ヒロアカ世界の烈火に八竜率いた柳が個性として宿った話   作:琴銀河

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第八話 入学前のあれこれ

合格通知が届いた翌日。

中学校の教室は雄英合格の話題で朝から騒がしかった。烈火は机に突っ伏しながら、騒ぎをやり過ごしていた。柳は烈火の後ろで静かに浮かび、炎の尾をゆるく揺らしている。

 

「烈火。騒がしいですね」

 

「……まぁ、合格発表の翌日だしな」

 

廊下から声が響いた。

 

「合格したー!」

 

麗日お茶子が教室へ入ってきた。

周囲の友達に「おめでとう!」と声をかけられながら、烈火の近くまで歩いてくる。

 

「花菱くんも受かったんだよね?

 よかったね!」

 

烈火は軽くうなずく。

 

「まぁな。麗日もおめでとう」

 

柳が静かに言う。

 

「お茶子ちゃん、おめでとうございます。頑張りましたね」

 

「柳ちゃん、ありがと!」

 

◇

 

昼休み。

烈火は教室の隅でスマホを見つめていた。

画面には「雄英高校周辺 賃貸物件」の文字。

 

柳が覗き込む。

 

「烈火。下宿先を探しているのですか?」

 

「まぁな。通学時間長いと面倒だし……柳がいても問題ない場所がいい」

 

そこへお茶子が歩いてきた。

 

「花菱くん、何見てるの?」

 

烈火はスマホを少し隠す。

 

「……下宿探しだよ」

 

「そっか。雄英遠いもんね。

 私も探さないと……花菱くんはどんなところにするつもりなの?」

 

烈火は画面をスクロールしながら答える。

 

「家賃補助があるとはいえ、全部タダになるとはいかないからな。

 柳がいても問題なくて、通いやすくて……家賃も現実的な範囲のところだ」

 

お茶子はうなずく。

 

「なるほどねぇ……そういうの考えないといけないんだ」

 

烈火はスマホを閉じて言った。

 

「下宿探しもいいが……

 コスチューム申請とかは済ませたのか?」

 

お茶子は「あっ」と声を上げた。

 

「忘れてた!

 ……花菱くん、ちょっと手伝ってくれないかなぁ」

 

烈火は額を押さえる。

 

「……お前なぁ」

 

◇

 

お茶子のクラス。

烈火は申請書を持って移動してきた。

お茶子は机を広げて待っている。

 

「花菱くんはどんなコスチュームを申請するの?」

 

烈火は即答する。

 

「俺?忍び装束」

 

「あ、やっぱりそうなんだ」

 

烈火はペンを指先で回しながら説明モードに入る。

 

「まず軽量で動きやすいことが絶対条件だ。忍びは初動が命だからな。

 それに柳の炎が触れても燃えない耐熱素材。炎龍の尾がかすっただけで焦げるようじゃ連携にならない」

 

柳が補足する。

 

「烈火と私の距離は近いですからね。耐熱性は必須です」

 

烈火は申請書の余白に図を描き始めた。

 

「投擲武器の収納は腰と太もも。

 手裏剣、苦無、煙玉、かんしゃく玉……状況に応じて使い分ける。

 取り出すまでの動作が最短であることが重要だ」

 

お茶子は首をかしげる。

 

「かんしゃく玉って、衝撃与えるとパン!ってなるやつ?」

 

「そういうやつだ。音と光で一瞬の隙を作るための道具だな。

 炎術の初動にも使えるし、柳との連携でも役に立つ」

 

柳が頷く。

 

「烈火のかんしゃく玉は私の炎と干渉しません。安全性も問題ありません」

 

烈火は続ける。

 

「今までは手製の手裏剣を使っていたが、アパートに住むとなると鉄板から切り抜いて研ぐなんて真似は出来ない。

 授業も難しくなるだろうし鍛錬の時間も可能な限り長く取りたい。

 コスチューム会社に頼めば素材の質も均一になるし、重量も揃えられる。投擲の精度が安定するんだ」

 

お茶子はぽかんとした。

 

「……うわー、なんか早口になった……」

 

柳が楽しそうに言う。

 

「烈火は好きなことになると饒舌になりますからね」

 

烈火は咳払いする。

 

「……適当に決めるわけにはいかないんだからしゃあないだろ。

 ……まぁ今は麗日のコスチュームの話だ。

 適当で良いんじゃね?

