魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3―   作:神谷萌

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第28話

「カフリア様から年賀状が届いてますー!」

 ミクセリクサーは1枚の年賀ハガキを手にとって掲げ、そう声を上げた。

 名深市北渚、ミクセリクサーの自宅アパート。居室には円形こたつがセットされている。

 彼女にとって、2度目の新年。

「あ、あいつ生きてたんだ」

「それは言い方が酷いですー!」

 来訪していたつばめが、ニュートラルな表情とあっさりした口調で言うと、ミクセリクサーが口元では笑いつつも、眉を吊り上げ眉間に皺を寄せて、憤ったように抗議の声を上げた。

 つばめの娘も来ていた。つばめの傍らで某花札屋のSwitch Liteで遊んでいる。まだ若干早い年齢の気もするが…………とはいえ、今年には4歳になる。年度変わって4月には幼稚園生になる予定だ。妊婦として魔法少女選抜事件を生き残ってからそれだけの年月が過ぎている。

 名深組+1 ────────

「オマケ扱いするなっす!!」

 ──── や、盤洞のファニートリックと繰々姫、左海のプリズムスプリントとピュア・エレメンツの2人のような固定メンバー組と異なり、フリーランスを貫くカフリアとの関係は、 “魔法少女は正体を他者に知られるべきではない” の大原則通りの付き合いだ。

 ミクセリクサーも他のメンバーも、カフリアとはマジカルフォンだけが連絡手段になっている。

 カフリアの方も、固定メンバーのうち住所を知っているのは、一度訪れたことのあるミクセリクサー宅だけだ。ミクセリクサーには “生身の人間の姿” がないから、遠慮はいらぬとそこへ代表して送ってきたのだろう。

 カフリアからミクセリクサー宛の年賀状は、機械印刷の文言に加え、

『旧年中お世話になった皆様によろしくお伝えください』

 と、達筆な毛筆での一言が添えてあった。差出人の住所は書かれていない。年賀ハガキだから、消印もないので投函エリアも特定できない。もっとも、カフリアの徹底ぶりなら、年賀ハガキ以外でも、東京や大阪など、現住所ではない上に個人の特定が困難な大都市から差出してくるだろう。

