ドラえもんがやってきた。
俺がドラえもんと初めて出会ったとき、俺の中にとてつもないほどの喜びとワクワクの感情が渦巻いていた。だってドラえもんだぜ?日本国民ならば誰もが知っているあのドラえもんが今、身の前にいるんだ。
この状況で興奮しない人間はいるだろうか?俺はいないと断言できる。あのドラえもんが目の前にいるという状況でも平静を保てるやつがいるとすれば、それは全くドラえもんを見ずに人生過ごしてきた絶滅危惧種にも等しい人種だけだろう。
そんな思いが胸中を占める中、ドラえもんが俺に話しかけてきた。
「やあ。僕ドラえもん。未来の世界から来たんだ。よろしくね」
「よ、よろしくお願いしますッッッ!?」
「?なんで敬語なの?」
「あ、い、いや初対面の人には敬語を使えと親から……」
(しまった~!ついかしこまりすぎて敬語を…ッ!)
「?まあいいや。よろしく!」
「こ、こちらこそよろしく。ドラえもん…」
そういってドラえもんと握手を交わす。うわ、ほんとに手ツルッツルだな。
♢
ドラえもんがやってきてからおよそ1か月が経った。
それで何か変わったかと聞かれれば……
「のび太さんにいじわるすると、私が許しませんッ!」
「「うわぁぁぁぁぁっ!」」
「ちょっと!何もそこまでしなくても」
変わりすぎだよ……
以前までも色々と濃い人たちに囲まれていて退屈しなかったが、ドラえもんが来て以降、比較にならないほど町が騒がしくなった。
この前はころばし屋によってジャイアンとスネ夫をはじめとしていろいろな人が転ばされていたし(自分含む)
さらにその前は自然観察プラモシリーズによってスネ夫の家が恐竜に破壊されていたし
そうそう、一週間前は声紋キャンディー製造機で作ったキャンディーをなめたジャイアンが、色々あってテレビ出演を果たし、全国のお茶の間にあの悪魔の歌声を響かせるという国家存亡の危機ともいえる事件が発生した。
まだドラえもんが来てたった1ヶ月だが、体感的にはとてつもなく濃密な1ヶ月だった。
確かに退屈はしないが、こうも絶え間なくイベントが押し寄せると疲れの方が上回ってくる。
ちなみに先ほど暴れまわっていたのはかの有名なロボ子である。
♢
「最近宇宙ターザンつまんなくなったよな~」
「そうそう。セットとかいかにも低予算丸出しで~」
僕です。守です。
そろそろドラえもんのいる日常にも慣れてきた。
ただいまジャイアンとスネ夫と駄弁りながら歩いてます。
「守はどう思うよ。宇宙ターザン」
今2人が話している宇宙ターザンとは、ドラえもんの世界で放送されている特撮ヒーロー番組である。ちなみにネットでよく見る「みんな不人情だ。ほんとのファンなら落ち目の時にこそ応援しなくちゃ」とのび太が言っているコマは、この宇宙ターザンの回が元ネタである。
「俺はセットより脚本に不満があるよ。あれじゃ子ども向けじゃなくて子ども騙しだよ」
宇宙ターザンを応援しているのび太には悪いがこれは譲れない。この世界に来てみて実際に宇宙ターザンを見てみたが、あれは子ども向けとは思えないほどの強烈なメッセージ性のある作品だった。あれは子どもたちが熱中するのもわかる。
そう思っていたのだが、ここ数ヶ月はストーリーも絵作りも以前より劣化してしまっている。普通に楽しみにしていたのに非常に残念だ。
「ん?あれドラえもんじゃね?」
「ほんとだ」
そうして歩いていると、ドラえもんが向こうから走ってきた。
何やらすごく慌てている。
「どうしたんだ?ドラえもん」
「のび太くんが、裏山で遭難しちゃったんだよ!」
そういって走り去っていこうとするドラえもん。
のび太が裏山で遭難…?
