のび太の恐竜
「僕たち人類が、この地球上に出現するはるか以前の話。ざっと1億年も昔の時代。
まぁ、とにかくすっご~く大昔の白亜紀と呼ばれる時代。地上は恐竜の天下だったわけ」
……
「それで~…」
「おいスネ夫!前置きなげぇぞ!なあしずかちゃん。」
「え?えぇ…」
……
「早くすっげぇーもん見せろよ」
「見たい!見たい!」
「ちょっと待ってよ。この前置きが大事なんだから。まあとにかく、その大恐竜時代の王者がこのティラノサウルス!」
そういった後、スネ夫が部屋を離れたかと思えばすぐに戻ってきた。
手には何か箱のようなものを持っている。
「じゃーん。ティラノサウルスのツメの。パパのアメリカ土産なんだ。」
そういってスネ夫が見せびらかしたのは、何か灰色の物体だ。スネ夫が言うにはティラノサウルスのツメの化石らしい。
「これが大昔には生きて動いてたってわけか。」
「こうやって眺めてると、その時代が目に浮かぶようねぇ」
ジャイアンとしずかちゃんはそう言って、うっとりとしたような、感動したような表情を浮かべ、それぞれ感想を述べている。
はい。現実逃避するのもやめにしよう。
……完っ全にのび太の恐竜の冒頭シーンですねありがとうございます。
なんでこれから映画の対策を練っていこう決心した翌日に来るかな~。
まあそれはそれとして、映画のワンシーンを体験しているという感動も多いにある。
やっぱり1ファンとしては、伝説的第1作目ののびたの恐竜、その物語が始まる瞬間に立ち会えたという喜びは大きい。
それにのび太の恐竜は結構作中で時間が経っている描写がある映画だ。
そして物語が本格的に動き出すのは、ピー助を白亜紀にタイムマシンで送り届けてからだ。つまり、のび太がピー助の卵を発掘してから、ピー助を送り届けるまでの期間猶予がある。その間に介入するかどうか結論を出せばいい。
俺がそう考えをまとめたところで…
「はい守さん。」
俺にも順番が回ってきた。俺はそれを受け取る。
「おおおおお~!」
恐竜の生の化石なんてほとんど見たことないから感動するな。
まあいまの俺は他の2人のように、化石に思いを馳せる余裕なんてないわけだが。
「次僕ッ!見せて~!
のび太が見せてとせがんでくる。
俺はそれに答えて渡そうとすると…
「はい。おしまい。しまっとこー。壊されても困るし。」
そういったスネ夫は俺の手から化石を取り上げ、部屋の奥に入っていった。
♢
その後は映画通り、スネ夫に対抗心を燃やしたのび太が「恐竜まるごとの化石を発掘して見せる!」と豪語し、急いで家に帰っていった。
俺はというと、あの後すぐ家に帰り、今後の方針をどうするか考えていた。
要は、映画に介入するかどうかだ。
数時間ほど考えた結果、ひとまずのび太の恐竜には介入しない方針でいこうと思う。
やはり初めての映画なのだから、慎重に動くべきだ。それに映画のストーリーはこの先何十回と起こるのだ。映画に介入するチャンスはまた後々やってくる以上、心構えや準備ができていない状態で介入するのは得策ではない。俺が介入しなければ、映画のストーリーどおりに事が進んでくれるハズだ。
そう方針を固めたところで、俺は先程浮かんだ1つの疑問に答えを出すため再び思考に沈んでいった。
♢
あれからおよそ1週間が経過した。
その間、身の回りには特に変わった様子は見られなかった。
いつもならば、2、3件ほどのび太やひみつ道具絡みの事件が起きているはずだが、映画のストーリーが進行中だからか、そのようなことは起きていない。
おそらく現在、のび太がピー助の世話に奔走している頃だろう。ピー助が生まれる感動的なシーンに立ち会えなかったことは残念だが、介入しないと決めた以上それは叶わない。そもそも、介入すると決めた場合でも今の段階では積極的に関わりはしなかっただろう。俺は映画の冒険を味わいたいとは思っているが、人物の関係性にまで首を突っ込もうとは考えていない。ピー助と仲を深めるのはのび太であるべきだと思っているし、それは他の映画の人物でも同じだ。そこの友情に部外者である俺が踏み込もうとは思わない。
ところで、俺には今新たな悩みの種がある。いや、疑問といった方がいいか……
それは介入しないと決めた日から考えていたことだ。
すなわち、この世界線は
ドラえもんのリメイク映画は、旧作と大幅に変更されている作品も多い。つまり旧作かリメイクかで対処法が変わるのだ。もしくは大長編ということもあり得る。これに関しては一晩中考えたが、結局物語の本筋に介入してみないと分からないということで、考えるのをやめた。一応みんなの声は新声優の方なのだが、だからと言ってリメイク版ではない可能性だってある。それに俺が介入して流れが変わってしまったら、そもそも判別は不可能だ。だからみんなが冒険から帰ってきた後、どんな冒険をしてきたか聞こうと思っている。その内容から、旧作かリメイク版か判別するつもりだ。
♢
あれからさらに1ヶ月が経った。
「ほんとうだって~。実際に見たって人もいるのよ」
「あり得ないわよ。公園の池に怪獣がいるなんて。第一あそこでずっと生息してたんなら、なんで今まで見つかってないわけ?」
「だから騒ぎになってるんじゃない!」
いま町では、公園の池に怪獣がいるともっぱら噂になっている。
このようにクラスでもこの噂で持ち切りだ。
…十中八九ピー助だろう。
今のところ映画通りの流れで安心している。
さてそろそろ家に帰るか…
「ああ猪狩。ちょっといいか。」
「はい?何ですか」
先生に呼び止められた。
……なんかやらかしたっけ?
