ヒロアカ世界の烈火に八竜率いた柳が個性として宿った話 作:琴銀河
朝、校門をくぐった瞬間、周囲の空気がわずかに揺れた。
ざわっ、と小さな波紋のように視線が集まる。
(……なんだ? 見られてる?)
靴箱へ向かう途中、同じクラスの男子が駆け寄ってきた。
「おい花菱、昨日雄英の入試だったんだろ? どんなだった?」
その声に反応して、周囲の数人も集まってくる。
「ロボやばいって聞いたぞ」
「炎龍って本当に使えるのか?」
「点数とかどうだったんだよ」
一瞬だけ身構えたが、すぐに理解した。
(ああ、話を聞きたかったのか)
肩をすくめて答える。
「まあ……色々あったけど、なんとか」
「なんとかってなんだよ」「炎龍出したのか?」
質問が飛び交う。
曖昧に笑った。
「柳がちょっと手伝ってくれたくらいだよ」
「へぇー!」「やっぱすげぇな花菱」
勝手に盛り上がるクラスメイトたちを横目に、教室へ向かった。
◇
昼休みのざわついた教室に、そっと扉が開く気配がした。
「……失礼しま~す……」と控えめな声がして、扉の隙間から麗日お茶子が顔をのぞかせる。
烈火を見つけた瞬間、ぱぁっと表情が明るくなり、そのまま小走りで駆け寄ってきた。
烈火は弁当の箸を止め、軽く手を上げる。
「おー麗日。般若心経ちゃんと唱えたか?」
「も~、それはいいんだよ」とお茶子は頬を膨らませる。
けれどすぐに表情が和らぎ、心配そうに烈火の顔を覗き込んだ。
「……昨日、怪我してない? 炎龍ちゃんも無事だった?」
烈火は肩をすくめる。
「まあ、なんとか。柳も元気だ」
「よかったぁ……」
お茶子は胸をなでおろし、ほっと息をついた。
烈火は逆に問い返す。
「麗日はどうだった?」
その瞬間、お茶子の動きが一瞬だけ固まった。
「えっ……あ、う、うん……その……まあ、色々あったけど……」
明らかに挙動不審だ。烈火が眉をひそめると、お茶子は慌てて手を振った。
「ほ、ほら! ロボいっぱい出たし! 走ったり、避けたり、転んだり……いや転んでないけど!
とにかく普通だよ普通!」
(絶対普通じゃねぇだろ)と烈火は心の中で思ったが、口には出さなかった。
お茶子は話題を変えるように、勢いよく言葉を続けた。
「そ、そうだ! 花菱君は!? どんな戦い方したの!? 炎龍ちゃん、どんなふうに動いたの!?」
烈火は少し考え、結局いつもの調子で答える。
「……まあ、普通に。走って、避けて、殴って、そんな感じ」
「普通じゃないでしょ絶対!」
お茶子は笑いながら、どこか安心したように息をついた。
そして、ふと思い出したように表情を引き締める。
「ね、花菱君……私ね、試験のあと先生に言いに行ったんだ」
烈火は箸を止めた。
「なんかあったのか?」
「助けてもらった子がいて……その子、ポイント無いんじゃないかと思って……
“せめて1ポイントでも”って言っていたから……」
烈火は目を瞬かせる。
「助けてもらった? 誰にだよ」
「名前は知らないんだけど……」
お茶子は胸の前で手をぎゅっと握りしめた。
「その子ね……ゼロポイントを一撃で吹っ飛ばしたんだよ」
烈火は思わず声を上げた。
「一撃? 嘘だろ? 俺らは四人がかりで必死になって、なんとか倒せたってのに」
「うん……本当に一撃だったの。すっごい音して……
でもそのあと倒れちゃって……だから心配で……」
お茶子の声は小さく震えていた。烈火はその様子を見て、ふっと息を吐く。
「……麗日らしいな、やっぱ優しいよお前」
お茶子は照れたように笑った。
「えへへ……」
教室のざわめきの中、二人の間だけが少しだけ静かで、温かかった。
◇
放課後、烈火は方に乗っている柳に声をかけた。
昨日の試験で焔群が現れたことが、どうしても気になっていた。
「なぁ柳……昨日のあれ、焔群って言ってたよな。俺の中、まだ他にもいるってことか?」
柳は炎の尾を揺らしながら、静かに頷いた。
「ええ。あなたの中には“八竜”と呼ばれる八つの炎が宿っています。
崩、砕波、焔群……烈火のことを気に入って、力を貸そうと言ってくれる子たちです」
烈火は息を呑む。
柳は続ける。
「ただし……危険な思想を持つ子もいます。
宿主である烈火を害することは――無いとは思いますが……
敵を排除するためなら、極端な判断をする子もいるんです」
胸の奥がひやりとする。
柳は優しく言葉を締めくくる。
「今は、崩や砕波、焔群を使いこなせるようになることが大事です。
焦らなくていいんですよ。
必要なときに、必要な子が目覚めます」
烈火はゆっくりと息を吐いた。
自分の中に宿る八つの炎――
その存在を、ようやく真正面から受け止め始めていた。
◇
試験の翌日から数日が経ったある朝。
烈火の家の郵便受けに、雄英高校からの小さな郵便小荷物が届いていた。
中身はまだ開けていない。
けれど、胸の鼓動だけがやけに大きく響いていた。