翌日、ドラえもんが早朝にタイムパトロール本部に行ってきたらしい。その結果、俺たちには護衛が付くことになったそうだ。
…それだけかと思わなくはないが、そもそも恐竜ハンター自体は前から足取りを追っていたんだろうし、これぐらいしかできないわな。
よって、俺がドラえもんに付きっきりでいる必要もなくなった。…まあ今更ドラえもんから離れたところでもう手遅れなわけですが。
そんな中、俺が自室で今後について考えを巡らしていると…
ジリリリリリリリ…
目覚まし時計のような音が部屋中に響き渡った。
「!?まじか、さっそく役に立つとは!」
今音を鳴らしているのは「虫の知らせアラーム」だ。セットした人にとって悪い事態が起こる、または起こりそうなときに知らせてくれる。優れモノだ。想定外のことが起こっているか察知できるように、ドラえもんから借りておいたのだ。
こんなタイミングだ。ピー助や恐竜ハンター関連しか考えられない。急いでドラえもんのもとに向かおう。
♢
急いでのび太の部屋に向かうと、のび太とドラえもんだけでなくジャイアンとスネ夫、しずかちゃんも居合わせていた。
「なんで3人ともここにいるんだ?」
疑問を感じた俺はそう口にする。
「のび太が自分の育てた恐竜見せてくれるっていうから来たんだよ。ま、僕はまだ信じてないけどね」
そうスネ夫が答えてくる。
そうだ。確かそんなシーンもあったな。すっかり抜け落ちていた。まあ他の3人もいるなら好都合だ。
「ドラえもん!虫の知らせアラームが」
「!?…ホントだ。鳴ってる。ということは…」
「うん。何か良くないことが起こっているのかもしれない。一応ピー助が無事か確認しておこう」
俺がそう言うと、ドラえもんは頷き急いでタイムテレビを出した。
何事もなければいいんだけど…。いや、アラームが鳴っている時点で残念なことにそれはあり得ないか。せめて無事で居てくれよピー助…!
「映った!」
そうのび太が言うと、みんなが画面を見ようと身を乗り出し、ひしめき合っている。俺も今のこの不安を払拭するため、画面をのぞき込んだ。
そこには…
「こ、これは!?」
そこに映っていたのは、空中に浮かぶ黒い戦闘機のような物体が、ピー助のいるフタバスズキリュウの群れを攻撃している瞬間だった。
「!?ピー助ッ!」
「こ、これは…!?」
クソッ!?あれは映画で恐竜ハンターが乗っていたものだ。なんで恐竜ハンターがピー助の居場所を把握してるんだ!?
いや、そんなことより、早くピー助を助けないと。
そう混乱している俺に、ジャイアンが話しかけてきた。
「なあ、何が起きてんだ?どれがのび太の恐竜なんだよ」
そうジャイアンが訪ねてくる。だが悪い、いまそんな疑問に答えてやる余裕はない。ジャイアンには悪いが俺はその質問をスルーし、ドラえもんに話しかける。
「ドラえもん、タイムパトロールに通報してくれ!いま映している座標もすべて細かく!」
「!そ、そうか!わかった!」
俺に言われ、ドラえもんも事の重大さを認識できたのか、俺が言った通りすぐタイムパトロールに通報してくれた。
「もしもし、そちらタイムパトロール本部ですか!?前にそちらに恐竜ハンターについて相談しに行ったドラえもんです。実は前に話したピー助という恐竜が…」
それにしても、なんで恐竜ハンターたちはピー助の居場所がわかったんだ?映画では首長竜の群れに紛れてしまえば見つからないとドラえもんが言っていたし、この世界でも俺が質問したときにドラえもんがそう言っていた。
…いや、冷静に考えればおかしなことじゃないか。未来の道具は下手なチート能力をしのぐような性能をしているんだ。ましてや恐竜ハンターが持っている道具はドラえもんのとは比較にならない性能をしているだろう。それらを使えば無限の可能性が出てくる。それこそ俺が考え付かないような方法でピー助を見つけ出したんだろう。
結局のところドラえもんが、…いや、ドラえもんのセリフを鵜呑みにして事態を楽観視していた俺の責任だ。
「はい、頼みます」