 つばめは、不謹慎にも苦笑しながら、

「いや悪い悪い、ミクセリクサーの遠征について行ったって話以降、あいつのこと聞いてなかったからさ、つい、もしかして……と思っちまった」

 と、後頭部を掻く仕種をしつつ、誤魔化すようにそう言った。

「帰りの『サンライズ出雲』に乗るところまでは一緒だったのですが!」

「ああ、なんか颯太が羨ましがってたな。サッカー技と言い、今でも変なところ男の趣味だよな、あいつ」

 ミクセリクサーの言葉に、つばめは先にそう反応してから、促し直す。

「それで?」

「沼津駅で降りてしまわれまして!」

「沼津?」

 ミクセリクサーの言葉を聞いて、つばめは小首を傾げた。

「都内までは一緒の予定だったんじゃないのか?」

「カフリア様は新宿駅までのきっぷを持っておられました!」

「ますますわからんな。新幹線で急いだってことか……?」

 ミクセリクサーが答えを付け加えると、つばめはより怪訝そうになった。

「いや、でも沼津って新幹線ホームあったか……?」

「あ、そういえば!」

 ミクセリクサーが思い出したように声を上げる。

「なんだ?」

「カフリア様のきっぷは、新宿のところに『(小田急線)』と書かれてました!」

「なんだそりゃ……」

 結局わけがわからん、と、つばめは、腕を組むかのように左腕を胸の前に回して、唸ってしまったが、すぐに、ミクセリクサーに視線を向け直して、

「ま、理由は多分、東京駅や新宿駅で何線に乗り換えるのか、お前さんに後つけられたくなかったんだろうな」

 と、言った。

「残念です……」

 ミクセリクサーは気落ちしたようになった。

「いや、自宅に向かったとは限らんだろ。フリーランスってぐらいだから、そのまま次の目的地に向かったのかもしれん」

 つばめはそう言ってフォローするものの、ミクセリクサーの表情は浮かないままだった。

 つばめは、やれやれと軽くため息を吐きつつ、苦笑する。

「ま、モチでも食って忘れろ」

 そう言って、つばめが立ち上がりかける。

「あ! それならわたしがやります!」

 コロッと表情が変わり、ミクセリクサーは飛び跳ねるように立ち上がる。

「お? いいのか?」

「はい! お餅の美味しい焼き方を最近、先生から教わったので!」

「美味しい焼き方?」

 DKに向かうミクセリクサーに、つばめが訊き返す。

「はい! バター焼きと言いまして!」

「またあいつは……」

 颯太が教えたという事実に、つばめは呆れ混じりに顔を引き攣らせた。

 それを知ってか知らずか、ミクセリクサーは、冷蔵庫からソフトバターを取り出し、シンク部分の出窓に置かれたスリムタイプの水切りかごからフライパンを手に取る。

「先止式つけるけど退去時原状復帰でいいよなー?」

 管理会社にそう言いつつ、つばめが友人に頼んで取り付けた中古の小型瞬間湯沸器をやりすごし、個人経営の家電店から長期保管品として出てきた東芝の両面焼グリル付ガステーブルのバーナーに、フライパンを乗せ、ガスの火を()けた。

「お餅のバター焼きはっ、お醤油が染みてっ、むにゅーっと伸びてっ、美味しいのですっ♪」

 即興で歌いながら、ミクセリクサーはソフトバターがフライパンの上で溶けるのを待って、それをフライパンの上に満遍なく広げて、そこへ切り餅を5つ、のせた。

「モチのバター焼きはいいけどよ、うちの(あさ)()に食べさせるものあるか?」

 つばめはそう、ミクセリクサーの背中に向かって問いかける。

 朝希、が、つばめの娘の名前だ。昇一の両親、つまりつばめの義両親が考えた名前だったが、つばめの引き出しからは珍走読みの漢字名しか出てこなかったこともあって、「きれいな名前でいい」とつばめも昇一も納得してつけた。

 ちなみに「ツバメが上昇する蒼穹の空」という意味が引っ掛けてあって、つまり「昇一」と「つばめ」に繋げてある。

 ちょっと見ると男性名にもみえると言うか、実際男児のための名前として用意されていた。別に義両親が「初孫は男じゃないと認めん!」とか言っていたわけではない(期待はしていたようだが)。ただ、義両親が女児の為に用意していた名前が選りにも依って「(はる)()」だったので、女の子に使えない響きでもない、ということで朝希になった。

