ヒロアカ世界の烈火に八竜率いた柳が個性として宿った話 作:琴銀河
A組の教室前。
烈火は扉の前に立ち、見上げる。
(……でっか)
烈火の右肩に寄り添うように位置した柳が、炎の尾をゆるく揺らしながら言う。
「個性によっては身体の大きい人もいますからね。
逆に小柄な子もいるかもしれませんけど……
広いほうが、みんなが使いやすいように調整しやすいんですよ」
烈火は軽くうなずく。
「……なるほどな」
柳は小さく炎を揺らして応える。
「烈火が使う場所でもありますしね。広いに越したことはありませんよ」
烈火は扉を押し開け、教室へ入る。
◇
すでに何人かの新入生が席に着いていた。
お茶子が烈火に気づいて手を振る。
「花菱くん!同じクラスだったんだね!」
「そうみたいだな」
柳は烈火の肩の上で静かに揺れている。
◇
そのとき、後方で怒鳴り声が響いた。
「机に足かけるな!!」
飯田天哉が、爆豪勝己に向かって声を張り上げていた。
「先輩方に申し訳ないと思わないのか!?」
爆豪は椅子にふんぞり返ったまま、飯田を睨む。
「……ああ?思わねえよ、端役が」
飯田はさらに詰め寄る。
「態度悪いな君!ほんとにヒーロー志望か!」
爆豪は舌打ちする。
「どこ中だてめえ」
烈火はそのやり取りを横目で見ながら、お茶子に小声で言う。
「……朝から騒がしいな」
お茶子は爆豪を見て、素直な感想を漏らした。
「うわー、ヤンキーおる。不良だよ不良。
ナイフみたいな思考回路持ち合わせとって、触るもんみんな傷つけとるんだわ」
烈火は苦笑する。
「そんなベタな奴今時おらんだろ……」
爆豪がガンッと机を蹴る。
「聞こえてんぞそこ!!」
その瞬間、烈火の周囲にいた数名が肩を跳ねさせた。
お茶子も息を飲んで身を縮める。
烈火は肩をすくめる。
「……おったわ」
◇
騒ぎが少し収まったころ、芦戸が烈火のほうへ手を振りながら近づいてくる。
「お、忍者くん!……じゃなくて花菱〜、同じクラスだね、ヨロ〜!」
烈火は軽くうなずく。
「芦戸、だったな。よろしく頼む」
芦戸はニコッと笑い、続けて言う。
「尻尾の尾白は同クラだよ〜!漫画の吹出はB組だってさ。
……尾白ー!ちょっとおいでー!」
尾白が「ん?」と振り返り、
話していた男子生徒に軽く手を振ってから、こちらへ歩いてくる。
「どうした、芦戸」
芦戸が烈火の肩をぽんと叩く。
「この子、花菱〜!試験のとき一緒だったっしょー?」
烈火は尾白に向き直る。
「尾白だな。入試ん時は助かった。改めてよろしくな」
尾白はしっかりした声で返す。
「尾白猿夫。よろしく。
試験の時のあの動き、すごかったよ」
烈火は軽くうなずく。
「……ありがとな」
芦戸が楽しそうに言う。
「いや〜、あのとき花菱めっちゃキレッキレだったよね〜!」
尾白もうなずく。
「うん。協力できてよかったよ」
柳が炎の尾を揺らしながら前に出る。
「三奈ちゃん、猿夫くん。烈火をよろしくお願いしますね」
芦戸は嬉しそうに柳を見る。
「柳ちゃん、今日もかわいい〜!」
尾白も興味深そうに柳を観察する。
「炎なのに熱くないんだね……本当に不思議だ」
烈火は淡々と補足する。
「柳はそういう個性だ。触れても熱くない」
柳は炎をふわりと揺らす。
「烈火の肩に乗っている以上、熱かったら困りますからね」
芦戸は笑う。
「なるほど〜!そういうことなんだ!」
◇
会話が一段落したところで、烈火がふと思い出したように言う。
「そうだ。二人に紹介しておく。
こいつは麗日。中学のときの同級生だ」
お茶子が一歩前に出て、明るく頭を下げる。
「麗日お茶子です!よろしくお願いします!」
芦戸はぱっと笑顔になる。
「え〜同中なんだ!いいな〜!」
尾白も柔らかく笑う。
「よろしく、麗日さん」
烈火は続けて、お茶子に向き直る。
「それと……こっちが芦戸で、こっちが尾白だ。
入試の時、一緒にゼロポイントを倒した」
お茶子は驚いたように目を丸くする。
「えっ、ゼロポイント倒したん!?
すごいやん……!」
烈火は肩をすくめる。
「麗日のグループには、パンチ一発でぶっ倒したヤツがいる、つってたじゃん。
俺らはB組のもう一人含めた四人がかりで、なんとか倒したって感じだからなぁ」
尾白がすぐに同意する。
「うん、あれきつかった〜。
てかアレをパンチ一発でとか、ありえなくね?」
芦戸も目を丸くする。
「マジで!?パンチ一発って何それ〜!」
お茶子は苦笑しながら頷く。
「ほんまやって……あれ見たとき、うちもビビったもん」
烈火は軽く息を吐く。
◇
そのとき──
後方から、ギラッとした視線が突き刺さる。
爆豪が烈火たちを睨みつけていた。
(ゼロポイントを倒した……?
