ヒロアカ世界の烈火に八竜率いた柳が個性として宿った話 作:琴銀河
合格通知が届いた翌日。
中学校の教室は雄英合格の話題で朝から騒がしかった。烈火は机に突っ伏しながら、騒ぎをやり過ごしていた。柳は烈火の後ろで静かに浮かび、炎の尾をゆるく揺らしている。
「烈火。騒がしいですね」
「……まぁ、合格発表の翌日だしな」
廊下から声が響いた。
「合格したー!」
麗日お茶子が教室へ入ってきた。
周囲の友達に「おめでとう!」と声をかけられながら、烈火の近くまで歩いてくる。
「花菱くんも受かったんだよね?
よかったね!」
烈火は軽くうなずく。
「まぁな。麗日もおめでとう」
柳が静かに言う。
「お茶子ちゃん、おめでとうございます。頑張りましたね」
「柳ちゃん、ありがと!」
◇
昼休み。
烈火は教室の隅でスマホを見つめていた。
画面には「雄英高校周辺 賃貸物件」の文字。
柳が覗き込む。
「烈火。下宿先を探しているのですか?」
「まぁな。通学時間長いと面倒だし……柳がいても問題ない場所がいい」
そこへお茶子が歩いてきた。
「花菱くん、何見てるの?」
烈火はスマホを少し隠す。
「……下宿探しだよ」
「そっか。雄英遠いもんね。
私も探さないと……花菱くんはどんなところにするつもりなの?」
烈火は画面をスクロールしながら答える。
「家賃補助があるとはいえ、全部タダになるとはいかないからな。
柳がいても問題なくて、通いやすくて……家賃も現実的な範囲のところだ」
お茶子はうなずく。
「なるほどねぇ……そういうの考えないといけないんだ」
烈火はスマホを閉じて言った。
「下宿探しもいいが……
コスチューム申請とかは済ませたのか?」
お茶子は「あっ」と声を上げた。
「忘れてた!
……花菱くん、ちょっと手伝ってくれないかなぁ」
烈火は額を押さえる。
「……お前なぁ」
◇
お茶子のクラス。
烈火は申請書を持って移動してきた。
お茶子は机を広げて待っている。
「花菱くんはどんなコスチュームを申請するの?」
烈火は即答する。
「俺?忍び装束」
「あ、やっぱりそうなんだ」
烈火はペンを指先で回しながら説明モードに入る。
「まず軽量で動きやすいことが絶対条件だ。忍びは初動が命だからな。
それに柳の炎が触れても燃えない耐熱素材。炎龍の尾がかすっただけで焦げるようじゃ連携にならない」
柳が補足する。
「烈火と私の距離は近いですからね。耐熱性は必須です」
烈火は申請書の余白に図を描き始めた。
「投擲武器の収納は腰と太もも。
手裏剣、苦無、煙玉、かんしゃく玉……状況に応じて使い分ける。
取り出すまでの動作が最短であることが重要だ」
お茶子は首をかしげる。
「かんしゃく玉って、衝撃与えるとパン!ってなるやつ?」
「そういうやつだ。音と光で一瞬の隙を作るための道具だな。
炎術の初動にも使えるし、柳との連携でも役に立つ」
柳が頷く。
「烈火のかんしゃく玉は私の炎と干渉しません。安全性も問題ありません」
烈火は続ける。
「今までは手製の手裏剣を使っていたが、アパートに住むとなると鉄板から切り抜いて研ぐなんて真似は出来ない。
授業も難しくなるだろうし鍛錬の時間も可能な限り長く取りたい。
コスチューム会社に頼めば素材の質も均一になるし、重量も揃えられる。投擲の精度が安定するんだ」
お茶子はぽかんとした。
「……うわー、なんか早口になった……」
柳が楽しそうに言う。
「烈火は好きなことになると饒舌になりますからね」
烈火は咳払いする。
「……適当に決めるわけにはいかないんだからしゃあないだろ。
……まぁ今は麗日のコスチュームの話だ。
適当で良いんじゃね?
合わなければ変えることも可能なんだし、
最初は好きなヒーローをリスペクトしたコスチュームでいいんじゃないか?
