魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3― 作:神谷萌
「そうだ、あかねぇちゃん」
「なんだよ」
テンペストが問いかけ、プリズムスプリントが反応する。
「来月さ、子供会で
「ああ、そうだな」
テンペストの言葉にプリズムスプリントは肯定の声を返す。緋山朱里は小学生としてこれに参加したことはない。中学生は希望者だけだ。
朱里が小学生だった頃は、高波山山麓の東高波自然動物園へ行っていたと聞いている。ただし東高波自然動物園の所在地は、高波山頂が存在する名深市内ではない。
昔の精神教育の名残で、路線バスのバス停から、大人の足でも1時間弱かかるところへ、徒歩で登っていたという。この時期に。
── 考えるだけで汗だっくだくになりそうだ。
子どもの熱中症が心配されるようになって、参加を控えさせる親も出てきた。行事自体が有名無実化しそうになって、今の漠濯水族館に場所が変更された。こちらなら、公共交通機関でも市内電車の終点から目と鼻の先だった。
そうなってから、朱里は去年、自分の妹の同行者という
「あかねぇちゃんは今年も来るの?」
テンペストに聞かれて、プリズムスプリントはパタパタと手を振った。
「あームリムリ。学校の夏期講習とぶつかってるんだわ」
「去年は来てたじゃん」
「今年はそっちに行かないとまずいんだよ」
「テストの点、悪かったとか?」
「チッ」
「ふぇっ!?」
そこまでいって、ファニートリックとともにクェイク、インフェルノと会話していたミクセリクサーが反応して、振り返った。
「どうしました?」
「いえ……今、リップル様がいたような……? ??」
インフェルノの問いかけに、ミクセリクサーはそう言ってキョロキョロとする。
「他に誰か入ってきたのなら、解るはずですが……」
クェイクが、僅かな当惑混じりに言った。
「クェイク、話もいいけど、とりあえずそれ仕舞っちゃったら?」
デリュージが、クェイクが脇に抱えたままの手提げケースを指して、問いかけるように言った。
「あ、そうね」
そう言って、クェイクは、ケースを持って魔力の薬を置いておく戸棚の前まで移動する。
そこへトテトテと、ミクセリクサーがなにかに興味を惹かれたように近寄っていく。
クェイクが手提げケースを開けたのを、ミクセリクサーがクェイクの背中越しに覗き込んだ。
「え!」
「わっ!?」
ほとんどクェイクの耳元でミクセリクサーが声をあげる。その声に、クェイクが驚いた声を出した。
「ふぇっ?」
「どした?」
プリズムスプリントとテンペストが、声のした方を向く。
「わたし! この薬見たことあります!!」
「えっ!?」
訊き返すクェイクの言葉に構わず、ミクセリクサーは錠剤の入った箱を手に取って、観察した。
「まちがいありません!」
「え、で、でも、ミクセリクサーさんを造ったのは……」
断言するミクセリクサーに、駆け寄ってきていたファニートリックが戸惑った声を出す。
「じゃ、じゃあ、この薬は、魔法の国製ってことですか!?」
「はい! たぶんそうだと思います!」
ミクセリクサーが、ファニートリックの言葉を肯定する。
「ど、どういうことだ……?」
プリズムスプリントも、息を呑んだように言った。
「わかりません! あとで聞いてみます!」
インフェルノが不安げに、デリュージ、テンペストとともに見ている中で、ミクセリクサーはそう言った。
「…………今はお互い、見せられる情報もないようです。一度、解散ということでどうでしょうか?」
クェイクが、ミクセリクサー達3人に向かってそう言った。
「あっ、そうだ。帰って宿題やらないと!」
テンペストが声を上げた。
「…………」
ファニートリックは、少し訝しげな表情をしたが、
「どうします? ミクセリクサーさん」
