1991年8月14日、午前10時。
札幌市・北海道庁舎(占領下)。
ソ連軍のT-80が大通公園に並び、赤い星の旗が北海道庁舎の屋上に掲げられた。
市街戦の残煙がまだ立ち上る中、極東軍管区から派遣された政治将校と、クーデター派が事前に用意していた「北海道解放委員会」の面々が壇上に立っていた。
マイクの前に立ったのは、元北海道大学教授で長年親ソ派として知られていた男、五十嵐徹(58)だった。
彼は震える声で宣言した。
「我々は、帝国主義日本の支配から北海道人民を解放した!
ここに、**極東ロシア人民共和国**の成立を宣言する!
首都は札幌(サッポロ)とする。
ソビエト連邦の同志諸国と密接に協力し、平和と社会主義を建設する!」
広場に集められた民間人(実質的に強制動員)の前で、拍手がまばらに起きた。
ソ連海軍陸戦隊が周囲を囲み、AK-74を構えている。
抵抗を示した者はすでに「反革命分子」として排除されていた。
極東軍管区司令官ノヴィコフ大将の代理として臨席した少将は、満足げに頷いた。
これで「単なる侵略」ではなく、「人民の意志による新国家樹立」という建前が完成した。
モスクワの非常事態委員会も即座にこれを承認する電報を送ってきた。
札幌は、炎と赤旗に染まった。
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**同時刻 函館市・大沼国定公園~函館山周辺**
自衛隊残存部隊と、ようやく到着した米軍先遣部隊が、必死に防衛線を構築していた。
第7師団・第11師団の生き残り約8000名に、第2師団の生き残り約9000名と米海兵隊第3海兵師団の一個旅団(約4,000名)が加わり、函館半島を要塞化。
米軍のM1A1エイブラムス戦車が初めて北海道の土を踏み、F-14トムキャットとF/A-18が上空を常時警戒していた。
高橋拓也は野戦病院のベッドから這い上がり、松葉杖をついて指揮所へ向かっていた。
右肩と背中の傷は深く、歩くだけで冷や汗が出た。
そこに佐々木美咲が現れ、彼の腕を支えた。
「無理しないで……でも、来てくれてありがとう」
美咲はすでに自衛隊の臨時補助員として登録され、89式小銃を肩にかけていた。
二人は函館山の展望台近くの陣地を訪れ、眼下に広がる防衛線を見下ろした。
米軍工兵が急ピッチでトーチカと対戦車壕を掘り、M270多連装ロケットシステムが後方に展開。
自衛隊の75式155mm自走榴弾砲と米軍のM109が並び、火力の壁を形成していた。
米海兵隊大尉(トーマス・レイノルズ大尉)は、高橋に敬礼した。
「Your resistance in Sapporo bought us the time we needed. Thank you.
We will stop them here. This is where the red wave ends.」
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**午後3時20分 函館防衛線最前縁・七飯町付近**
極東ロシア人民共和国軍(実態はソ連極東軍と民間軍事会社)と自衛隊・米軍の初の激突が始まった。
ソ連軍は札幌占領の勢いのまま、約180両の戦車を擁して南下。
しかし函館への道は狭く、米軍のA-10サンダーボルトIIと自衛隊のF-1支援戦闘機による対地攻撃で先頭部隊が壊滅した。
高橋と美咲は後方支援部隊として配置され、対戦車ミサイルの補充と負傷者搬送を担っていた。
前線ではM1A1エイブラムスの120mm滑腔砲がT-80を正面から貫通し、ソ連軍に衝撃を与えていた。
「これが……本物の味方か」
高橋は、圧倒的な火力で敵を押し返す米軍を見て、初めて「勝てるかもしれない」と感じた。
美咲は無言で弾薬箱を運び続け、時折空を見上げた。
赤い星の旗が翻る札幌の空を思い浮かべ、唇を噛んだ。
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**夜 モスクワ 非常事態委員会**
ヤゾフ国防相は報告を受け、複雑な表情を浮かべた。
「極東ロシア人民共和国、成立したか……。
しかし函館で米軍とぶつかったとなると……これはもはや限定戦争では済まん」
クリュチコフKGB議長は冷たく言った。
「核の使用はまだ早い。
ただし、函館を落とせなければ、我々のクーデター全体が瓦解する。
ノヴィコフに全力を尽くせと伝えろ」
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**函館山麓 深夜**
高橋と美咲は、簡易陣地で肩を寄せ合っていた。
遠くで爆発音が断続的に響く。
「札幌が……赤い国になったなんて」
「でも、函館は渡さない。ここで止める。
それが、俺たちにできる北海道の取り戻し方だ」
美咲は高橋の傷ついた手をそっと握った。
夜空には米軍の照明弾が上がり、函館の防衛線を白く照らしていた。
ソ連の進撃は、ここで初めて明確に食い止められた。
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