幼馴染の一人が【泥棒猫】にジョブチェンジしてから、俺の青春が修羅場ってる 作:古野ジョン
「高校三年生の終わりに、あなたに三人の誰かを選んでもらう。それが『裏協定』の正体よ」
「……は?」
青天の霹靂、というほかなかった。三人の誰かを選んでもらう、という言葉の意味はすぐに呑み込めなかったけど、それでも今ある「協定」をひっくり返すようなことなんだと理解することは出来た。
「ちょっ、ちょっと待てよ。協定はどうなったんだよ」
「だから『裏協定』だと言っているじゃない。
冬雪はゆっくりと顔を離すと、意味ありげにほほ笑んだ。俺が三人の誰とも恋仲にならない、というのが協定の趣旨だったはず。その裏ということは――
「……俺がお前らの中から一人だけ恋人を選ぶ、ってことなのか」
「そうよ。選り取り見取り、まったく羨ましい立場だわ」
静まり返った生徒会室で、ただただ呆然とするしかない。今まで三人の誰とも恋人になんかなるつもりじゃなかったし、これからもずっとそうなんだと思ってきた。だから……今更そんなことを言われても、というのが正直な気持ちだった。
「失礼しまーっす」
その時、生徒会室の扉がバタンと開いた。反射的にそちらの方向に視線を向けると、そこに立っていたのは書類を抱えた秋乃。何やら部活の資料を持ってきたらしい。
「……って、航平もいたのね。あんたら隣同士で何やってんのよ」
「あら秋乃ちゃん、文芸部の書類かしら」
「そうよ。副会長様に提出しないといけなかったから」
秋乃はスタスタとこちらに歩み寄ってきて、冬雪の前に書類を置いた。
「で、これが予算の書類で。こっちが部室の……」
「ええ、ええ……」
二人が事務的な会話を交わしているので、俺は一人で考える時間を得る。それにしても、裏協定か。千夏や冬雪はともかく、秋乃は俺のことなんか好きでもなんでもないという姿勢だし。俺が「恋人に選ぶ」なんて偉そうなことを言える立場じゃないと思うんだけどな。
「……何よ航平。あんたなに考えてんの」
「えっ?」
「航平くんのことなら気にしないで。それより秋乃ちゃん、書類はこれで終わりかしら?」
「あっ、うん。……そうそう、ふゆったら千夏に変なこと吹き込んだでしょ」
「えっ? 何のことかしら」
「とぼけないで。あんたねえ、何のつもりなのよ」
「何って……秋乃が正直になるお手伝いをしようと思っただけよ」
「よっ、余計なお世話よ」
……あれ? 気を抜いてる間に何か不穏な空気になっている気がする。いつもはもっと仲の良い二人なのに。
「でもね秋乃ちゃん、いずれこうなることは分かっていたじゃない」
「だとしても協定は協定よ。破ったらどうなるかは分かっているんでしょうね」
「私こそ、裏協定のことを忘れたとは言わせないわよ」
「あっ、あんた……! 航平の前でそれはっ……!」
冬雪の冷たい視線を受けて、秋乃はおろおろと動揺している。どうしたものかと困っていると、冬雪はさらに淡々と話を続けた。
「あら、何か問題が? たった今、私が航平に裏協定のことを説明したばかりよ」
「はあっ!? あんたっ、それっ……!」
「これでイーブンね。今日から私たちは――」
「舐めてんじゃないわよこの雪女あああああっ!!!!!」
「ええええええええっ!!!?!!!?」
次の瞬間、俺は――冬雪の胸ぐらをつかんで持ち上げる、恐ろしい顔をした秋乃の姿を見たのであった。
多忙のため今日はちょっと短めです。