ヒロアカ世界の烈火に八竜率いた柳が個性として宿った話 作:琴銀河
雄英高校の巨大な門の前は、受験生たちのざわめきで満ちていた。
烈火は肩の柳を軽く押さえながら歩く。
(……人多いな)
ただそう思っていたそのとき――
ガッ!
前方で、ひとりの男子がつまずいた。
足がもつれ、前のめりに倒れかける。
「わ、わわわっ……!」
(……こける)
そう思った瞬間――
少し離れた位置から、女子が勢いよく駆け込んできた。
「危ないっ!」
背中に触れた瞬間、
ふわりと男子の体が浮き、転倒を免れる。
烈火はその光景を見て、
ほんの少しだけ目を細めた。
(……お、やるじゃん)
男子は空中でバタバタしながら、
顔を真っ赤にして叫んでいた。
女子は苦笑しながら言う。
「落ち着いて、ね?
はい、“解除”」
男子はふわりと地面に降り、
その場で正座みたいな姿勢になってしまった。
烈火はその様子を横目に見ながら、
歩みを止めずに二人を追い抜いた。
(……青春だねぇ。頑張れ青少年)
肩の上で柳が、
呆れたように、しかし楽しげに囁く。
「同い年の男の子に言うセリフじゃないでしょう。
烈火、あなたも青春しなきゃだめですよ?」
烈火は眉をひそめた。
「……俺はいい」
「よくありません」
柳はぴしゃりと言い切る。
烈火は視線をそらし、
ほんの少しだけ耳が赤くなった。
(……うるせぇ)
◇
烈火が二人を追い抜いて少し歩いたところで――
「花菱くん!」
背後から女子の声がした。
烈火が振り返ると、
さっき男子を助けた“優しい子”が駆け寄ってきた。
烈火はその顔を見て、思わず口に出した。
「……あ、さっきモジャモジャの男子助けてた優しい子だ」
女子の頬が、ふわっと赤く染まった。
「え、えへへ……優しいってほどじゃ……」
烈火はそこでふと気づく。
(……あれ?
こいつ、今“花菱くん”って呼んだよな?
俺、名前教えてねぇけど)
肩の上で柳が小さく囁く。
「烈火。この子は三組の麗日お茶子ちゃんですよ。
無重力にする個性の子です」
(……ああ、三組の……いたな、そんな子)
お茶子は少し照れながら、
でもどこか嬉しそうに言った。
「花菱くんのことは噂になってたよ。
“雄英受けるらしい”って」
烈火は眉を上げた。
「……そうなのか。俺、クラスにしか言ってないけど」
柳がくすりと笑う。
「烈火は目立ちますからね」
烈火は頬をかきながら、お茶子を見た。
「……此処にいるってことは、お前も雄英受けるんだよな」
「うん。受けるよ」
烈火は納得したように息をついた。
「……そっか。
知り合い、いたんだな……会話ほとんどしたことないけど」
お茶子は胸の前で手をぎゅっと握りしめ、
烈火の言葉をそのまま真似した。
「……うん。
知ってる顔がいるだけで、ちょっと安心するんだよね。
会話ほとんどしたことないけど……」
真似して言ったその一言に、
お茶子は自分でふっと笑みを浮かべた。
烈火はその笑顔を見て、自然に問いかけた。
「……緊張してるのか?」
お茶子は肩をすくめて、
困ったように笑った。
「そりゃあ雄英の入試本番だもん。
緊張するよ~……」
烈火は腕を組み、
少しだけ得意げに言った。
「じゃあ――緊張をほぐす秘策を教えてやる」
「え、秘策?」
烈火は迷いなく言った。
「般若心経唱えろ」
「えっ!?なんで般若心経!?」
柳が肩の上で静かに補足する。
「お茶子ちゃん。
般若心経は“低く長く言葉を紡ぐ”ので、
自然とゆっくり息が吐けるんです。
呼吸が整うと、緊張も和らぎますよ」
烈火は真剣に頷いた。
「そういうこと。
息が乱れると判断鈍るしな。
無理なら寿限無でも外郎売でもいいけど、
とにかく“長く吐く”のが大事なんだ」
お茶子は思わず吹き出した。
「そんな受験生いないよ……!
でも……なんか、ちょっと落ち着いたかも」
烈火は少しだけ照れたように視線をそらした。
柳はそんな二人を見て、
どこか嬉しそうに尾を揺らした。
◇
説明会場に入ると、
そこはまるでライブ会場のようだった。
照明は派手、スピーカーは巨大、
ステージにはスポットライトまで当たっている。
烈火はぼそっと呟いた。
「ライブ会場みたいだな。
説明担当者もプレゼントマイクらしいし……
“YOKOSO!”とか叫んだほうがいいのか?」
お茶子はぽかんとした。
「なにそれ?」
烈火は視線をそらし、気まずそうに言う。
「ライブの合言葉?みたいなの?
実際に行ったことないからよくは知らん」
柳がくすっと笑う。
「烈火、あなた絶対ライブ行ったことないでしょう」
烈火が返す前に――
バァンッ!!
ステージの照明が一斉に点灯した。
「ヘイ、ヘイ、ヘェ~~イ!!
受験生のみんなァ!!