そう俺が考えている間に、タイムパトロールへの通報は終わったようだ。
「どうだった!?ドラえもん」
「すぐに向かってくれるって」
そうドラえもんが言った次の瞬間、タイムテレビの画面の中にタイムマリンの艦隊が現れた。
「あ!き、きた!」
……
タイムパトロールの艦隊は、あっという間に恐竜ハンターたちを蹴散らし、ピー助を保護してくれた。
あ、危なかった…。もう少し駆け付けるのが遅れていたら、間違いなくピー助は捕獲されていた。それほどのぎりぎりのタイミングだった。
映画の中だといつも終盤に現れ、事態の解決はほとんどドラえもんたちに任せているため頼りにならないイメージだったが、その認識を改めよう。
「よ、よかった~!」
のび太はよほどピー助が心配だったのか、大声でそう漏らしている。
かくいう俺もだいぶ焦っていたけど。何せ自分が介入して本筋が変わってしまった結果、ピー助が捕らえられかけるというバッドエンド直行コースだったのだ。
だが、気を抜いている場合でもない。早く事態を収拾させるために動かなくては。
「なあ、さっきからなんだってんだよ?」
「そうそう、首長竜が変なのに襲われてるって思ったら、今度は別の艦隊が現れてさ」
「それに、ドラちゃんはさっき誰に電話してたの?」
ジャイアン、スネ夫、しずかちゃんの3人から矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
まあ恐竜見せてやるって言われたから来たのに、置いてけぼりを食らったらこの反応も当然だ。
「ドラえもん、のび太。3人にも説明が必要だ」
「え?でも……危険なことに巻き込む可能性がある以上、やめたほうがいいと思うけど…」
ドラえもんは子守り用ロボットとしての立場もあり、みんなを巻き込むことを渋っている。
ドラえもんからすればそうかもしれないが、俺としてはいてくれた方が心強い。3人とこういう場面ではなんだかんだ頼りになるのだ。それはアニメや映画を見ていたからというのもあるが、実際にこの世界に来て交流を深めたからこそわかる。特にジャイアンなんかは、度胸とタフネスさは俺の比ではない。
「でも説明しないと3人とも納得しないと思うよ。それに恐竜を見せてやるってのび太が言って連れてきた以上、事情を話すのが筋だと思うよ」
実際は戦力的にこの3人はいた方がいいから言っただけなんだが。でもドラえもんの意見も一理ある。
一視聴者の視点では、この3人はドラえもん・のび太とともに数々の冒険を経験し生き残っているので、頼りになるということはわかっているが、ドラえもんはそんなこと知る由もない。それに、俺が介入したことで本筋の流れが変わった以上、この3人も命の保障があるわけではない。もしかしたら俺がこの場で3人をこれからの恐竜ハンターとの戦いに巻き込んだ結果、命を落とす結果になるかもしれない。
だが、それはドラえもんものび太も、そして俺も同じなのだ。むしろこの先、のび太、ドラえもん、そして俺の3人では恐竜ハンターとの戦いは厳しいものになる。俺を含めた3人の生存率を上げるためにも、あの3人には同行してもらった方がいい。
もちろんこれは、ただの俺のわがままだ。本来安全圏にいる3人を戦場に引きずり下ろすのだから。だから俺も自分の命以上に他の皆を守るために尽力する。それが俺の責任だ。
それに、恐竜ハンターがピー助を奪うために、のび太の友人であるあの3人に手を出さないとは限らない。そうなれば、むしろ同行してもらった方が護衛もしやすい。
……
「…というわけなんだ。恐竜ハンターは白亜紀の海に返したピー助をまだ狙っているみたいなんだ」
ドラえもんの説明が終わると、3人はそれぞれ信じられない、といった風な驚愕の表情を浮かべていた。
「ま、まじかよ…」
「そんなことが起きてたなんて…」
ジャイアンとしずかちゃんがそんな言葉を漏らす中、スネ夫が言葉を発した。
「事情はわかったよ。でもこれからどうするのさ」
