ヒロアカ世界の烈火に八竜率いた柳が個性として宿った話   作:琴銀河

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第八話 入学前のあれこれ

合格通知が届いた翌日。

中学校の教室は雄英合格の話題で朝から騒がしかった。烈火は机に突っ伏しながら、騒ぎをやり過ごしていた。柳は烈火の後ろで静かに浮かび、炎の尾をゆるく揺らしている。

 

「烈火。騒がしいですね」

 

「……まぁ、合格発表の翌日だしな」

 

廊下から声が響いた。

 

「合格したー!」

 

麗日お茶子が教室へ入ってきた。

周囲の友達に「おめでとう!」と声をかけられながら、烈火の近くまで歩いてくる。

 

「花菱くんも受かったんだよね?

 よかったね!」

 

烈火は軽くうなずく。

 

「まぁな。麗日もおめでとう」

 

柳が静かに言う。

 

「お茶子ちゃん、おめでとうございます。頑張りましたね」

 

「柳ちゃん、ありがと!」

 

 

昼休み。

烈火は教室の隅でスマホを見つめていた。

画面には「雄英高校周辺 賃貸物件」の文字。

 

柳が覗き込む。

 

「烈火。下宿先を探しているのですか?」

 

「まぁな。通学時間長いと面倒だし……柳がいても問題ない場所がいい」

 

そこへお茶子が歩いてきた。

 

「花菱くん、何見てるの?」

 

烈火はスマホを少し隠す。

 

「……下宿探しだよ」

 

「そっか。雄英遠いもんね。

 私も探さないと……花菱くんはどんなところにするつもりなの?」

 

烈火は画面をスクロールしながら答える。

 

「家賃補助があるとはいえ、全部タダになるとはいかないからな。

 柳がいても問題なくて、通いやすくて……家賃も現実的な範囲のところだ」

 

お茶子はうなずく。

 

「なるほどねぇ……そういうの考えないといけないんだ」

 

烈火はスマホを閉じて言った。

 

「下宿探しもいいが……

 コスチューム申請とかは済ませたのか?」

 

お茶子は「あっ」と声を上げた。

 

「忘れてた!

 ……花菱くん、ちょっと手伝ってくれないかなぁ」

 

烈火は額を押さえる。

 

「……お前なぁ」

 

 

お茶子のクラス。

烈火は申請書を持って移動してきた。

お茶子は机を広げて待っている。

 

「花菱くんはどんなコスチュームを申請するの?」

 

烈火は即答する。

 

「俺?忍び装束」

 

「あ、やっぱりそうなんだ」

 

烈火はペンを指先で回しながら説明モードに入る。

 

「まず軽量で動きやすいことが絶対条件だ。忍びは初動が命だからな。

 それに柳の炎が触れても燃えない耐熱素材。炎龍の尾がかすっただけで焦げるようじゃ連携にならない」

 

柳が補足する。

 

「烈火と私の距離は近いですからね。耐熱性は必須です」

 

烈火は申請書の余白に図を描き始めた。

 

「投擲武器の収納は腰と太もも。

 手裏剣、苦無、煙玉、かんしゃく玉……状況に応じて使い分ける。

 取り出すまでの動作が最短であることが重要だ」

 

お茶子は首をかしげる。

 

「かんしゃく玉って、衝撃与えるとパン!ってなるやつ?」

 

「そういうやつだ。音と光で一瞬の隙を作るための道具だな。

 炎術の初動にも使えるし、柳との連携でも役に立つ」

 

柳が頷く。

 

「烈火のかんしゃく玉は私の炎と干渉しません。安全性も問題ありません」

 

烈火は続ける。

 

「今までは手製の手裏剣を使っていたが、アパートに住むとなると鉄板から切り抜いて研ぐなんて真似は出来ない。

 授業も難しくなるだろうし鍛錬の時間も可能な限り長く取りたい。

 コスチューム会社に頼めば素材の質も均一になるし、重量も揃えられる。投擲の精度が安定するんだ」

 

お茶子はぽかんとした。

 

「……うわー、なんか早口になった……」

 

柳が楽しそうに言う。

 

「烈火は好きなことになると饒舌になりますからね」

 

烈火は咳払いする。

 

「……適当に決めるわけにはいかないんだからしゃあないだろ。

 ……まぁ今は麗日のコスチュームの話だ。

 適当で良いんじゃね?

