SCPはもうちょっとしたら出てきます
どこにでもいるありふれた、高校生、南雲ハジメはいつものように始業チャイムがなるギリギリに登校した。
徹夜続きで思うように動かない体を気合いで動かして教室の扉を開けるとほぼ全ての男子生徒の鋭い視線が彼を突き刺す。女子生徒の反応も似たようなものだ。
それを認識しないように、意識しないようにとハジメは自分の席に座る。
今日は珍しく檜山大介が来ている、とハジメは少し驚いていた。
少し前までならばここで
「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」
「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」
などとハジメに絡んできた生徒の筆頭だったがある日を境に学校に来なくなっていたからだ。
確固たる証拠は無いが"兄さん"がそうしたのだろうとハジメは考えている。
ここで話は変わるがこの南雲ハジメはオタクだがキモオタと罵られるような人物ではない。髪や身だしなみには人並みに気を遣っている。
少し大人しいがコミュ障といったわけでもない。
オタクに対する世間の風当たりは確かに強くはあるが、本来なら嘲笑程度はあれど、ここまで敵愾心を持たれることはない。では、なぜ男子生徒全員が敵意や侮蔑をあらわにするのか。
それは…
「南雲くん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」
諸悪の根源とまでは言わないがこの女子生徒、白崎香織のせいである。
彼女は学校で二大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る途轍もない美少女だ。腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。スッと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。
いつも笑顔絶やさない明るい性格で非常に面倒見がよく責任感も強いため学年を問わずよく頼られる。それを嫌な顔一つせず真摯に受け止めるのだから女神と形容されるのも納得である。
ニコニコといったオノマトペが似合うような微笑みを浮かべながらハジメのもとに歩み寄ってきた彼女はこのクラス、いや学校でもハジメにフレンドリーに接してくれる数少ない例外で、それどころか彼女は積極的にハジメに構うのだ。
しかし、これがハジメが目の敵にされる要因となっている。
理由は単純、釣り合っていないのだ。
片や女神と称される絶世の美少女の優等生、片や顔は極々平凡、いくら成績は平均を取っていると言えども側からみれば居眠りの多い不真面目な生徒。
これでハジメがイケメンであったり、努力する素振りを見せるなど態度に改善が見られればある者を除く周りのハジメに対する態度も多少は軟化するだろうがハジメが〝趣味の合間に人生〟を座右の銘としていることから分かる通り改善する気はさらさらない。
そんなハジメが香織と親しくできることが、同じく平凡な男子生徒達には我慢ならないのだ。女子生徒は単純に、香織に面倒を掛けていることと、改善しようとしないことに不快さを感じているようだ。
こればかりはハジメの落ち度、自業自得ということで"兄さん"も助け舟を出すつもりはないらしい。
「あ、ああ、おはよう白崎さん」
もはや殺気とも言える眼光にハジメは頬を引き攣つらせて挨拶を返す。
それに嬉しそうな表情をする香織。「なぜそんな表情をする!」と、ハジメは、更に突き刺さる視線に冷や汗を流した。
ハジメの脳内コンピュータが高速でこの状況から逃げる算段を立てていると三人の男女が近寄って来た。
「南雲君。おはよう。毎日大変ね…」
「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」
「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」
三人の中で唯一朝の挨拶をした、長い黒髪のポニーテールの女子生徒の名前は八重樫雫。香織の親友だ。彼女の実家は八重樫流という剣術道場を営んでおり、雫自身、小学生の頃から剣道の大会で負けなしという猛者である。どうりで彼女の凛とした雰囲気は侍を彷彿とさせるわけである。
そしていささか臭いセリフを吐いたのは天之河光輝。高身長で容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人である。性格もよく、誰にでも優しく、正義感も強い。
しかし思い込みが強いところがたまに傷である。
「アイツはオテントに一回拉致られたのか?」
などと兄がぼやいていたのをハジメは聞いたことがあったかついぞその意味は分かっていない。
最後に投げやり気味な言動の男子生徒は坂上龍太郎といい、光輝の親友だ。短く刈り上げた髪に鋭さと陽気さを合わせたような瞳、百九十センチメートルの身長に熊の如き大柄な体格、見た目に反さず細かいことは気にしない脳筋タイプである。
