ヒロアカ世界の烈火に八竜率いた柳が個性として宿った話   作:琴銀河

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序章・前編 花菱烈火、炎のはじまり

 

烈火の人生が変わったのは、4歳の誕生日の少し後だった。

 

手のひらにふっと小さな火が灯り、それは普通の炎とは違い、光の粒子が集まって形を成すように揺らめき――やがて小さな炎龍になった。

 

淡い橙色の光をまとい、細い体と長い尾がしなやかに揺れる。

その竜は、女性的で優しい声で言った。

 

「烈火、はじめまして。私は柳(やなぎ)。あなたの力の一部ですよ」

 

烈火はぽかんとしたまま、しばらく動けなかった。

けれど柳が小さく首を傾げると、不思議と怖さは消えていった。

 

「……お前、女の子なのか?」

 

柳は嬉しそうに尾を揺らした。

 

「ええ。そう思ってくれて構いませんよ」

 

その日から、柳は烈火のそばにいるようになった。

 

 

小学校に上がった頃、烈火は忍者アニメにどハマりした。

 

学校で友達が話していたのをきっかけに、家で何気なく観たそのアニメに、烈火は一瞬で心を奪われた。

 

「柳!見たか!?この火遁!俺もこういうの使えるようになりてぇ!」

 

柳はくすりと笑い、烈火の頭を軽く撫でた。

 

「烈火の個性が十全に使えるようになれば、このアニメの忍術の再現もできるでしょう」

 

烈火の目が一気に輝く。

 

「マジか!」

 

柳は少し意地悪そうに微笑む。

 

「ええ。その為には――身体も鍛えて、勉強もしっかりやらないとね?」

 

烈火はむっとした顔で言い返す。

 

「鍛えるのはわかるけど、勉強って……」

 

柳は優しく、しかしはっきりと言った。

 

「烈火が再現したい“忍術”は、ただの炎ではありません。

 “技”として成立させるには、理屈と理解が必要なんです」

 

烈火はしばらく黙り、アニメの主人公が技を放つ姿を思い出した。

 

「……そういうもんなのか」

 

柳は微笑んだ。

 

「そういうものです。でも、烈火ならできますよ」

 

烈火は照れ隠しのようにそっぽを向いた。

 

「……やってやるよ。忍術、使えるようになりてぇし」

 

柳は嬉しそうに尾を揺らした。

 

 

それから烈火は、毎日のように庭で鍛錬をするようになった。

 

最初はただアニメの構えを真似しているだけだったが、柳はいつの間にか“本格的な指導”を始めていた。

 

烈火が地面に足を開き、両手を前に構える。

 

「どうだ柳!この構え、かっこよくねぇか?」

 

柳はふわりと浮かび、烈火の前に降り立つ。

 

「烈火。まず――想像しなさい」

 

「……想像?」

 

柳の声はいつになく真剣だった。

 

「どのような状況でその構えをとっている?

 相手はどんなヴィランだ?

 仲間はどこにいる?

 守るべき者は何か?

 時間はどちらの味方だ?」

 

烈火は一瞬、言葉を失った。

 

柳は烈火の手首にそっと触れ、構えを少しだけ直す。

 

「構えは“かっこいいから”するものではありません。

 状況を読み、最適な形を選ぶためのものです」

 

烈火はごくりと喉を鳴らした。

 

「……そんなことまで考えんのかよ」

 

「ええ。烈火が“技”として扱いたいなら、必要なことです」

 

烈火は鼻を鳴らし、再び構えを取った。

 

「……よし、もう一回だ」

 

柳は嬉しそうに尾を揺らした。

 

 

夏休みの自由研究も、当然のように忍者だった。

 

「柳、今年は“火遁の歴史”にするわ」

 

「いいですね。資料は図書館にもありますし、私も少し手伝いますよ」

 

柳は尾を揺らしながら、烈火の横で資料を覗き込む。

 

「ここ、江戸時代の火術の記述が抜けています。

 あと、この呼吸法は現代の方が研究が進んでいますね」

 

「マジか。じゃあ書き直すか」

 

提出した自由研究を見た担任は、苦笑しながら言った。

 

「花菱、また忍者か……。でも内容は妙に本格的だな」

 

烈火は胸を張った。

 

「当たり前だろ。俺は忍術を再現すんだよ」

 

柳はその横で、誇らしげに微笑んでいた。

 

 

そんな日々の中で、柳は烈火の成長に合わせるように、いつの間にか大きくなっていった。

 