 合わなければ変えることも可能なんだし、

 最初は好きなヒーローをリスペクトしたコスチュームでいいんじゃないか?

 麗日、好きなヒーローって誰かいる?」

 

「一瞬で前言を翻した!」

 

お茶子は思わず突っ込んでから答えた。

 

「私、13号が好き!」

 

「13号?」

 

柳が即座に説明する。

 

「スペースヒーロー13号ですね。

 どんなものでも吸い込んでチリにしてしまう個性“ブラックホール”で、

 災害救助に特化した紳士的なヒーローです」

 

烈火は驚く。

 

「なんでそんなに知ってるんだ?」

 

柳は烈火のスマホを指す。

 

「烈火。あなたのスマホは情報収集に便利なんですよ」

 

烈火は固まる。

 

「え?お前俺のスマホ使ってんの?」

 

お茶子も驚く。

 

「え?柳ちゃんスマホ使えるの?」

 

柳は当然のように頷く。

 

「使えますよ。烈火が寝ている間にニュースを読んでいます」

 

烈火は文句を言うが柳はどこ吹く風。

 

「勝手に使うなよ……!」

 

「烈火のためです」

 

お茶子は笑った。

 

「柳ちゃん便利だねぇ」

 

烈火はため息をつく。

 

「……まぁ助かってるけどよ」

 

烈火はスマホで13号の画像を確認する。

 

「……宇宙服か。ここまでガチな奴だと動きにくそうだな」

 

お茶子が覗き込む。

 

「そうなの?」

 

「宇宙服って気密性とか耐圧とか優先してるからな。

 救助向けとしては理にかなってるけど、動きやすさは犠牲になってる」

 

柳が補足する。

 

「安全性を重視した装備なのでしょう」

 

烈火はスマホを閉じる。

 

「でも、コスチュームは“ぽくする”だけなら十分可能だろ。

 動きやすさ重視で宇宙服っぽくして、って頼めば

 コスチューム会社がうまく調整してくれるはずだ。

 相手はプロなんだし」

 

お茶子は安心したように笑った。

 

「そっかぁ……じゃあ、13号っぽい雰囲気で、でも動きやすい救助向けのコスチュームって感じでいいんだね」

 

烈火はうなずく。

 

「救助ヒーローを目指すなら、軽量で反動軽減の装備は必須だし……

 ああ、でも13号の名前は出さない方が良いかと思うぞ。

 13号で宇宙服、ってなると結局アレになる。多少動きやすくしたって動きにくい事には変わらないだろう。

 あとはプロのデザイナーが最適化してくれる」

 

柳も頷く。

 

「あなたの個性に合わせて調整してくれますよ」

 

お茶子は申請書を持ち直す。

 

「じゃあその方向で書いてみるね!」

 

烈火はペンを取りながら言った。

 

「……よし、続けるか」

 

 

放課後。

 

昇降口で靴を履き替えている烈火のところへ、お茶子が駆け寄ってきた。

 

「花菱くん、昨日の物件の話なんだけどね!」

 

烈火はスマホを閉じる。

 

「……どうした?」

 

お茶子は少し息を整えてから言った。

 

「とりあえず、あの辺りの物件を希望してるってお父ちゃんたちに言ったの。

 そしたら“今度の休みに見に行く”って言われて……

 だから、まずは家族で内見してくるね!」

 

烈火はうなずく。

 

「それが普通だろ。

 家賃補助があるとはいえ、全部タダになるとはいかないからな。

 親が確認したほうが安心だ」

 

お茶子は苦笑する。

 

「だよねぇ……。

 でも、花菱くんが見てた物件、ほんとに良さそうだったから……

 あの辺りで決まるといいなぁ」

 

烈火は肩をすくめる。

 

「まぁ、決まったら教えてくれ。

 通学ルートとかも考えないといけないしな」

 

「うん!

