魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3―   作:神谷萌

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第03話

 悪魔、とは言うが、魔法の国がそう呼ぶそれは、宗教上の偶像とは異なる。

 その由来はいくつかあるが、基本的には人為的につくられた不完全な知的生命体だ。知性が確立していないタイプの人造生命体(ホムンクルス)ともされる。

 不完全といっても、その脅威は侮れない。二十数年前、とある魔法少女選抜試験に対して何者かによって召喚され、候補生が1人を除いて全滅したこともあった。ちなみにこの生き残りの1人が、あのクラムベリーだ。

 目の前に現れたのは3体、うち2体は、靄なんだか泥の塊なんだかよくわからないものが巨躯の人型を(かたど)っていて、巨大な手には凶悪な鉤爪が備わっている。典型的な “悪魔の尻尾” とともにコウモリのような羽根がついているが、空を飛べるような大きさには見えなかった。

 残りの1体は、牡山羊の頭部と下半身をもつ屈強な男性、という、これまたステレオタイプな悪魔の姿をしている。腕の太さがミクセリクサーの腰より少し細い程度もあった。

「ネド、他には?」

「いないぽん、3体だけだぽん」

 ミクセリクサーは、ネドの答えを聞いてから、

「よーっし!」

 と、少し姿勢を低くして、1体に向かって突進を始めた。

「あ、おい!」

 プリズムスプリントが声を発するが早いか、

 ドスッ

 と、ミクセリクサーの正拳突きが、その1体の鳩尾あたりに突き刺さった。

「ガハッ」

 倒れ込みかけたその悪魔に、その顔面に、頭部を潰す勢いと威力のニードロップを叩き込む。

 ミクセリクサーの身体能力は低くない、どころかかなり高い。ミクセリクサーの戦力としての要はトランプ兵だが、その本体、指揮個体であり魔力炉がある限り、そのトランプ兵は何度でも再召喚できる。分単位の短いサイクルで再召喚を繰り返し続けるのは限度があるが────

 

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 逆に言えば、ミクセリクサー本体がアキレス腱ということになる。だから、大抵の相手に自衛できる能力が必要だった。仮想敵は、流石に魔王パムとなると無茶振りが過ぎるので、彼女の開いた魔王塾の最初の卒業者であるクラムベリーとして、お互い格闘戦を想定して、ミクセリクサーの()()()()()()()程度を要求された。

 魔法少女選抜試験の頃は、トランプ兵同様、人を傷つけることを恐れて、それを精神的に抑え込んでいる状態だった。

 ──────── 牡山羊頭の悪魔が、ミクセリクサーの背後から飛びかかる。

「ガァッ」

 ミクセリクサーの頭部に齧りつこうとしているように見えたが、次の瞬間、ミクセリクサーは視線を向けることもなく、ぐぱりと開いた口のその下、下顎にアッパーを打ち込んでいた。

 振り向きざまに、アッパーがかったフックをその鳩尾に叩き込む。悪魔の身体が浮いた瞬間に、さらに膝蹴りを打ち込んだ。

「きゃあっ ────」

「!」

 甲高い声に、ミクセリクサーははっと振り返る。

「ファニートリックさ ────」

「──── なんて言うだけだと思いましたか!?」

 パカーンッ

 ミクセリクサーの視線がそちらを向いた瞬間に、ファニートリックのハイキックが、そのハイヒールのつま先で突き刺すかのように、悪魔の側頭部に命中していた。

 

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「この野郎!」

 仰け反った悪魔の顔面に、プリズムスプリントが両手を組んで打ち下ろした。悪魔の身体が地面に叩きつけられる、その一瞬後に、ファニートリックとプリズムスプリントがダブルでエルボードロップを叩き込んでいた。悪魔はヘドロのような反吐を吐き、動かなくなった。

