先生はモームリ   作:風神ぷー

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本日3本投稿最終話です。


第十三話 おかえりなさい

 

翌朝。

 

先生の十四日間の休暇は、昨日で終わった。

 

今日から、正式な業務復帰となる。

 

先生はシャーレへ続く道を、ゆっくりと歩いていた。

 

朝の空気は澄んでいる。

 

通学する生徒たちが笑いながらすれ違い、遠くでは部活動の朝練が始まっていた。

 

十四日前。

 

この道を歩いた時のことを思い出す。

 

あの日の足取りは重かった。

 

生徒たちの笑い声すら、自分へ向けられた責任のように聞こえていた。

 

守らなければ。

 

応えなければ。

 

休んではいけない。

 

そんな思いだけが胸を埋め尽くしていた。

 

昨日。

 

休暇最終日。

 

シャーレへ足を運び、自分がどれほど仕事へ縛られていたのかを思い知らされた。

 

仕事をしようとしていたのではない。

 

身体が勝手に動いていた。

 

生命の書は、それを見逃さなかった。

 

『保留』

 

その二文字が、今も胸に残っている。

 

先生は小さく息を吐いた。

 

「今日は……大丈夫。」

 

自分へ言い聞かせるように呟く。

 

その時だった。

 

「おはようございます。」

 

後ろから声が聞こえた。

 

振り返ると、白石修司が立っていた。

 

紺色のスーツ。

 

黒いアタッシュケース。

 

いつもと変わらない姿だった。

 

「おはようございます、コンサルさん。」

 

「おはようございます。」

 

二人は並んで歩き始める。

 

しばらく沈黙が続いた。

 

先生が静かに口を開く。

 

「昨日は、ありがとうございました。」

 

修司は首を横へ振る。

 

「礼には及びません。」

 

「仕事です。」

 

先生は苦笑した。

 

「本当に仕事としか言いませんね。」

 

「事実です。」

 

「少しくらい格好いいことを言ってもいいんですよ?」

 

「期待されると困ります。」

 

先生は思わず笑う。

 

修司も表情こそ変わらないが、少しだけ肩の力が抜けているように見えた。

 

やがてシャーレの正門が見えてくる。

 

先生は立ち止まらなかった。

 

昨日は門の前で、一度足が止まった。

 

今日は違う。

 

自然に、そのまま中へ入る。

 

修司はその様子を見ながら、小さく頷いた。

 

「歩けていますね。」

 

「昨日よりは。」

 

「十分です。」

 

それだけだった。

 

けれど先生は、その一言が少し嬉しかった。

 

二人は対策室へ向かう。

 

廊下では、生徒たちが資料を運び、職員たちが朝の打ち合わせをしている。

 

慌ただしい。

 

しかし混乱はない。

 

十四日前とは違う。

 

先生は掲示板へ目を向けた。

 

『案件受付フロー』

 

『緊急案件対応基準』

 

『各学園一次窓口一覧』

 

二週間前にはなかった掲示物が並んでいる。

 

先生は少しだけ微笑んだ。

 

「皆さん、本当に頑張ったんですね。」

 

修司が答える。

 

「先生もです。」

 

「私は休んでいただけですよ。」

 

「休むことは、努力しないとできない人もいます。」

 

先生は返事に困った。

 

否定できなかった。

 

扉の前へ着く。

 

先生は深呼吸を一つした。

 

修司は隣で静かに言う。

 

「本日から通常業務です。」

 

「はい。」

 

「私は必要になるまで介入しません。」

 

先生は頷く。

 

「分かりました。」

 

ゆっくりと扉を開く。

 

対策室では、リンたちがすでに業務を始めていた。

 

リンが顔を上げる。

 

「先生。」

 

先生も笑顔で返す。

 

「おはようございます。」

 

「おはようございます。」

 

アユムが穏やかに会釈する。

 

「おはようございます、先生。」

 

モモカも笑顔で手を振った。

 

「おはようございます。」

 

いつも通りの朝。

 

昨日のような緊張はない。

 

リンは先生の前まで歩いてくる。

 

少しだけ照れたように笑ってから言った。

 

「改めて。」

 

「おかえりなさい。」

 

先生は少し目を伏せる。

 

その一言を静かに受け止める。

 

そして微笑んだ。

 

「ただいま。」

 

対策室へ穏やかな空気が流れる。

 

修司は部屋の隅へ移動し、壁にもたれた。

 

何も言わない。

 