 見に行ってきたら、また報告するね!」

 

 

数日後。

昼休み、お茶子が烈火の机に駆け寄ってきた。

 

「花菱くん!

 見に行ってきたよ!ここに決まった!」

 

烈火は顔を上げる。

 

「なら良かったじゃないか。

 通学も楽になるだろ」

 

お茶子は嬉しそうに笑う。

 

「うん!

 管理人さんも優しかったし、駅からも近いし……

 これで安心して雄英に通えるよ!」

 

柳も炎の尾を揺らしながら言う。

 

「お茶子ちゃんにとって、最適な環境だと思いますよ」

 

 

その日の放課後。

烈火は机の上に広げた封筒を見ていた。

 

「……入学書類か」

 

柳が覗き込む。

 

「提出期限が近いですね」

 

「住民票の写し……下宿するなら必要だな。

 健康診断書も……中学のやつでいいのか?」

 

柳は淡々と答える。

 

「雄英の案内には“中学のものを提出してください”とあります」

 

烈火は書類をまとめながら言った。

 

「麗日も書類で手間取ってそうだな……」

 

 

翌日。

お茶子が書類の束を抱えて烈火の机に来た。

 

「花菱くん……これ、全部書くの?」

 

烈火はため息をつく。

 

「当たり前だろ。

 入学式までに提出しないと困るのはお前だぞ」

 

「うぅ……がんばる……」

 

柳が補足する。

 

「緊急連絡先の欄はご家族に確認したほうがいいですよ

 家なのか携帯電話なのか、会社にという可能性もありますよ」

 

「そうだね……帰ったら聞いてみる!」

 

 

帰り道。

烈火はスマホで地図を見ながら言った。

 

「通学ルート、確認しておくか。

 麗日の下宿先からだと……このルートが一番早いな」

 

「ほんと?

 迷わないかなぁ……」

 

「迷うなよ」

 

「がんばる!」

 

 

烈火は自宅で段ボールを開けた。

中には雄英のブレザーとスラックス。

 

「……届いたか、これが雄英の制服か……」

 

羽織ってみると憧れた雄英高校に入れるのだという思いと

ようやくスタート地点に立ったのだという思いがないまぜになる。

柳が烈火を見上げて言う。

 

「サイズは問題なさそうですね」

「おう」

 

烈火は制服を丁寧に畳み、東京へ持っていく荷物に入れた。

 

 

入学式前日。

烈火は東京の新しい下宿先で段ボールを開けていた。

柳は部屋の天井近くをゆるく漂いながら、炎の尾を揺らしている。

 

「烈火。荷物はあと少しですね」

 

「……ああ。生活用品は最低限でいいしな」

 

机の上には雄英から届いた入学書類一式。

烈火はそれを確認しながら、制服のジャケットをハンガーにかけた。

 

スマホが震える。

画面には「麗日お茶子」の名前。

 

『花菱くん!

 今日、下宿に入ったよ!

 荷物まだ片付いてないけど……なんとか住めそう!』

 

烈火は短く返信する。

 

『そうか。無事に入れたならいい』

 

柳が覗き込む。

 

「お茶子ちゃんも落ち着いたようですね」

 

烈火は書類をまとめながら言った。

 

「……まぁ、明日から本番だしな」

 

スマホがもう一度震える。

 

『書類も全部出したし、制服も準備したし……

 あとは入学式だけだね!』

 

烈火は少し照れたように視線をそらしながら、短く返した。

 

『ああ、そうだな』

 

柳が静かに言う。

 

「いよいよですね、烈火」

 

烈火は深く息を吸った。

 

「……行くぞ、柳。

 雄英に」

 

炎龍は小さく頷いた。

 

「ええ。あなたの道が始まります」

 




2026/07/03 19:54 誤字修正しました。誤字報告ありがとうございます。
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