誰がそんなことを……)
爆豪の眉間が深く寄る。
烈火はその視線に気づき、ちらりと爆豪を見る。
(……面倒なやつに目をつけられたか)
柳は小さく炎を揺らす。
烈火は短く息を吐く。
◇
勢いよく扉が開き、緑谷が息を弾ませながら入ってくる。
「間に……あった……!今日から、よろしくお願いしますっ……!」
爆豪の目がギラッと光る。
「……は?」
爆豪が椅子をガタッと鳴らして立ち上がる。
「デク!!
なんでてめえがここにいるんだ!?他行けっつったろーが!!」
怒鳴り声が教室に響き渡る。
緑谷はビクッと肩を跳ねさせ、
手に持っていたカバンを落としそうになりながら後ずさる。
周囲の生徒たちがざわつく。
「やば……」
「止めたほうがよくない?」
「掴みかかるんじゃ……?」
烈火は爆豪の様子を横目で見ながら、淡々と言う。
「掴みかかるようなら止めなきゃだが……
そこまででもない。あいつ、大声で怒鳴り散らしてるが冷静だ」
柳は烈火の肩で炎を小さく揺らす。
お茶子は不安そうに爆豪と緑谷を見比べる。
「え、あれで冷静なん……?」
烈火は短く息を吐く。
「怒鳴るだけで済ませてる。手は出す気ねぇよ、あれは」
爆豪はなおも緑谷を睨みつけているが、
確かに一歩も近づこうとはしていない。
緑谷は怯えながらも、必死に言葉を絞り出す。
「ぼ、僕だって……受験して……!受かって……!
勝ち取ったって言ってもらったんだ!」
爆豪は舌打ちし、椅子にドスンと座り直した。
「チッ……気に入らねぇ」
烈火は肩の力を抜く。
「ほらな。あれで終わりだ」
◇
お茶子が緑谷の様子を見て、烈火に言う。
「入試の時に同じグループだったから、ちょっと行ってくるね」
烈火は軽く手を挙げる。
「おう、いってら〜」
芦戸が驚いたように烈火を見る。
「えっ、いいの?男子のとこに一人で行かせて」
烈火は首を傾ける。
「なんで?俺は別にあいつの保護者な訳じゃないぞ?」
芦戸は口を半開きにしたまま固まる。
「……うわ、マジで言ってる……」
柳が炎の尾をゆるく揺らしながら言う。
「烈火は朴念仁の忍者オタクでして……
青春しろと常々言ってるんですが……」
芦戸は妙に納得した顔になる。
◇
その裏で──
お茶子と話していた緑谷に、飯田も話しかけていた。
烈火の位置からは、二人の会話の内容までは聞こえない。
ただ、ひときわ大きな声だけが断片的に届く。
緑谷の声。
「デクです!」
続いて、飯田の驚いた声。
「いいのか!?蔑称だろう!?」
芦戸が小声で言う。
「……なんか大変そうだね、あの子」
烈火は淡々と答える。
「まぁ、あいつもあの入試を受かって来てるんだ。
自分でなんとかするだろ」
柳は炎をふわりと揺らす。
◇
そのとき──
教室の前方で、寝袋がもぞりと動いた。
「……友達ごっこがしたいなら他へ行け」
寝袋の中から、ぼそっとした声が響く。
生徒たちが一斉に前を見る。
「え……?」
「誰……?」
「寝袋……?」
寝袋はそのまま、ずるりと立ち上がった。
「ここはヒーロー科だぞ」
ざわつきが一気に広がる。
「寝袋が立った……」
「え、先生……?」
「何この人……?」
烈火は肩の上の柳とともに、自然と背筋を伸ばした。
烈火が小声で言う。
「……誰だ、あれ」
柳は淡々と答える。
「抹消ヒーロー、イレイザーヘッドです。担任は彼ですか……
去年1年間だけで20人以上を除籍しているという記録があります」
烈火は一瞬だけ目を細めた。
(……随分物騒な肩書きだな、おい)
寝袋の人物は、ゆっくりとファスナーを下ろす。
ずるり──。
ぼさぼさ頭の男が姿を現し、
片手にはゼリー飲料。
そのまま、教室のど真ん中で音を立てて飲む。
「……ッジュッ」
シン──と教室が静まり返る。
男は飲み終えると、無表情のまま言った。
「はい、静かになるまで8秒かかりました。
時間は有限だ。君たちは合理性に欠くね」
烈火は小さく息を吐く。
(……これがイレイザーヘッドか)
柳が炎をふわりと揺らす。
「烈火。気を引き締めてくださいね」
烈火は短くうなずく。
「……ああ」