北海道侵攻 1991 ― 赤い波濤   作:陽HARU

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第11話 撤退の影と北方の牙

 

 

1991年8月17日、午後2時40分。

モスクワ・クレムリン地下作戦室。

 

非常事態委員会(G・K・Ch・P)の面々は、蒼白な顔で衛星画像と報告書を睨んでいた。

 

ヤゾフ国防相の声はかすれていた。

 

「アメリカが国連安保理で『侵略行為』として非難決議を提出……NATOも動き出した。

しかも国内では、ゴルバチョフ派とエリツィン派が合同で我々に反旗を翻しつつある。

極東のノヴィコフは札幌を保持したいようだが……もはや本国からの補給は絶たれる」

 

KGB議長クリュチコフは深く息を吐いた。

 

「限定撤退を命じろ。

函館以南は放棄し、**北部北海道(札幌・旭川・稚内ライン)**を『極東ロシア人民共和国』の事実上の領土として死守する構えを見せよ。

これ以上損耗すれば、クーデター自体が崩壊する」

 

こうして、モスクワからの極秘命令がハバロフスクへ飛んだ。

 

---

 

**同時刻 函館前線**

 

米自衛共同軍は新千歳空港方面への突破を続けていたが、突然、ソ連軍の抵抗が弱まった。

 

高橋拓也と佐々木美咲は、前進中の掩体で状況を確認していた。

 

「敵が……後退し始めた?」

 

高橋が双眼鏡を覗きながら呟く。

T-80の残存部隊が煙幕を張りながら北へ下がっていく。

しかし完全に撤退しているわけではなかった。

七飯~千歳ラインで一旦陣地を固め、激しい遅滞戦闘を展開している。

 

米海兵隊准将が指揮所で報告を受けた。

 

「モスクワで政治的混乱が発生した模様です。クーデター派が劣勢に。

ソ連軍は全面撤退ではなく、北海道の分割占領を狙っているようです」

 

自衛隊北部方面総監は拳を握った。

 

「許さん。札幌を赤い国に永遠に渡すわけにはいかん」

 

---

 

**占領下・札幌市(極東ロシア人民共和国「首都」)**

 

ノヴィコフ大将の代理として残っていた少将は、モスクワの命令を受け、苦渋の表情で幹部を集めた。

 

「本国は函館放棄を指令した

しかし我々はここに留まる。

札幌・旭川・名寄・稚内を結ぶ線を死守し、『極東ロシア人民共和国』を維持する。

補給が途絶えても、半年は持つだけの物資を確保した。

アメリカが本格上陸してくる前に、既成事実を固めるのだ」

 

市内では「人民共和国軍」(実態はソ連軍)がバリケードを強化し、対空ミサイルS-300を再配置。

抵抗運動の「北海道解放戦線」に対する掃討も激化していたが、完全に鎮圧するには至らなかった。

 

小野寺遥率いるグループは、地下鉄内で密かに連絡を取り合っていた。

 

「自衛隊と米軍が来ている。

もう少し耐えれば、札幌は解放される」

 

---

 

**新千歳空港付近 午後5時**

 

反攻部隊は空港の滑走路を目前にしながら、一時停止命令を受けていた。

 

高橋と美咲は、焼けた滑走路脇の掩体で休憩を取っていた。

美咲の左腕は包帯で巻かれ、高橋の右肩も血が滲んでいる。

 

「撤退し始めたのに……北部は死守するって本気かよ」

 

高橋が苦々しく言った。

 

美咲は遠く北の空を見つめた。

 

「札幌に赤い旗が立ったままなんて、許せない。

函館まで下がった意味がなくなる」

 

米軍指揮官が二人に近づいてきた。

 

「政治状況が変わった。モスクワのクーデターは失敗に傾いている。

しかし極東の強硬派は独自に動いているようだ。

我々は外交圧力と並行して、北部奪還作戦を準備する」

 

---

 

**夜 旭川近郊**

 

ソ連軍は急速に北部へ兵力を再集結させていた。

T-80の残存部隊、歩兵、対空部隊が旭川周辺に陣地を構築。

稚内方面にも追加の海軍陸戦隊を派遣し、宗谷海峡の確保に動く構えを見せた。

 

「極東ロシア人民共和国」は、崩壊の危機に瀕しながらも、なお北海道北部を「自国領」として主張し続けていた。

 

高橋は夜空に浮かぶ照明弾を見上げ、静かに呟いた。

 

「……まだ、終わらないな」

 

美咲が彼の隣で頷いた。

 

「ええ。でも、絶対に取り返す」

 

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