魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3― 作:神谷萌
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人間社会では、 “原因不明の連続爆発事件”────
盤洞市で起きたそれは、実際には、暗殺者と呼ばれる魔法少女とそのマスコットである妖精がこの地に立てこもる、というものだった。
ただ逃げ込んだだけではなく、魔法の国の機関からの追手に対して撹乱・応戦するため、妖精トコはある中学校の生徒数名と教師、それに飼育されていたカメを魔法少女にした。
魔法の国の中でも特に事態を重く見たのは魔法少女部門・外交部だった。逃走者を逃さないため、部門長であり、 “最強の魔法少女” と名高い魔王パムを送り込んだ。
元々、パムは強すぎて政治バランスを崩しかねない存在のため、普段は外交部の内部統制役に徹しており、実務はレディ・プロウドという魔法少女が担当していた。そのパムが出張るほどの案件だった、ということだ。
そして、パムたちは盤洞市を魔法少女や魔法使いを通さない結界で覆った。
他に、監査部からは部門長である魔法使いマナと、魔法少女 下克上羽菜が派遣された。他に、先に現地入りしていた人事部の魔法少女
@娘々はこれより2年ほど前、魔法少女として引退することを考えていたが、 “クラムベリー最後の魔法少女選抜試験” 事件の後に、それをやめた。
「思い出した。でも、だからこそ私ももう一度立たなきゃならない……アル」
──────── 閑話休題。
事件の経過について、できるだけあっさり述べるならば、まず、魔法使いが殺された。その後の調査では、暗殺者コンビを見捨てかけていたその支援者が、魔法使いを殺せば扱いを見直す、と指示した。ただ、それがどこの誰なのかは、何重もの欺瞞が張り巡らされていて、特定できなかった。
次に、暗殺者である魔法少女の正体を言い当てた、ランプの精の魔法少女がやはり殺された。こちらの動機は簡単だった。口封じだ。
だが、このために他の、トコがつくった魔法少女達が、自分達に与えられていた、『悪い魔法使いに追われている』という事実に疑問を抱き始めた。
一方の魔法の国のチーム側も、マナを
流石に、魔王パムの前では、暗殺者、魔法少女レイン・ポゥも勝てなかった。ただ、パムの余裕も失わせるところまではレイン・ポゥも健闘した。レイン・ポゥが刺し違え奇襲をしかけたため、パムはレイン・ポゥを殺害するに至った。
この戦いについて、楽勝だっただろう、という周囲に対し、パムは、
「楽勝ではありませんでした。この少し前に、
と答えている。
これがきっかけで、そのパムの回想の人物とされる魔法少女にとある戦闘狂の魔法少女がやたら挑戦するようになるが、それは余録。
──────── こうして事件は終わった。
だが、まだ問題は残されていた。
まず厄介なのは、トコによって魔法少女にされた生徒と教師の境遇だった。
ポスタリィは引退を望んだ。彼女はレイン・ポゥの近くにいすぎた。
ウェディンも引退を望んだ。魔法の国、魔法少女部門のさらに上にいる有力派閥のひとつから秋波を送られていたが、それを振り切った。ウェディンは最後にひとつの約束に魔法をかけた。その後、彼女のアバターの一部だった剣を繰々姫に託して、ただの
残された2人、キャプテン・グレースこと
この2人は、魔法少女になる以前からのコンビだった。 ──── と、言えば聞こえはいいが、押しの強い海に対して、佳代はそれに付き合わされることが多かった。それは決して佳代の意図に反するものではなかった。だが、海が素行の良くない学生とみなされていたことが、佳代の人間関係にも悪い影響を及ぼしていた。
もっと端的に言ってしまえば、海は佳代を “相棒”、あるいは無意識に “自己の拡張部分”、このように捉えていたのに対し、佳代は海に “対等の友人でいたい” と考えていた。
佳代にとって、海は嫌いきれる相手ではなかったが、同時にとても疲れる相手だった。
これが、2人の進む先を別けた。
他の魔法少女の処遇が決まっていく中で、保護観察か引退か、を突きつけられて、
「魔法少女は続けたい」
「でも監視されるのは嫌だ」
と考えていたキャプテン・グレースに、魔王パムが第三の道を示した。
「魔王塾」
その単語そのもの、そしてそれが示す内容に、グレースは目を輝かせていった。
「面白そうじゃん、それ! ただ監視されるぐらいだったら、そっちの方がいい!」
