魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3―   作:神谷萌

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こちらは番外編です。
本編続編はこちら
『魔法少女育成計画 「青」 ―La Pucelle: Alive Chronicles 4―』
https://syosetu.org/novel/422091/


第32話- III

 盤洞市。

 ファニートリックと繰々姫の鍛錬の為に、ラ・ピュセルとリップルが遠征してきた日。 ──── と、言うのも、通信制高校の颯太と非フルタイム職の華乃の方が時間に融通が効くので、そうしている。

 で、この日は、

「たまにはオレも付き合っていいか? オレは日帰りになるけど」

 と、言って、トップスピードも同行してきていた。

 

「やっべ。2人ともオレより強いわ」

 

 ファニートリック、繰々姫と、ラ・ピュセル、リップルとの模擬戦を見て、そしてトップスピード自身も2人と組手をして、そう苦笑する結果になった。

 

 盤洞駅前 ── 盤洞市内は県下で唯一新幹線が走っているが、駅はない。当の盤洞市はと言えば、市としては誘致の要望書を毎年のようにJRに出しているものの、市民にはあまり熱がない。どちらかと言うと設置して欲しがっているのは、JRの路線系統が違うはずの名深市のあたりの県民だったりする。 ──── 閑話休題。

 その駅前近くのマクドナ◯ドで、少し遅めの夕食を摂っているとき。

「あの、細波さん ── あ、華乃さんのクルマ、室田さんが安く譲ってもらってきた、って聞いてるんですけど……」

 2人がけのテーブルに陣取った希とつばめ。その希がつばめにそう切り出した。希は教師故か、それともファニートリック()()()()名深組と交流が頻繁ではないためか、()()()()()まだ、姓で相手を呼んでいた。が、華乃は颯太と入籍して岸辺姓に変わったことを思い出し、慌てて取り繕う。

 その岸辺夫妻は、佳代と別の4人がけテーブルを占拠して、食事しながら談笑している。

「え、ああ、まぁ」

 つばめは、まずは真顔で、どこか曖昧に返事をしてから、

ゾク(暴走族(珍走団言うな))上がりって自動車関係多いんすよ。もっともメーカー系販社(ディーラー)とか、チェーン系の大規模店とかじゃなくて、中小零細の車検屋とか整備屋とか、解体屋とかが多いんですけど」

 と、言って、一度コーヒーを口に運んだ。

「じゃあ、安くクルマを調達できたりします?」

「できないことはないですけど、…………え、持ってないんですか?」

 希の質問に、つばめは答えつつ、意外そうな視線を希に向けた。

「ええ」

「このあたりもクルマないと不便ですよね?」

「その、私実家住まいなので、今までは父と共有の1台あればよかったんです」

 質問に対する希の答えを聞いて、つばめは納得する。

「ああ……そういうことですか」

「こちらからそちらへ行く時に、(わたし)用のクルマがないと不便で……」

「まぁ、そうですね……」

 盤洞市と名深市を公共交通機関で行こうとすると、JR線同士の横のつながりが弱く、大回りになる上、列車の本数も少ない。

「わかりました。ちょっと探してもらいます」

「あ、はい。お願いします」

 つばめの言葉に、希は少し恐縮したように返した。

「……………………あ、ひとつ確認なんですけど」

 わずかに間を置いて、つばめは、ふっと思い出したように、希に訊ねる。

「はい?」

 希は、キョトン、として訊き返す。

「免許、マニュアルですか?」

「あ、いえ、……オートマ免許です」

 

 

 数日後。

 名深市子ノ条地区、斯波自動車整備(資)。

「ちっす」

「よぉ」

 いつものように、悪友同士の挨拶を交わしてから、

「またヒマを持て余してんのかい」

 と、 “車検屋” がつばめに聞いた。

「いや、今日は頼み事があってな」

「頼み事?」

 つばめの言葉に、車検屋は、反射的に聞き返してから、

「…………ああ、また安いクルマ探してんのか」

 と、納得したように言った。

「ああ、そうなんだが……」

 そう言いながら、つばめは窓越しに(こう)()の中を見た。

「11……いや、12の幌か」

 JA12C型ジムニーがこちらを向いて停まっている。

「……もうグリルの中にステン管が見えてんじゃねーか」

 つばめはそう呟いてため息を吐く。薄暗い工場の中に置かれていても解った。純正部品はだいたい黒塗装の鋼管だ。ステンレス管が見えるということは少なくとも吸気系を弄っている。