「あっ」

 プリズムスプリントが顔の高さで手を差し出したが、ファニートリックは、一旦は戸惑ってしまってから、それをバシン、と、打ち付けるような形で握手をした。

「すみません! 1体逃してしまいました!」

 ミクセリクサーが、慌てたように2人に駆け寄る。

「いいえー、大丈夫ですよ」

 ファニートリックは、ミクセリクサーを安心させるような笑顔になって、そう言った。

「…………」

 倒れた悪魔を、プリズムスプリントが見ていると、それは溶けたようになって地面に染み込んでいった。

「うげ」

 プリズムスプリントが、気持ち悪そうに顔を歪ませながら、大仰に仰け反るようなポーズになった。

「ネド」

「活性の反応はないぽん。ただ、まだ完全に死んだわけじゃないみたいぽん」

 ミクセリクサーが訊くと、ネドはそう答えた。

「それにしても……」

 ファニートリックが、地面に残ったシミを見回す。

「なんでこんなところに、悪魔が……」

「しかも、ビミョーに弱かったぽん」

 ファニートリックの言葉に続いて、ネドは、言ってしまってから、

「あ、ちょっと言い方が悪かったぽん」

 と、ファニートリックとプリズムスプリントに謝罪するように言う。

「いえ、私からしても、拍子抜けした感じはありますから」

「あたしもそう思った。悪魔なんて大仰な呼ばれ方してるから、なおさらにな」

 ファニートリックはフォローするように言い、プリズムスプリントは怪訝そうに辺りを見回しながら言った。

「昼間だから、弱体化していたんでしょうか?」

 ミクセリクサーが言うものの、それを聞いたネドは溜息をつくようにしつつ、言う。

「だとしても、トランプ兵を呼び出す必要すらなかったなんて、ちょっと自然な弱体化には思えないぽん」

「ってことは、つまり、意図的に調整してあっ ────」

 ファニートリックがそこまで言いかけた時、

「黒き大地、プリンセス・クェイク!」

 と、そんな声が聞こえてきた。

 一瞬、声の方向を探って、ミクセリクサー達がキョロキョロとしていると、

「青き奔流、プリンセス・デリュージ!」

 と、さらに声が聞こえてくる。

「白き旋風、プリンセス・テンペスト!」

「赤き劫火、プリンセス・インフェルノ!」

 それぞれが名乗りを上げると、最初に名乗りを上げた黒い衣装の少女を中心に、ポーズを決めて、

「4人揃って、ピュア・エレメンツ!!」

 と、声を揃えて、声を張り上げた。

「…………」

 プリズムスプリントは、顎が外れたかのように口をあんぐりと開けながら、震える指を4人組に向けている。ファニートリックは、息を呑んだような表情になりつつも、唖然としていた。ただ1人、

「カッコいいですー!」

 と、ミクセリクサーだけが、興奮したような笑顔で、目をキラキラとさせながらそう言った。プリズムスプリントとファニートリックが、コケるようなリアクションをする。

「って、え、え?」

 4人組ははっと我に返ったかのようになると、白に近い薄水色のビキニに、金色の鱗でできた片脚タイツと肩当てを着けた少女が、驚いたように、悪魔が(たお)れた跡の地面のシミを見て、困惑げな声をあげた。

「これは…………」

 薄水色のビキニの少女は、地面を見たまま呟いてから、視線をプリズムスプリントとファニートリックへ向けた。

「あなた達が、やったんですか?」

 そう、問いただしてくる。

「まぁそうだが。でもあたしとこっちの()はふたりがかりで1体倒しただけだ。後の2体は────」

 プリズムスプリントは、そう言ってから、親指でミクセリクサーを指した。

「え!? この子が!?」

「はい! やりました!」

 薄水色のビキニの少女が驚きの声を上げると、ミクセリクサーは満面の笑顔になって、誇るように言う。

「そんな……ディスラプターを倒しちゃうって……」

 困惑しきる薄水色のビキニの少女に代わって、黒い、へそ出しの衣装を身に着けた少女が、前に出てくる。

「お話聞かせてもらってよろしいでしょうか?」

「そりゃいいな。こっちからも色々聞きたい」

 プリズムスプリントが、険しい表情で言った。

「まず、あなた方は一体何者なんですか?」

 黒衣の少女が訊ねてくる。

「魔法少女ですー!」

 ミクセリクサーは、胸を反らすようにしながら、声を張り上げてそう言った。

「え? 魔法……少女……?」

 黒衣の少女も、困惑げな声を出し、怪訝そうな表情になる。

「では……あなた方も、ディスラプターと戦っているのですか?」

「ディスラプター?」

 黒衣の少女の質問に、ミクセリクサーが鸚鵡返しにする。

「……私達が倒した、 “悪魔” のことですか?」

 ファニートリックが、若干眉を険しくして訊き返す。

「悪魔って何ー!?」

 黒衣の少女の後ろから、どこか古代ヨーロッパを思わせるような衣装に、月桂樹の輪を背負った小柄な少女が、声を上げてくる。

「テンペスト、今は静かにしないとだめだよ」

 そのさらに背後にいた、燃え上がる炎のような髪に、黒いビキニの衣装を着けた少女が、テンペスト、と呼ばれた月桂樹の輪の少女を嗜める。

「えー……インフェルノは、いつも真面目さんなんだから」

 テンペストと呼ばれた少女は、そう言って口を尖らせる。

 嗜めた方の少女は、地獄の業火(Inferno)なんて名前がついている割には、妙に穏やかそうな雰囲気をまとっている。

 

