幼馴染の一人が【泥棒猫】にジョブチェンジしてから、俺の青春が修羅場ってる   作:古野ジョン

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第10話 水と油

「おはよう、航平」

「あ、ああ……おはよう」

 

 秋乃と冬雪が喧嘩した翌朝、昨日と同じように千夏が俺の家までやってきた。けど……髪型がポニーテールに変わっているな。

 

「髪、まとめたんだな」

「あっ、気づいてくれたんだ。変、かな……?」

「いや……似合ってる。見慣れてるからこっちの方がいいよ」

「そっか。良かった!」

 

 千夏はにっこりと笑った。しかし、夏の日差しに負けないくらい眩しい笑顔に照らされても、俺の心はどこか暗かった。

 

「とりあえず行こうか」

「うん、行こっ!」

 

 リュックサックを背負い、玄関の扉をバタンと閉めた俺であった。

 

***

 

「でね、意外とクラスメイトのことは覚えてたんだ。顔を見たら思い出したって言うか」

「へえ……そうか。良かったな」

「それでね、担任の先生が……」

 

 これまた昨日と同じように、二人横並びで大通りの歩道を進んでいく。だけど……どうにも話が頭に入ってこない。

 

「……で、聞いてる?」

「えっ? ああ、そっか」

「聞いてなかったでしょ! も~」

「ごっ、ごめんって……」

 

 千夏は頬を膨らませ、不満そうにこちらのことを見ていた。昨日よりは照れ臭い感じがとれて、記憶を失う前と似たような雰囲気になった気がするな。

 

「なんか今朝から元気ないね。何かあったの?」

「いや、別に……ないけど」

「え~、そうかなあ。話してみてよ」

「いや、その……」

 

 秋乃と冬雪が喧嘩した、なんて言えるわけがない。しかも(細かい理由は分からないが)千夏が原因みたいだし、尚更伝えにくい。

 

「……千夏、秋乃と冬雪のことをどう思う?」

「えっ? なんで急に?」

「教えてくれ。昨日話してみて、二人のことをどう思った?」

「うーん……」

 

 千夏は口元に手を当て、考えてくれている。別にこんなことを聞いたって、喧嘩を止められるわけじゃない。でも……何かのヒントになれば。

 

「不思議だなって思った」

「不思議?」

「秋乃は……制服も改造してるし、やんちゃって感じだけど。冬雪は全く逆だったから」

「うん」

「あの二人が幼馴染同士なんて、不思議だなって思ったの。ギャルと生徒会副会長なんて相性悪そうなのになーって」

「そうか……」

 

 当たり前のように受け入れていたけど、言われてみればそうだ。冬雪は優等生タイプで、秋乃は(問題児とまでは言わないが)不良タイプ。学校で関わり合いがありそうな属性同士ではないな。

 

「うーん……」

 

 昔の記憶を辿ってみる。そもそもどうして秋乃と冬雪は知り合ったんだったかな。二人が直接的に出会うことはなさそうだし。ええと、たしか……。

 

「……そうか、お前か」

「えっ、何?」

 

 左を向くと、千夏がきょとんとして首をかしげた。よく考えれば当たり前の話だ。あの二人はむしろいがみ合うのが自然なのかもしれない。いわば水と油。その二つを混ざり合わせるのは――

 

「……お前、石けんだったんだな」

「えっ? 石けん?」

 

 何のことか分かっていないのだろう、千夏の頭上には疑問符が浮かんでいる。

 

「千夏、頼みがある」

「えっ!?」

 

 俺が右手を掴むと、千夏は驚いたような声を上げた。単純な話だ。幼馴染同士の争いを諫めるのは幼馴染にしか出来ないだろう。

 

「なっ、なに急にっ!? こんなところでっ、そのっ、手を……」

「千夏。お前にしか出来ないことなんだ」

「ふええええっ!?」

 

 千夏は顔を真っ赤にしてうろたえているが、気にしない。俺は真っすぐ目を見据えて、はっきりと告げる。

 

「ちゃんともう一度、俺たちと幼馴染になろう」

「……えっ?」

 

 戸惑う千夏に対して、俺はゆっくりと頷く。少しばかり、夏の風が頬を撫でたような気がした。

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