戦闘狂というわけでもないが、強さへの欲求を擽られたグレースは、一も二もなく、それを選択した。
だが……
「佳代、行くよ!」
と、グレースは当然、と言ったように、ファニートリックに声をかけたが、ファニートリックの反応は、
「え……」
と、恐怖と拒絶と困惑の表情と声を返した。
「だーいじょうぶ、あたしが一緒にいるんだからさ!」
いつものように、グレースがそう言って押し切ろうとしたときだった。
「我が魔王塾は、
そう、パムが穏やかな声でグレースに告げた。
「ひとりでって……え? じゃあ、コンビじゃダメってこと!?」
グレースが訊き返すが、
「そういうわけではありませんよ。ただ、
「それじゃ、あたしが佳代を連れて行ったら失格、っていうことかよ!?」
「そうではありません」
「じゃあ、どういう…………」
「資格がないのは、あなたではなく、ファニートリックの方だと言っているのです」
「え……」
「あ……」
パムの、穏やかな口調でもはっきりとした言葉に、2人は小さく声を漏らした。
「ファニートリックは独り立ちできていない。しかも、その原因はあなたです」
「…………っ!!」
第三者からはっきりそう告げられて、グレースは目を見開きつつ、息を呑むように言葉を詰まらせた。
「佳代、そうなんだな?」
テンションの下がった声で、グレースは問いかける。
「…………ごめん」
ファニートリックは、申し訳無さそうにしつつも、一旦視線を下に逸してそう言ってから、視線を上げ直した。
「…………わかった」
そこまでは、どこか怒っているような様子の低い声で言ったグレースだったが、
「それじゃあしょうがない。今度会うときには、佳代が『危ない』なんて思わないぐらいに強くなってくるからな、見てろよ!」
と、豪快に、しかし不敵に笑いながら言った。それが、2人の自立の為の別れの言葉になった。
「ファニートリック、あなたには魔王塾とは別に、あなたを鍛えるのにふさわしい魔法少女がいます。もっとも、
「うちは不要魔法少女回収業者でも少年院でも姥捨山でもありません!!」
──…………余談だが、ウェディンが最後に魔法をかけた約束は、こんな内容だった。
「我が愛しのリップル、貴女という
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──── 現在。朝。
根村佳代は、スマートフォンのアラームがなる前に目を覚ました。
和室の布団の上、身を起こして
ミクセリクサーは、まだすうすうと寝息をたてている。
それでもミクセリクサーは、夜寝るし、食事もする。
行動を共にしてまだ24時間に満たない時間だが、下手な人間より人間臭く見えた。
確かに、人造魔法少女が魔法の国の管理外で製作されているとしたら、問題なのかもしれない。
── でも、本当に問題なのはそこなんだろうか?
佳代は少し引っかかる。
ポイントは大きく分けて2つだ。
1つ目は、相対的な倫理の問題。
外交部は、人造魔法少女としてミクセリクサーを、由来がきれいではない魔法少女として自分達を、それぞれ保護下においている。
だとすれば、 “魔法少女としての成り立ち” は、さして問題視しないはずではないだろうか。
そのうえで、依頼の目的が “人造魔法少女の保護” ではなく “データの回収” というのは、少しズレているような違和感を覚える。
2つ目は、潜入依頼として考えた場合の適正。
まだ、直接対面したのは、ウェディン引退前最後の仕事のときの一度きりだが、潜入、ということであれば、忍者風のリップルの方が向いているのではないか。
また、パワータイプ戦士の一見のイメージとはかけ離れて見えるが、魔法そのものを考えると、ラ・ピュセルの方ができることが多い気がする。
テレポートが使えるラピス・ラズリーヌ
それが、どうしてミクセリクサーなのか。
確かにミクセリクサーは万能型ではある。逆に屋外でしか強みの生きないトップスピードよりは適任と言えるだろう。
ただ、それでもミクセリクサーの魔法 “トランプの兵隊を呼べるよ”、最大同時出現53体のトランプ兵が生きるのは、人造魔法少女研究所のような、おそらく閉鎖された空間ではなく、もっと開放されたフィールドのような気がする。
さっきの、倫理的な面からもそうだ。人造魔法少女の捜索に人造魔法少女を充てるというのはどうなのか。魔法の国、魔法少女部門全体としてはともかく、あのパムがトップの外交部がそれをまったく考慮しないとは考えにくい。
だとすれば、 ──── 現在のところ、単なる推測に過ぎないが、
“
と、こう考えるのが自然なのではないだろうか?