 合わなければ変えることも可能なんだし、

 最初は好きなヒーローをリスペクトしたコスチュームでいいんじゃないか?

 麗日、好きなヒーローって誰かいる?」

 

「一瞬で前言を翻した!」

 

お茶子は思わず突っ込んでから答えた。

 

「私、13号が好き!」

 

「13号?」

 

柳が即座に説明する。

 

「スペースヒーロー13号ですね。

 どんなものでも吸い込んでチリにしてしまう個性“ブラックホール”で、

 災害救助に特化した紳士的なヒーローです」

 

烈火は驚く。

 

「なんでそんなに知ってるんだ?」

 

柳は烈火のスマホを指す。

 

「烈火。あなたのスマホは情報収集に便利なんですよ」

 

烈火は固まる。

 

「え?お前俺のスマホ使ってんの?」

 

お茶子も驚く。

 

「え?柳ちゃんスマホ使えるの?」

 

柳は当然のように頷く。

 

「使えますよ。烈火が寝ている間にニュースを読んでいます」

 

烈火は文句を言うが柳はどこ吹く風。

 

「勝手に使うなよ……!」

 

「烈火のためです」

 

お茶子は笑った。

 

「柳ちゃん便利だねぇ」

 

烈火はため息をつく。

 

「……まぁ助かってるけどよ」

 

烈火はスマホで13号の画像を確認する。

 

「……宇宙服か。ここまでガチな奴だと動きにくそうだな」

 

お茶子が覗き込む。

 

「そうなの?」

 

「宇宙服って気密性とか耐圧とか優先してるからな。

 救助向けとしては理にかなってるけど、動きやすさは犠牲になってる」

 

柳が補足する。

 

「安全性を重視した装備なのでしょう」

 

烈火はスマホを閉じる。

 

「でも、コスチュームは“ぽくする”だけなら十分可能だろ。

 動きやすさ重視で宇宙服っぽくして、って頼めば

 コスチューム会社がうまく調整してくれるはずだ。

 相手はプロなんだし」

 

お茶子は安心したように笑った。

 

「そっかぁ……じゃあ、13号っぽい雰囲気で、でも動きやすい救助向けのコスチュームって感じでいいんだね」

 

烈火はうなずく。

 

「救助ヒーローを目指すなら、軽量で反動軽減の装備は必須だし……

 ああ、でも13号の名前は出さない方が良いかと思うぞ。

 13号で宇宙服、ってなると結局アレになる。多少動きやすくしたって動きにくい事には変わらないだろう。

 あとはプロのデザイナーが最適化してくれる」

 

柳も頷く。

 

「あなたの個性に合わせて調整してくれますよ」

 

お茶子は申請書を持ち直す。

 

「じゃあその方向で書いてみるね!」

 

烈火はペンを取りながら言った。

 

「……よし、続けるか」

 

◇

 

放課後。

 

昇降口で靴を履き替えている烈火のところへ、お茶子が駆け寄ってきた。

 

「花菱くん、昨日の物件の話なんだけどね!」

 

烈火はスマホを閉じる。

 

「……どうした?」

 

お茶子は少し息を整えてから言った。

 

「とりあえず、あの辺りの物件を希望してるってお父ちゃんたちに言ったの。

 そしたら“今度の休みに見に行く”って言われて……

 だから、まずは家族で内見してくるね!」

 

烈火はうなずく。

 

「それが普通だろ。

 家賃補助があるとはいえ、全部タダになるとはいかないからな。

 親が確認したほうが安心だ」

 

お茶子は苦笑する。

 

「だよねぇ……。

 でも、花菱くんが見てた物件、ほんとに良さそうだったから……

 あの辺りで決まるといいなぁ」

 

烈火は肩をすくめる。

 

「まぁ、決まったら教えてくれ。

 通学ルートとかも考えないといけないしな」

 

「うん!