「えっと……」

 火を弱火にしてフライパンにフタをした後、ミクセリクサーは一旦冷蔵庫を開けて、

「こんなものぐらいしかありませんが」

 と、居室への引き違い戸のところまで持ってきて、つばめに差し出す。

「…………人のこと言えた義理じゃねぇが、なんでこんなモン出てくるんだ?」

 差し出されたグ◯コ『カフェゼリー』に対して、つばめは引き攣った笑みで視線をミクセリクサーの顔に視線を移した。

「?」

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

「大丈夫ですか? 鳴ちゃん」

 診察室から出てきた鳴に、苦笑交じりに燈が声をかける。

「うん……」

 鳴は、片頬を手で押さえたまま答えた。

 白い壁、木目調のカウンターの清潔感のある、待合室の中で、一度椅子に腰掛けて待つ。

 燈が話題を振ろうとしたが、さほど時間も経たないうちに、

「東恩納鳴さーん」

 と、カウンターの受付事務が名前を呼んだ。

 2人して立ち上がり、カウンターには燈が向かう。

「本日のお会計、¥600になります」

「あ、はい」

 燈が、渡されていた封筒から千円札を取り出す。

「これで」

「しばらくお待ち下さい……はい、¥400のお返しになります」

「お世話様です」

「お大事に~」

 受付事務の言葉に送られる形で、鳴が先行し、燈がそれを追うようにして、建物を出た。

「やっぱり……」

 鳴が、呟くように声を出す。

「やっぱり、歯医者は嫌いだ……」

「ははは……」

 連れ立って歩く燈は、鳴の言葉を聞いて、最初は決まり悪そうに苦笑した。

「でも、鳴ちゃんは偉いですよ。自分から痛いって言えるんですから」

 フォローするかのように、燈が言うが、それを聞いた鳴は、

「子ども扱いしてる」

 と、不機嫌そうに言った。

「高校生にも隠して我慢したがる人は多いですよ」

 燈が再度フォローする。

 2人で、帰路を歩く。

 

 普段、鳴の親が手が離せない時など、鳴のこうした歯科医行きなどは、鳴の友人の姉で世話焼きの朱里が引き受ける事が多いのだが、

「あー、ダメダメ。その日冬期講習受けに行かなきゃならないんだわ」

 と、今回の鳴の歯科医予約日を伝えたところ、朱里は手を振りながらそう言った。

「あかねぇちゃん、またテストの点悪かったな!?」

「うっさい」

 鳴に図星を突かれて、朱里は戯け混じりにも憤ったような苦笑で声を上げる。

「……ああ、そうだ」

 直後に、朱里は思い出したように言う。

「あかりんがいるだろ」

「あかりってあかねぇちゃんのことじゃなくて?」

 訳が分からず、鳴は訊き返した。

「プリンセス・インフェルノのあいつ」

「おお!」

 朱里に言われて、鳴はぽんと手を叩いた。

「あいつも面倒見は悪くないと思うし、鳴ちゃんの親にもウケが悪くないと思うし。頼んでみろよ」

 

 ──── そういうわけで、今日の鳴の歯科医診察予約に、燈が同行する事になったのである。

 一方が踏切に繋がる交差点に出たところで、

 キュキュキュキューッ!!

 その目の前の踏切で、激しいタイヤのスキール音が響いた。

「あっ!?」

 踏切の両側から進入した、所謂 “4トン車” と呼ばれるトラック(日野 レンジャーなどが該当)と、軽トラックがすれ違いきれず、双方が軌道のバラスト上に脱輪した。

 燈たちのいる側から大型車進入禁止の踏切を通ろうとした4トン車にも非があるようにも見えるが、反対側から入ってきた軽トラックが一方通行を逆走していたことが主因だった。

「鳴ちゃん!」

「うん!」

 2人は深刻そうな表情になって、周囲を見渡してから、人気のない土地改良事務所の裏側の路地に入り込む。

 燈はユニセックスデザインの黄色いショルダーポーチ、鳴はキッズ向けの青いショルダーポーチから、それぞれ取り出す。

「プリンセスモード ────

 

『困りごとを解決するのが魔法少女のやくわりです! ()くし物を探したり、逃げたペットを探したり、事故を起こした自動車から乗っている人を助け出したりします!』

 

 ── オン!」

 

 跳躍の弧を描いて、プリンセス・インフェルノとプリンセス・テンペストは踏切に降り立つ。

 インフェルノはまず軽トラックの方に向かう。ホンダ アクティトラック最終型の4WD。幸い、互いの車両同士は、アクティのフロントバンパーが4t車のサイドバンパーを擦った程度で、自走自体はできそうだ。

「私が前から押します! バックをかけてください!」

 インフェルノは軽トラックのドライバーに言い、アクティの運転台(キャブ)の前に回る。少し屈んで姿勢を低くし、ボディやフロントガラスではなくバンパーを押すようにした。

「行きます!!」

 インフェルノの言葉に合わせて、アクティのE07Z型エンジンも唸りだす。

 脱輪したタイヤが踏板に引っかかったところで、インフェルノがバンパーの掴み方を変えて、脱輪側を掬い上げるようにすると、アクティは踏板に上がり、そのまま後進で踏切を出て、線路脇の月極駐車場に進入していった。