そんな回があったような…。
ドラえもんが好きだと言っても、アニメはさすがに話数が多すぎて1つ1つをしっかり覚えているわけじゃないんだよな。もう転生して10年以上経ってるし。
「……! ちょっと待ってよドラえもん!」
そういってドラえもんを呼び止めるスネ夫。
「な、なに?」
「これこそ僕たちが求めていた冒険とスリル!行くぞ!のび太を探しに!」
そういうスネ夫、ジャイアンも乗り気のようだ。
そういえばここ最近、退屈だのスリルと冒険を楽しみたいだの言っていた気がするな。
それはそうとこのエピソード…もしかしてあれか?
のび太救出決死探検隊。
要約すると、小さくなってラジコン飛行機に乗って遊んでいたのび太が、そのまま裏山に墜落して、他の4人でのび太を助けに行くというストーリーだったはずだ。
♢
「よしドラえもん。ガリバートンネルを出してよ」
「?なんで?」
「のび太が小さくなったんなら、僕たちも小さくなった方が探しやすいでしょ!」
「わ、わかった…」
スネ夫の圧に負けたなドラえもん。
まあ冒険がしたいって気持ちもわからなくはないけど。というかいつの間にかしずかちゃんまでいるし。
でも、これはちょうどいい機会だ。
実は俺は以前から、この世界で確かめてみたいことがあったのだ。
というのも、この世界にいわゆる
修正力というものは、この世界のもとの流れ(この場合原作やアニメのストーリーだ)から逸脱しそうになった時、世界がもとの流れに戻そうと働きかけてくる力のことだ。それがこの世界で機能しているか試す必要がある。なぜ必要なのかというと、映画などは対応を間違えると命の危険や世界の危機に陥る可能性がある。そしてもし修正力というものがこの世界で働いていないならば、俺が介入した結果、世界が滅ぶということもあり得るのだ。
もし修正力が働いていないならば、そのような結末を避けるためにも、介入を制限する必要がある。
そして、どうやって修正力があるかどうか確認するかだが、それについては簡単だ。
「のび太を探すならたずね人ステッキを使ったら?」
このように、その状況に応じて最適解の道具を使えと示すだけだ。ドラえもんを見ていて、誰しもが思ったことがあるだろう。「この道具使えば一瞬で解決しない?」と…
それを実践してみるだけだ。この結果によって修正力が働いているかどうか判別できる。
「……?たずね人ステッキって……。ああ!なるほど!ドラちゃんが前に使ってた杖みたいなやつね」
さて、どうなる?
「だめだめ!せっかくの冒険が台無しじゃないか」
「そうだぞ!お前には男のロマンというものがわからないのか!」
やっぱりこうなるよな。
まあ2人の気持ちはわかるよ。俺もどうせなら大冒険を経験してみたいし。でもなぁ~
俺が映画の冒険についていくことができるかに関わる重要な事なんだ。きわめて自分本位な考え方だが、分かってくれ2人とも。
「気持ちはわかるよお二人さん、でもよく考えてくれ。いまの俺たちは5cmにも満たない存在だ。そんな状態じゃカエルやトカゲのような爬虫類やネズミなどの小動物、それどころか昆虫よりも脆くて弱い生物だ。」
「もしそんな状態で今言った生物や昆虫に出くわしたらどうなると思う?」
「ドラえもんがついてる俺たちはともかく、のび太はひとたまりもないぞ!」
「もしかしたら、今もうすでにそんな状況に陥ってるかもしれないんだ!」
「2人だって、のび太を見つけたら時すでに遅し、なんてことは避けたいだろ?」
今喋っていることは2人を説得するためでもあるが、もう半分は本心だ。ドラえもんが来て1ヶ月と少し経ったが、こんな命がかかった冒険は初めてなのだ。のび太が本当に無事か不安でしょうがない。
「た、確かに…」
「なんだスネ夫、怖気づくんじゃねえぜ!のび太だってああ見えて結構しぶといヤロウだしな!」