「あれは俺の作品じゃないんだが……見てみるか?」

 車検屋が言い、座っていた事務椅子から立ち上がる。

 つばめは、応とも(いや)とも声に出しては答えず、動き始めた車検屋について工場の中に入る。

「とりあえずボンネットの中が気になるだろ?」

 車検屋はイタズラっぽく言う。

「まぁ、な」

 つばめは、もったいぶった言い回しに怪訝そうな表情をしながら、答える。

 車検屋は一度運転席のドアを開けて、ボンネットオープナーを引いてから、車体の前に回り直して、ボンネットフードを開ける。

「おい」

 その中を見て、つばめは少し憤ったかのように眉を(しか)める。

「なんでスバルのEN07がこんにちはするんだよ」

 つばめが言う。車検屋は妙に楽しそうに笑っている。

 EN07型は、660cc化後、スバルの軽撤退までずっと使われていたエンジンだ。もっとも、初期型と末期型では別物に近いが。

 スバルとスズキは一時期同じグループにいたことがあるが、軽自動車用エンジンをお互いにOEM供給したことはない。

「プレオ用のシングルカムのスーパーチャージャー用が載ってんだ」

「また実質ニコイチかよ」

 車検屋の説明に、つばめが呆れ返った顔をする。

「いや、実質なら()()()()()だ」

「なに?」

「JB23のオートマトランスミッションが移植してある」

「わざわざMTからATに改造したのか」

 つばめは更に呆れる。

「林道走行なんかじゃ、フラットトルクのエンジンにATの方が楽しめるって層もいるからな」

 車検屋は言う。

 トルクとはエンジンが軸を回そうとする力のことだ。最大出力(kWまたはps)は、このトルクに実際に軸が何回転したのかを掛けて、係数で割った数字になる。実測値がそうなるとは限らないが。

 ただ、内燃機関の場合トルクも回転数によって変わってくる。

 EN07はスズキのF6A型などに対して、トルクの最大値では小さく見えるが、その設計に由来して(解る方のために言うと、ロングストローク設計のため)、より広い回転数で大きいトルクを保っている。

「まぁ一番の動機は “とりあえずEN07をジムニーに載せたかった” んだろうがな」

「何を考えてるのか……」

 車検屋の説明に、つばめは無い右手で顔を覆おうとした。

「いや? ジムニーならマツダのロータリーぶち込んじまった例もあるくらいだぞ」

「マジかよ……」

 つばめは絶句する。

「まぁ、俺の作品じゃねぇからなぁ」

 車検屋は、腕組みをしながら、ため息を吐くように言う。

「確かにエンジンとミッション載せ替えたのはお前じゃないんだろうがな」

 つばめが、呆れたように車検屋をヤブ睨みしながら言う。

「A-1が見えたぞ。PかRかまではわからんが」

「ちっ」

 車検屋が舌打ちした。

「ここに来た時点で元々のAMR300は油漏れでボロボロでな……どうせだからA-1P使って直した」

「…………で」

 ヤブ睨みしたまま、つばめは車検屋に訊く。

「結局また里親探してるんだろ?」

「里親て。犬猫じゃねぇんだから」

「お前さんの場合似たようなもんなの」

 そこまで言って、ため息をついたつばめだったが、

「でもオートマ車か」

 と、呟いた。

「お? 心当たりでもあんのか?」

 車検屋が訊く。

「ちっと待っててくれ」

 言われたつばめは、そう言ってスマートフォンを取り出すと、片手で器用にロックを外して、アドレス帳を呼び出し、電話をかける。

 トゥルルルルル……トゥルルルルル……

 5コールほどして、相手が出た。

「もしもし、あ、姫野希さんの携帯電話でしょうか? ええ、はい。室田です。ええ、この前のクルマのことで。希さんの自宅、屋根付の車庫あります? ……ある? じゃああれですかね、幌車でもいいですかね? ええ、安いことは安いです」