今日の主役は自分ではない。

 

先生と、シャーレのみんなだ。

 

先生は自分の席へ向かう。

 

机の上には、一枚の業務概要だけが置かれていた。

 

昨日と同じだ。

 

違うのは、自分の立場だった。

 

今日は見学ではない。

 

正式な業務復帰。

 

先生は椅子へ座り、資料を開く。

 

そこには今日処理する案件が簡潔にまとめられていた。

 

緊急案件、一件。

 

通常案件、二十七件。

 

先生確認案件、一件。

 

以前なら、すべて自分の机へ積まれていた書類。

 

今は必要なものだけが届く。

 

先生は資料を閉じる。

 

「始めましょう。」

 

その一言で、シャーレの一日が静かに動き始めた。

 

 

 

 

 

朝の確認が終わると、対策室はそれぞれの業務へ戻っていった。

 

リンは案件一覧を更新する。

 

アユムは各学園から届いた報告書を整理する。

 

モモカは通信履歴を確認しながら、返信予定を入力していた。

 

先生は自分の席で、その様子を見守る。

 

以前なら。

 

ここからが一番忙しかった。

 

次々と案件が集まり、電話が鳴り、相談が入り、机の上はあっという間に書類で埋まっていた。

 

だが今日は違う。

 

仕事は流れている。

 

それでも、自分の机は静かなままだった。

 

不思議な感覚だった。

 

「先生。」

 

リンが声を掛ける。

 

「先生確認案件です。」

 

先生は資料へ目を向ける。

 

「お願いします。」

 

リンは画面を大型モニターへ映した。

 

複数学園合同支援計画。

 

トリニティ。

 

ミレニアム。

 

ヴァルキューレ。

 

三校合同で行われる救援物資輸送についての調整案件だった。

 

内容そのものは難しくない。

 

問題は担当部署だった。

 

どこが主導するかで、各学園の負担が変わる。

 

「現在の案はこちらです。」

 

リンが説明を始める。

 

先生は黙って聞いていた。

 

途中で口を挟まない。

 

最後まで説明が終わる。

 

少しだけ沈黙が流れた。

 

リンは先生を見る。

 

「いかがでしょうか。」

 

先生は画面を見る。

 

以前の自分なら。

 

この場で修正案を作っていただろう。

 

担当部署を変更し。

 

優先順位を組み替え。

 

その場で完成させていた。

 

先生はゆっくり口を開く。

 

「リンさん。」

 

「はい。」

 

「もし私がいなかったら。」

 

リンは少し驚く。

 

「どう判断しますか。」

 

部屋が静かになった。

 

アユムもモモカも先生を見る。

 

リンは少しだけ考え込んだ。

 

「私が……ですか。」

 

「はい。」

 

先生は穏やかに頷く。

 

「まず、リンさんの考えを聞きたいです。」

 

リンは画面へ向き直る。

 

腕を組む。

 

数秒。

 

黙って資料を見つめる。

 

「アユムさん。」

 

「はい。」

 

「輸送日程に余裕はありますか。」

 

アユムはすぐ資料を確認する。

 

「一日あります。」

 

「でしたら。」

 

リンは続ける。

 

「主導はシャーレではなく、各学園へ分散した方がいいと思います。」

 

モモカが頷く。

 

「通信負荷も減りますね。」

 

「はい。」

 

リンはさらに続ける。

 

「シャーレは最終確認だけ担当します。」

 

「実務は各学園へお願いする形です。」

 

先生は何も言わない。

 

ただ聞いている。

 

アユムが資料を見ながら口を開いた。

 

「一点だけ。」

 

「ミレニアム側の担当部署が少し忙しいようです。」

 

リンは頷く。

 

「でしたら。」

 

「トリニティへ一部振り分けましょう。」

 

モモカが端末を操作する。

 

「通信上も問題ありません。」

 

「この形なら今日中に調整できます。」

 

三人は自然に議論を続ける。

 

誰も先生の答えを待たない。

 

先生も答えを言わない。

 

それでも話は進んでいく。

 

修司は部屋の隅で腕時計を見る。

 

視線だけが、静かに先生を追っていた。

 

十分ほどして。

 

リンが先生へ向き直る。

 

「先生。」

 

「この方針で進めたいと思います。」

 

資料が差し出される。

 

先生は受け取る。

 

内容へ目を通す。

 

誤りはない。

 

むしろ、自分が考える案とほとんど同じだった。

 

