性だ。
彼は、この近所、東南東に向かって私鉄線の線路を越えたあたりにある、県立下高波高等学校に通っていた頃の、つばめの元同級生だ。そして、つばめが “エンプレス” の構成員だった頃、所属集団は違ったものの、バイクで繋がっていた元珍走仲間でもある。
つばめを含めた周囲の
現在は祖父の代からの自動車整備業を父親と営んでいる傍ら、アメリカはProCharger製スーパーチャージャーを小排気量車に装着することに取り憑かれており ── そこに至るにはまた別の人間が噛んでたりするが ── 適当な安い中古車を見つけてきては車体の倍から5倍の金額をかけて改造してしまう。
──── と、ここまで書けばピンと来た方もおられると思われるが、華乃の手に渡ったキメラのCP22S型 セルボ・モードも、元々は彼の “作品” だった。
つばめはそのことを知っているから、軽口として、
「また、なんかネタになる旧車でも見つけてきたか?」
と、言いながら、
「ああ、ちょっと相手が急いで処分したいクルマってことで持ち込まれてな」
地方の個人規模の自動車整備業者は、代車の確保や全損判定の車両の引き取りなどを円滑に進めるために、中古車の売買に必要な、古物商許可と自動車リサイクル法上の引取業登録を受けていることがある。斯波自動車整備(資)もその例だった。
「ふーん……」
車検屋の言葉を聞いて、つばめは実際、
「……もうほとんど走ってねぇはずのC120型バネットの……それもロングの5ナンバー…………」
はっと気付いて、思わず動き、店舗から
「お、おい!」
車検屋が、慌てて制する声を出すが、もう遅かった。
ドアから僅かに
「どうした……?」
まだ、つばめ程は緊張していない様子の車検屋が、怪訝そうな表情で背後から訊ねる。
その声で我に返ったように、つばめは、
「ちょっと待ってろ!!」
と、車検屋に言いながら、スマートフォンを取り出す。ロックを外し、電話を呼び出して、メモリから番号を喚び出し、発信する。
4・5コールほど経って、
『もしもし、どうしましたかつばめさん?』
と、颯太の声が受話器から聞こえてくる。
「ネクは出せるか!?」
つばめが、慌てた様子を隠せない口調で、問うように言うと、電話の向こうが、
『はいはい。何の用事かぽん、トップスピード?』
と、ネクの声に代わった。
「お前、去年の事件で現場から逃げ出すワゴンのナンバー覚えてたよな!? ミクセリクサーの誘拐にも使われたんじゃないかってやつだ!!」
つばめは、ぶっきらぼうな口調で電話口の向こうに問い質す。
『覚えてるぽん。名深538 ら1961……────』
ネクの読み上げるナンバーと、目の前のバネットコーチに着いているナンバーとをみて、つばめは僅かな間、呆然としてしまったかのようになった。
『── って、これを聞くってコトは……』
「ビンゴだ! ありやがった!!」
その意味に気づいたネクに対し、つばめは乱暴な口調でそう言うと、繋がりっぱなしの電話を一旦放置して、車検屋を振り返る。
何事があったのか、と、緊張感の乏しい様子でつばめを見ていた車検屋に対して、
「おい、こいつを売りにきたやつの控え、あるだろ!?」
「あ、ああ」
と、つばめが問い質し、車検屋は呆気にとられた様子の声を出す。
「けど、このご時世、個人情報は……────」
「オレに見せなくていい! ただ処分しないでおいてくれ!」
世間常識で反論しかけた車検屋に、つばめはそう言った。
結論から言えば、前オーナーは魔法少女・CQ天使ハムエルの近縁者だった。
ただし、その人物の居住地は県内ではない。
つまり、名深陸運局管内で使うために名義貸しつきで調達され、登録上の使用の本拠だけは名深陸運局管内に置いて、ハムエルらオスク派のメンバーが乗り回していた疑いが非常に濃厚な車両だ。
車両がC120型 日産 バネット コーチ ロングだったのは、究極的には偶然だが、目的がその確率を上げた。
要するに、田舎にありがちな、河川敷だの雑木林だのにほっぽりだされている登録抹消車に擬態できる古い車両でかつ、多人数が乗れるワンボックスカーとして選ばれたのだ。
実際、ミクセリクサーが誘拐される際、マイカホワイトはそれが視界に入っていながら、ミクセリクサーを乗せるためにドアを開けるまで、動かないオブジェクトだと無意識に認識してしまっていた。
だが、その詰めが甘かった。後腐れなくするつもりで、ほとぼりが冷めたと見計らったところで、名深陸運局管内で売却してしまった。
これが別の陸運局管内で売却されていれば、名義が変わった時点でナンバーも変わる。これなら、外交ルートでの要請ならともかく、社会的には一般人に過ぎないつばめたちには確証の得ようがない。
だが、その知識が不足していたため、逆に目につかないようにと遠方に運ばずに市内で処分してしまった為、現役車としては希少な車体だったものだからナンバーを照合されてしまった。