「ひとまず、タイムパトロールの本部に行こうと思う。そこでピー助と会うんだ。それにいまここにいるより安全だし、恐竜ハンターの対策も立てやすいからね」
「うん、俺もそれが良いと思う」
映画と完全に流れが変わってしまった以上、いま頼れるのはタイムパトロールだ。そこい行くのが現状最も最善だろう。
「早速いこう。ピー助に会いに!」
のび太がそう張り切って、タイムマシンに乗り込んでいった。
「ねえ、私たちもついて行っていい?」
「おう!ここまで聞かされて、じっとなんてしてられるかよ」
「ええ!?2人とも本気?」
ジャイアンとしずかちゃんは来る気みたいだが、スネ夫は乗り気じゃなさそうだ。
「どうする?ドラえもん。俺としては、恐竜ハンターが危害を加えてこないとも限らない以上、一緒にいてもらった方が安全だと思うけど」
「うん、そうしたほうがいい」
そうドラえもんの許しが出たことで、全員でタイムマシンに乗り込み(スネ夫はしぶしぶだったが)、タイムパトロール本部がある24世紀に向かっていった。
♢
「ピー助!」
「ぴゅーい!」
あの後俺たちはタイムパトロール本部に行き、ピー助に合わせてくれと頼んだ。あちら側は俺たちがピー助の関係者だと知っていたためかすんなり許可され、現在ピー助と待望の再開の最中だ。
ここは白亜紀の動植物を保護する区画なのか、白亜紀の気候がそのまま再現されている…らしい。白亜紀の気候なんてわからないので断言はできない。案内してくれた人がそう言っていたのできっとそうなんだろう。
「みんな見てごらん。これが僕のピー助さ!」
そういってピー助の背に乗っているのび太。
「…お、恐れ入りました!」
「悪かった…」
「疑ったりしてごめんなさい」
そういって口々に謝罪を述べる3人。というかピー助、前あった時よりもさらにでっかくなってる気がする。恐竜の成長速度がどれほどかわからないので気のせいかもしれないが。
「いいんだよ、わかってくれれば。な、ピー助」
「ぴゅーい!」
そういって笑っているのび太とピー助。
まあ、何はともあれひとまず無事でよかった。もし捕まっていたら取り返しがつかないし、俺も罪悪感で正気じゃいられなかった。
その後、ピー助と3人はお互い自己紹介を終え、水辺でともに遊んでいた。
…
「…みんな~。そろそろ話があるから集まって~」
それから1時間ほど経ったとき、ドラえもんがそう言ってみんなを集めた。
「何?話って」
「…あの恐竜ハンターのことだよ」
ドラえもんがそう言った瞬間、のび太の顔が傍から見てもわかるほどにこわばった。無理もない。自身は殺されかけたし、ピー助も奪われそうになったのだ、平常で居ろという方が無理だろう。
「のび太君もわかってるだろ。あの恐竜ハンターを何とかしないと、ピー助を白亜紀の日本へ返すのは無理だって」
「それはそうだけど…」
歯切れが悪いのび太。まだ決心がつかないんだろう、恐竜ハンターと戦う決心が。
「でも、戦うって言ったってどうするの?」
そうしずかちゃんが問う。
「実はさっきタイムパトロールの人と話して作戦を立てたんだ。」
そう、先程他の皆がピー助と遊んでいる間にタイムパトロールの長官と作戦会議をしていたんだ。
♢
「1つ聞きたいんですけど、やつらのアジトはわかってるんですか?」
「それについてなんだが、パトロールロボを使ってあの時代を偵察している。その反応から複数それらしきポイントは見つけたんだが、その中のどこにやつらがいるかわからない以上うかつに踏み込めなくてね…」
なるほど…逆に言えばそこまで絞り込めているということか。映画では恐竜ハンターの基地にはパトロールロボを機能停止させるバリアのようなものが出ている描写があった。だが、それはいわばパトロールロボの反応がロストした地点のの近くに基地があるということでもある。恐竜ハンター側もそれを知っているからこそ、白亜紀の時代に複数基地を作っているんだろう。もしはずれの基地に攻め込んでしまえば、その情報が伝わりやつらがあの時代から逃げてしまうことを危惧して中々攻め込めないのだろう。
「タイムテレビなどで中の様子はわからないんですか?」
