〜記録〜
2018年7月
西東京市 英集少年院
運動場上空
外に出ていた受刑者達が困惑しつつ空を見上げている。
「おい、なんだアレ?」
「ドレ?」
「アレだよ!卵みてぇな!」
「だからどれだよ!!」
見つめる先にあったのは受刑者の1人が言ったようにまさしく卵。
【特級仮想怨霊】 その受胎である。
「我々の“窓”が呪胎を確認したのが3時間程前。避難誘導9割の時点で現場の判断により施設を封鎖。「受刑在院者第二宿舎」5名の在院者が現在もそこに受胎と共に取り残されており、受胎が変態を遂げるタイプの場合『特級』に相当する呪霊に成ると予想されます」
そう告げたのは痩せ型に眼鏡を掛けた一見すると普通のサラリーマンにも見える男性、伊地知潔高
東京都立呪術高等専門学校、通称「呪術高専」
彼はそこに勤める【補助監督】である。
「「(…特級…!!)」」
伊地知からの情報に顔を顰めるのは呪術高専一年の伏黒恵、釘崎野薔薇
2人の額からは軽く汗も滲んでおり事態の深刻さが窺える。
しかしここには状況が飲み込めてない者もいる。
「なぁなぁ、俺『特級』とかまだイマイチ分かってねぇんだけど」
そう告げたのは同じく一年の虎杖悠仁。
その発言に呆れた顔をする釘崎。
「あんたほんと何も知らないのね」
「虎杖君は最近まで呪力も持たない一般人だった。致し方ないでしょう」
スッと眼鏡を上げつつ伊地知は虎杖に分かるように「簡単にですが…」と説明を始める
「呪霊の等級は1級から4級まで分けられており、特級は1級の上に分類されます。特に特級ともなれば『クラスター弾での絨毯爆撃で仕留めれるかどうか』といった話になってきます。もちろんこれは通常兵器が呪霊に有効と仮定した場合です」
「ヤッベェじゃん…」
伊地知の説明に冷や汗を流しながら虎杖は呟く。多少なりとも現状を把握出来たらしい。
「本来は呪霊と同等級の術師が任務に当たるんだ。今回の場合だと五条先生とかな」
「なるほどな…あれ?んでその五条先生は?」
キョロキョロと辺りを見渡す虎杖に伏黒は告げる。
「出張中だ」
_______
プルルル…ピッ
「あ!!もしもし?世良?僕ねー今出張中なの!いや〜このGLG(グッドルッキングガイ)をこき使うってほーんとこの業界の人手不足って深刻だよね〜、あっ!!そういえば補助監督なのにこの前1級呪霊3体と特級1体を1人で祓ったっていう人いたよね〜!知ってる?僕の記憶が正しければ確か名前は宵月世…「人違いです。頭の調子を確認の上おかけ直し下さい。それでは」って待って待って世良!!」
『五条悟』
現呪術界においてその名を知らぬ者は存在しない。
呪術界の名門である御三家のうちの一つ
[五条家]
その現当主にして400年ぶりの「六眼」と相伝術式の「無下限呪術」の抱き合わせ。
自他共に認める現代最強の呪術師である。
そんな五条からのダル絡み電話を早々に切ろうとした男の名は
『宵月世良』
呪術高専に籍を置く彼の立場は先程の会話からも分かる通り伊地知と同じ補助監督であり、五条悟の数少ない同級生でもある。
「で?なんの用?俺は今から1年トリオと2年連中の為の書類を作らにゃならんのだ。用も無いなら切るぞ」
カタカタとキーボードを叩く音が電話越しから聞こえる。
「いや〜実はさ、今伊地知から連絡があって1年が特級の任務に向かわされてるらしくてさ」
「ああ、聞いてるよ。確か場所は英集少年院で生存者の確認と救出が目的だった筈だ」
「お前も気づいてるだろ?世良」
五条の問いかけにピタリと作業音が止まる
「…なんの事だ?」
「とぼけんなよ。特級相手、しかも生存者の生死不明でそれを救助ときてる。こんな任務に一年派遣はあり得ない」
「ああ…そうだな。とても一年に務まる任務じゃない。大方、上の連中がお前に対する嫌がらせで仕組んだんだろう」
世良は自分のデスク横に置いてある一年の資料に目を向け[虎杖悠仁(宿儺の器)]と書かれた文面を目で追う