──── これが、先に述べたオスク派権威失墜の原因の一端、 “ラ・ピュセル最初の魔法少女選抜試験” にオスク派が干渉していた “物証” だった。
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「だめだ」
魔法の国、魔法少女部門・外交部のビル内部の小さな研究室。
パソコンで、リストを見ていたリーダー格の魔法使いが、そう言って、片手で目をほぐした。
「彼女しか考えられない」
そういう魔法使いに、他の研究室メンバーも、どこか浮かない表情で視線を向けていたが、
「それで、いいんじゃないでしょうか」
と、1人がそう言った。
ミクセリクサーの強みは、人格があって成長することだ。
それに由来する、学習能力、社会性の獲得、自己判断能力が、近い形態のシャッフリンを上回る総合能力を発揮した要因だ。
一方でそれがミクセリクサーの戦力化コストをつり上げていた。特に金銭的なものより時間コストの方が致命的だ。
なので、その点はプリンセス・シリーズの方針にヒントを得て、────────
──── 死んだ魔法少女の人格を搭載することにした。
それは非道だ、冒涜だ、と言われれば否定はできなかった。
けれど、ミクセリクサーの
よって、これは、
「人造魔法少女の建造であると同時に、亡き魔法少女の
リーダーが見ていたのは、その候補となり得る、過去の魔法少女の候補リストだった。
能力としてもっと優秀な候補はいくらでもいた。
純粋にその面だけで見るなら、もっとも有力な候補としては、坂凪綾名────
ただ、リストを見ているうちに、彼らの琴線に触れる存在がいた。
彼女には子ども時代と呼べるものが無かった。子どもというものは無条件で愛される。子どもにとって可愛いことは必要条件であり、可愛いと言われたことがない彼女は一度として、自分を子どもと認識して振る舞えたことがなかった。
その身上を突かれたか、正規の手順ではない形で異質な魔法少女にされた。
けれど、それによって彼女は初めて理想の自分を得た。初めて自己主張を前に出して振る舞えた。
だと言うのに ────
それからさほども経たないうちに、彼女には屈辱的な死が与えられた。
「決めた」
他者の為に戦い力尽きた彼女の高貴な魂に、我々の最高傑作の身体を与えよう。
傲慢だと言うなら言えばいい。
憐憫が罪だと言うなら甘んじよう。
ただ、
時間が少し流れ ──── 12月25日、22:57頃(JST)。
「起動!」
リーダーの声とともに、制御用のパソコンの中で、コマンドのログが勢いよく流れ始めた。
ゴボッ……
培養液の彼女の口から、気泡が吐き出された。
「排水開始します!」
オペレーター役の研究員が言った。カマボコ型ガラスドーム内の培養液が抜かれていく。
「開けるぞ!」
リーダーはそう言い、自らカマボコ型ドームの元まで歩くと、もうひとりの研究員とともに、上面密閉ハッチの開放ハンドルのひとつに手を伸ばす。
耐熱強化ガラスのハッチが、ゆっくりと開かれた。
中のベッドに寝かされていた、小柄な ──── ミクセリクサーとほぼ同じ年格好に見える、黒髪ショートヘアの少女が身を起こす。一糸纏わぬ姿だったが、真ん中に澄んだ黄色の宝石が嵌った、ティアラのようなヘッドプロテクターは既に身につけている。
少女は、自らハッチの縁を乗り越えて、研究室の床に立つ。
そして、誰かが指示するまでもなく、右手の人差し指と中指を揃えて伸ばし、ヘッドプロテクターの宝石に、その指先を当てた。
「プリンセスモード・オン」
宝石から光が放たれる。光が彼女を包み込み、その光は ──── クラシカルなドレスシャツに、燕尾構造の赤いタキシードの上衣にショートパンツ、濃い臙脂色のリボンタイ、運動靴の見た目にハイヒール構造の靴。左右で紅白の手袋とサイハイストッキングは、それぞれ赤と白が互い違いになっている。ヘッドプロテクターの右寄りに、青いバラと黄色と黒のゼブラ模様のリボンでできた飾りがつく。
髪が長く伸びると同時に、自然に三編みに結われていく。その色も、黒からくすんだ金色に変わっていった。
光が収まったところで、
「き、キミ、────」
あまりの興奮と緊張のためか、リーダーの魔法使いは言葉を吃らせる。他の研究員に至っては、すぐに言葉が出せなかった。この光景は二度目だと言うのに、だ。
「── 自分が何者か、解るかね?」
リーダーがようやくそう問いかけると、
「はい」
と、少女は口元で愛らしく笑い、ハキハキと答える。
「私は魔法少女プリンセス・ジャック。ミクセリクサー
日付・時刻は、日本時間12月25日23:04。
日出づる国から
「──────── 人間名、茶藤千子です」
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