幼馴染の一人が【泥棒猫】にジョブチェンジしてから、俺の青春が修羅場ってる   作:古野ジョン

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第7話 冬雪の返答

「なっ、なんであんたがその話を知ってるのよっ!!!?!!!?」

 

 秋乃は顔を上気させて立ち上がっていた。一方で、千夏は何事もなかったかのように話を続ける。

 

「さっき冬雪から聞いたんだ。秋乃が昔ラブレターを書いてたって」

「千夏、冬雪と会ったのか?」

「さっきお昼ご飯に誘いに行ったの。でも『生徒会の用事がある』って断られちゃった」

「なるほどな」

 

 それで冬雪と会話を交わしたというわけか。しかし……秋乃からラブレターを貰った記憶などない。本当に、何かを勘違いしているんじゃなかろうか。

 

「それで秋乃、いったい何の話なんだ――」

「ちっ、違うからねっ!? あんたにラブレターなんか書いたことないからねっ!?」

「じゃあやっぱりっ、秋乃も航平のことは好きじゃないんだ」

「えっ!? そっ、それはっ……」

「そっかー。良かった!」

 

 千夏はニッコリとほほ笑み、動揺する秋乃のことを眺めていたのだった。

 

***

 

「……なんてことがあってさ。お前、千夏に何を吹き込んだんだ?」

「別に。昔話を教えただけよ」

 

 その日の放課後。例によって冬雪に手伝いを頼まれたので、俺は生徒会室でパソコンをいじくっていた。ちなみに千夏は、検査で病院に行くとかで先に帰ってしまっている。

 

「でも安心したよ。千夏が俺たちとまた仲良くしてくれるみたいで」

「そうね。それに、意外と記憶が戻るのも早いかもしれないわよ」

「そうなのか?」

「クラスのうち何人かのことは覚えていたらしいのよ。思ったより記憶が失われたのは限定的な範囲かもしれないわ」

 

 家族のことも覚えていて、クラスメイトも一部しか忘れていなかった。それなのに――俺たち幼馴染についての記憶は完全に失われているとはな。

 

「何も俺たちのことだけ忘れなくてもいいのに」

「仕方ないわ。きっとじっくり付き合っていけば思い出してくれるわよ」

 

 隣の席で書類仕事をする冬雪が淡々と答えた。ふと横を見れば、今朝と同じのポニーテール姿。

 

「なあお前、ずっとその髪型にするつもりなのか?」

「別にいいじゃないの。だめかしら?」

「だめじゃない、けど……」

「けど?」

「髪を下ろしてる方がお前らしいよ。慣れてるし」

「……あなたがそう言うなら、考えておくわ」

 

 一瞬だけ、冬雪が言葉に詰まったように見えた。

 

 しかし今日は本当になんだったんだろう。千夏は照れ照れだし、秋乃は背負い投げしてくるし、冬雪もなんだか距離が近いし。コイツ、普段は隣になんか座ってこないのにな。

 

「協定……」

「あら、どうしたの?」

 

 ぼそっと呟いたところ、冬雪が不思議そうにこちらを覗き込んできた。そうだ、今朝の秋乃に言われたことがまだ謎のままだった。裏協定。俺の知らない約束があるというのだろうか。

 

「なあ冬雪。俺たちって幼馴染だよな」

「ええ、もちろん。いつまでもずっと仲良しの幼馴染よ」

「幼馴染には隠し事があっちゃいけないよな」

「……? まあ、理想を言えばそうかもね」

 

 なんだか含みのある言い方だな。そりゃもちろん、幼馴染だからって全てを明かせとは言わないけどさ。十数年も一緒に付き合ってきたんだから、あんまり水くさい真似をされるのは悲しいからな。

 

「なあ冬雪。お前は協定についてどう思う?」

「藪から棒ね。まあ、必要だとは思うわよ」

「なぜだ?」

「私たちの仲を守るためよ。あなたにもそう言ったはずじゃない」

 

 そんなことは俺だって分かっている。俺が三人の誰かと恋仲になって、関係が壊れてしまう。そんなことは望んでいないのだから。

 

「そうだよな。俺たち、ずっと仲の良い幼馴染でいたいもんな」

「何よ、本当にどうしたの? 道徳の教科書みたいなことを言い出して」

「もしもだけど。もし、誰かが協定を破ろうとしたらどうする?」

「……そうね。全力で止めると思うわ」

「俺たちの関係を守るためか?」

「当たり前でしょ。何度も同じ話をさせないで」

 

 これじゃいつまで経っても堂々巡りだ。だったら単刀直入に切り込んだ方がいい。

 

「じゃあ、ひとつ教えてくれ」

「何?」

 

 俺はすうっと息を吸い込んだ。もしかしたら冬雪は教えてくれないかもしれない。ひょっとして、俺が知ってはいけないことなのかもしれない。それでも――自分の知らない約束があると分かった以上、聞かないわけにはいかないんだ。

 

「『裏協定』って、何なんだ?」

 

 キッと視線を向けると、冬雪は一瞬だけ驚いたように目を見開いた。しかしすぐさま微笑を浮かべて、じっとこちらの目を見つめる。

 

「……冬雪?」

「知りたいなら教えてあげるわ。聞かれた以上、答えるのも当然だものね」

「冬雪、いったいお前は――」

 

 何を言い出そうとしているんだ、なんて言葉を紡ごうとした瞬間だった。冬雪はすっと俺の耳元に顔を寄せ、小さな声で――一言。

 

「高校三年生の終わりに、あなたに三人の誰かを選んでもらう。それが『裏協定』の正体よ」

 

 ――俺たち四人の時間が、動き始めた瞬間だった。

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