魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3―   作:神谷萌

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第04話

 (かみ)左海駅は、市内電車と、左海駅からひとつ起点寄り(ただし、ハナモモの開花期には江戸時代から続く植物園に隣接した臨時駅が開設される)の紅丘(べにおか)駅を起点とする私鉄線(鉄道線)の結節点で、かつては大きなバスロータリーとタクシー乗り場を備えていた。

 しかし、マイカーの普及とバス路線の拡充、そして皮肉なことに、市内電車の走る国道の拡幅に伴う市内電車の複線化により、駅周辺の生活動線が変わり、交通結節点としての価値は低下した。

 閑古鳥が鳴くようになったバスロータリーとタクシー乗り場は、過剰になった立派な駅舎設備とともに廃止され、その敷地はバブル期の1989年に売却された。市内電車がこの駅から鉄道線の大学前駅・紅丘駅まで乗り入れる関係で、この時点では最低限の規模の有人駅になった。

 その後、CTC導入で駅員配置の意味も()くし、今では、旧敷地跡に建てられたスーパーマーケット店舗の脇に、特殊構造のホームを持ちつつも小ぢんまりとした無人駅になっている。

 そのスーパーマーケット、一度キーテナントが交代した後のロピア上左海店の屋上で、ミクセリクサー達とピュア・エレメンツ、7人は降り立った。

「何か買ってく?」

「この格好で、ですか……」

 プリンセス・テンペストが訊ねるように言うが、プリンセス・インフェルノが少し困ったように苦笑しながら返した。

「この3人のこともあるし、このまま帰還しましょう」

 黒衣の少女、プリンセス・クェイクがそう言った。

「了解」

 白に近い薄水色のビキニの少女、プリンセス・デリュージは、その時は短く答えた。

 ミクセリクサーとファニートリック、プリズムスプリントは、お互いに顔を見合わせる。

「じゃあ、最後にひとっ飛びしますね」

 プリンセス・クェイクがミクセリクサー達を振り返って言うと、

「おう」

「わかりましたです!」

 と、プリズムスプリントとミクセリクサーが答えた。ファニートリックも声にこそ出さなかったが、口元で笑みつつ頷いていた。

 ピュア・エレメンツがクェイクを先頭に跳躍すると、ミクセリクサー達がそれに続く。

 上左海駅から私鉄線沿いに北へ400m、現在は電車のみが停まる旭町駅を少し行き過ぎたところの向かい(かた)に、閉鎖された廃工場があった。

 鉄道線の方は、国立大学最寄りの大学前駅以遠が非電化だ。走る気動車のディーゼルエンジンの爆音が聞こえてくる。

「また……こういうところ、ですか」

「え……」

 出会ってから、食事時や寝ている時までニコニコしているミクセリクサーが、少しだけ表情を曇らせながらそう言っているのを見て、ファニートリックが戸惑った短い声を出す。

 廃工場の建物の中に入っていくと、不自然にピカピカと光沢のある、重厚な金属扉があった。

「…………」

 その扉には、電卓のそれのようなLCD表示器と、いくつかのコマンドキーが付属するテンキーがついている。普通に考えれば、パスナンバー式の解錠装置なのだが……

 プリンセス・デリュージが、 “command”、 “Open”、 “Enter” の順にキーを押すと、それだけで扉が開き始めた。

 

【挿絵表示】

 

【挿絵表示】

 

「!」

 ファニートリックは、それに対して目を細くした。

「ネドさん」

「了解、システムをハックしてみるぽん」

 ファニートリックが、ミクセリクサーの左肩の上にいるネドに、小さく声をかけると、ネドも、ピュア・エレメンツに聞こえないように、小さな声で返した。

 ── さっきから、4人のティアラから出ている通信の電波を拾って……うわっ! なんだこれぽん……セキュリティガッバガバ、普通の無線LANのWPA2系の方がよっぽど硬いぽん。ネットワーク本線もセキュリティかかって……は!? なにこれ……ホストのシステムにロックも設定されてないぽん!? なんだこれ……トラップなのカナ……とりあえず、ぽん。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「どうぞ」

