魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3― 作:神谷萌
此処から先の『魔法少女育成計画2-o-H』シリーズ内の話は、次作に至るまでの四方山話となります。
ここまでの本編以上に、物語というより筆者のお遊びなので、読まなくても話は繋がるんじゃないかと思います。
それでもいいという方は、もうしばらくお付き合いください。
そうではない方は、次作の展開開始までしばしお待ちを。
第32話-I
【結婚式より前の話】
華乃邸。
通路を兼ねた台所で、既にパジャマ姿の華乃が食器洗い機をセットしている。
世帯収入からすれば贅沢品だが、華乃、リップルの生活負担を減らすために、颯太が自分でアルバイトと言うか工事現場の日雇いというか生きたフォークリフトして買ったものだ。 ……──── まーた例によって、他社の廉価機を買おうとしてつばめに相談したら、
「同じ値段でパナの出させる」
と、言って伝手のあるパナピットから出てきた元展示品のパナソニックNP-TH4、色はベージュである。
ついでに、
「ちょっと早い結婚祝いっす」
と言って、出窓に張り出して置く為の台は瑠璃がDIYで作ってくれていたりする。
食器を入れて、食洗機用ジェルタブを入れて、ドアを閉める。電源を入れて、 “汚れレベル2” に設定してスタートする。
食洗機の運転音と同時に、
「うーん……」
という、わざとらしさを伴った声が、開けっ放しの引違い戸の向こうから聞こえてきた。
華乃が居室に入ると、颯太が、パソコンの前で腕を組んで困りきったような表情をしている。
「どうした?」
華乃が訊くと、颯太は、
「あ、華乃」
と、まずは気付いたように振り返る。
「
颯太が聞いてくる。パソコンの画面には結婚式の招待客リストが表示されていた。
「
誰のことを指しているのかは華乃にもすぐに解った。
直接所属していないとは言え、有形無形にお世話になっている相手だ。 …………だが、招待客20人程度の基本身内同然の人間だけ招く結婚式に呼ぶには、あんまりに大それたビッグネームだ。
「うーん……」
華乃まで、顎に手を当てて唸り声を上げてしまったが、すぐに、
「招待状を出したことぐらいで怒る人じゃないと思う」
と、言った。
「まぁ、そうだとは思うけど。 ……あ、じゃあ、招待状送るだけは送ればいいか」
「うん」
颯太が言い、華乃が同意する。
「まぁ、欠席で返ってくるだろうけど。雲の上の人ではあるけど、お世話になっていて無視するようなこともしたくないし」
「それでいい」
~1週間後~
「
颯太が凍りついたような無表情で言うと、華乃も困惑の色を見せる。
「えぇ……」
─☆──☆──☆──☆─
【結婚式が終わった頃の話】
名深市
「ちっす」
「よぉ」
完全に高校時代の悪友のノリの挨拶の後、
「最近頻繁に来るな……子どもさんはいいのか?」
と、 “車検屋” がつばめに聞いた。
「今年から幼稚園なんだよ」
「ああ……」
つばめの答えを聞いて、車検屋は納得したような声を出した。
「9時に送って、延長はやってないけど午後の2時だろ、微妙にヒマでな」
「一寝入りするには中途半端だしな」
「そうそう。オマケに昇一がロボット掃除機買ってくれちゃったもんだから一番の暇つぶしがなくなったしな……」
「……あー、今までが大変だったからか」
「そうそれ。使わないでいると逆に怒るし」
「旦那の気持ちが解るわ。男ってそうなんだよ」
「
そんな事を話しながら、つばめは窓から
「…………何だありゃ」
それを見て、つばめが思わず声を漏らしていた。
K88型 3代目 スバル サンバー バン だが……────
「ポップアップルーフ……キャンパー仕様かよ……」
「気になるか?」
つばめの呟きに、車検屋が問いかけるように言う。
「どんなトンチキに仕上がってんのかぐらいはな」
「じゃあ見てもらおうじゃねぇか」
つばめが皮肉っぽく苦笑しながら言うと、車検屋がそう言って椅子から立ち上がり、狭い扉を開けて工場に出る。
「うわ、丁寧に
車体の窓から中を覗き込んで、つばめは、驚いたような感心したような呆れたような声を出した。
「こんな古いクルマでやることかよ」
「車体の方を改造したのは20年以上前の話だ。元々は俺の作品じゃねぇんだよ」
「“
車検屋の説明に、つばめは、車内から車検屋の方に視線を向けつつ、
「つったって、20年前でもかなり前のクルマだろ、これ」
つばめが、車体全体を見るように視線を向け直して言う。
「それを改造して、サビらしいサビも出ねぇのは、工事が丁寧だったのもあるだろうし、あとはやっぱスバルの車体ってとこなんだろうな」
車検屋はしみじみと言う。
「ふーん……………………で?」
「で、とは?」
つばめの問いかけるような言葉に、車検屋が訊き返す。
「とぼけんな。運転席にタコメーターとブースト計ついてんのはオマエの仕業だろ!?」
「まぁな……へへ」
つばめにそこまで言われて、車検屋は得意そうに指で鼻の下を擦った。
「KR型(4代目サンバー)末期型の3バルブのEK23に乗っけ換えて、あとはいつもの通りってこった」
「まったく……」
つばめの顔が呆れ返る。
「A-1Pはしばらくぶりに取り寄せたよ」