烈火が肩に乗せる感覚はずっと変わらない。

抱き上げるときの重さも、腕に収まる感触も、幼い頃からずっと同じだ。

 

だから烈火は気づかない。

 

ただ、ある日ふと机の上に柳を乗せたとき――

柳の尾が机の端に届きそうになっていて、烈火は思わず首を傾げた。

 

「……あれ?柳、こんな大きかったっけ?」

 

柳は微笑んだ。

 

「烈火が大きくなっているんですよ」

 

「そうか?」

 

「そうです」

 

「なんで?」

 

「あなたの“個性”ですから」

 

烈火は「ふーん……」と曖昧に返した。

 

 

ある日の帰り道。

烈火は柳を肩に乗せたまま、商店街を歩いていた。

 

夕方の人通りは多く、子ども連れの家族や買い物帰りの人たちで賑わっている。

 

そのとき――

爆音 が響いた。

 

「きゃああああっ!」

「ヴィランだ!逃げろ!」

 

人々が一斉に散り始める。

烈火は反射的に足を止めた。

 

煙の向こうから、巨大な腕を持つヴィランが暴れている。

 

烈火が息を呑んだ瞬間、

飛んできた破片が烈火の方へ向かってきた。

 

「烈火、伏せて!」

 

柳が烈火の身体を押し倒す。

破片がすぐ横の壁に突き刺さった。

 

烈火は震えながら呟く。

 

「……俺……死ぬとこだった……?」

 

柳は静かに言う。

 

「烈火。これが“本物の戦い”です。

 あなたはまだ、戦える段階ではありません」

 

烈火は悔しそうに唇を噛んだ。

 

「……俺、弱ぇ……」

 

その瞬間――

風が裂けた。

 

ヒュッ――!

 

何かが高速で通り抜け、ヴィランの腕が一瞬で縛り上げられた。

 

烈火は目を見開いた。

 

「……え? な、なにあれ……

 忍者……?」

 

紙のように薄い身体が、風のように動く。

逃げ遅れた子どもを背中で庇いながら、

ヴィランの攻撃をひらりとかわす。

 

柳が静かに言う。

 

「“ヒーロー・エッジショット”です。

 忍者のような動きを得意とするプロヒーローですよ」

 

烈火は息を呑んだまま、

その姿から目を離せなかった。

 

「……ヒーロー……?

 あんな動き、できんのかよ……」

 

柳は小さく頷く。

 

「はい。あれが“本物の戦い”です」

 

エッジショットが技を放つ。

 

「忍法・千枚折り!」

 

ヴィランが倒れ、周囲から拍手が起きた。

 

烈火は拳を握りしめる。

 

「……すげぇ……

 アニメの忍者より……ずっと……」

 

柳は優しく言った。

 

「烈火。あなたが目指すなら、あの領域にも届きますよ」

 

 

その夜。

烈火はスマホを握りしめ、柳を机の上に乗せたまま検索していた。

 

「……ヒーローって、どうやってなるんだ?」

 

検索欄に打ち込む。

 

『ヒーロー なるには』

 

いくつもの学校名が並ぶ中、ひときわ目立つ文字があった。

 

『雄英高校 ヒーロー科』

 

烈火はスクロールしながら呟く。

 

「……雄英?なんか聞いたことあるような……」

 

柳が言う。

 

「烈火。少し下を見てください」

 

烈火はスクロールする。

 

『雄英体育祭 歴代名場面』

 

烈火の目が見開かれた。

 

「……これ……テレビでやってた雄英体育祭って……」

 

柳は微笑む。

 

「はい。その雄英ですよ」

 

烈火は息を呑んだ。

 

巨大なスタジアムで戦う学生たち。

プロ顔負けの技。

観客の歓声。

 

烈火は拳を握りしめた。

 

「……柳。俺……

 あそこ、行きてぇ」

 

柳は烈火の横顔を見つめ、

ふわりと肩に降り立った。

 

その声は、いつもの優しさの奥に

“確信”と“覚悟”が宿っていた。

 

「烈火なら行けます。

 ――いえ、行かせます。

 私が、あなたを雄英へ届くようにします」

 

烈火は驚いたように柳を見る。

 

柳は微笑んだまま、

しかしその瞳は揺らぎなく真っ直ぐだった。

 

「烈火。あなたは必ず強くなれます。

 だから、私が導きます」

 

烈火の胸が熱くなる。

 

「……柳。頼む。

 一緒に行こうな」

 

柳は嬉しそうに尾を揺らした。

 

「はい。烈火の道は、ここから始まります」

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