 そこまで話して、つばめは希と通話したまま、車検屋に視線を向ける。

「50でいいぞ」

 車検屋が言うと、つばめは、車検屋を再び藪睨みしつつ、

「ええ、ちょっと年式旧いんですけど、整備補償ついて50万で。とりあえず見る? わかりました。話通しときます」

 

 

 更に数日後。

「オープンカーかと思ったら、ジープタイプのクルマですか」

 対面した希が、最初にそう反応した。

「米田さんのクルマと似てますね」

 車体を見回しながら、希が言う。

「同じ2代目ジムニーです」

 車検屋は、つばめやちょくちょく来る他の名深組とは異なり、若干商売っぽい口調になって、説明する。

「あっちのはかなり初期型で、これはその最終型ですね。まぁ、SJ30(初期型)はあえて乗るファンが多い車なんですが。ただ、乗り心地じゃこっちは乗用車と比べてもさほど悪くありませんよ」

 2代目第3期JA11型までのジムニーの乗り心地の粗さは、実用性堅牢性第一で、サスペンションに4輪とも板バネを使っていたことが主たる要因だった。しかしJA11型の途中に、ジムニー生涯唯一の同格ライバルとして、居住性もいい乗用車登録の三菱パジェロ・ミニが発売されたため、まず大マイナーチェンジでJA11までのボディの基本設計はそのままに、快適装備が追加できるようにした上、しなやかなコイルバネサスペンションに変えたのが2代目第4期JA22/JA12型である。発売からまもなくして3代目JB23型にフルモデルチェンジし、1981年から1998年の実に17年に渡る歴史に幕を閉じる(もっとも、JB23は更に長い20年間売られたが)。

 ──── 閑話休題。

 運転席、シリンダー数が違うため純正タコメーターを取っ払ってスペーサーかましてAutoGauge348シリーズのタコメーターを取り付けてある ── 運転席右側の空調吹出口上には同296シリーズのブースト計がついている ── インパネを覗いていると、

「まぁちょっと特殊な改造がしてあるクルマなんで、グローブボックスに入れてある仕様書は常に載せといてください……なんかあったらできれば最初にウチに一報入れてくれると」

 と、車検屋が説明してきた。

「特殊な改造、ですか」

 車検屋の説明に、希は少し表情を険しくしたが、それに対してはつばめが、

「ま、すぐに壊れるようにはつくってないですし、直すのもレッカーも車検もこいつが安く手配するんで、中古車としてならかえって安上がりだと思いますよ」

 と、車検屋を親指で差しながら、苦笑交じりにそう言った。

「それなら……いい、かな……」

 まぁ、いざとなったら私も魔法少女なんだし、なんとでもなるか、と、希は考えてしまった。

 

「ぶーぶーぶー! なんでくるりんには幌車買わせたっすか」

「屋根付きの車庫があるからだが?」

「そうだったっす……」

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

「ボク、たまに思うんだけどさ」

 中宿から子ノ条に向かう、幹線県道上のセルボの車内。

 ステアリングは、免許を取得した颯太が握っている。

「なに?」

 助手席の華乃が訊き返す。

「あの斯波さんだっけ? 車検屋さん」

「うん。どうかした?」

「あの人、実は魔法少女なんじゃないかと思うことがあるんだ」

「…………根拠は?」

 流石に眉間に皺を寄せて、華乃が訊き返す。

「だって、これだけ改造車つくって、それを安く売っちゃうとかさ、普通の人間にできることなのかなって。今回だってそうだし」

「確かに……確かそういう魔法を持ってる魔法少女もいたはず」

 言われてみれば、と、颯太の言葉に、華乃も口元に手を当てて、考え込むように眉間の皺を増やした。

「でしょ? なんか “魔法の国” とつながりがある気がしてしょうがないんだよねー」

 車内でそんな事を言いながら、セルボは斯波自動車整備(資)に向かう。

 