「はい、おじゃまします」

 クェイクの言葉に、ミクセリクサーがそう返した。

「ん……」

 プリズムスプリントも、ミクセリクサーの変化に気づいた。TPOをわきまえない喧しいほどのハイテンションが()せている。

 クェイクとデリュージが並んで前を歩きながら進むピュア・エレメンツの後ろを、ミクセリクサー達3人が着いていく。

 出入り口をくぐり、階段を降りる。良く言えば清潔感があって整然とした、悪く言えば無機質な通路が伸びている。なるほど確かに研究施設らしい。

「…………」

 ファニートリックがミクセリクサーを見ると、周囲を観察するようにキョロキョロとはしているものの、表情は曇っていると言うか、もともと三白眼なこともあって、険しささえ感じさせている。

 ミクセリクサーが見上げる。地下施設にしては、天井はかなり高い。まるで学校の体育館のようだ。

 ただ、深度はそれほどないように感じた。床のレベルは地下2階か、3階といったところだろう。あくまでカムフラージュとしての地下施設のように思えた。

「…………」

 

『ダメね』

 無機質な壁、灰白色の空間。

 ピッ、ピッ、と鳴る電子音は、医療用の計測機器のそれを思わせる。だが、それに共通するイメージはあるものの、ここは明らかに病院ではない。

「あ……ぅ……あ…………」

 もっと、より冒涜的ななにかの雰囲気が漂っている。

『自力で励起にすら至れない』

『大掛かりな事になる前に、目標が達成できればと思ったのだけど』

 そんな言葉とともに、ため息が漏れる。

「わ……たし…………」

 

「…………」

「どしたんだ? お前?」

「へ?」

 プリズムスプリントが声をかけると、ミクセリクサーは振り返って、キョトン、とした表情を向ける。

「なんか、さっきから、おかしい……ですよ」

 ファニートリックも、少し心配した様子で声をかける。

「そうですか?」

 ミクセリクサーは、何を指摘されているのかわからない、といった様子で、2人に答える。だが、その声も、いつもの張りがない。

「どうか、しましたか?」

 インフェルノが振り返って、やはり気遣った様子で3人に訊ねてくる。

「あ、すみません。大丈夫ですー」

 そう言って、ミクセリクサーはパタパタとインフェルノ達を追いかけていく。

 プリズムスプリントはファニートリックと一度顔を見合わせてから、それについていった。

 

 

「こちらで、お待ちいただいてよろしいでしょうか?」

 クェイクがそう言った。

 そこは、会議室のような設備に、寛ぐようなスペースが合わさっていた。書類などをしまっておくような金属製の戸棚類、50インチはありそうな液晶ディスプレイ、飲料類のサーバーやフードストッカー、冷蔵庫、などが置かれている。