 インフェルノは軽トラックが踏板に乗ってすぐ、4トン車、FX系 日野 レンジャーの反対側に回る。

「テンペスト!」

「ダメだ」

 インフェルノの姿を確認して、テンペストが声を上げる。

「さっきから、あのタイヤばっかり回っちゃって全然戻ろうとしないんだ!」

 テンペストが言う。

 3輪が脱輪してしまっている上に、積荷を満載している上で傾いているせいで、荷重が脱輪した3輪に逃げてしまって、踏板の上に残っている1輪にほとんどかかっていない。

 ── 支柱役と押し役、せめてもう1人いてくれたら……デリュージ、クェイク……

 インフェルノがそこまで考えた時だった。

「テンペスト、インフェルノ、側面から左側のそれぞれのタイヤの近くを支えて!」

 と、声が聞こえてきた。

 2人が驚いて、その声のした方を見ると、青いバラの付いた髪飾りに、赤いタキシード姿の少女が跳躍から降り立とうとしているところだった。この姿と跳躍力は、魔法少女だ。

「お願い、クラブの6!」

 降り立つ寸前、その魔法少女の言葉とともに、唱えた魔法少女と瓜二つの存在が分かれた。ただ、魔法少女本人と違って、黒に金縁の『♣VI』の襟章をつけている。

 クラブの6の襟章をつけた、赤いタキシードの魔法少女の分身体は、レンジャーの運転台(キャブ)の屋根に手をかけてつかまり、ドライバーに向かって、

「私達が支えて押します! せーの! で後進をかけてください」

 と、声を張り上げた。

 テンペストとインフェルノが、左側の2輪の近くを掬い上げるようにする。

「せーの!!」

 赤いタキシードの魔法少女とクラブの6の分身体が声を上げ、魔法少女たちが力を込める。A05C-TEエンジンの爆音の圧が強くなる。

 それでもなかなか上がらない。

 カーンカーンカーンカーン…………

 インフェルノが表情を凍りつかせかけた。踏切が閉まる、列車が来る────

「お願い! ハートの2! スペードの2!!」

 押しながら、赤いタキシードの魔法少女の分身体が増える。3人がかりでフロントバンパーが押される。

 果たして、まずテンペストが支えていた左後輪が踏板の上に戻ると、そこからは駆動力が伝わる。

 間一髪、積み荷とキャブの屋根が遮断桿をバウンドさせながら、レンジャーは後進で踏切から脱出した。

「ふう、どうなることかと思いました……」

 インフェルノが胸を撫で下ろすようにしながら言う。テンペストもその傍らで、緊張が一気に解けた反動からの緩みきった顔をしている。

「まさかこんなことになってるとは思わなかったけど、間に合ってよかった」

 赤いタキシードの魔法少女が言った。分身体は既に消えている。

「あなた、は…………」

「私は、魔法少女プリンセス・ジャック」

 JR線の上り線上を、左海駅に停車するため減速しながら、上野行の特急列車が通過していく。

「はじめまして?」

 鳴が、語尾を上げる疑問形で聞いた。

 プリンセス・ジャックは、まず穏やかに微笑む。

 特急列車の最後尾が通過していく。

 

【挿絵表示】

 

「会うのは、初めてじゃないんだけど……」

「…………」

 インフェルノが、ジャックに向かって手を伸ばしつつ、その手をふらつかせる。

「クェイク、でしょう?」

 なにかに縋るかのような様子で、インフェルノはジャックに問いかけた。

「プリンセス・クェイクではなくなった存在(もの)です」

「え……」

 インフェルノの身体の動きが固まる。一瞬だけ、絶望したかのような表情になる。

 しかし、ジャックは続けて、言う。

「茶藤千子かと言われれば、はい、記憶と認識を完全に継承した本人です」

「──── ッ!!」

 なぜその姿なのか、自分達の前に現れたのか、無数の残りの疑問は、もう言葉にならなかった────────

 

【挿絵表示】

 





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