ヒロアカ世界の烈火に八竜率いた柳が個性として宿った話 作:琴銀河
雄英実技試験会場――
巨大な廃ビル群が広がるフィールドの前に、受験生たちがずらりと並んでいた。
ゲートはすでに開いている。
だが誰も走り出さない。
皆、合図を待っているのだ。
烈火は腕を組み、開いたままのゲートをじっと見つめた。
肩の上では炎龍の柳が、静かに尾を揺らしている。
「烈火、皆さん待っていますね」
「……まあ、普通は“よーいドン”を期待するだろ」
柳はくすっと笑う。
「あなたは違うのですか?」
烈火は小さく息を吐いた。
「……雄英がそんな親切なわけねぇだろ」
そこへ、ピンクの子が烈火の横からひょこっと顔を出す。
「ねぇ忍者くん、あれってさ……
ゲート開いてるのに、なんで誰も走らないの?」
しっぽの子が真面目に答える。
「普通は合図があるはずだ。
だが……雄英だし、何か仕掛けがあるかもしれないな」
漫画の子は胸を張って叫ぶ。
「僕は“ドドーン!”って始まると思う!」
烈火は半眼で言った。
「……お前の擬音で始まるわけねぇだろ」
柳が肩の上で笑う。
「でも、あながち間違っていないかもしれませんよ?」
烈火が眉をひそめた、その瞬間――
スピーカーが爆音で鳴り響いた。
「ヘイヘイヘェ~~イ!!
受験生諸君!!
スタートはもう始まってるぞォ!!」
ピンクの子が叫ぶ。
「えっ!? もう!? 合図なし!?」
しっぽの子が慌てて前を見る。
「ま、待て! もう始まってるのか!?」
漫画の子はテンションMAXで叫ぶ。
「ほら来た!“ドドーン!”だよ!!」
烈火は深く息を吸い、
柳が肩で静かに囁く。
「烈火、行きますよ」
烈火は目を細めた。
「……ああ。
最初に動くのは、俺だ」
ドッ!
烈火は地面を蹴り、
誰よりも早く廃ビル群へと飛び込んだ。
烈火は誰よりも早く廃ビル群へ飛び込み、
最初の角を曲がった瞬間――
ガシャッ!
一体の三ポイントロボが、こちらに気づいて腕を上げた。
柳が肩で囁く。
「烈火、距離は十メートル。
正面から撃たれますよ」
「分かってる」
烈火はポーチに手を突っ込み、
小さな球体――かんしゃく玉を取り出した。
(まずは足を止める)
烈火は地面すれすれに、
かんしゃく玉をスナップで投げつけた。
パンッ!!
乾いた破裂音と閃光。
ロボのセンサーが一瞬だけ白く染まる。
その一瞬で烈火はもう次の動作に入っていた。
「柳、軌道補正」
「はい」
烈火の指先から放たれたのは、
手製の手裏剣。
柳が炎の尾を伸ばし、
手裏剣の軌道をわずかに押し上げる。
キィンッ!!
手裏剣はロボの首の継ぎ目に突き刺さり、
内部の配線を断ち切った。
ロボはそのまま、
ガクン、と膝をついて沈黙した。
烈火は息も乱さず言う。
「……一体目」
柳が満足そうに尾を揺らす。
「見事です、烈火」
少し遅れて駆けてきた芦戸・尾白・吹出が、
倒れたロボを見て目を丸くした。
ピンクの子が叫ぶ。
「なにあれ!ずっこくね!?
え、手裏剣!? かんしゃく玉!? 忍者じゃん!!」
しっぽの子が冷静に言う。
「いや、基本的に試験は持ち込み自由だ。
用意してきたあいつが正しい」
漫画の子は興奮して跳ねる。
「すっげぇ!
“パァン!”ってして“シュババッ!”ってして“ガシャーン!”だよ!!」
烈火は振り返りもせず、
次のロボの気配を探りながら言った。
「……騒ぐな。
ロボはまだいる」
柳が肩で微笑む。
「烈火、次は右前方。二体です」
烈火は口元だけで笑った。
「……よし。
次も行くぞ」
烈火が二体目のロボへ向かって走り去ったあと、
後方に残った三人の前へ、別のロボが姿を現した。
ガシャァァン!
三ポイントロボが腕を振り上げる。
吹出が一歩前に出て叫んだ。
「任せろォ!
“ピタァァァッ!!”」
その瞬間、ロボの動きが止まった。
吹出の個性――擬音を具現化する力が、
“動きを止める音” を発生させたのだ。
しっぽの子がすかさず動く。
「今だ!」
尾白のしっぽがしなり、
ロボの脚部を横から叩き折る。
バキィッ!!
