魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3― 作:神谷萌
しかし、マイカーの普及とバス路線の拡充、そして皮肉なことに、市内電車の走る国道の拡幅に伴う市内電車の複線化により、駅周辺の生活動線が変わり、交通結節点としての価値は低下した。
閑古鳥が鳴くようになったバスロータリーとタクシー乗り場は、過剰になった立派な駅舎設備とともに廃止され、その敷地はバブル期の1989年に売却された。市内電車がこの駅から鉄道線の大学前駅・紅丘駅まで乗り入れる関係で、この時点では最低限の規模の有人駅になった。
その後、CTC導入で駅員配置の意味も
そのスーパーマーケット、一度キーテナントが交代した後のロピア上左海店の屋上で、ミクセリクサー達とピュア・エレメンツ、7人は降り立った。
「何か買ってく?」
「この格好で、ですか……」
プリンセス・テンペストが訊ねるように言うが、プリンセス・インフェルノが少し困ったように苦笑しながら返した。
「この3人のこともあるし、このまま帰還しましょう」
黒衣の少女、プリンセス・クェイクがそう言った。
「了解」
白に近い薄水色のビキニの少女、プリンセス・デリュージは、その時は短く答えた。
ミクセリクサーとファニートリック、プリズムスプリントは、お互いに顔を見合わせる。
「じゃあ、最後にひとっ飛びしますね」
プリンセス・クェイクがミクセリクサー達を振り返って言うと、
「おう」
「わかりましたです!」
と、プリズムスプリントとミクセリクサーが答えた。ファニートリックも声にこそ出さなかったが、口元で笑みつつ頷いていた。
ピュア・エレメンツがクェイクを先頭に跳躍すると、ミクセリクサー達がそれに続く。
上左海駅から私鉄線沿いに北へ400m、現在は電車のみが停まる旭町駅を少し行き過ぎたところの向かい
鉄道線の方は、国立大学最寄りの大学前駅以遠が非電化だ。走る気動車のディーゼルエンジンの爆音が聞こえてくる。
「また……こういうところ、ですか」
「え……」
出会ってから、食事時や寝ている時までニコニコしているミクセリクサーが、少しだけ表情を曇らせながらそう言っているのを見て、ファニートリックが戸惑った短い声を出す。
廃工場の建物の中に入っていくと、不自然にピカピカと光沢のある、重厚な金属扉があった。
「…………」
その扉には、電卓のそれのようなLCD表示器と、いくつかのコマンドキーが付属するテンキーがついている。普通に考えれば、パスナンバー式の解錠装置なのだが……
プリンセス・デリュージが、 “command”、 “Open”、 “Enter” の順にキーを押すと、それだけで扉が開き始めた。
「!」
ファニートリックは、それに対して目を細くした。
「ネドさん」
「了解、システムをハックしてみるぽん」
ファニートリックが、ミクセリクサーの左肩の上にいるネドに、小さく声をかけると、ネドも、ピュア・エレメンツに聞こえないように、小さな声で返した。
── さっきから、4人のティアラから出ている通信の電波を拾って……うわっ! なんだこれぽん……セキュリティガッバガバ、普通の無線LANのWPA2系の方がよっぽど硬いぽん。ネットワーク本線もセキュリティかかって……は!? なにこれ……ホストのシステムにロックも設定されてないぽん!? なんだこれ……トラップなのカナ……とりあえず、ぽん。
「どうぞ」
「はい、おじゃまします」
クェイクの言葉に、ミクセリクサーがそう返した。
「ん……」
プリズムスプリントも、ミクセリクサーの変化に気づいた。TPOをわきまえない喧しいほどのハイテンションが
クェイクとデリュージが並んで前を歩きながら進むピュア・エレメンツの後ろを、ミクセリクサー達3人が着いていく。
出入り口をくぐり、階段を降りる。良く言えば清潔感があって整然とした、悪く言えば無機質な通路が伸びている。なるほど確かに研究施設らしい。
「…………」
ファニートリックがミクセリクサーを見ると、周囲を観察するようにキョロキョロとはしているものの、表情は曇っていると言うか、もともと三白眼なこともあって、険しささえ感じさせている。
ミクセリクサーが見上げる。地下施設にしては、天井はかなり高い。まるで学校の体育館のようだ。
ただ、深度はそれほどないように感じた。床のレベルは地下2階か、3階といったところだろう。あくまでカムフラージュとしての地下施設のように思えた。
「…………」
『ダメね』
無機質な壁、灰白色の空間。
ピッ、ピッ、と鳴る電子音は、医療用の計測機器のそれを思わせる。だが、それに共通するイメージはあるものの、ここは明らかに病院ではない。
「あ……ぅ……あ…………」
もっと、より冒涜的ななにかの雰囲気が漂っている。
