ヒロアカ世界の烈火に八竜率いた柳が個性として宿った話 作:琴銀河
烈火の部屋に、静かな夜気が流れていた。
机の上には、雄英高校から届いた小さな箱。
その存在感だけで胸がざわつく。
烈火は深呼吸を一つして、柳を見る。
「……開封したら、もう戻れない、なんてのは無しだよな」
柳は炎の尾をゆるく揺らしながら微笑む。
「烈火。あなたはもう覚悟を決めていますよ」
烈火は頷き、箱の封を開けた。
中から、銀色の小さな装置がコロリと転がり出た。
「……なんだこれ?」
柳が装置を覗き込む。
「投影装置ですよ。何もない空間に映像を映し出すものです。
以前テレビで特集されていたでしょう?」
烈火は眉をひそめる。
「覚えてねぇな……」
柳はため息をつく。
「まったくもう……興味のないことはまったく覚えようとしないのは悪い癖ですよ?」
烈火は肩をすくめて、少し照れたように笑う。
「……まぁまぁ……柳が教えてくれるだろう? 今みたいにさ」
柳は一瞬だけ呆れたように目を細める。
「烈火は本当に……人任せなんですから」
烈火は軽く笑う。
「頼りにしてるってことだよ」
柳は炎の尾をゆるく揺らしながら、
結局は受け入れるように小さく息をついた。
「……まったくもう……仕方ありませんね。
烈火の面倒を見るのは、私の役目ですから」
烈火は少しだけ嬉しそうに頷いた。
「助かるわ、ほんと」
柳は微笑む。
「では、しっかり学んでくださいね。烈火」
烈火は装置の中央にある小さなボタンへ指を伸ばした。
「……いくぞ」
指が触れた瞬間、
投影装置が青白い光を放ち、空中に薄い膜のような映像が広がった。
光が収束し、画面が鮮明になったその瞬間――
ドンッ!!
爆発音のような勢いで、画面いっぱいに金髪が飛び出した。
「私が投影された!!」
烈火は反射的にのけぞった。
「うわっ!? オールマイト!? なんで合格通知にオールマイトが出てくんだよ!!
ていうか近い近い近い!!」
柳も少し驚いたように目を瞬かせる。
「烈火、これは……本物のオールマイトの映像ですね」
烈火の疑問に、
まるでタイミングを合わせたかのように映像の中のオールマイトが胸を張った。
「なぜこの合格通知に私がいるかって?」
烈火は固まる。
「それは来年度から、私が雄英高校の新任教師として赴任するからだ!!」
烈火は目を見開いた。
「教師!? オールマイトが!? いやいやいや……聞いてねぇぞそんな話!」
柳は静かに頷く。
「烈火、これは本当のようですね」
◇
オールマイトは指を一本立てた。
「まずは試験開始直後!
君は個性を使わず、かんしゃく玉と投擲武器のみで三ポイントロボへ接敵した!」
烈火は息を呑む。
「爆発のタイミングを正確に合わせ、
投擲武器の軌道を読み切り、
個性無しで複数のロボを撃破した!
これは基礎戦闘力の高さを示す、非常に優れた行動だ!」
柳が小さく頷く。
「烈火。あれは見事な判断でしたよ」
◇
オールマイトは二本目の指を立てた。
「次に、中盤の戦闘だ!
君は投擲武器の残数を常に把握し、
炎龍の補助を最小限に抑えながら、
限られた手札で最大効率の撃破を実現していた!!」
烈火は柳を見る。
柳は炎の尾を揺らしながら微笑む。
「烈火は無駄を嫌いますからね」
◇
オールマイトは三本目の指を立てた。
「そして終盤!
君はついに個性“炎龍”を解禁した!!」
烈火は息を止める。
「炎の形状変化、機動補助、攻撃補助、
そして投擲武器との複合運用!
炎龍を戦闘全体を支える“戦術装置”として使いこなしていた!!」
柳は静かに微笑む。
「烈火。あなたの炎は、ただ燃えるだけではありませんよ」
◇
オールマイトの表情が少し柔らかくなる。
「そして最後に――救助ポイントだ!」
烈火は息を呑む。
オールマイトは腕を組み、
教師としての顔で語り始めた。
「まず、救助ポイントとは何か!