 デリュージが液晶ディスプレイの隣の戸棚を開けた。

「あれ、しまった」

 デリュージが言った。

「薬が切れてる」

「あ、すみません。補充漏れしていました」

 それを聞いたインフェルノが、申し訳無さそうに言った。

「いや、インフェルノだけのせいじゃないでしょ」

 デリュージは、苦笑しながらインフェルノを振り返る。

「薬……?」

 プリズムスプリントが、怪訝そうな表情で呟く。

「ええ、魔力の薬です」

「魔法少女になるには、薬で魔力を摂る必要があるでしょ?」

 インフェルノが答え、テンペストが、それに続いて問い返すように言った。

「いや、いや、待て、待て待て」

 プリズムスプリントが慌てたような声を出す。

「普通の魔法少女はそんなもの使わないぞ」

「えっ?」

 インフェルノが、軽く驚いたような声を出した。クェイクとデリュージもプリズムスプリントの方を向く。

「いや、でも……」

 プリズムスプリントはふっと気づいたようになって、ファニートリックとともにミクセリクサーに視線を向けた。

「はい。そういうお薬があるのは知っています」

 ミクセリクサーはそう答える。

「といっても、わたしも起動初期の調整のときに使っただけです。普段維持するのには使わないです」

「え……」

 ミクセリクサーの言葉に、デリュージが声を漏らした。

「こいつは ────」

 プリズムスプリントが、ミクセリクサーの頭をぽんぽんとしながら、鋭い視線をピュア・エレメンツ達に向けて、言う。

「普通の魔法少女じゃない。人造魔法少女、ってやつなんだそうだ」

「…………」

「…………人造……」

 クェイクが絶句し、インフェルノが小さく声を漏らした。

「で、でも、先生はそんなこと、言ってなかったもん!」

 テンペストが声を上げた。

「えっ、先生ですか!?」

 ミクセリクサーが、ドキッ、としたように緊張して声を出す。

「いや、そんなわけないだろ」

「言ってたもん!」

 プリズムスプリントがミクセリクサーに言った言葉に、テンペストが駄々をこねるような声を出した。

 プリズムスプリントは、今度はテンペストの方を向いて、前髪の生え際を掻くようにしながら、やれやれと言った様子で、

「ああ、そういう意味じゃないって。つまり、そっちの言ってる “先生” と、こいつの言ってる岸b ──── ラ・ピュセル()()とは別人だ、って言ってるだけだ」

 と、言った。

「その人も魔法少女なんですか?」

 インフェルノが問いかけてくる。

「ああ、まぁ……──── いや、まぁ、そうだ」

 プリズムスプリントは、説明しかけて、言いかけた内容がまだ今の段階では冗長だなと思い、省いた。

「インフェルノ?」

 デリュージが、どこか咎めるような声を出す。

「ああ、すみません」

「…………」

 クェイクが、ファニートリックの方を向く。

「私達の言っている “先生” は、田中、というのですが、ご存知ありませんか?」

「いいえ……私達も詳しいわけではありませんが」

「そうですか……」

 ファニートリックの答えに、クェイクは、僅かにだが落胆したように感じる声を出した。

「魔力を節約したいですね……一度変身を解きますか?」

 インフェルノが言う。

「えっ……」

 デリュージが、ギョッとして声を出し、ミクセリクサー達を見る。

「流石にまずいんじゃない?」

「でも、このままだと、もし、ディスラプターが出た時、魔力不足になるかと」

「そんな短い間隔で出たことはないけど、絶対ないとも、うーん……」

 インフェルノとデリュージは、少し考えた後、一度、ミクセリクサー……というか、プリズムスプリントに視線を向けた。

「あー、別に今すぐお前さん達()()をどうこうしようって気は()()()()()ない」

 プリズムスプリントは、手を振りながらそう言った。

 それを見て、インフェルノとデリュージはクェイクに視線を向ける。

「仕方ありません」

 クェイクがそう言った。

「はーい」

 テンペストがそう言って、4人は揃って変身を解き ────

「え?」

 プリズムスプリントが、ギョッとしたような声を出した。

「めいちゃん!?」

「え?」

 魔法少女の姿でも4人の中で一番小柄だったが、さらに小さな、明らかに小学校低学年程度の年格好になったテンペストを見て、プリズムスプリントが声に出した。

「あたしだ、あたし」

 プリズムスプリントは変身を解く。大まかなイメージは変わらないが、ツーサイドアップがなくなって肩につく程度のセミロングヘアになり、カジュアルな服装に身を包んだ姿になった、緋山朱里が、自分の顔を指しながら言う。

