幼馴染の一人が【泥棒猫】にジョブチェンジしてから、俺の青春が修羅場ってる 作:古野ジョン
「おはよう、航平」
「あ、ああ……おはよう」
秋乃と冬雪が喧嘩した翌朝、昨日と同じように千夏が俺の家までやってきた。けど……髪型がポニーテールに変わっているな。
「髪、まとめたんだな」
「あっ、気づいてくれたんだ。変、かな……?」
「いや……似合ってる。見慣れてるからこっちの方がいいよ」
「そっか。良かった!」
千夏はにっこりと笑った。しかし、夏の日差しに負けないくらい眩しい笑顔に照らされても、俺の心はどこか暗かった。
「とりあえず行こうか」
「うん、行こっ!」
リュックサックを背負い、玄関の扉をバタンと閉めた俺であった。
***
「でね、意外とクラスメイトのことは覚えてたんだ。顔を見たら思い出したって言うか」
「へえ……そうか。良かったな」
「それでね、担任の先生が……」
これまた昨日と同じように、二人横並びで大通りの歩道を進んでいく。だけど……どうにも話が頭に入ってこない。
「……で、聞いてる?」
「えっ? ああ、そっか」
「聞いてなかったでしょ! も~」
「ごっ、ごめんって……」
千夏は頬を膨らませ、不満そうにこちらのことを見ていた。昨日よりは照れ臭い感じがとれて、記憶を失う前と似たような雰囲気になった気がするな。
「なんか今朝から元気ないね。何かあったの?」
「いや、別に……ないけど」
「え~、そうかなあ。話してみてよ」
「いや、その……」
秋乃と冬雪が喧嘩した、なんて言えるわけがない。しかも(細かい理由は分からないが)千夏が原因みたいだし、尚更伝えにくい。
「……千夏、秋乃と冬雪のことをどう思う?」
「えっ? なんで急に?」
「教えてくれ。昨日話してみて、二人のことをどう思った?」
「うーん……」
千夏は口元に手を当て、考えてくれている。別にこんなことを聞いたって、喧嘩を止められるわけじゃない。でも……何かのヒントになれば。
「不思議だなって思った」
「不思議?」
「秋乃は……制服も改造してるし、やんちゃって感じだけど。冬雪は全く逆だったから」
「うん」
「あの二人が幼馴染同士なんて、不思議だなって思ったの。ギャルと生徒会副会長なんて相性悪そうなのになーって」
「そうか……」
当たり前のように受け入れていたけど、言われてみればそうだ。冬雪は優等生タイプで、秋乃は(問題児とまでは言わないが)不良タイプ。学校で関わり合いがありそうな属性同士ではないな。
「うーん……」
昔の記憶を辿ってみる。そもそもどうして秋乃と冬雪は知り合ったんだったかな。二人が直接的に出会うことはなさそうだし。ええと、たしか……。
「……そうか、お前か」
「えっ、何?」
左を向くと、千夏がきょとんとして首をかしげた。よく考えれば当たり前の話だ。あの二人はむしろいがみ合うのが自然なのかもしれない。いわば水と油。その二つを混ざり合わせるのは――
「……お前、石けんだったんだな」
「えっ? 石けん?」
何のことか分かっていないのだろう、千夏の頭上には疑問符が浮かんでいる。
「千夏、頼みがある」
「えっ!?」
俺が右手を掴むと、千夏は驚いたような声を上げた。単純な話だ。幼馴染同士の争いを諫めるのは幼馴染にしか出来ないだろう。
「なっ、なに急にっ!? こんなところでっ、そのっ、手を……」
「千夏。お前にしか出来ないことなんだ」
「ふええええっ!?」
千夏は顔を真っ赤にしてうろたえているが、気にしない。俺は真っすぐ目を見据えて、はっきりと告げる。
「ちゃんともう一度、俺たちと幼馴染になろう」
「……えっ?」
戸惑う千夏に対して、俺はゆっくりと頷く。少しばかり、夏の風が頬を撫でたような気がした。