北海道侵攻 1991 ― 赤い波濤   作:陽HARU

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第6話 札幌攻防戦 ― 雪と炎の都

 

 

1991年8月13日、午前2時40分。

札幌市郊外・石狩川南岸防衛線。

 

高橋拓也二等陸曹は、87式対戦車誘導弾の射手として、急造の掩体に身を潜めていた。

左腕の傷はまだ疼き、睡眠は丸一日取っていなかった。十勝平野での遅滞戦で生き延び、必死の後退を続けた末に、ようやく札幌の最終防衛線に到着した。

 

隣に伏せるのは、昨日出会ったばかりの若い女性だった。

佐々木美咲(19)。根室から逃げてきた漁師の娘で、89式小銃を握り、すでに一人を撃ち殺したという。

 

「怖いか?」高橋が小声で聞いた。

 

「……怖い。でも、逃げても殺される。だったら撃つ」

 

美咲の声は震えていたが、目は燃えていた。

高橋は無言で彼女の肩を軽く叩いた。同じ北海道民として、守るべきものが同じだった。

 

前方、暗闇の中で無数のエンジン音が響き始めた。

ソ連軍第35軍主力が、ついに札幌市街戦の射程圏内に入っていた。

 

---

 

**午前3時15分 札幌市中心部 北海道庁周辺**

 

自衛隊北部方面総監部はすでに地下に移動し、道庁舎は臨時指揮所となっていた。

第7師団(東千歳)と第11師団(真駒内)の残存戦力が、札幌を囲む環状防衛線を形成。

74式戦車、87式自走高射機関砲、89式装甲戦闘車が街路と公園を塞ぎ、民間人は地下鉄や学校へ緊急避難済みだった。

 

しかし状況は絶望的だった。

敵戦車300両以上、歩兵数千、航空優勢はまだソ連側が握っている。

 

「第2師団残存部隊、到着!」

 

高橋と美咲を含む一団が、真駒内駐屯地近くの陣地に投入された瞬間、夜空が明るくなった。

 

ソ連軍の2S19自走砲とBM-21多連装ロケットが、一斉に火を噴いた。

「スターリン・オルガン」の咆哮が札幌の空に響き渡り、円山公園方面が爆炎に包まれる。

高層マンションの一棟が傾き、炎上した。

 

「来るぞ! 対戦車ミサイル、順次発射!」

 

高橋が87式を構え、ロックオン。

先頭に現れたT-80Uの反応装甲を貫通し、誘爆を誘発させた。

美咲は89式小銃で、戦車についてくるBMP-2の歩兵を狙い撃った。

夜の街路に銃声と叫び声が木霊する。

 

---

 

**同時刻 上空 札幌市街地上空**

 

米海軍第5空母航空団所属のF/A-18Cホーネット4機編隊が、初めて本格的に戦闘空域に突入していた。

リーダー機のコールサイン「Diamond 11」。

 

「This is Diamond flight. Engaging Soviet fighters over Sapporo.」

 

AIM-120 AMRAAMとAIM-7が次々と放たれ、Su-27が二機、炎の尾を引きながら落ちていく。

しかしソ連側も黙っていなかった。地対空ミサイルS-300の射撃が始まり、一機のホーネットが被弾、脱出するパラシュートが夜空に開いた。

 

F-4EJ改の残存機も必死に援護するが、数が圧倒的に不利だった。

 

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**ハバロフスク 極東軍管区司令部**

 

ノヴィコフ大将は興奮と焦燥を同時に感じていた。

 

「札幌市街に突入せよ! 抵抗は徹底的に粉砕しろ。ただし、重要施設は可能な限り無傷で確保する。

我々は占領後、ここを極東新政権の前線基地とするのだ」

 

しかし参謀長の報告は厳しかった。

 

「同志大将、米軍航空機の介入が本格化しました。制空権が揺らいでいます。

また、部隊の疲労と補給消耗が限界に……」

 

「あと48時間耐えればいい! モスクワでクーデターが成功すれば、我々は英雄だ」

 

---

 

**札幌市南区 真駒内付近**

 

戦車と歩兵の接近戦が始まっていた。

高橋の87式がもう一両のT-80を撃破したが、誘導装置が被弾して使用不能に。

彼は89式小銃を手に、掩体から這い出した。

 

「美咲! 後退だ!」

 

美咲は返事の代わりに、倒れた自衛隊員の5.56mm弾倉を拾いながら後退した。

周囲は地獄絵図だった。

炎上する戦車、崩れたビル、泣き叫ぶ民間人、血だまり。

 

突然、ソ連軍の空挺部隊がパラシュートで市街地内に降下し始めた。

赤い星のヘルメットが街灯に照らされる。

 

高橋は美咲を庇うようにして路地に飛び込み、連射した。

一人のソ連兵が倒れるが、すぐさま返されたAK-74の弾が彼の右肩を抉った。

 

「うっ……!」

 

美咲が叫びながら高橋を引っ張り、近くの廃墟となったコンビニへ避難させた。

二人は血まみれで壁に背を預け、息を荒げた。

 

「まだ……終わらないよな」高橋が苦笑した。

 

「ええ。父さんが言ってた。北海道は、奪わせちゃいけないって」

 

外ではまだ、戦車の主砲音と機関銃の連射が続いていた。

札幌の夜は、炎と雪混じりの雨の中で、なおも燃えていた。

 

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