恋仲にならないと決めていたはずの幼馴染が、記憶喪失になって俺に迫ってきた件について   作:古野ジョン

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プロローグ

 幼馴染の男女が結ばれることはない。どんなに仲が良くても、いつかは別の人間に心を惹かれて、距離が離れていく。

 

 その事実を正面から受け入れられるほど、私たちの心は強くなかった。

 

「あついー! 汗止まんない!」

「ハンカチくらい持っておきなさいよ」

「いいじゃない、二人はこの後プール開放に行くんでしょう?」

 

 小学五年生の夏休み、私たち三人はいつもの公園に集まった。強い日差しに肌という肌を突き刺され、地面からは吹き上がるような熱気を感じる。

 

「それでっ、協定(きょーてい)の話は決まりでいいのっ?」

「いいわよ。別に、航平(こうへい)に告白なんてするわけないもん」

「構わないわ。私から言い出したこともあるし」

 

 車座になってしゃがみこむ私たちの間に、二つのプールバッグが揺れる。夏はまだまだ始まったばかり。

 

「航平にも伝えるんだよね?」

「後で言うって決めたじゃん!」

「大丈夫、きっと航平くんだって理解してくれるわ」

 

 汗の粒が腕を伝っていって、地面に丸い跡を残した。不意に、私たちの前に小指が掲げられる。

 

「はいっ、指切りげーんまーん……」

「三人じゃ出来ないじゃない!」

「じゃあ、みんな手を出して。重ねましょう」

 

 全員の右手が重なり、私たちは顔を見合わせた。

 

「いい? 本当にいい?」

「いいって言ってるでしょ!」

「分かったから。早くして」

 

 今日、私たちは協定を結ぶ。誰の抜け駆けも許さないために。泥棒猫に横取りされないために。

 

「私たちは航平と恋人にならない!」

「告白もしない!」

「みんなでずっと仲良く、ずっと幼馴染でいる」

 

 私たちは幼馴染。小学校に入る前から一緒に時を過ごしてきた。当たり前のように隣同士にいて、ずっと共に歩んできた。これからも、きっと――

 

「じゃあーっ……」

「「「約束っ!」」」

 

 一斉に力を込めて、合わせた手を空に掲げた。眩しい光が飛び込んできて、思わず目を細める。ふと二人の顔が目に入ったけど、どんな感情なのか読み取ることは出来なかった。

 

「これで決まりだねー!」

「言っとくけど、忘れたらただじゃおかないから!」

航平(こうへい)くんのことだもの。忘れるわけないじゃない……」

 

 一人は笑い、一人は怒り、一人は呆れる。私たち三人はてんでばらばら。もし、航平がこの話を聞いたら……どんな反応をするのだろう。

 

「じゃあじゃあっ、もう一個の方も!」

「分かってるってば!」

「はいはい」

 

 私たちはまたしゃがみこむ。ずっとずっとこの先も協定が守られるなんて、本心では思っていない。きっと他の二人も同じ気持ちだと思う。でも、せめて一つだけ。

 

 どうか、永遠に仲の良い幼馴染でいられますように。

 

 この願いが消えてしまわないように、私はそっと心の中に留めたのだった。

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