まあ実際それはそうなんだよな。ひみつ道具ありきとはいえ無人島で10年1人で生き延びてるわけだし
「いやッ!ここは絶対にのび太の救出を優先すべきだ!そう思うだろしずかちゃん」
「え?ええそうね。のび太さんが心配だわ。守さんがいった通りになってるかもしれないし」
ただここはジャイアンを説得しなければならないので、強引に折れさせるため多数決に持っていく。
「ちぇ~。しずかちゃんまでそういうならわかったよ。まあのび太も心配だしな」
よしッ!これであとはたずねびとステッキで…
「意見がまとまったとこ悪いけど、あれはレンタル品だから今持ってないよ」
「え゛⁉」
まじかよ…
けど、原作やアニメでもドラえもんの道具はレンタルや使い捨てが多いとは言われていたな…
それじゃあ…
「それなら○×占いとかスパイ衛星カメラは持ってる?」
「ごめん。それもちょっと…」
まじかよ。思っていた以上に常備している道具が少ないぞ……
まさか修正力が働いてるのか…
「ねえ。今気づいたんだけど、どこでもドアを使えばいいんじゃないかしら」
「「あ」」
♢
「遅いよ~ドラえもん。」
「いや~ごめんごめん」
あのあと、どこでもドアを使い無事にのび太を見つけ出した。
「あーあ。せっかくの冒険の機会だったのにな~」
「もったいねぇことしたよなー」
「まあそう言わないで。また機会はあるよ。」
まあすぐに訪れるだろうけどね。
それにしても、盲点だったな。まさかどこでもドアとは。
ファン目線として、ニッチな道具や概念系の道具で解決しようとばかり思っていたけど、そういう思考だとメジャーどころの道具が思い浮かばないか…
もっと道具の知識を深めて視野を広げるべきだ。今度ドラえもんに手伝ってもらおう。
それはそうと、今回の収穫は大きかったな。
まず、原作やアニメで登場した道具は常備しているわけではないということ。まあこれは原作やアニメで触れられているから可能性として考えてはいた。キツイことに変わりはないけど……。よくファンの間で言われているように、ソノウソホントやあらかじめ日記などの概念系を出せば楽に終わるということはなさそうだ。
一方、どこでもドアを使って一瞬でエピソードが終わったということは、修正力というものが働いているわけでもないようだ。
すなわち、使える道具が限られる中で、どう動くかわからない映画ボスたちを対処しなければならないということだ。
……ハードモードにもほどがあるだろこれ……
あまり言われないが、映画ドラえもんのボスキャラは本当にヤバい。
平気で人類を絶滅させたり、惑星1つ滅ぼすようなやつがいる。
こんな奴らを道具が限られている中で、おまけに映画どおり行動するか定かじゃない状況で対処する必要がある。
どうしようか…
まあプラスに考えれば、修正力が働いていないということは道具を使ってRTAのごとき速さで事件を解決することもできるということだ。
……道具が制限されている中でできるのかという話だが……
こうなってくると、そもそも俺が介入しないという選択肢も出てくるな。いやすごく嫌だけど。
命や世界の平和には変えられない。それらを犠牲にしてでも冒険を味わいたいと思うほど、俺は度胸もないし傲慢でもないのだ。
まあ映画に介入するかどうかはまた後日考えよう。今日は初めての冒険で疲労がたまっているせいか頭が回らない。
明日以降のことは明日以降の俺にまかせよう……
♢
翌日
今日はスネ夫の家に呼ばれた。またどうせ自慢だろう。
そう思いたいのだが、なぜかとても胸騒ぎがしてくる。悪い予兆じゃないといいけどな……
♢
「僕たち人類が、この地球上に出現するはるか以前の話。ざっと1億年も昔の時代。
まぁ、とにかくすっご~く大昔の白亜紀と呼ばれる時代。地上は恐竜の天下だったわけ」