幼馴染の一人が【泥棒猫】にジョブチェンジしてから、俺の青春が修羅場ってる   作:古野ジョン

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第8話 雪女

「高校三年生の終わりに、あなたに三人の誰かを選んでもらう。それが『裏協定』の正体よ」

「……は?」

 

 青天の霹靂、というほかなかった。三人の誰かを選んでもらう、という言葉の意味はすぐに呑み込めなかったけど、それでも今ある「協定」をひっくり返すようなことなんだと理解することは出来た。

 

「ちょっ、ちょっと待てよ。協定はどうなったんだよ」

「だから『裏協定』だと言っているじゃない。()とは反対になるに決まっているわ」

 

 冬雪はゆっくりと顔を離すと、意味ありげにほほ笑んだ。俺が三人の誰とも恋仲にならない、というのが協定の趣旨だったはず。その裏ということは――

 

「……俺がお前らの中から一人だけ恋人を選ぶ、ってことなのか」

「そうよ。選り取り見取り、まったく羨ましい立場だわ」

 

 静まり返った生徒会室で、ただただ呆然とするしかない。今まで三人の誰とも恋人になんかなるつもりじゃなかったし、これからもずっとそうなんだと思ってきた。だから……今更そんなことを言われても、というのが正直な気持ちだった。

 

「失礼しまーっす」

 

 その時、生徒会室の扉がバタンと開いた。反射的にそちらの方向に視線を向けると、そこに立っていたのは書類を抱えた秋乃。何やら部活の資料を持ってきたらしい。

 

「……って、航平もいたのね。あんたら隣同士で何やってんのよ」

「あら秋乃ちゃん、文芸部の書類かしら」

「そうよ。副会長様に提出しないといけなかったから」

 

 秋乃はスタスタとこちらに歩み寄ってきて、冬雪の前に書類を置いた。

 

「で、これが予算の書類で。こっちが部室の……」

「ええ、ええ……」

 

 二人が事務的な会話を交わしているので、俺は一人で考える時間を得る。それにしても、裏協定か。千夏や冬雪はともかく、秋乃は俺のことなんか好きでもなんでもないという姿勢だし。俺が「恋人に選ぶ」なんて偉そうなことを言える立場じゃないと思うんだけどな。

 

「……何よ航平。あんたなに考えてんの」

「えっ?」

「航平くんのことなら気にしないで。それより秋乃ちゃん、書類はこれで終わりかしら?」

「あっ、うん。……そうそう、ふゆったら千夏に変なこと吹き込んだでしょ」

「えっ? 何のことかしら」

「とぼけないで。あんたねえ、何のつもりなのよ」

「何って……秋乃が正直になるお手伝いをしようと思っただけよ」

「よっ、余計なお世話よ」

 

 ……あれ? 気を抜いてる間に何か不穏な空気になっている気がする。いつもはもっと仲の良い二人なのに。

 

「でもね秋乃ちゃん、いずれこうなることは分かっていたじゃない」

「だとしても協定は協定よ。破ったらどうなるかは分かっているんでしょうね」

「私こそ、裏協定のことを忘れたとは言わせないわよ」

「あっ、あんた……! 航平の前でそれはっ……!」

 

 冬雪の冷たい視線を受けて、秋乃はおろおろと動揺している。どうしたものかと困っていると、冬雪はさらに淡々と話を続けた。

 

「あら、何か問題が? たった今、私が航平に裏協定のことを説明したばかりよ」

「はあっ!? あんたっ、それっ……!」

「これでイーブンね。今日から私たちは――」

「舐めてんじゃないわよこの雪女あああああっ!!!!!」

「ええええええええっ!!!?!!!?」

 

 次の瞬間、俺は――冬雪の胸ぐらをつかんで持ち上げる、恐ろしい顔をした秋乃の姿を見たのであった。




多忙のため今日はちょっと短めです。
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