【挿絵表示】

 

「……どうやら、そのようですね、ええ、あなた方の言う “悪魔” が、私達の言う “ディスラプター” のようです」

 黒衣の少女が、ファニートリックにそう答えてから、

「あなた方も魔法少女だと言っていましたね?」

 と、問い返した。

「はい」

「つまり、あなた方も悪魔、と戦う為に組織された存在、ということですか?」

「えっ……と」

 黒衣の少女の問いかけに、ファニートリックが声を詰まらせると、

「はい! 悪魔や悪者から善良なひとびとを守るのも魔法少女のやくめです!!」

 と、ミクセリクサーが答えた。

「“()” ?」

 黒衣の少女が、僅かに眉を(ひそ)めた。

「はい! 他にも魔法少女は皆さんのおやくに立つのがやくめです!」

「他にも、とは?」

「困りごとを解決するのが魔法少女のやくわりです! ()くし物を探したり、逃げたペットを探したり、事故を起こした自動車から乗っている人を助け出したりします!」

 ミクセリクサーの答えに、黒衣の少女は戸惑った表情をする。

「あたし達も魔法少女とはそういうものだと教わっている……で、いいよなファニートリック?」

 プリズムスプリントが、ミクセリクサーの言葉を肯定し、ファニートリックにも確認した。

「あ、は、はい」

 ファニートリックは、詰まりつつ答える。

「それで……あなた方はどこの研究所の魔法少女なんですか?」

 黒衣の少女に代わって、薄水色のビキニの少女が、プリズムスプリントとファニートリックに問いかける。

「研究所?」

 プリズムスプリントと揃って怪訝そうに眉を顰めつつ、ファニートリックは鸚鵡返しにする。

「研究部、ではなくてですか?」

「研究部?」

「はい、魔法の国の技術研究部門です……私もそれほど詳しくないのですが」

「魔法の国?」

 ファニートリックが言う単語に、薄水色のビキニの少女は困惑げに鸚鵡返しにする。黒衣の少女や、燃える髪の少女と顔を見合わせたりした。

「いや、もうわかっただろ」

 腕組みをしたプリズムスプリントが、言う。

「こいつらが、密造された人造魔法少女なんだよ」

「密造って……私達はちゃんと、日本政府のプロジェクトに基づいて……────」

 プリズムスプリントの言葉に、黒衣の少女が、戸惑いつつも気丈に発言するが、それをファニートリックが、

「それは変です」

 と、遮った。

「日本政府が絡んでいるのなら、私達に外交部……つまり、魔法の国の外交部ですが、そこから、あなた達を調査せよ、という依頼が来るはずがありません」

「魔法の国ってのは、魔法少女の総本山みたいなところだ。そこが()()()()知らないってのは、ちょっと不自然なんだよな」

 プリズムスプリントも付け加える。

「…………どうする?」

 4人は仲間内で顔を見合わせあい、黒衣の少女が問いかけるような言葉を出した。

「こいつらあやしい!」

 テンペスト、がそう言った。

「ですが、ディスラプターをいとも簡単に倒してしまったのも事実です。ここで争うのもいい考えとは思えません」

 インフェルノ、が言う。

「でも、放っとくわけにもいかないんじゃない?」

 薄水色のビキニの少女が言った。

「先生に判断してもらった方がいいのかもしれません」

 インフェルノがそう言った。

 4人はさらにいくつか言葉を交わした。それから、

「後はクェイクに判断任せる」

 薄水色のビキニの少女がそう言うと、

「仕方ありませんね……」

 クェイク、と呼ばれた黒衣の少女が、苦い顔で呟くように言った後、ミクセリクサー達の方を向いた。

「私達の研究所まで来てもらいます。よろしいですね?」

 





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