と、問いかける。
「わたしもホテルで整理したいことがあります!」
「それじゃあ、あたし達も一旦引き下がるってことで、いいか」
ミクセリクサーの言葉を受けて、プリズムスプリントがそう言った。
地上へ上がると、すでに日が暮れていた。
ミクセリクサー達3人は、廃工場から目と鼻の先の旭町駅まで来る。簡易改札機すらない無人駅だ。
鉄道線の気動車が轟音を立てて通過していく。
「良かったんですか?」
佳代に訊ねられて、ミクセリクサーが佳代の方を向く。
「はい!」
ミクセリクサーは言う。
「たぶん、デリュージ様以外はウソをつくような方ではないかと!」
「解るんですか?」
「はい! こう見えてもひとを見る目はあるほうですので!」
訊き返す佳代に、ミクセリクサーは、どこか自信ありげに胸をそらしてそう答えた。
「それに、多分あいつら、あの場所を捨てたりとか、そういう事はできないと思うんだよ」
朱里が言う。
「特にめいちゃんなんか、魔法少女でいる時以外は小学2年生そのままみたいだったし、どこかへ逃げようなんてできないと思うんだよな」
「確かに……そう言われれば、そうですね」
朱里の言葉に、佳代は、まだどこか引っかかるようにしつつも、同意の言葉を発した。
左海市内へ向かう、大学前発の市内電車が入ってきて、停車する。21世紀のはじめぐらいに導入された車両だが、台車周りと前面デザイン以外は同時期の都電の新型車とほぼ同型だったりする。
ミクセリクサーだけがPASMOをICカード読み取り機にかざし、朱里と佳代は整理券をとった。
「ミクセリクサーさん、PASMO持ってるんですか……」
「はい! 私鉄の汽車やバスで移動する時に便利だからとトップスピード様に持っているように言われました!」
佳代が意外そうにしながら問いかけると、ミクセリクサーがそう答えた。
「持ってりゃ便利なのはわかってるんだがなぁ……」
朱里が、目を細くして言う。
「しかし……魔法の国は感知していないはずなのに、魔法の国製の薬があるってのは、どういうことなんだ……」
前髪のあたりを掻く仕種をしながら、朱里が、呟くように小さな声で言う。
「魔法の国、魔法少女部門が管理している外で、ってことじゃないでしょうか」
佳代が、やはり声量を抑えて言う。
「そんなことあるのかよ」
朱里は、懐疑と呆れの混じった声で言ったが、それに対して、佳代は、さらに眉のあたりを険しくし、口元に手を当てる。
「あり得ます……私達がそうでしたから」
「えっ!?」
流石に大声は出さなかったが、佳代の言葉に朱里は驚いた。
「私達は、犯罪者のマスコットが勝手に仕立てた魔法少女だったんです」
佳代は、険しい表情をしたまま、朱里に聞こえる程度の小声で伝える。
「あ、ああ、なんか……すまん。でも、無理に言わなくても良かったのに」
朱里が申し訳無さそうな表情になった。
「いえ、大丈夫です。私達は、今は外交部の保護下にいますので」
「ってことは……あいつらもその可能性があるってことか……ミクセリクサー」
「はい!?」
朱里がミクセリクサーに
「ちょっ、しーっ、しーっ! 声を抑えろ!」
朱里が、口の前に人差し指を立てながらミクセリクサーに言う。佳代は車内をキョロキョロと見回した。帰りの大学生か、結構な人数が乗っていたが、仲間内で喋っていたり、スマホでなにか見ていたり、講義の資料かなにかを読んでいたりで、こちらを気にしている暇はなさそうだ。
「すみません、気をつけます!」
「ああぁ……」
言ってるそばからの元気いっぱいな声に、朱里は片手で顔を覆う。
「とにかくだ。お前さん、あの魔力の薬の出処に心当たりあるのか」
朱里は逆に “魔力の薬” と隠さずに言った。この方が周囲もヨタだと思うだろう。
「よくはわかりませんが、ちょっと気になることはあります! だからホテルに帰ってから連絡してみようと思ってます!」