そして、それには理由があるはず ──── と、佳代がそこまで考えたときだった。
「んー……むにゅ」
ミクセリクサーが目を覚まし、むくり、と身を起こした。
「ふぁ……」
小さな欠伸をするように息を
「おはようございます! ファニートリック様!」
昨日、プリズムスプリントと話した雑居ビルの屋上に、再びやってきた。
「よう!」
プリズムスプリントはすでに来ていた。
「スプリント様!」
ミクセリクサーの方も、弾んだ声を上げた。
「おはようございます」
ファニートリックも、リラックスした様子で挨拶する。
「ああ、おはようさん」
プリズムスプリントは挨拶を返した。
「スプリント様!」
「ん?」
ミクセリクサーに声をかけられ、プリズムスプリントが訊き返す。
「スプリント様の人間としてのお名前は、緋山朱里、であっていますか?」
「み、ミクセリクサーさん!?」
驚いた声を出したのは、ファニートリックの方だった。
「あー、まぁ、あたしの方から岸辺の名前出したんだもんな、そりゃ解るよな……」
プリズムスプリントの方は、気にしていないというわけではないが、 “ま、しょうがねーな” 程度という様子で、苦笑しながら返した。
「そ。岸辺とは幼馴染でね。小学校の途中まで同級だったんだけど、あたしが親の仕事の都合で引っ越すことになって、ってところ」
「なるほど、そうだったんですね!」
プリズムスプリントの説明に、ミクセリクサーが納得の声を出した。ファニートリックも「はー」と、納得したような軽く驚いたような様子でいる。
「世間は結構狭いもんだ」
苦笑しながら、プリズムスプリントはそう言ってから、
「あれだ、世間話も、とりあえず捜索しながらにしようか」
と、提案する。
「あ、はい」
「はいです!」
ファニートリックとミクセリクサーは応諾の返事をしたが、
『ちょっと待つぽん! そろそろネドのことも紹介するぽん!』
と、それを遮る声がした。
ファニートリックとプリズムスプリントは、声の主を探してあたりをキョロキョロとする。
「あっと……出てきていいですよ、ネド」
ミクセリクサーがそう言うと、ミクセリクサーの左肩の上に、ぽんっ、音を立てるようにして、それが出現した。
饅頭に出目金の尻尾を付けたような姿。それは上下でピンク気味の赤と白に色分けられていて、その境界線に金色がかった灰色の帯が入れられている。
「はじめましてだぽん。ネドはミクセリクサーのアシスタントとしてつけられた、マスコットの電脳妖精ネドだぽん」
「おっと、こりゃご丁寧に。あたしはプリズムスプリントだ」
「ファニートリックです。よろしくお願いします」
自己紹介を受けて、プリズムスプリントとファニートリックは挨拶し返した。
「プリズムスプリントとファニートリック、今後ともよろしくですぽん」
電脳妖精ネドは、そう言って、お辞儀をするように身体を下に傾かせ、すぐにもとに戻った。
「マスコットは前にも見たことがあるが、こういうタイプもいるんだな」
プリズムスプリントが、感心したように言うと、
「ネドは、ミクセリクサーの為に開発された最新鋭電脳妖精 “NE-X” の最新機だぽん。そんじょそこらのマスコットより高性能だぽん。ネドより上だとしたら、同型で稼働歴の長いネクぐらいだぽん」
ネドは、どこか誇らしげに、胸を張るかのように体全体を上に傾けてそう言った。
その説明を聞いて、ファニートリックは気まずそうに苦笑をしている。
「ネクってのは?」
プリズムスプリントは訊き返した。
「あ、先生のマスコットをしている、ネドのひとつ前の “NE-X” です」
ミクセリクサーは答える。
「実践運用された最初の “NE-X” だぽん。ネドはそれからさらに改良されているケド、ネクもアップデートパッチを当て続けているから性能は相当のはずだぽん。何よりラ・ピュセルのマスコットだというのが誇らしいぽん」
ネドは一気に言いきった。
「誇らしい、ねぇ。中身が岸辺だと思うとな」
プリズムスプリントは、どこかヘラッとした苦笑をしながら言った。
まぁ、客観的な評価がどうというよりは、ネクの個人的な心酔がネドにも影響している結果だったりするが。