これは、試験中に“他者を救うために行動したかどうか”を評価するためのポイントだ!」
烈火は目を見開く。
「雄英の入試はね、戦闘力だけを測る試験じゃない!
ヒーローに必要なのは、敵を倒す力だけではないからだ!」
柳が小さく頷く。
「試験中、君たち受験生には救助ポイントの存在は説明されていなかった!
なぜか? それは――」
オールマイトは烈火へ向けて指を突き出した。
「本当に困っている人を見た時、
“説明されたから助ける”のではなく、
“助けたいから助ける”者を見極めるためだ!!」
烈火の胸が熱くなる。
「君は、危険に晒された受験生を迷わず救助した!
ゼロポイントが迫る中、自分が危険になる可能性が高い状況でも、
君はためらわなかった!」
烈火は拳を握る。
「雄英高校は、“戦える者”だけを求めているわけではない!
救けたいと思う心を持つ者こそ、真のヒーロー候補だ!!
君はそれを示した!!」
オールマイトは烈火へ向けて、
まるで太陽のような笑顔を向けた。
「花菱烈火君――君は合格だ!!」
烈火は息を呑む。
柳がそっと烈火の肩に触れた。
◇
オールマイトは胸を張り、親指を突き出した。
「さて、合格通知はしたが――
君に話しておきたいという先生がおられてね!
ここから先は、その先生の出番だ!」
そして勢いよく続ける。
「ここ、雄英高校!
キミのヒーローアカデミアでボクと握手!
待っているぞ! 花菱少年!」
映像が光を弾けさせるようにしてフェードアウトした。
◇
柔らかい光の中に、小柄な老婦人が映し出された。
白髪をまとめ、杖をついた姿。
どこか懐かしい、町医者のおばあちゃんのような雰囲気。
「花菱烈火君。
あんたには入学式後に、居残りで私の指導を受けてもらうよ。
悪いけどねぇ、これは強制でね。拒否権は無いよ」
烈火は息を呑む。
リカバリーガールは続ける。
「あんたが治癒能力を持っている以上、
その利便性と有効性、そして――何より危険性を、
きちんと教えねばならないからね」
声は柔らかいのに、長年人を救ってきた者の重みがあった。
「人を助けるのがヒーローってんならねぇ……」
杖の先がコツンと床を叩く。
「世の中にはね、病気で子を亡くして泣く親がいたり、
事故で大事な人を突然失ったり、
事件に巻き込まれて、どうにもならない別れを迎えた人がいるんだよ。
そばにいたのに、何もできずに見送るしかなかった人もねぇ……
あれはね、胸の奥がぎゅっと痛む、つらい別れなんだよ」
烈火は息を呑む。
リカバリーガールは、静かに頷いた。
「だからね、私ら医者ってのは、
そんな理不尽に 歯ぁ食いしばって立ちふさがるんだよ。
“そんなこと、認めるもんか”ってね。
病気だろうが怪我だろうが、突然襲いかかる不幸だろうが――
叩きのめして、命を守るんだよ。
それが私らの仕事であり、誇りであり、ヒーローの在り方なんだよ」
烈火は目を見開いた。
(……医者も、ヒーロー……)
リカバリーガールは烈火をまっすぐ見つめる。
「そしてね、烈火君。
あんたには、もっと多くの人を救える力が眠ってる。
ヒーローになりたいってんなら――」
杖の先がコツン。
「生きてる限り、学び続ける覚悟がいるんだよ。
知識も技術も、命を守るための大事な道具だ。
力を持つ者はねぇ、それを正しく使う責任があるんだよ」
最後に、少しだけ柔らかい笑み。
「ここが、あんたのヒーローアカデミアだよ。
しっかり学んでおくれ。
良きヒーローになってくれることを、私は心から願ってるよ。」
映像が静かに消えた。
◇
烈火はしばらく動けなかった。
胸の奥に残った言葉が、炎のように静かに燃えていた。
柳がそっと声をかける。
「烈火。あなたは、きっと……救える人になりますよ」
烈火はゆっくりと頷いた。
(……雄英で、学ぶんだ。
俺の炎で、誰かを救えるように)