ヒロアカ世界の烈火に八竜率いた柳が個性として宿った話 作:琴銀河
雄英高校・職員室。
試験終了から数時間後。
モニターには受験生たちの戦闘記録が次々と映し出されていた。
教師陣はすでに何十人もの映像を確認し、
疲労の色を見せながらも真剣な表情で議論を続けている。
相澤が腕を組んだまま、
淡々と映像リストをスクロールする。
「……続いて、次の三人だ」
画面に表示された名前を確認しながら、相澤は続けた。
「試験開始直後からずっと協調して動いていた。
互いを名前じゃなく“特徴”で呼んでいたから、知り合ったばかりだろう。
この三人はまとめて見ていくぞ」
プレゼント・マイクがすぐに食いつく。
「確かに〜!
“ピンクの子”“漫画の子”“尻尾の子”って呼んでたよなぁ!
あれ、絶対初対面だろ!」
セメントスが頷く。
「初対面であそこまで自然に連携できるのは、
なかなかの適性ですよ」
相澤が映像を再生する。
芦戸三奈、吹出漫我、尾白猿夫。
三人が息を合わせてロボを倒していく姿が映る。
芦戸が酸を床に撒き、
ロボの足を滑らせて転倒させる。
その瞬間、吹出が「ガシィッ!」と擬音を放ち、
ロボの関節が一瞬だけ硬直する。
尾白がその隙に跳び込み、
尻尾で頭部を叩き割った。
セメントスが感心したように言う。
「芦戸くんは酸の扱いが上手い。
吹出くんは擬音で動きを止める応用力がある。
尾白くんは基礎体力が高い。
それぞれの強みを自然に活かしていますね」
プレゼント・マイクが笑う。
「ワチャワチャしてるけど、
連携は悪くないよなぁ〜!」
相澤は冷静にまとめる。
「火力不足は否めないが、
協力性と判断力は評価できる。
特に尾白は状況判断が早い。
芦戸と吹出の動きを見て、
自分がどこに入るべきか理解している」
根津校長が満足げに頷く。
「点数だけでなく、
“ヒーローとしての適性”も重要ですからねぇ」
◇
相澤が映像を切り替える。
「次は……花菱烈火」
画面には、烈火が無駄のない動きでロボを倒す姿が映る。
ロボの拳が迫る瞬間、
烈火は半歩だけ横にずれ、
炎を纏った掌で関節部を正確に叩きつける。
爆発的な炎ではなく、
必要最低限の熱量で内部機構だけを焼き切る。
セメントスが目を細める。
「最初の数体で敵の耐久を把握して、
そこからは必要最低限の力で倒している……
経験者の動きですね」
相澤は淡々と言う。
「救助の判断も早い。
戦闘より優先してる場面もある。
あの子は“倒す”より“守る”を優先してる」
オールマイトが映像を見ながら言う。
「ふむ……
あの少年、落ち着いているな。
ヒーロー向きの判断だ」
烈火は倒れた受験生を抱え、
安全な場所へ運びながらも周囲を警戒している。
その姿に教師陣の視線が集まった。
◇
映像が切り替わる。
巨大なゼロポイントが映し出され、
烈火が真正面から立ち向かう。
ロボの巨腕が振り下ろされる。
烈火は地面を蹴り、
炎を纏った足で衝撃を逸らすように滑り込む。
セメントスが驚く。
「……殴っても通用しなかったか」
相澤が補足する。
「だが、すぐに切り替えている。
炎の“種類”を変え、
動きを止め、
装甲を削り……
ゼロポイントに傷をつけた受験生は少ない」
烈火は炎の密度を変え、
一点に集中させて装甲を焼き切る。
その穴に芦戸の酸が流れ込み、
内部機構が悲鳴を上げるように火花を散らした。
プレゼント・マイクが声を上げる。
「しかも三人と連携して倒してるじゃん!