信太郡亞ヶ浦村。
ピリリリリリ……ピリリリリリ……
「はい、はい、はい、ただいま」
そう言って、板の間に置かれた卓袱台の上のスマートフォンを手にとる。
「はいっす。いつもニコニコあなたのおそばに正義のヒーロー、2代目ラピス・ラズリーヌっすよー。どしたっすか、ミクセっち」
風呂上がりの米田瑠璃の姿で、電話の相手にそう応答する。
「聞きたいこと? 依頼の件でっすか? ラピュっちにじゃなくて?」
そこまで、意外そうに言った瑠璃だったが、急に表情が険しくなる。
「研究部が使ってた魔力の薬!?」
『はい! ラズリーヌII世様ならなにかご存知かと!』
電話口の向こうのミクセリクサーはそう問いかけてくる。
ミクセリクサーを強制覚醒させようとした “ラ・ピュセル最初の魔法少女選抜試験” に、ラピス・ラズリーヌ
それが最終的に初代と2代目の確執を生んで、初代が3代目を襲名させて2代目を
ただ……────
「すまないっす、そのあたりの流れは、私はよくわからないっす」
『そうですか……』
「お役に立てなくて申し訳ないっす」
『いいえー、こちらこそお手間取らせま……えっ?』
会話を終わらせようとしたミクセリクサーの横から、別の声が割り込んできた。
『ラズリーヌIIにも伝えておくぽん。今、近くで3人ほどの魔法少女を検出したぽん』
ネドの声だ。
緩みかけた瑠璃の表情が、再び険しくなる。
「その数は地域魔法少女じゃないっすね!?」
『地域魔法少女はミクセリクサー達に協力してくれてるぽん。プリズムスプリントだぽん』
「覚えとくっす。そっちも気をつけておいて欲しいっす」
『わかったぽん』
それから二言、三言やり取りして、電話を終えた。
終話してから、瑠璃はスマートフォンの画面を険しい表情で凝視する。
画面が消灯したところで、瑠璃はその姿勢のまま、緊張を戒めるかのように、ラピス・ラズリーヌIIndに変身した。
再度スマートフォンの画面を表示させ、ロックを外す。電話を開く。連絡先から『ラピュっち』を選択し、通話をタップする。
『ツーッ、ツーッ、ツーッ……』
話し中なのか、発振音が虚しく聞こえてくる。
軽くため息を吐いてから、少しだけ考え、今度は『リプっち』を選択して、通話をタップした。
『トゥルルルルル……トゥルルルルル……』
呼出音が4コールほど鳴った後、
『はい、もしもし』
と、華乃の声が聞こえてきた。
「リプっち、ラピュっちそこにいるっすか!?」
『今日は帰った』
華乃の答えを聞いて、ラズリーヌIIはがくんと脱力したようなリアクションをした。
“婚前夫婦” とも言われて、颯太の高校受験も終わった頃からはいよいよ華乃邸にいずっぱり、というイメージがあった。実際には週に3日程度なのだが。
『なんの用?』
華乃が聞いてくる。
「それが……」
外交部との裏の窓口役はラ・ピュセルというイメージだが、リップルも魔王パムとは懇意にしている。
「ミクセっちが捜索を頼まれてた研究所を見つけたらしいんすけど……そこで研究部が使ってた “魔力の薬” が見つかったって言ってたっす」
『“魔法の国” が関係していないはずなのにか』
華乃の声が、少し低くなった。
「そういうことっす」
『わかった。ちょっとレディ・プロウドに連絡とってみる』
「ああそれと」
『ん?』
「ミクセっち達の近くに魔法少女が3人ばかり」
『地域魔法少女じゃ?』
「それはミクセっちと一緒にいるって言ってたっす」
『わかった。それもあわせて伝えとく』
「頼むっす。トップスピードとスノスノには伝えておいた方がいいっすかね?」
『その方がいいと思う』
「わかったっす」
七夕はワタクシめの誕生日でございます。
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