ロボが片膝をついたところへ、
芦戸が滑り込む。
「はいはーい! とどめいっくよー!」
手から放たれた酸が、
ロボの胸部装甲を一気に溶かしていく。
ジュワァァァ……!
ロボはそのまま沈黙した。
芦戸がロボの残骸を見ながら首をかしげる。
「この場合どうなるのかなぁ?
全員で3ポイント分ける?
みんな3ポイントもらえる?
それともとどめ一人だけが総取り?」
尾白が腕を組む。
「さあ……?
でも三人だと効率が段違いだ。
一応、とどめはローテーションするってことでいいんじゃないか?」
吹出が元気よく手を挙げる。
「賛成!
“ワイワイ!”って感じで行こう!」
芦戸が笑いながら烈火の方を見る。
「ウハッ、忍者くんはぶってんじゃんww
うけるw」
尾白は苦笑しつつ、烈火の背中を見つめた。
「まあ……あいつは一人でも戦えてそうだしな。
ほかの受験生も協力してるようだから、
俺たちは俺たちで動こう」
吹出が拳を握る。
「よーし!
“チームワーク!”って感じで行くぞ!」
芦戸が手を叩く。
「うんうん!
じゃあ次のロボ探そー!」
三人は軽快に走り出した。
その少し先で、
烈火はすでに次のロボへ向かって跳びかかっていた。
柳が肩で微笑む。
「烈火、後ろの三人も頑張っていますよ」
烈火は淡々と答える。
「……あいつらはあいつらでやれる。
俺は俺のやり方で行く」
柳は嬉しそうに尾を揺らした。
「はい。
あなたらしいですね」
烈火は廃ビルの影を縫うように走り、
次々とロボを沈めていった。
かんしゃく玉で動きを止め、
手裏剣で急所を断つ。
柳が軌道を補正し、
烈火は無駄なく仕留める。
一体、二体、三体……
芦戸たちが三人がかりで一体倒す間に、
烈火はすでに七体目を沈めていた。
柳が肩で囁く。
「烈火、これで八体目です。
そろそろ二桁が見えてきましたね」
「……ああ。
このペースなら――」
烈火はポーチに手を突っ込み、
次のかんしゃく玉を掴もうとして――
指先が空を切った。
「……あ?」
柳が覗き込む。
「烈火、どうしました?」
烈火はポーチを軽く叩きながら言った。
「……ちっ。
かんしゃく玉、弾切れだ」
柳は小さく首をかしげ、
烈火の腰の後ろ側――隠しポケットの位置に尾を向けた。
「でも、まだ残ってるじゃないですか?」
烈火の指が、
その“特別な一つ”に触れた。
他のものより重く、
中身の密度が違う。
烈火は目を細めて言った。
「……これはいざという時の“とっておき”用だ。
わかってるんだろう?」
柳は嬉しそうに微笑んだ。
「はい。
覚えていてくれて、なによりです」
烈火は短く息を吐き、
前を向いた。
「……あれは最後の切り札だ。
こんな序盤で使うもんじゃねぇ」
柳は静かに頷く。
「ええ。
あなたは昔から、そういうところだけは慎重でしたから」
烈火は肩をすくめた。
「“だけ”は余計だ」
柳はくすっと笑う。
「でも、そういうところが好きですよ」
烈火は照れ隠しのように走り出した。
「……行くぞ。
手裏剣だけでも十分やれる」
柳は嬉しそうに尾を揺らした。
「はい。
あなたならできます」
八体目のロボを沈めたあと、
烈火は走りながら腰のポーチに手を突っ込んだ。
指先に触れた金属の感触は――
思ったより少ない。
「……手裏剣も残りわずかか」
柳が肩の上で覗き込む。
「烈火、残りは?」
「……五枚。
ただ、さっきの二枚は回収できたから、まだマシだな」
柳は小さく頷く。
「かんしゃく玉よりは余裕がありますね」
烈火は走りながら、
回収した手裏剣の刃を親指で軽く撫でた。
「……ああ。
こっちは回収できる分、まだ戦える」
柳はくすっと笑う。
「あなた、昔から投擲武器だけは本当に丁寧に扱いますよね」
烈火は肩をすくめた。
「当たり前だ。
作るのに時間かかるんだよ、これ」
柳は嬉しそうに尾を揺らす。
「でも、残り五枚……
そろそろ節約しないといけませんね」
烈火は前方のロボの気配を探りながら言った。
「……ああ。
急所だけ狙う。
無駄撃ちはしない」
柳は静かに微笑む。
「はい。
あなたならできます」
烈火は短く息を吐き、
次のロボへ向かって跳び込んだ。
ロボが腕を振り上げる。
烈火は地面を滑るように潜り込み、
足首の継ぎ目へ――
一枚だけ
手裏剣を投げ込む。
キィンッ!