違う点が一つだけある。

 

先生なら。

 

念のため、自分でも各学園へ確認していただろう。

 

だが、この案では。

 

各担当者を信頼している。

 

先生はその違いを見つめた。

 

「……。」

 

リンが少し緊張した表情で待っている。

 

先生は資料を閉じた。

 

「いい案です。」

 

リンの肩から力が抜ける。

 

「ありがとうございます。」

 

先生は少しだけ笑う。

 

「一つだけ。」

 

「はい。」

 

「判断理由を一行だけ追加しましょう。」

 

「担当部署が後から見ても、なぜこの振り分けになったのか分かるように。」

 

リンはすぐ頷く。

 

「確かに。」

 

「その方が引き継ぎもしやすいですね。」

 

先生は頷いた。

 

「それだけです。」

 

それだけだった。

 

以前なら。

 

ここから自分で修正していた。

 

今日は違う。

 

先生は資料をリンへ返した。

 

「お願いします。」

 

その一言だった。

 

リンは静かに受け取る。

 

「はい。」

 

「お任せください。」

 

先生は自然と微笑んだ。

 

不思議だった。

 

任せることが。

 

こんなにも安心できるとは思っていなかった。

 

修司はその光景を見つめる。

 

何も言わない。

 

生命の書も開かない。

 

まだ、その時ではなかった。

 

対策室では再び業務が動き始める。

 

リンが修正を加える。

 

アユムが担当部署へ共有する。

 

モモカが各学園へ連絡を入れる。

 

先生は椅子へ座ったまま、その様子を見守っていた。

 

そして初めて思う。

 

**「皆に任せても、大丈夫だ。」**

 

その確信は、小さな一歩だった。

 

しかし。

 

案件No.19にとっては、何より大きな一歩だった。

 

 

 

 

 

 

 

リンは修正した資料を各学園へ送信した。

 

アユムが進捗状況を更新する。

 

モモカが通信記録を入力する。

 

対策室には、穏やかな時間が流れていた。

 

誰も慌てていない。

 

誰も声を荒げない。

 

それでも、一つひとつの案件は確実に片付いていく。

 

先生は静かにその様子を見つめていた。

 

その時だった。

 

モモカが画面を見つめながら口を開く。

 

「リンさん。」

 

「トリニティから返信です。」

 

リンが資料を確認する。

 

「担当者変更ですか……。」

 

アユムも端末を覗き込む。

 

「午後対応予定だった担当者が急用で離脱しています。」

 

「代替担当が必要ですね。」

 

リンは少し考える。

 

「開始時間を変更するより……。」

 

「担当だけ変更した方が影響は少ないと思います。」

 

アユムが頷く。

 

「私も賛成です。」

 

モモカが各学園の予定を確認する。

 

「ヴァルキューレ側なら対応できます。」

 

「連絡もすぐ取れます。」

 

リンは先生へ向き直る。

 

「先生。」

 

「この方針で進めたいと思います。」

 

先生は資料へ目を通した。

 

修正内容。

 

担当変更。

 

各学園への影響。

 

問題は見当たらない。

 

先生は資料を閉じる。

 

そして、自然に微笑んだ。

 

「お願いします。」

 

その一言だけだった。

 

リンは嬉しそうに頷く。

 

「はい。」

 

「お任せください。」

 

その瞬間。

 

修司のアタッシュケースが静かに震えた。

 

淡い光が漏れ始める。

 

生命の書。

 

誰も触れていない。

 

それでも、自らページを開いていく。

 

部屋が静まり返る。

 

先生も。

 

リンも。

 

アユムも。

 

モモカも。

 

ただ、その光を見つめていた。

 

ページが止まる。

 

白い紙へ、一文字ずつ文字が刻まれていく。

 

---

 

**案件No.19**

 

**『先生を支える組織』**

 

組織改革   完了

 

責任分散   完了

 

属人化解消  完了

 

業務改善   完了

 

復職判定   完了

 

---

 

最後の一行。

 

---

 

**COMPLETE**

 

---

 

生命の書が柔らかく輝く。

 

それは祝福するような光だった。

 

ミコリが静かに告げる。

 

「案件No.19。」

 

「完了を確認。」

 

先生は生命の書を見つめ、小さく息を吐いた。

 

「終わったんですね……。」

 

修司は生命の書を閉じる。

 

「はい。」

 

「これで案件No.19は終了です。」

 

先生は静かに笑う。

 