芦戸ちゃんの酸を流し込む穴を開けたの、花菱だろ?」
オールマイトが感心したように言う。
「協力して巨大な敵を倒す……
ヒーローとして理想的な行動だ」
相澤は静かに言う。
「……あいつは“勝つため”じゃなく、
“救うため”に動いてる。
そこがいい」
◇
相澤がふと別の受験生を思い出したように言う。
「……先ほどのゼロポイントを殴り飛ばした子と違って、
花菱は無茶をしていない。
ああいう動き方は評価できる」
オールマイトが小さく反応する。
「殴り飛ばした子……
ああ、緑谷ですね」
セメントスが頷く。
「ええ。あの破壊力は確かにすごかったですが……
腕と脚を完全に壊していましたね」
相澤が続ける。
「ああいう“一回撃ったら大怪我する”タイプは、
ヒーローとして継続できない。
制御が課題だ。
救助に向かった判断は評価できるが……
身体がついていっていない」
根津校長が穏やかに言う。
「緑谷くんは可能性の塊ですが、
今はまだ力に振り回されていますねぇ」
オールマイトは苦しげに拳を握る。
(……彼にはまだ教えるべきことが多い……
だが、必ず導いてみせる……)
◇
そこへ、杖をついたリカバリーガールが入ってきた。
「ちょっといいかい、あんたたち」
相澤が振り向く。
「どうした」
リカバリーガールはため息をつきながら言った。
「花菱烈火。
あの子の“炎”について話がある」
教師陣の視線が集まる。
オールマイトが首を傾げる。
「炎か……
確かに、なかなか多彩な炎を使っていたね」
リカバリーガールは首を振った。
「攻撃だけじゃないよ。
治癒の炎だ。
疲労回復、筋肉の張りの除去、
生命力の循環促進……
治療系の能力だ」
セメントスが驚いたように言う。
「生命力の循環促進……
それは、細胞の活性化ということですか?」
リカバリーガールは頷く。
「そうだね。
ただし、活性化しすぎれば逆に負担になる。
炎の温度や量を間違えれば、
治癒どころか組織を傷つける可能性もある」
プレゼント・マイクが目を丸くする。
「えぇ!?
そんな繊細な炎を使い分けてるのかよ!?」
相澤は眉をひそめた。
「攻撃にも使える炎なのに、治癒も……?
制御精度が異常だな」
リカバリーガールは続ける。
「それに……
炎龍の姿で現れていたね。
花菱くんと会話していた。
あれはどういう仕組みなんだい?」
相澤が映像を巻き戻しながら言う。
「……完全に“生き物の動き”だ。
声も聞こえていたし、助言までしていた」
セメントスが頷く。
「書類の個性欄には“炎龍”とありますから、
おそらくあれがそうなのでしょう。
しかし……黒影よりも高度ですね」
プレゼント・マイクが指を鳴らす。
「黒影も人格持ちだし、常闇と会話してたよなぁ!
けどよぉ、花菱の炎龍は……
なんかもっと“頭が回ってる”感じだったねぇ!」
相澤が補足する。
「黒影は常闇の指示に従うが、
炎龍は花菱と“対等に会話している”ように見える。
周囲の状況把握も正確だ。
倍の視点と倍の判断力……
そう考えれば花菱の動きの速さも説明がつく」
リカバリーガールが頷く。
「治癒の炎のときもそうだったよ。
炎龍が花菱くんに寄り添って、治癒の炎を“吹きかける”ように使っていた。
“どこに触れるべきか”を理解しているような……
あれは花菱くん一人の判断じゃないねぇ」
オールマイトが静かに言う。
「花菱くんの個性は、
私たちが想定している“炎系”の枠に収まらないのかもしれない」
「これは……研究の価値が――」
校長が静かに手を上げる。
「おやおや、セメントス先生。
“研究”という言葉は、あまり軽々しく使わない方がいいですよ」
「……失礼しました。
もちろん、非人道的な意味ではありません」
校長は柔らかく微笑むが、
その目の奥にはわずかな影が差す。
「ええ、分かっていますとも。
ただ……個性というのは、
扱い方を間違えると“人”を傷つけることがありますからねぇ」
そして炎龍の映像を見つめながら続ける。
「花菱くんの炎龍は、人格を持つ存在のように見えました。
ならば、尊重すべきは“力”ではなく“意志”です。
調べるにしても……慎重に、丁寧に、ですよ」
オールマイトが静かに頷く。
「……校長の言う通りだ。
あの炎龍は、ただの能力ではない」
◇
相澤が映像を止める。
「……で、結局どうする。
点数は十分だが」
根津校長はにこりと笑った。
「もちろん、合格ですとも。
あの子は雄英に必要な人材ですよ」
オールマイトも力強く頷く。
「私も賛成だ」
リカバリーガールは小さく呟いた。
「……あの炎、もっと丁寧に見ていきたいねぇ」
教師陣の視線が、
モニターに映る花菱烈火と炎龍の姿に集まった。
その炎が、
これからどんな未来を照らすのか――
誰もまだ知らない。