ロボのバランスが崩れた瞬間、
烈火は跳び上がり、
回収可能な角度で二枚目を投げる。
ガチン!
ロボは沈黙した。
烈火はすぐに駆け寄り、
刺さった手裏剣を二枚とも引き抜く。
柳が満足そうに言う。
「節約戦闘、順調ですね」
烈火は淡々と答える。
「……まだ個性は使わない。
炎を出せば目立つし、消耗も激しい」
柳は小さく頷く。
「はい。
あなたの判断は正しいです」
烈火は走りながら、
残りの手裏剣の重みを確かめた。
「……これで九体目。
二桁は見えたな」
柳が嬉しそうに尾を揺らす。
「ええ。
あなたのペースなら、まだまだ行けます」
烈火は前方の気配に目を細めた。
「……次だ」
烈火は手裏剣を最小限に使い、
急所だけを正確に狙ってロボを沈めていく。
キィンッ!
ガチン!
二枚投げて二枚回収。
無駄が一切ない。
柳が肩で囁く。
「烈火、これで十体目です」
「……よし。
まだ行ける」
◇
烈火が次の路地へ消えていく少し後――
芦戸・尾白・吹出の三人が追いついてきた。
芦戸が目を丸くする。
「ねぇ……忍者くん、なんか戦い方変わってない?
さっきまで“パァン!”ってかんしゃく玉使ってたのに」
尾白がロボの残骸を見て分析する。
「……ああ。
投擲の数が減ってる。
急所だけ狙って、回収もしてるな」
吹出は興奮気味に叫ぶ。
「“シュバッ!”って投げて“カシャン!”って抜いてる!
節約モードってやつだ!」
芦戸が首をかしげる。
「なんで急に節約?
手裏剣なくなってきたとか?」
尾白が真面目に頷く。
「多分そうだろうな。
あいつ、無駄撃ちしないタイプみたいだし」
吹出が烈火の消えた方向を見て言う。
「でもさぁ……
節約してるのに、ペース落ちてなくない?」
芦戸が苦笑する。
「むしろ速くなってない?
え、なにあれ……忍者くんってやっぱ忍者なの?」
尾白は腕を組んで結論を出す。
「……あいつは一人で戦える。
俺たちは俺たちで連携していこう」
吹出が拳を握る。
「おーっし!
“チームワーク!”で行くぞ!」
芦戸が笑って手を叩く。
「うんうん!
忍者くんはソロで頑張ってるし、
私たちは三人でがんばろー!」
三人は再び走り出す。
◇
その少し先で、
烈火はすでに次のロボへ向かって跳び込んでいた。
柳が肩で微笑む。
「烈火、後ろの三人……あなたの戦い方に気づいたみたいですよ」
烈火は淡々と答える。
「……別に隠してねぇしな。
節約しないと後が続かねぇ」
柳は嬉しそうに尾を揺らす。
「はい。
あなたらしい判断です」
節約戦闘で十体目を沈めた烈火は、
次のロボの気配を探りながら路地を駆け抜けていた。
そのとき――
「うわっ!? やばっ……!」
悲鳴が聞こえた。
烈火は反射的に足を止め、
声の方向へ視線を向ける。
廃ビルの陰で、
モブ受験生の少年がロボに追い詰められていた。
ロボの腕が振り上がり、
少年は尻もちをついたまま動けない。
柳が肩で囁く。
「烈火、間に合います」
烈火は短く答えた。
「……行く」
ダッ!
烈火は地面を蹴り、
ロボの背後へ一気に回り込む。
手裏剣を抜く――
が、すぐに止めた。
(節約だ。急所だけ狙う)
烈火はロボの膝裏へ滑り込み、
一枚だけ手裏剣を投げ込む。
キィンッ!
ロボの脚が崩れ、バランスを失った瞬間、
烈火は跳び上がり、
首の継ぎ目へ二枚目を突き刺す。
ガチン!
ロボは沈黙した。
烈火はすぐに手裏剣を回収し、
少年に手を差し伸べる。
「立てるか」
少年は震えながらも頷いた。
「た、助かった……!
ありがとう……!」
烈火は淡々と答える。
「気をつけろ。
ロボはまだいる」
柳が肩で優しく言う。
「大丈夫ですよ。
落ち着いて、周りをよく見てくださいね」
少年は深く頭を下げ、
走り去っていった。
烈火は前を向き直る。
「……行くぞ、柳」
柳は嬉しそうに尾を揺らす。
「はい。
あなたらしい助け方でした」
烈火は肩をすくめた。
「ヒーロー科受けてんだ。
助けるのは当たり前だろ」
柳は小さく笑った。
「ええ。
そういうところが、あなたの良さです」
烈火は再び走り出した。