「何だか、不思議です。」

 

「私は何か特別なことをしたわけじゃありません。」

 

修司は首を横へ振る。

 

「違います。」

 

「先生は、一番難しいことをしました。」

 

「仲間を信じることです。」

 

先生は少し照れくさそうに笑う。

 

「まだ慣れません。」

 

「慣れる必要はありません。」

 

修司は淡々と言った。

 

「思い出せば十分です。」

 

「一人で抱え込まなくても、シャーレは動く。」

 

「それを忘れなければ。」

 

先生はゆっくり頷いた。

 

「はい。」

 

その返事には、もう迷いはなかった。

 

その時。

 

対策室の時計が午後五時を告げる。

 

リンが時計を見る。

 

「あ。」

 

「先生。」

 

先生も時計へ目を向ける。

 

「本日の業務は以上です。」

 

先生は思わず時計を見直した。

 

「……もう終わり?」

 

アユムが笑顔で頷く。

 

「はい。」

 

「本日の案件はすべて処理済みです。」

 

モモカが大きく伸びをする。

 

「今日は定時ですね。」

 

先生は対策室をゆっくり見渡した。

 

机の上に未処理案件はない。

 

返信待ちの山もない。

 

『今日中』と書かれた付箋もない。

 

全員が落ち着いた表情をしていた。

 

十四日前。

 

この時間は、ようやく仕事が半分終わる頃だった。

 

残業は当たり前。

 

帰宅時間など考えたこともなかった。

 

先生は静かに笑う。

 

「帰りましょう。」

 

その一言に。

 

リンが笑顔になる。

 

「はい。」

 

アユムも端末を閉じる。

 

「お疲れさまでした。」

 

モモカも立ち上がる。

 

「今日は夕飯、温かいうちに食べられそうですね。」

 

先生は思わず笑った。

 

「それ、大事ですね。」

 

「すごく大事ですぅ。」

 

四人は並んで対策室を出る。

 

廊下へ夕日が差し込んでいた。

 

窓から見える空は、穏やかな茜色に染まっている。

 

先生は歩きながら、静かに思った。

 

(定時で帰るなんて……。)

 

(いつ以来だろう。)

 

ふと、隣を見る。

 

リンがいる。

 

アユムがいる。

 

モモカがいる。

 

一人ではない。

 

それだけで、肩の力が抜ける気がした。

 

修司は少し後ろを歩きながら、その背中を静かに見つめていた。

 

先生はもう振り返らない。

 

前を向いて歩いている。

 

その姿を見て、修司は小さく息を吐く。

 

案件No.19。

 

これにて、本当の意味で完了だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャーレの正門前。

 

夕暮れの風が静かに吹いていた。

 

茜色に染まった空の下で、先生たちは足を止める。

 

誰も急いで帰ろうとはしなかった。

 

十四日前。

 

先生は、この正門から逃げるようにシャーレを離れた。

 

そして今日。

 

同じ場所で、一日の仕事を終えた。

 

それだけの違いなのに、景色はまるで違って見えた。

 

修司は静かにアタッシュケースを持ち直す。

 

「先生。」

 

先生は振り返る。

 

「はい。」

 

「これで、私たちの仕事は終わりです。」

 

先生は少し寂しそうに笑った。

 

「そう、ですか。」

 

「はい。」

 

「案件No.19は完了しました。」

 

短い沈黙が流れる。

 

先生はゆっくり頭を下げた。

 

「ありがとうございました。」

 

「私は。」

 

「もう、本当に辞めるしかないと思っていました。」

 

「でも。」

 

「皆さんのおかげで、もう一度先生として歩いていけそうです。」

 

修司は首を横へ振る。

 

「礼には及びません。」

 

「仕事ですから。」

 

先生は思わず笑う。

 

「最後まで、その返事なんですね。」

 

「変える理由がありません。」

 

その答えに、全員が小さく笑った。

 

リンが一歩前へ出る。

 

「白石さん。」

 

「はい。」

 

「また、お会いできますか。」

 

修司は少しだけ考えた。

 

「分かりません。」

 

「私たちは案件担当です。」

 

「案件が終われば、その世界を離れます。」

 

リンは静かに頷く。

 

「そう……ですよね。」

 

モモカが少し寂しそうに笑う。

 

「もう少し一緒に仕事してみたかったです。」

 

アユムも深く頭を下げる。

 

「本当にありがとうございました。」

 

修司は三人を見回した。

 

「皆さん。」

 