「魔法少女? アニメの話か?」

 なにを言ってるんだこいつらは、と言った様子で、車検屋は颯太と華乃を見る。

「お前らいくらなんでも発想が突拍子もなさすぎだって……」

 自分のジムニーノマドで先に来ていたつばめが、呆れたように苦笑している。

 車検屋は唇の端をつり上げた。

「ま、そんなこたァどうでもいいや。とりあえず見てくれよ、この仕上がり」

 車検屋のその言葉で、華乃と颯太は正面、来客駐車場側と工場内・裏手の預かり車置き場を繋ぐ通路に停まっていた、緑色のクルマに視線を向ける。

 ──── 自分達と行動する魔法少女もだいぶ増えた。4人乗りの軽自動車では足りない時がある、と、颯太が自動車運転免許を取得して、(かのじょ)が、 ──── ではなく、華乃がCP22Sセルボを颯太に譲って、7人乗りのクルマを調達した。

 FA8型 2代目 スバル ドミンゴ。

 今では新車に見られなくなったサンルーフ車だ。

 そして、例によって ────

「安く売るから弄らせてくれ」

 と、車検屋が手を入れた。

「エンジンルームが狭っ苦しくて、オイルゲージ移設するとかエアクリーナーケース自作するとかいろいろ手間ぁかかったが、なんとかA-1R押し込んでやったぜ」

 車検屋は悦に入ったように言う。

「2輪のGS1000のエアクリーナーフィルター使ってるけどな」

「お前のようなカンのいい女は嫌いだよ……」

 苦笑して茶々を入れるつばめに、車検屋は笑みを消してそう返した。

「インタークーラーが()()()()()()()()状態なんで、シャシダイ乗せるとそれほど馬力出てねぇと思うが、まぁ車体の重さから来るもっさり感は感じないはずだ」

 車検屋がそう説明する中、どこか引き寄せられるように、華乃がドミンゴに近付く。

 前面をじっと見つめる。標準では “DOMINGO” の “D” バッジがついていたが、こちらも車検屋の仕業か前オーナーがやったのか、六連星バッジに交換されていた。

「キーならついてるぜ」

 車検屋が言うと、華乃は、一旦車検屋を振り返ってから、ドミンゴの運転席を開け、シートに上がった。

 イグニッションスイッチを “ON” へ。運転席右側、空調吹出口の上のAutoGauge348タコメーターがオープニング動作をする。

 さらに “START” へ。

 ヂャラララ……ヴォン。

 水平対向エンジンの「キシュッシーン」とはまた違う、スバルにしてはありふれた始動電動機(セルモーター)の音の後に、EF12型エンジンが鼓動を始めた。

 タコメーターはアイドリング回転数に、その左隣の、BLITZ製φ45ブースト計の針は負圧側を示す。

 どこかぼうっとしたような表情の華乃だったが、正面を向き直し、ステアリングを握ったところで、満足そうな表情になった。

 

「オレも過給器欲しくなってきたな」

「過給器は正義だからな。俺に言わせりゃ、NAは排気量の無駄だ」

「おっと出た。高校時代からずっと言ってる格言」

 車検屋の言い種に、つばめがそう言って苦笑する。

「手間賃だけで着けてやろうか?」

 車検屋が言った。つばめは呆れたような疲れたような表情になる。

「またお前……」

「いや、この前姫野さんに譲ったJA12のダメになってたAMR300あるだろ、あれのコア返却してリビルト品受け取ったからよ」

 アイシンAMR300は、スバルが軽自動車用スーパーチャージャーとして使っていたルーツブロワ式のコンプレッサーだ。

「お前さんその腕だし、ヘタにドカンと上回らない方が良いだろ?」

「まぁ……」

「74シエラ・ノマドのエンジンルームならさほど窮屈さもなく着けられるからな」

「そうだなぁ……それじゃ、デリバリーのバイトでもやって稼いで着けてもらうかな」

「出世払いでいいぜ?」

「またお前は……」

 

 





さて。
『青』に出るけどあちらで長々話を書くべきではないクルマの話を処理し終わりました。
なので、ここで一旦エンドマークといたします。
まだダブルあかりのとかあるから、また付け加えるかもしれませんが。


具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
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総合評価:10849/評価:9.12/連載:32話/更新日時:2026年08月05日(水) 17:00 小説情報


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