「あかねぇちゃん!?」

 テンペストの少女も、朱里を見て驚いたように声を出した。

「お知り合い、なんですか?」

 ファニートリックが朱里に訊いた。

「あたしの妹の同級だよ。子供会も同じなんだ」

 朱里はそう答えた。

「うーん、あかねぇちゃんがいるんならこの人達、そこまで怪しくないのかも」

 プリンセス・テンペスト ──── 東恩納(ひがしおんな)(めい)は、顎に手を当てながらそう言った。

 一方。

「はえー……」

 僅かな間だが、ミクセリクサーはボケーッと見上げてしまっていた。

「あ、あの……」

 クェイクだった少女…………というより、長身の女性が、ミクセリクサーの視線にたじろいでしまっている。

「凄いです! リップル様の変身していない時より背が高いです!」

「そ、それは……」

 ミクセリクサーの言葉に、クェイクだった女性は、顔を苦くする。

「……リップルさんの変身していない時、身長そんなに高いんですか?」

 ミクセリクサーの背後から、ファニートリックが訊ねた。

「はい!」

 ミクセリクサーは、言いながら、くるりとファニートリックの方を見た。

「たしか身長172cmだったかと!」

「え、私ほどじゃないけど……結構ある……」

 プリンセス・クェイク ──── 茶藤(さとう)千子(ちこ)は、少し唖然としたように言った。

「あの……私、怖くありませんか?」

 千子の声に、ミクセリクサーが再度くるりと振り向き、ファニートリックとともに千子を見た。

「いいえ!」

「怖いとまでは、思わないですね……」

 ミクセリクサーとファニートリックはそう答える。

「え、ほ、本当に……?」

 千子は戸惑いつつも、少しだけ口元が嬉しそうに緩む。

「はい! コワモテというのはトップスピード様のお友達みたいなひとを言うのだと、先生やラピス・ラズリーヌII(2)世様が言っておられました!」

「私から見ても、あまり威圧感がある方ではないと思います……」

「そ、そうですか」

 ミクセリクサーとファニートリックの声を聞いて、千子の口元はますます緩んだ。

 室田つばめの高校までの人間関係だとか、根村佳代にとって “威圧感を感じる女性” の基準がキャプテン・グレースこと芝原海だとか、千子にとってはまさに “知らぬが仏” である。

「あ、あのー……」

 滑らかだが、そこで交わされている声とは少し異質の声がかけられた。

「わ、私のことは気にならない、のでしょうか?」

 オーソドックスなシャツとズボンを着た、染めていない割には少し明るい色をした髪の、高校生ぐらいの()()が、会話しているその場の他のメンツに、訊ねるようにおずおずと言った。

 

【挿絵表示】

 

「ん? あ、ああ、お前も男だったのか」

 朱里が、視線を少年に向けて、事も無げな表情でそう言った。

「そんなあっさり!?」

 少年(boy)、プリンセス・インフェルノ ──── 赤星(あかほし)(あかり)は、朱里の反応に、かえってショックを受けたかのような反応をした。

「…………んなこと、言ったってなぁ?」

 朱里が難儀したような表情になって言い、ミクセリクサーに視線を走らせる。

「先生も、ステラ・ルル様も、人間の姿は男ですので!」

 ミクセリクサーが言う。その横で、ファニートリックが困ったような愛想笑いをしていた。

「そ、そうなんですか!?」

 燈は、仰け反りかけた、さらに衝撃を受けたかのようなリアクションをとった。

「クェイク」

 状況を忘れて駄弁り場になりかけたところで、爽やかで無欠と言った感じの女子高生が、千子に声をかけた。

「とりあえず、管制室に行きましょう。それに、薬も取ってこないと」

 プリンセス・デリュージ ──── 青木(あおき)奈美(なみ)は、しかし深刻そうに眉間に皺を寄せつつ、言う。

「あ、そ、そうです、ね」

 プリンセス・クェイクだった時と異なり、体躯に似合わず内気な女性になってしまった千子が、どもりがちに言う。

「みなさん」

 奈美は、ミクセリクサー達を見て、言う。

「私とクェイクで、管制室に行って、田中先生と連絡が取れないか試してみます」

 それから、

「インフェルノ、テンペスト、この3人のことを見ててね」

 と、燈と鳴に言った。

 そして、奈美は千子と共にその部屋、ピュア・エレメンツがブリーフィングルームと呼んでいる部屋から出ていった。

 





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