ヒロアカ世界の烈火に八竜率いた柳が個性として宿った話 作:琴銀河
烈火が雄英に行くと決めたその日から、
柳の表情はどこか“師匠”のものになった。
ある日の放課後。
烈火が鍛錬を終え、息を整えていると、
柳がふわりと目の前に降りてきた。
「烈火。そろそろ“雄英入試対策”を始めましょう」
烈火は思わず姿勢を正した。
「……マジでやってくれんのか」
「もちろんです。烈火が目指すなら、私は全力で支えます」
柳は尾を揺らしながら、指導者の顔になる。
◆ ① 個性の基礎操作
柳は烈火の手のひらに小さな火を灯させる。
「炎の大きさ、温度、形状、持続時間。
これらを“意図して”変えられるようになりましょう」
烈火は眉をひそめる。
「……そんな細けぇとこまで?」
「雄英は“制御できる強さ”を求めます」
烈火は汗をにじませながら火を調整した。
◆ ② フィジカル強化
柳は烈火の足元を指す。
「雄英の入試は、動きながら戦う試験です。
走力、跳躍、反応速度――全部必要です」
烈火は走り出す。
柳は横を並走しながら言う。
「烈火。あなたは“技を再現したい”と言いましたね。
ならば身体が動かなければ意味がありません」
烈火は歯を食いしばり、スピードを上げた。
◆ ③ 具体的な入試対策(実技+ロボット説明+思考訓練)
柳がふわりと空中に浮かび、声のトーンが変わる。
先ほどまでの優しい指導者ではなく、
“戦場を知る者”の声だった。
「烈火、状況を“読む”練習をしましょう。
敵の動き、地形、距離、風向き……
全部、戦いの材料になります」
烈火は構えを取りながら眉をひそめる。
「……敵って、何を想定して動けばいいんだよ?」
柳はそこで、はっきりと告げた。
「雄英の入試では“ロボット”が相手です」
烈火は思わず声を上げる。
「ロボット!?
なんだよそれ、そんなの出んのかよ!」
柳は淡々と頷く。
「はい。ここ数年ずっと変わっていません。
雄英は“実戦形式の個性使用試験”を重視しています」
烈火は息を呑む。
「……じゃあ、俺はロボット相手に戦うのか」
「そうです。だから――状況を読む力が必要なのです」
烈火は拳を握りしめた。
「……よし。やってやるよ」
柳は満足げに頷き、次の段階へ移る。
◆ 思考力・判断力の訓練(ロボット対策)
柳は烈火の前に降り立つ。
「では烈火。
そのロボットをどう倒すか、考えてみましょう」
烈火は腕を組む。
「……弱点狙う? 関節とか?」
「良いですね。では、炎で狙うなら?」
「……熱で内部を焼くとか?」
柳は満足げに頷いた。
「そうです。雄英は“考えるヒーロー”を求めています。
力任せではなく、状況判断ができる者を」
烈火はふっと息を吐き、
どこか照れたように口元を緩めた。
「……また勉強の話かよ、柳」
柳はくすりと笑う。
「ええ。烈火には必要ですから」
烈火は軽く苦笑した。
もう“嫌だ”とは言わない。
必要だとわかっているからこその、短い苦笑だった。
◆ ④ 学科対策(筆記試験)
模擬入試が終わったあと、柳がふわりと烈火の前に降りる。
「烈火。入試対策は、もうひとつあります」
烈火は嫌な予感がして眉をひそめる。
「……まだあんのかよ」
柳は真顔で言う。
「あります。雄英の入試は実技だけではありません。
学科試験もあります」
烈火は固まった。
「…………は?」
柳は淡々と続ける。
「国語、数学、理科、社会、英語。
基礎学力を問われます。
ヒーローは“考える力”が必要ですから」
烈火は頭を抱える。
「……マジかよ……なんでだよ……」
柳は烈火の額を軽くつつく。
「烈火。あなたは“ヒーロー”になりたいと言いましたね?
ならば、学ぶことから逃げてはいけません」
烈火は悔しそうに唇を噛む。
「……身体鍛えるのはわかるけど……勉強まで……」
柳は優しく、しかし強く言う。
「烈火。あなたの炎は“技”です。
技を扱うには、知識が必要です。
そして雄英は――知識のあるヒーローを求めています」
烈火はしばらく黙り、
やがて小さく息を吐いた。
「……わかったよ。
やるよ。やるしかねぇんだろ」
柳は満足げに微笑む。
「はい。烈火ならできます。
私が、できるようにします」
中学二年の終わり頃。
烈火が鍛錬を終えたとき、柳がふわりと降りてきた。
その表情は、いつもの柔らかい笑みではなく、
どこか“決意”を帯びていた。
「烈火。そろそろ良いころ合いかと思い、二人用意しました」
烈火は思わず眉をひそめる。
「……二人?
どういうことだよ、柳」
柳は静かに頷き、烈火の胸元へ視線を向けた。
「烈火の中にいる“モノ”たちの中で、
あなたに協力しても良いと言ってくれた者たちです」
「……俺の中に……?」
柳の背後に淡い光が集まり、渦を巻くように形を成していく。
まず現れたのは――
深紅の大きな瞳と長い髭を持つ、重厚な竜。
柳が紹介する。
「こちらは――崩(なだれ)。
烈火の炎を“溜めて、形にする”ことが得意です。
慎重で、穏やかな性格ですよ」
崩はゆっくりと頭を下げた。
「……よろしく、烈火」
続いて現れたのは――
青白い光をまとい、八つの瞳を静かに光らせる細身の竜。
柳が続ける。
「そしてこちらが砕波(さいは)。
炎を“刃に変える”ことが得意です。
無口ですが、戦いに関してはとても真面目です」
砕波は短く言った。
「……烈火。必要なら呼べ」
烈火はぽかんと口を開けたまま、
二体の竜を交互に見つめる。
「……竜、増えた……?
てか……俺の中にこんな奴らいたのかよ……」
柳は優しく微笑んだ。
「ええ。烈火の炎は“ひとつ”ではありません。
あなたが成長したことで、彼らも姿を現せるようになったのです」
烈火は頭をかきながら、照れくさそうに言った。
「……よろしくな、崩、砕波」
崩は穏やかに、砕波は静かに礼を返した。
柳は烈火の隣で、
まるで“家族が増えた”ことを喜ぶように微笑んでいた。
◇
その夜。
烈火は机に広げた雄英高校のパンフレットを見つめていた。
崩は静かに横で浮かび、
砕波は壁にもたれるように佇んでいる。
柳が烈火の肩に乗りながら言った。
「烈火。あなたはもう、雄英を目指す準備が整いつつあります。
あとは――あなたがどれだけ本気で進むかだけです」
烈火は拳を握りしめた。
「……柳。俺、絶対に雄英行く。
エッジショットみたいなヒーローになる」
柳は嬉しそうに尾を揺らした。
「ええ。烈火なら行けます。
――いえ、行かせます。
私が、あなたを雄英へ届くようにします」
崩が重々しく頷く。
「烈火殿の炎は、まだまだ強くなる」
砕波も短く言う。
「……鍛える。共に」
烈火は三体を見渡し、
胸の奥が熱くなるのを感じた。
「……よし。みんなで行こうぜ。
雄英まで――いや、その先まで!」
柳は誇らしげに微笑んだ。
「はい。烈火の道は、ここから本当に始まります」