A-1P型コンプレッサーヘッドはProCharger製スーパーチャージャーの最小モデルである。元々は、作業用の多目的4輪バギーを競技やスポーツ走行に使う、パワースポーツ向けに用意された。
つばめ達が
ちなみに2台ほど製作されたカタナ400スーパーチャージャーの1台は “エンプレス” のメンバーに渡った。つまり女性である。
「で、これ乗ってくれるやつ、誰かいねーか?」
車体を軽く叩きながら、車検屋はつばめに言う。
「
つばめが、呆れ返りつつ苦笑する。
「本気のオモチャだからこそ、誰かに乗ってもらいたいんだよ」
車検屋はニヒルを気取って言うが、つばめは呆れた表情のままだ。
「まったく」
亞ヶ浦村端川新田雛丘、瑠璃の自宅アパート。
「キャンピングカーに興味はあるっすけど、流石に今の経済状態で2台は厳しいっす」
ラピス・ラズリーヌ
「だいたい置いとく場所がないっすよ」
「だよな」
訊くだけは訊いたが、という様子で、つばめもそう返した。
「しかしあれだな、お前らよく来るのか?」
同じく来訪していたミクセリクサーとプリンセス・ジャックに、つばめが問いかける。
「はい」
答えたのはジャックの方だった。
「先生から『精神修練はラズリーヌに教わった方がいい。ボクは
「私も言葉で教えるのは得意な方じゃないんっすが」
ジャックの言葉に、ラズリーヌIIは苦笑しながらそう言った。
「でも、先生も教わったことがあると!」
これはミクセリクサー。
「へー……オレも習おうかねぇ」
つばめが感心したような声を出す。戯けているとも真剣ともとれない口調と表情だ。
「まぁ、断わりはしないっすけど」
ラズリーヌIIは苦笑したまま言う。
「みくせいくさー! あそぼー!!」
「はいはい、朝希様。なにして遊びますかー?」
朝希が言いながらミクセリクサーに向かっていくと、ミクセリクサーはニコニコしながらそう答える。
「あ、それで、トップスピード様」
ジャックが言う。ミクセリクサーの話し方が
「さっきのキャンピングカー、お値段はいくらぐらいですか?」
ジャックが興味を示したことに、つばめが意外そうな表情で視線を向けた。もっとも、茶藤千子として自動車運転免許を持っていることはつばめも知っている。
「一応、70万とは言ってた」
「それほとんどスーパーチャージャーと交換したエンジンの値段っすよね?」
「よくわかるな」
呆れた様子で割り込んできたラズリーヌIIに、つばめが、一旦視線をラズリーヌIIに向けて、意外そうに返した。
「同じ2代目ジムニーってことで11や22/12のカスタム車のネット記事はよく読むっす」
「ああ、そういうことか……」
ラズリーヌIIの答えに、つばめが納得の声を出した。ちなみに11とは660cc化からのJA11型、22/12とは三菱のパジェロミニに対抗した大マイナーチェンジ車JA22/JA12型のことである。
「70万……は、ちょっと出ない……ですね」
ジャックが顎に手を当てて呟くように言う。つばめがジャックに視線を戻した。
「
「それ商売する気あるんっすか、あの車検屋……」
ラズリーヌIIが、呆れたような苦笑と口調で言った。
「だからさ、こっちは
つばめがそう返す。
「お前さんだってあいつのおかげで、程度から言ったらほとんど相場の半額で買えたんだぞあの
「まぁ、そりゃ感謝してるっすが」
ラズリーヌIIは、感謝しているとは言うものの、呆れた苦笑は変わらない。
「でしたら、私が譲ってもらっていいでしょうか?」
ジャックが言った。けん玉術を朝希に見せていたミクセリクサーも含めて、魔法少女の視線がジャックに集まる。
「解った。話通しとく」
つばめはそう言った。一方で、ラズリーヌIIは、
「キャンピングカー買うって、ジャックはもともとそういう趣味あるっすか?」
と、不思議そうな表情で訊ねる。
「いえ、そういうわけじゃないんですが……────」
ジャックがそう言いつつ、脳裏に思い描いたのは、茶藤千子がプリンセス・クェイクだった時代に、ピュア・エレメンツ4人で行った海の思い出だ。
── 旧車だから、海は嫌だな。行くなら山、でも水辺のほうが……水辺なら、川か湖か。きっと、それほどしないうちにデリュージも戻ってくる。そうしたら、また……────
─☆──☆──☆──☆─
華乃邸。
「うわ、ご祝儀がドルだよ……」
颯太は、祝儀袋のひとつを開けて、出てきた
「誰?」
華乃は怪訝そうな表情になる。
「
「ああ……」
颯太の答えに、華乃も脱力した様子で軽いため息を吐く。
「でも100ドル札4枚に、1ドル札1枚、紙幣が5枚で額面も奇数にしてある。こういうところは律儀だね」
「額でもざっと6万円ぐらいか。 “付き合いのある組織の上役” と考えたら相場か」
颯太の言葉に、華乃が続いた。
日本では、結婚式の御祝儀は “割り切れる≒別れるを連想させる” ということで、額面の頭に偶数が出ることを避け、紙幣も奇数枚にすることが慣例になっている。
「小雪の2万8千円の方がよっぽど悪質」
華乃は、自分が開いた祝儀袋の中身を手に、そう言った。
1万円札2枚、5千円札1枚、千円札3枚。合計6枚。額面の頭も偶数なら、紙幣の数も偶数。これは確信犯としか思えなかった。
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