YOOOOU、準備はできてるかァーーッ!!?」
烈火は眉をひそめた。
(……ほんとに叫んだな)
◇
プレゼントマイクの説明が始まる。
「ワンポイント! ツーポイント! スリーポイント!!
強さに応じてポイントが違うぜェ!!
ガンガン倒して、ガンガン稼げェ!!」
烈火は半眼になりながらも、
説明自体はしっかり頭に入れていた。
そのとき――
ガタンッ!
メガネの男子が勢いよく立ち上がった。
「質問があります!!
説明には四種類のロボットが映っていました!!
しかしあなたは三種類しか説明していません!!
これはどういうことですか!!?」
(……そこ気にするか?)
プレゼントマイクは笑って答える。
「オオ~~ッと、気づいたかァ!!
だがアレはゼロポイント!!
デカいだけでポイントはゼロ!!
深入りすんなよォ!!」
メガネの男子は真剣に頷いた。
烈火は心の中でつぶやく。
(……真面目すぎだろ)
◇
説明が終わり、受験生たちが動き出す。
そのときまたメガネの男子が立ち上がり、
今度はさっきのモジャモジャの男子に向けて叫んだ。
「そこのモジャモジャの君!!
物見遊山なら帰りたまえ!!
ここは遊びの場ではない!!」
烈火は完全に聞き流し、
淡々と攻略法を考えていた。
(ロボ三種類。
ゼロポイントは無視。
……なら、最初に動きの遅い奴から潰すのが効率いい)
柳が囁く。
「烈火、聞かなくていいんですか?」
「聞いてる。
ただ、耳に入れる価値がねぇだけだ」
(……やることは決まった)
◇
説明会が終わり、受験生たちがぞろぞろと移動を始めた。
烈火は自分の受験票をちらっと見て、
隣のお茶子に声をかけた。
「麗日、お前さんの会場はどこだった?」
お茶子は受験票を慌てて確認する。
「私は……えっと……あ、花菱くんとは違う場所だね……
なんか、ちょっと心細いかも……」
烈火は軽く頷いた。
「ん~……多分、同中同士を組ませないようにバラけさせてるんだな」
柳が肩の上で尻尾を揺らす。
「合理的ですね。
仲間意識が強い子たちが固まると、
試験の公平性に影響しますから」
烈火は腕を組みながら、淡々と続けた。
「まあ、俺はどこでもいい。
やることは変わらんしな」
お茶子は少し不安そうに笑う。
「そ、そうだね……花菱くんは強そうだし……」
烈火は視線をそらし、ぼそっと言う。
「……強い弱いじゃねぇよ。
落ち着いてやればいいだけだ」
柳がくすっと笑う。
「烈火、あなたが言うと説得力がありますね」
烈火は肩をすくめた。
(……さて、そろそろ行くか)
烈火は口の端を上げた。
「緊張してるなら――般若心経唱えろよ?」
お茶子は吹き出した。
「またそれ!?
でも……ありがと
じゃあ、ちょっとだけ……思い出してみるね」
烈火は軽く手を振った。
「落ち着いてやれ。
会場違っても、やることは同じだ」
(……さて、行くか)
◇
実技試験会場に移動すると、
そこは廃ビル群を切り取ったような巨大フィールドだった。
烈火は人混みから少し離れ、
腰のポーチから金属片を取り出す。
手製の手裏剣。
柳が覗き込む。
「烈火、それ持っていくんですね?」
「ロボ相手なら刺さるかどうか試したい」
烈火が刃を確かめていると――
「うわっ、それ手裏剣!? 忍者!? 忍者なの!?」
ピンク色の女子が飛び込んできた。
烈火は眉をひそめる。
「……忍者じゃねぇよ。訓練用だ」
しっぽの男子が落ち着いた声で言う。
「危なくないのか? 金属製だろ」
烈火は頷く。
「ロボにしか使わねぇよ」
そこへ漫画みたいな男子が割り込む。
「おおっ! それはまさに“キラリ~ン”ってやつだね!」
烈火は目を細めた。
「……なんだその擬音」
「僕の個性だよ! 君のそれは“シュババッ!”って感じ!」
ピンクの女子が笑う。
「わかる! めっちゃ“シュバッ”って感じ!」
しっぽの男子が苦笑する。
「……二人とも落ち着け。彼、困ってるぞ」
烈火はため息をつきながらも、
どこか嫌そうではなかった。
三人が集まったところで、
しっぽの男子が言った。
「……自己紹介は、入学後でいいよな?
どうせ合格したらまた会うんだし」
ピンクの女子がすぐに反応する。
「え~! 教えてくれないの~?
名前知りたいのに~!」
烈火は肩をすくめた。
「……自信がないなら手伝ってやるぞ。
俺の合格に支障のない範囲でな」
ピンクの女子は目を輝かせた。
「お~強そう!
じゃあ君のことは……忍者くんって呼ぼう!」
しっぽの男子も続ける。
「じゃあ俺は尻尾の、でいい」
漫画の男子は胸を張る。
「僕は漫画の! よろしくー!“ババーン!”」
烈火は軽く手を上げた。
「……忍者でいい」
柳が尻尾を揺らす。
「烈火、あなた名前を言わないんですか?」
烈火は前を向いた。
「……合格してからでいい」
(……まあ、悪くねぇ)