『自力で励起にすら至れない』
『大掛かりな事になる前に、目標が達成できればと思ったのだけど』
そんな言葉とともに、ため息が漏れる。
「わ……たし…………」
「…………」
「どしたんだ? お前?」
「へ?」
プリズムスプリントが声をかけると、ミクセリクサーは振り返って、キョトン、とした表情を向ける。
「なんか、さっきから、おかしい……ですよ」
ファニートリックも、少し心配した様子で声をかける。
「そうですか?」
ミクセリクサーは、何を指摘されているのかわからない、といった様子で、2人に答える。だが、その声も、いつもの張りがない。
「どうか、しましたか?」
インフェルノが振り返って、やはり気遣った様子で3人に訊ねてくる。
「あ、すみません。大丈夫ですー」
そう言って、ミクセリクサーはパタパタとインフェルノ達を追いかけていく。
プリズムスプリントはファニートリックと一度顔を見合わせてから、それについていった。
「こちらで、お待ちいただいてよろしいでしょうか?」
クェイクがそう言った。
そこは、会議室のような設備に、寛ぐようなスペースが合わさっていた。書類などをしまっておくような金属製の戸棚類、50インチはありそうな液晶ディスプレイ、飲料類のサーバーやフードストッカー、冷蔵庫、などが置かれている。
デリュージが液晶ディスプレイの隣の戸棚を開けた。
「あれ、しまった」
デリュージが言った。
「薬が切れてる」
「あ、すみません。補充漏れしていました」
それを聞いたインフェルノが、申し訳無さそうに言った。
「いや、インフェルノだけのせいじゃないでしょ」
デリュージは、苦笑しながらインフェルノを振り返る。
「薬……?」
プリズムスプリントが、怪訝そうな表情で呟く。
「ええ、魔力の薬です」
「魔法少女になるには、薬で魔力を摂る必要があるでしょ?」
インフェルノが答え、テンペストが、それに続いて問い返すように言った。
「いや、いや、待て、待て待て」
プリズムスプリントが慌てたような声を出す。
「普通の魔法少女はそんなもの使わないぞ」
「えっ?」
インフェルノが、軽く驚いたような声を出した。クェイクとデリュージもプリズムスプリントの方を向く。
「いや、でも……」
プリズムスプリントはふっと気づいたようになって、ファニートリックとともにミクセリクサーに視線を向けた。
「はい。そういうお薬があるのは知っています」
ミクセリクサーはそう答える。
「といっても、わたしも起動初期の調整のときに使っただけです。普段維持するのには使わないです」
「え……」
ミクセリクサーの言葉に、デリュージが声を漏らした。
「こいつは ────」
プリズムスプリントが、ミクセリクサーの頭をぽんぽんとしながら、鋭い視線をピュア・エレメンツ達に向けて、言う。
「普通の魔法少女じゃない。人造魔法少女、ってやつなんだそうだ」
「…………」
「…………人造……」
クェイクが絶句し、インフェルノが小さく声を漏らした。
「で、でも、先生はそんなこと、言ってなかったもん!」
テンペストが声を上げた。
「えっ、先生ですか!?」
ミクセリクサーが、ドキッ、としたように緊張して声を出す。
「いや、そんなわけないだろ」
「言ってたもん!」
プリズムスプリントがミクセリクサーに言った言葉に、テンペストが駄々をこねるような声を出した。
プリズムスプリントは、今度はテンペストの方を向いて、前髪の生え際を掻くようにしながら、やれやれと言った様子で、
「ああ、そういう意味じゃないって。つまり、そっちの言ってる “先生” と、こいつの言ってる岸b ──── ラ・ピュセル
と、言った。
「その人も魔法少女なんですか?」
インフェルノが問いかけてくる。
「ああ、まぁ……──── いや、まぁ、そうだ」
プリズムスプリントは、説明しかけて、言いかけた内容がまだ今の段階では冗長だなと思い、省いた。
「インフェルノ?」
デリュージが、どこか咎めるような声を出す。
「ああ、すみません」
「…………」
クェイクが、ファニートリックの方を向く。
「私達の言っている “先生” は、田中、というのですが、ご存知ありませんか?」
「いいえ……私達も詳しいわけではありませんが」
「そうですか……」
ファニートリックの答えに、クェイクは、僅かにだが落胆したように感じる声を出した。
「魔力を節約したいですね……一度変身を解きますか?」
インフェルノが言う。
「えっ……」
デリュージが、ギョッとして声を出し、ミクセリクサー達を見る。
「流石にまずいんじゃない?」
「でも、このままだと、もし、ディスラプターが出た時、魔力不足になるかと」
「そんな短い間隔で出たことはないけど、絶対ないとも、うーん……」