「ロックがかかっていてね。遠隔では道具や兵器も意味をなさない」
やっぱり対策はしているようだな。これだから未来人相手は困るんだよな…。これが未知の文明の現地勢力が相手ならひみつ道具無双で終わるんだが、未来人相手だとそうもいかない。
「やつらがどの基地にいるかの目星はついてるんですか?」
「やつらはフタバスズキリュウを狙っていたからね。あれからそう時間はたっていないから、当時の日本のから近い基地にいる可能性はあると踏んでいるよ」
俺の考えと一緒だな。なら…
「こういう作戦はどうですか。まず…」
♢
「「「「ええッ!?恐竜ハンターの基地に潜入するッ!?」」」」
「そうだ。やつらを野放しにしておけばピー助は故郷に帰れない。だからこっちから仕掛けるんだ。まず一番可能性の高い基地へ潜入する。そこでタイムパトロールが入ってこれるようにタイムホールの穴をあける」
「そこで潜入する役目を僕たちが担うんだ」
作戦は単純で、基地内に忍び込みタイムパトロールが入ってこれる入り口を作る、これだけだ。
「何で僕たちが!?タイムパトロールの人に任せればいいじゃん!?」
「要は基地内に忍び込んでやつらがいることを確認出来たら、このボタンを押して入り口を作るだけでいいんだ。けどタイムパトロールの人間だったら見つかった瞬間殺されるか、そのまま逃げられる。その点俺たちなら殺されも逃げもせず、しばらくの間は捉えておくだろうからね」
「何で?」
「俺たちがピー助の情報を持っているからさ。あいつらからしたらもうピー助はタイムパトロールに保護されて手の届かないところにあると考えているだろうからね。だが俺たちなら、ピー助が今どこにいるか知っている、もしかしたらタイムパトロールから返してもらっているかもしれないと考えるだろう。だから情報を抜き取るためにすぐには殺しも逃げようともしないだろうってことさ」
まあかなり楽観的な展望をしていると自覚しているが、現状これしか策がない。それにあてが外れたときのプランも用意してある。
「…やろう。このままじゃピー助が故郷に帰れない。それどころかピー助捕まったら、金持ちの家で飼われるかもしれない。」
「そんなのはピー助の幸せじゃない!ピー助を故郷に送り返すことが僕の責任だ!」
のび太はそう豪語する。のび太ならそう言うと思ってたけどね。ピー助のためなら命を張れるやつだと。
「おいのび太!」
俺がそう考えていると、ジャイアンがのび太に語り掛ける。
「お前だけの責任じゃねーぞ!俺たちみんなでやるんだ」
「そうよのび太さん。ピー助ちゃんをお金持ちの道楽なんかにさせないわ」
「2人とも…」
……いいやつだな2人とも。映画よりピー助との関わりは薄いはずなのに、ピー助のためにここまで体を張れるなんて。
「しょ、正気かよ2人とも!?僕たちにそんなもん務まるハズないじゃん!」
そうスネ夫が叫ぶ。客観的に見ればスネ夫の言い分が正論だ。だけど…
「スネ夫。お前だってさっきピー助と遊んでたじゃねえか。そのピー助がいまピンチなんだ。守ってやれるのが俺たちしかいないんだ」
「……」
「それになスネ夫。お前だけじゃないだろ。俺たち全員で守るんだ」
「僕たちで…。僕たちだけしか…」
そういって俯くスネ夫。
俺個人としては来てほしいが、今回は命懸けだ。無理強いすることはできない。
そう思っていると…
「わかったよ…。やるよ…、やればいいんでしょぉぉ!」
そういって、号泣しながらも自分もいくと宣言するスネ夫。
話は変わるが、俺はドラえもんの映画の中でスネ夫がビビりながらも覚悟を決めるシーンがかなり好きなんだよな。他の3人が小学生とは思えないほど覚悟ガンギマリだから、よりスネ夫の弱さとそこから立ち上がる強さというものが際立つ。映画の中でも屈指の名シーンだ。
「スネ夫…。男だぜ!」
そういってスネ夫の肩をたたくジャイアン。
やはりどれだけ過程が変わろうがこの5人の選択は変わらない。あとは俺が守り抜くだけだ。ピー助も、この5人のことも。