「じゃあ、気を取り直して、行こうか」
「はい!」
左海駅周辺の市街地を、裏路地を主に通りながら、捜索というか、散策する。
「そう言えば岸辺……ラ・ピュセルって ────」
歩きながら、プリズムスプリントが言いかけて、
「あ、そうか、今は女なのか……」
と、軽い自己嫌悪を伴って僅かに表情を歪めた。
「?」
「何の話ですか?」
自己完結しているプリズムスプリントに、ミクセリクサーとファニートリックが不思議そうな表情を向ける。
「いや、ラ・ピュセルってさ、恋人いるのか、って、聞きかけたんだ」
プリズムスプリントは、誤魔化すように言ったが、
「リップル様のことですね!」
「え、いんの!?」
と、ミクセリクサーの答えを聞いて、プリズムスプリントは軽く驚いた。
「はい! とても仲睦まじいです。トップスピード様に言わせると『もう恋人っていうより、夫婦だな』だそうです」
「へ、へぇ……あいつがね。てっきり、小雪のことを拗らせてるかと思ったんだけど。まぁ、それも何年も前の話か……」
プリズムスプリントは苦笑しながら言うが、それを聞いてミクセリクサーが、
「? スノーホワイト様がどうかしましたか?」
と、どこか、キョトン、とした様子で、プリズムスプリントを見上げるようにしながら問い返すように言った。
「え?」
プリズムスプリントは、動きを止めて目を
「はい?」
ミクセリクサーも反射的な声を出す。
「スノーホワイトって、姫河小雪なのか?」
「はい!」
ミクセリクサーの答えを聞いて、プリズムスプリントは口元に手を当てて、呟くように言う。
「それで、ラ・ピュセルはリップルと付き合ってる……いや、そうか、別に小雪は同性愛者じゃないもんな」
「わたしにはよくわかりませんが、先生とリップル様はご自身の選抜試験のときからのお付き合いだと聞いています!」
ミクセリクサーはそう言った。
「ふ、ふーん。まぁ、そういうこともあるのか」
「あ!」
駅北側の路地から、表通りの国道に出たときだった。
「道路を電車が走ってます!」
ミクセリクサーが、興奮した声を上げた。
国道に敷設された併用軌道の上を、角張った車体の都電のお古(ただし、軌間が違うので台車は履き替えている)が、駅の方から西へ向かって走っていく。
左海市の中心部には、西部にある国立大学の前から、市街地を抜けて海辺へ向かう路面電車が残っていた。
「ああ、路面電車を見るのは初めてか」
「はい! びっくりしました!」
ミクセリクサーはそう答える。彼女にとって、電車といえば自宅アパートの傍らを通り過ぎる、JR線のことだ。
ミクセリクサーの答えを聞いた後、プリズムスプリントは視線をファニートリックに移す。
「あ、私は宇都宮にあるのを見たことがあります」
ファニートリックは、視線で質問されたと感じて、そう答えた。
「そうなんだ」
市街地を一通り歩いて回った後、一行は駅から北北東に位置する市営水道ダム、
「ここまで広いと……簡単に見つけられそうにはありませんね……」
ファニートリックが、少し困惑した様子で、市街地の方角を ── 直接見渡せるわけではないが ── 見ながら、呟くように言った。
「ちょっと、ネドが走査するにも無理がある範囲ぽんね……」
「なにか、ヒントが欲しいところではあるなぁ」
ネドとプリズムスプリントも、同意するように言う。
「ぽんっ!?」
突然、ネドが驚いた声を出した。周囲をキョロキョロとするように動く。
「どうしました、ネド?」
ミクセリクサーが問いかける。
「これは、あ、悪魔の反応だぽん!」
「悪魔!?」
ネドの言葉により烈しく反応したのは、プリズムスプリントとファニートリックの方だった。
「お2人は無理に出ようとしないでください!」
ミクセリクサーの顔つきが変わった。爛漫な少女のものではなくなる。
「お2人の安全はわたしが保証します!」
具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
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