麗日、好きなヒーローって誰かいる?」
「一瞬で前言を翻した!」
お茶子は思わず突っ込んでから答えた。
「私、13号が好き!」
「13号?」
柳が即座に説明する。
「スペースヒーロー13号ですね。
どんなものでも吸い込んでチリにしてしまう個性“ブラックホール”で、
災害救助に特化した紳士的なヒーローです」
烈火は驚く。
「なんでそんなに知ってるんだ?」
柳は烈火のスマホを指す。
「烈火。あなたのスマホは情報収集に便利なんですよ」
烈火は固まる。
「え?お前俺のスマホ使ってんの?」
お茶子も驚く。
「え?柳ちゃんスマホ使えるの?」
柳は当然のように頷く。
「使えますよ。烈火が寝ている間にニュースを読んでいます」
烈火は文句を言うが柳はどこ吹く風。
「勝手に使うなよ……!」
「烈火のためです」
お茶子は笑った。
「柳ちゃん便利だねぇ」
烈火はため息をつく。
「……まぁ助かってるけどよ」
烈火はスマホで13号の画像を確認する。
「……宇宙服か。ここまでガチな奴だと動きにくそうだな」
お茶子が覗き込む。
「そうなの?」
「宇宙服って気密性とか耐圧とか優先してるからな。
救助向けとしては理にかなってるけど、動きやすさは犠牲になってる」
柳が補足する。
「安全性を重視した装備なのでしょう」
烈火はスマホを閉じる。
「でも、コスチュームは“ぽくする”だけなら十分可能だろ。
動きやすさ重視で宇宙服っぽくして、って頼めば
コスチューム会社がうまく調整してくれるはずだ。
相手はプロなんだし」
お茶子は安心したように笑った。
「そっかぁ……じゃあ、13号っぽい雰囲気で、でも動きやすい救助向けのコスチュームって感じでいいんだね」
烈火はうなずく。
「救助ヒーローを目指すなら、軽量で反動軽減の装備は必須だし……
ああ、でも13号の名前は出さない方が良いかと思うぞ。
13号で宇宙服、ってなると結局アレになる。多少動きやすくしたって動きにくい事には変わらないだろう。
あとはプロのデザイナーが最適化してくれる」
柳も頷く。
「あなたの個性に合わせて調整してくれますよ」
お茶子は申請書を持ち直す。
「じゃあその方向で書いてみるね!」
烈火はペンを取りながら言った。
「……よし、続けるか」
◇
放課後。
昇降口で靴を履き替えている烈火のところへ、お茶子が駆け寄ってきた。
「花菱くん、昨日の物件の話なんだけどね!」
烈火はスマホを閉じる。
「……どうした?」
お茶子は少し息を整えてから言った。
「とりあえず、あの辺りの物件を希望してるってお父ちゃんたちに言ったの。
そしたら“今度の休みに見に行く”って言われて……
だから、まずは家族で内見してくるね!」
烈火はうなずく。
「それが普通だろ。
家賃補助があるとはいえ、全部タダになるとはいかないからな。
親が確認したほうが安心だ」
お茶子は苦笑する。
「だよねぇ……。
でも、花菱くんが見てた物件、ほんとに良さそうだったから……
あの辺りで決まるといいなぁ」
烈火は肩をすくめる。
「まぁ、決まったら教えてくれ。
通学ルートとかも考えないといけないしな」
「うん!
見に行ってきたら、また報告するね!」
◇
数日後。
昼休み、お茶子が烈火の机に駆け寄ってきた。
「花菱くん!
見に行ってきたよ!ここに決まった!」
烈火は顔を上げる。
「なら良かったじゃないか。
通学も楽になるだろ」
お茶子は嬉しそうに笑う。
「うん!
管理人さんも優しかったし、駅からも近いし……
これで安心して雄英に通えるよ!」
柳も炎の尾を揺らしながら言う。
「お茶子ちゃんにとって、最適な環境だと思いますよ」
◇
その日の放課後。
烈火は机の上に広げた封筒を見ていた。
「……入学書類か」
柳が覗き込む。
「提出期限が近いですね」
「住民票の写し……下宿するなら必要だな。
健康診断書も……中学のやつでいいのか?」
柳は淡々と答える。
「雄英の案内には“中学のものを提出してください”とあります」
烈火は書類をまとめながら言った。
「麗日も書類で手間取ってそうだな……」
◇
翌日。
お茶子が書類の束を抱えて烈火の机に来た。
「花菱くん……これ、全部書くの?」
烈火はため息をつく。
「当たり前だろ。
入学式までに提出しないと困るのはお前だぞ」
「うぅ……がんばる……」
柳が補足する。
「緊急連絡先の欄はご家族に確認したほうがいいですよ
家なのか携帯電話なのか、会社にという可能性もありますよ」
「そうだね……帰ったら聞いてみる!」
◇
帰り道。
烈火はスマホで地図を見ながら言った。
「通学ルート、確認しておくか。
麗日の下宿先からだと……このルートが一番早いな」
「ほんと?
迷わないかなぁ……」
「迷うなよ」
「がんばる!」
◇
烈火は自宅で段ボールを開けた。
中には雄英のブレザーとスラックス。
「……届いたか、これが雄英の制服か……」
羽織ってみると憧れた雄英高校に入れるのだという思いと
ようやくスタート地点に立ったのだという思いがないまぜになる。
柳が烈火を見上げて言う。
「サイズは問題なさそうですね」
「おう」
烈火は制服を丁寧に畳み、東京へ持っていく荷物に入れた。
◇
入学式前日。
烈火は東京の新しい下宿先で段ボールを開けていた。
柳は部屋の天井近くをゆるく漂いながら、炎の尾を揺らしている。
「烈火。荷物はあと少しですね」
「……ああ。生活用品は最低限でいいしな」
机の上には雄英から届いた入学書類一式。
烈火はそれを確認しながら、制服のジャケットをハンガーにかけた。
スマホが震える。
画面には「麗日お茶子」の名前。
『花菱くん!
今日、下宿に入ったよ!
荷物まだ片付いてないけど……なんとか住めそう!』
烈火は短く返信する。
『そうか。無事に入れたならいい』
柳が覗き込む。
「お茶子ちゃんも落ち着いたようですね」
烈火は書類をまとめながら言った。
「……まぁ、明日から本番だしな」
スマホがもう一度震える。
『書類も全部出したし、制服も準備したし……
あとは入学式だけだね!』
烈火は少し照れたように視線をそらしながら、短く返した。
『ああ、そうだな』
柳が静かに言う。
「いよいよですね、烈火」
烈火は深く息を吸った。
「……行くぞ、柳。
雄英に」
炎龍は小さく頷いた。
「ええ。あなたの道が始まります」
2026/07/03 19:54 誤字修正しました。誤字報告ありがとうございます。