インフェルノとデリュージは、少し考えた後、一度、ミクセリクサー……というか、プリズムスプリントに視線を向けた。
「あー、別に今すぐお前さん達
プリズムスプリントは、手を振りながらそう言った。
それを見て、インフェルノとデリュージはクェイクに視線を向ける。
「仕方ありません」
クェイクがそう言った。
「はーい」
テンペストがそう言って、4人は揃って変身を解き ────
「え?」
プリズムスプリントが、ギョッとしたような声を出した。
「めいちゃん!?」
「え?」
魔法少女の姿でも4人の中で一番小柄だったが、さらに小さな、明らかに小学校低学年程度の年格好になったテンペストを見て、プリズムスプリントが声に出した。
「あたしだ、あたし」
プリズムスプリントは変身を解く。大まかなイメージは変わらないが、ツーサイドアップがなくなって肩につく程度のセミロングヘアになり、カジュアルな服装に身を包んだ姿になった、緋山朱里が、自分の顔を指しながら言う。
「あかねぇちゃん!?」
テンペストの少女も、朱里を見て驚いたように声を出した。
「お知り合い、なんですか?」
ファニートリックが朱里に訊いた。
「あたしの妹の同級だよ。子供会も同じなんだ」
朱里はそう答えた。
「うーん、あかねぇちゃんがいるんならこの人達、そこまで怪しくないのかも」
プリンセス・テンペスト ────
一方。
「はえー……」
僅かな間だが、ミクセリクサーはボケーッと見上げてしまっていた。
「あ、あの……」
クェイクだった少女…………というより、長身の女性が、ミクセリクサーの視線にたじろいでしまっている。
「凄いです! リップル様の変身していない時より背が高いです!」
「そ、それは……」
ミクセリクサーの言葉に、クェイクだった女性は、顔を苦くする。
「……リップルさんの変身していない時、身長そんなに高いんですか?」
ミクセリクサーの背後から、ファニートリックが訊ねた。
「はい!」
ミクセリクサーは、言いながら、くるりとファニートリックの方を見た。
「たしか身長172cmだったかと!」
「え、私ほどじゃないけど……結構ある……」
プリンセス・クェイク ────
「あの……私、怖くありませんか?」
千子の声に、ミクセリクサーが再度くるりと振り向き、ファニートリックとともに千子を見た。
「いいえ!」
「怖いとまでは、思わないですね……」
ミクセリクサーとファニートリックはそう答える。
「え、ほ、本当に……?」
千子は戸惑いつつも、少しだけ口元が嬉しそうに緩む。
「はい! コワモテというのはトップスピード様のお友達みたいなひとを言うのだと、先生やラピス・ラズリーヌ
「私から見ても、あまり威圧感がある方ではないと思います……」
「そ、そうですか」
ミクセリクサーとファニートリックの声を聞いて、千子の口元はますます緩んだ。
室田つばめの高校までの人間関係だとか、根村佳代にとって “威圧感を感じる女性” の基準がキャプテン・グレースこと芝原海だとか、千子にとってはまさに “知らぬが仏” である。
「あ、あのー……」
滑らかだが、そこで交わされている声とは少し異質の声がかけられた。
「わ、私のことは気にならない、のでしょうか?」
オーソドックスなシャツとズボンを着た、染めていない割には少し明るい色をした髪の、高校生ぐらいの
「ん? あ、ああ、お前も男だったのか」
朱里が、視線を少年に向けて、事も無げな表情でそう言った。
「そんなあっさり!?」
「…………んなこと、言ったってなぁ?」
朱里が難儀したような表情になって言い、ミクセリクサーに視線を走らせる。
「先生も、ステラ・ルル様も、人間の姿は男ですので!」
ミクセリクサーが言う。その横で、ファニートリックが困ったような愛想笑いをしていた。
「そ、そうなんですか!?」
燈は、仰け反りかけた、さらに衝撃を受けたかのようなリアクションをとった。
「クェイク」
状況を忘れて駄弁り場になりかけたところで、爽やかで無欠と言った感じの女子高生が、千子に声をかけた。
「とりあえず、管制室に行きましょう。それに、薬も取ってこないと」
プリンセス・デリュージ ────
「あ、そ、そうです、ね」
プリンセス・クェイクだった時と異なり、体躯に似合わず内気な女性になってしまった千子が、どもりがちに言う。
「みなさん」
奈美は、ミクセリクサー達を見て、言う。
「私とクェイクで、管制室に行って、田中先生と連絡が取れないか試してみます」
それから、
「インフェルノ、テンペスト、この3人のことを見ててね」
と、燈と鳴に言った。
そして、奈美は千子と共にその部屋、ピュア・エレメンツがブリーフィングルームと呼んでいる部屋から出ていった。
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