今時珍しいスポ根人間なのでハジメのように学校に来ても寝てばかりのやる気がなさそうな人間は嫌いならしく。現に今も、ハジメを一瞥した後フンッと鼻で笑い興味ないとばかりに無視している。
白崎香織がいると自ずとこの3人がセットでついてくる、もうそっとしておいてくれとハジメは心の中で懇願するのであった。
こんな時に兄さんがいれば…そうハジメは大きなため息を吐くのであった。
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時は流れて3限が終わり…
「ぐーてんもるげん〜」
もう昼時近いというのに何故かドイツ語朝の挨拶が教室にこだまし、眠そうに欠伸をしながら1人の男子生徒が入ってくる。
ピリピリとした空気が張り詰める。ハジメのように嫌悪や侮蔑ではなく緊張や警戒、畏怖と形容するほうが近しいかもしれない。
まるで腫れ物を扱うかのようだ。
下手に触れない。
だが少年はそんなことはお構いなしに悠々と歩く、1人の生徒の元へ。
「おはよう兄さん」
「おっはよー、ハジメちゃん」
兄さんと呼ばれた少年はハジメとハイタッチを交わし、ワシャワシャとハジメの頭を撫で回していた。
この少年こそがハジメの兄、南雲赤穂である。
兄と言っても義理であるが。
彼の元の名前は体阿弥赤穂、名字は正確には體阿弥と書く。
交通事故で両親を亡くしており中学2年生の頃に南雲家に引き取られたのだ。
現在は南雲家と同居せず実家で暮らしているものの家族中は良好で、よくハジメの父や母の仕事が行き詰まったときにアイデアを出している。
赤穂の話は大抵、現実に起こるはずのない突飛なものなのだが、なぜかこれは本当にあった話なのではないかと思ってしまうほどにリアルだ。
ハジメの父曰く、ラヴクラフトの生まれ変わり、だそうだ。
ハジメとは家族になる前から仲が良く、週末には決まって一緒にゲームをしていた。
性格は明るく、見た目からは軽薄そのものに見えるがどこか掴み所がないというのがハジメの総評だ。
いつも笑っているのにその眼鏡の向こうの目の奥は冷たく、光がないのだ。
そして、家ではすこぶる良い評判も学校では真逆になる。いつものように遅刻をし、授業中には居眠りをする。素行も悪ければ当然成績も悪い。挙句の果てにはヤクザと繋がりがあると噂される始末だ。
赤穂は教室を見回してとある一角で目を止め、口角を上げた。
「おやおや?そこにいるのは檜山くんじゃないか〜」
「ひ、ヒィッ」
赤穂に声をかけられた檜山は声にならない悲鳴をあげた。俯いていて顔はよく見えないが、もはや死人と遜色がないほどに顔が青く、明らかに血の気が引いていることが分かる。
ガタガタと震えている檜山の肩に赤穂はそっと手を置く。刹那檜山が肩をビクリと大きく痙攣させる。
「やめろ赤穂!檜山が怖がっているだろう!お前いったい檜山に何をしたんだ!」
光輝が持ち前の正義感を発動させて赤穂に詰め寄る。
誰がどう見たってこの場合悪者は赤穂側だ。両肩に手を置かれ、顔を俯けてブルブルと震えている檜山は被害者そのものだ。
しかし、赤穂はそんなことはどこ吹く風で檜山の肩に手を置いたままだ。
「え〜俺は何もしてなけどなぁ?ねぇ?檜山大介君?」
「ヒッ」
フルネームで呼びかけられた檜山はまたも声にならない悲鳴をあげ肩を跳ねさせた。
「いい加減にしろ!」
光輝が赤穂の胸ぐらに掴み掛かり、壁に押し付ける。
それでも赤穂は瞬きの一つもしない。少し不満気に胸元にある手に視線を落としたがその見透かした様な光の無い冷たい目で光輝を見つめている。
まるで、蟻の行列でも見るかのような目だ。
「いいのか?」
先程までの不気味なほどに明るい声色とは打って変わって抑揚の無い声で赤穂はそう問いかける。
「何がだ!?」
「今の俺はポケットに手を入れていて、お前は俺の胸ぐらを掴んでいる。これを畑山が見たら悪者はどっちだろうな。アレはもうそろそろ来るぞ?」
「うるさい!事情を聞けば先生も分かってくれ「いい加減にしなさい!」」
「なっ雫!なんで止めるんだ!?」
「赤穂の言う通りよ!今のアンタはどこからどう見ても悪者!いいから2人とも席に座りなさい!もう授業始まるわよ!」
光輝は何か言いたげにしていたが観念したのか赤穂の胸ぐらから手を離し、席についた。
「ありがとうよ、八重樫。」
赤穂の方も不快そうに光輝を一瞥してから雫に礼をいって乱暴に椅子に腰を降ろした。
ちなみにこの時、光輝の腰巾着はトイレに行っていた。
そういえば学校にはこんな噂があった。八重樫雫、天之河光輝、体阿弥赤穂は幼馴染だと言うのだ。
体阿弥家は體阿弥道場という古武術の道場をやっていたというからその繋がりだろう…とハジメは考察しては見たものの、今の様な光景を何度も見てきたハジメからすれば到底信じられない話だった。
主人公は人生二周目なのになんで成績が悪いかって?
答えは第一話にございます。
タイトル:SCP-1010-JP-未確認飛行物体が見てる
著者: holy_nova
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1010-jp