「僕が無理を通して悠仁の死刑に実質無期限の猶予を与えた。それを面白く思わない上の連中が特級を利用して体良く始末してしまおうってとこだろう」
ハァ〜と思わず深いため息が漏れる五条
「他の2人が死んでも五条に嫌がらせ出来るし一石二鳥とか考えてるだろうな」
「ほんと嫌になるよねぇ〜、犯人探しも面倒だし上の連中“全員“殺しちゃおうかな」
「やめろ、後始末が面倒だろ」
書類作りを再開しつつ五条の提案を面倒の一言で却下する世良。彼自身も上層部の連中にはとっとと居なくなってもらいたいとは思っているのだが。
「あ、それとあんまり伊地知イジメてやるなよ?今回の件もそうだがいつも上と下の間で苦労してんだ。また胃薬の量増えてたぞ」
「それだったらさっき連絡来た時に、次会ったら《マジビンタ》ねって言っといたから大丈夫」
「お前…」
顔を青くし胃を摩りながら車を運転する伊地知を想像した世良は居た堪れなくなる。
「まぁそんな事より話を戻して今回の任務の事だよ。普段だったら僕が駆けつけれるんだけどさっき言ったように主張中なんだよね〜」
「1級術師が1人失踪しちまったやつだよな」
「そうそう、その尻拭いにね。海外じゃないとはいえ一年の任務には間に合いそうにない。いやぁ〜困ったよ」
そんな五条の言葉とは裏腹に電話から響く声からは困った様子が伺えない。
そんな五条の態度を察した世良が問う
「へぇ、意外だな。生徒思いのナイスガイな五条悟先生が一年の安否を気に掛けないのか?」
その言葉にフッと笑いながら五条は告げる
「大丈夫でしょ!いざとなったら近くにいる世良がなんとかしてくれるからね!」
その返答に世良が返す言葉は決まっている
「だから俺はただの補助監督だって言ってるだろ!!」
「1人で特級祓える補助監督がどこにいんだよ」
五条悟と宵月世良
最強術師と補助監督
学生時代から変わらないやりとりである
_______
【英集少年院前】
「大丈夫ですか!?伏黒君!釘崎さん!」
伊地知は2人を介抱しつつ状況を確認する
「(特級と遭遇したのだろうか、それに虎杖君が戻ってきていない。釘崎さんの怪我も酷い)
伏黒君!話せますか?」
「はい…その前にやる事が…」
そう言うと伏黒の式神である“玉犬”が遠吠えをあげる。
アオーーーォォン
「伏黒君?今のは…」
「簡潔に伝えます。虎杖は俺達を逃すために1人で特級を相手してます。今の合図でおそらく虎杖は宿儺と代わった筈です。特級を倒すために。」
伏黒の説明を受けた伊地知は少し考え口を開く
「なるほど…分かりました。それでは私は釘崎さんを病院へ送り届けます。伏黒君は?」
「俺は残ります。もしもの時、俺にはアイツを始末する責任があります」
「…決して無理しないようにして下さい。私もなるべく早く戻ります」
ハンドルを握り、そう告げる伊地知だが
「いや、もう伊地知さんは居てもあんまり意味ないので戻ってくる時は1級以上の術師と一緒にお願いします(居ないと思うけど)」
伏黒の言葉がグサリと心に突き刺さっていた
“1級以上の術師”
伏黒にそう言われ伊地知の頭には、自分の先輩であり同僚でもある1人の男が浮かぶ
「(確か今日は書類を作ると…)ハッ!大丈夫です!伏黒君!」
「?何がですか?」
「すぐ連絡します!1級以上の術師の方に!」
厳密には彼は術師ではなく補助監督であり、補助監督が戦闘を行う事は禁止されている。(あくまで一応だが)
何より戦闘メインであの先輩を呼ぶのは気が引けるが状況が状況の為仕方ないかと、伊地知は少し申し訳なさを感じつつ1人の男に電話をかけた。
プルルル…ピッ
「もしもし!宵月さん!!突然で申し訳ないのですが緊急事態でして今から英集少年院まで来ていただけますか!!」
「…さっきも五条に言ったとこだけどな!!俺はただの補助監督なんだぞ!?あぁぁもぉぉ!!すぐ行くから待ってろ!!」