 見に行ってきたら、また報告するね!」

 

◇

 

数日後。

昼休み、お茶子が烈火の机に駆け寄ってきた。

 

「花菱くん!

 見に行ってきたよ!ここに決まった!」

 

烈火は顔を上げる。

 

「なら良かったじゃないか。

 通学も楽になるだろ」

 

お茶子は嬉しそうに笑う。

 

「うん!

 管理人さんも優しかったし、駅からも近いし……

 これで安心して雄英に通えるよ!」

 

柳も炎の尾を揺らしながら言う。

 

「お茶子ちゃんにとって、最適な環境だと思いますよ」

 

◇

 

その日の放課後。

烈火は机の上に広げた封筒を見ていた。

 

「……入学書類か」

 

柳が覗き込む。

 

「提出期限が近いですね」

 

「住民票の写し……下宿するなら必要だな。

 健康診断書も……中学のやつでいいのか?」

 

柳は淡々と答える。

 

「雄英の案内には“中学のものを提出してください”とあります」

 

烈火は書類をまとめながら言った。

 

「麗日も書類で手間取ってそうだな……」

 

◇

 

翌日。

お茶子が書類の束を抱えて烈火の机に来た。

 

「花菱くん……これ、全部書くの?」

 

烈火はため息をつく。

 

「当たり前だろ。

 入学式までに提出しないと困るのはお前だぞ」

 

「うぅ……がんばる……」

 

柳が補足する。

 

「緊急連絡先の欄はご家族に確認したほうがいいですよ

 家なのか携帯電話なのか、会社にという可能性もありますよ」

 

「そうだね……帰ったら聞いてみる!」

 

◇

 

帰り道。

烈火はスマホで地図を見ながら言った。

 

「通学ルート、確認しておくか。

 麗日の下宿先からだと……このルートが一番早いな」

 

「ほんと?

 迷わないかなぁ……」

 

「迷うなよ」

 

「がんばる!」

 

◇

 

烈火は自宅で段ボールを開けた。

中には雄英のブレザーとスラックス。

 

「……届いたか、これが雄英の制服か……」

 

羽織ってみると憧れた雄英高校に入れるのだという思いと

ようやくスタート地点に立ったのだという思いがないまぜになる。

柳が烈火を見上げて言う。

 

「サイズは問題なさそうですね」

「おう」

 

烈火は制服を丁寧に畳み、東京へ持っていく荷物に入れた。

 

◇

 

入学式前日。

烈火は東京の新しい下宿先で段ボールを開けていた。

柳は部屋の天井近くをゆるく漂いながら、炎の尾を揺らしている。

 

「烈火。荷物はあと少しですね」

 

「……ああ。生活用品は最低限でいいしな」

 

机の上には雄英から届いた入学書類一式。

烈火はそれを確認しながら、制服のジャケットをハンガーにかけた。

 

スマホが震える。

画面には「麗日お茶子」の名前。

 

『花菱くん!

 今日、下宿に入ったよ!

 荷物まだ片付いてないけど……なんとか住めそう!』

 

烈火は短く返信する。

 

『そうか。無事に入れたならいい』

 

柳が覗き込む。

 

「お茶子ちゃんも落ち着いたようですね」

 

烈火は書類をまとめながら言った。

 

「……まぁ、明日から本番だしな」

 

スマホがもう一度震える。

 

『書類も全部出したし、制服も準備したし……

 あとは入学式だけだね!』

 

烈火は少し照れたように視線をそらしながら、短く返した。

 

『ああ、そうだな』

 

柳が静かに言う。

 

「いよいよですね、烈火」

 

烈火は深く息を吸った。

 

「……行くぞ、柳。

 雄英に」

 

炎龍は小さく頷いた。

 

「ええ。あなたの道が始まります」

 




2026/07/03 19:54 誤字修正しました。誤字報告ありがとうございます。
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