「野比に休んでいた分のプリントを届けてほしくてな。今日渡し忘れてしまってな」
ああなるほど。映画でものび太が風邪で寝込んでいる描写があったし、実際ここ二日ほど休んでいた。
「わかりました。下校する際についでに届けます」
「ああ、すまないな」
まああんまり映画機関の間はのび太と接触したくないんだけど、これくらいならいいだろう。すぐ済むし。
♢
のび太の家に着いた。
みんなご存知のあの家だ。最初の頃はこの家に遊びに行くたびにテンション上がってはしゃぎまくってた。まあさすがに今は慣れたけど、それでも感慨深いものがある。
ピンポーン
…
「誰も出ないな…」
そう思っていると声が聞こえてきた。
「な~に~。誰ですか」
のび太のママの声だ。台所の方から聞こえてくる。
「すいません。守です。プリント届けに来ました」
「あらそう。わかったわ。でもいまちょっと手が離せないから直接のび太に渡してあげて」
今夕方だしな。夕飯の準備でもしているんだろう。
のび太のママにそう言われ、家に上がってのび太の部屋へ歩く。
今あんまのび太には会いたくないんだけどな。まあプリント渡してさっさとずらかろう。
そう考えているうちに部屋に着いた。
ガチャッ
「のび太、プリント……」
俺の目の前には黒いマスクをした大男が立っていた。
♢
のび太side
最近、公園の池に怪獣が棲んでいるって、町中のうわさになってる。
このままじゃ、ピー助のことがバレるのも時間の問題だ。スネ夫に見せびらかすためにホントはもっと大きくなってからにしたかったけど、もう限界だ。このままじゃピー助のことがバレる。
そう焦った僕は、急いで公園まで行こうとして…
「へ?う、うわぁッ!」
部屋に空いた裂け目から、黒マスクの大男が出てきた。
「お、おじさん、だれ……ッ」
すると、黒マスクの男は答えた。
「私がだれでどこから来たか、それはこの際関係ない。まして要件に時間をかけるつもりもない」
「単刀直入に言おう。君は首長竜を飼っているね?」
「ッ⁉」
「ピ、ピー助のこと?」
なんでピー助のことを知って……。あれは僕とドラえもんしか知らないはず……ッ!
「ピー助に何の用…?」
「単純さ。欲しいんだよ……」
「もちろん、好きなだけ代金は払うよ…」
「そ、それってピー助を売れってこと…?」
すると黒マスクの男はにやけた顔で
「そういうこと……」
そ、そんなこと受け入れられるもんかッ!
「お、お断りッ!ピー助は白亜紀の海へ…」
「オイッッ!!あまり私を怒らせるなよ…。その気になったらすぐにでも奪いとれる…」
ガチャッ
「のび太、プリント…」
♢
……
この世界に転生してから今まで、不都合な事実や困難に直面しては頭を悩ますことが多かった。
だが、今までのそんな悩みもこの状況に比べたらなんてちっぽけな困難だったんだろうか…。そう実感するよ……。
なんでこの場面に出くわすんだよッッ⁉
このシーンがあったことは覚えていたが、そんな鉢合わせはしないだろうと高をくくっていた。
今、そんな数十秒前までの自分をぶん殴りたい気分だよ……ッ
「あ…ま、守ッ!」
「おや、のび太君のお友達かな?」
クソッ‼まじにマズイ状況だッ!どうする…?この状況…
のび太は現段階では交渉相手だ。殺すことはしないだろう。だが俺は……。
ただの目撃者であるこの俺を生かしておくとは思えない。
ドラえもんもいない。スペアポケットの位置までは遠い。
……詰んだか?
「に、逃げてッ⁉」
「オォ~。自身よりも先に友を慮る友情。首長流が大層懐くだけはある」
「だがのび太君、君は災難な子だねぇ。何せ
友達が1人減ってしまうんだから」
黒マスクが俺に銃を突きつけた。
……ヤバい。足が動かない。……こ、これ、恐怖で動かないのか……?
足だけじゃない……。口も、体の全身が動かない…。
あ、甘く見ていた。油断していたつもりじゃなかったが、心のどっかで軽く見ていた…。
ドラえもんにおける危機ってやつを…。
どうせドラえもんが何とかしてくれる。心のどこかでそう考えていた…。
そのツケが回ってきたってことか……。
でもまだ1作目だぞ…。まだ死にたくねぇよ。でもだめだ。身体が動かない。
黒マスクが引き金を引くその瞬間、
ドカンッ‼
とてつもない衝撃が俺の体を襲った。