「先生をよろしくお願いします。」

 

リンは力強く頷く。

 

「はい。」

 

「今度は、私たちが先生を支えます。」

 

その返事を聞いた修司は、小さく頷いた。

 

十分だった。

 

ミコリが一歩前へ出る。

 

生命の書を静かに開く。

 

白いページが淡く光り始めた。

 

ページの中央へ、新しい文字が浮かび上がる。

 

---

 

**世界線移動**

 

**開始**

 

---

 

夕暮れの風が少しだけ強く吹く。

 

生命の書の光が、修司とミコリを優しく包み始めた。

 

先生は、その光景を静かに見つめる。

 

「もう、行くんですね。」

 

「はい。」

 

修司は穏やかに答える。

 

「次の案件があります。」

 

「また、どこかで。」

 

「誰かが助けを必要としています。」

 

先生は静かに頷いた。

 

それが、この二人の仕事なのだ。

 

最後に修司は先生へ向き直る。

 

「先生。」

 

「はい。」

 

「無理だけは、しないでください。」

 

先生は笑った。

 

十四日前。

 

正門で初めて交わした約束。

 

そして今。

 

もう一度、その約束を交わす。

 

「約束します。」

 

「一人では抱え込みません。」

 

修司は安心したように頷いた。

 

「それで十分です。」

 

光が少しずつ強くなる。

 

修司とミコリの姿が、ゆっくりと光へ溶けていく。

 

消える直前。

 

修司はいつもの無表情のまま、小さく会釈をした。

 

「失礼しました。」

 

その一言を残して。

 

二人の姿は静かに消えた。

 

生命の書の光も、ゆっくりと夜空へ溶けていく。

 

正門前には、先生たちだけが残った。

 

しばらく誰も話さなかった。

 

やがてリンが小さく呟く。

 

「行ってしまいましたね。」

 

先生は夕焼け空を見上げる。

 

「うん。」

 

「でも。」

 

「きっと今頃、また誰かを助けに行ってる。」

 

アユムも空を見上げた。

 

「そうですね。」

 

モモカが少し笑う。

 

「忙しい人たちですねぇ。」

 

先生も笑った。

 

「だからこそ。」

 

「困っている人を助けられるんでしょうね。」

 

四人はゆっくりと帰路につく。

 

もうシャーレへ戻る必要はない。

 

仕事は終わった。

 

今日は、帰って休む日だ。

 

先生は歩きながら、小さく呟く。

 

「明日も。」

 

リンが笑顔で答える。

 

「はい。」

 

「明日も頑張りましょう。」

 

その声に、先生は自然と頷いた。

 

「うん。」

 

「明日も頑張ろう。」

 

夕日に照らされた四人の影が、ゆっくりと長く伸びていく。

 

その頃。

 

誰もいない、白い空間。

 

足元も。

 

空も。

 

果てが見えない白の世界。

 

淡い光が一つ、静かに揺れた。

 

その光の中から、二人の姿が現れる。

 

白石修司。

 

そして、ミコリ。

 

ミコリが静かに告げる。

 

「世界線移動。」

 

「完了。」

 

修司は周囲を見渡すこともなく、黒いアタッシュケースを静かに開いた。

 

生命の書が、ゆっくりとページを開いていく。

 

真っ白だったページへ、黒い文字が刻まれ始めた。

 

---

 

**案件No.20**

 

**『砂漠に消えゆく学園』**

 

**対象組織**

 

**アビドス高等学校**

 

---

 

修司は静かにページを見つめる。

 

「次の案件ですね。」

 

ミコリは淡々と続ける。

 

「対象組織。」

 

「経営破綻寸前。」

 

「慢性的資金不足。」

 

「生徒数減少。」

 

「廃校危機。」

 

修司は小さく息を吐いた。

 

「また、難しい案件ですね。」

 

「担当者。」

 

「転移準備を開始します。」

 

生命の書が静かに光を放つ。

 

白い空間が光に包まれる。

 

修司はアタッシュケースを閉じる。

 

「行きましょう。」

 

「案件No.20。」

 

「開始です。」

 

光が世界を覆い尽くした。

 

**第二章 砂漠に消えゆく学園 開幕**

 

 

 

 




第13話「おかえりなさい」までお読みいただき、ありがとうございました!

そして、案件No.19『先生を支える組織』はこれにて完結です!

ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。

次回からはいよいよ第二章。

舞台はアビドス高等学校へ移ります。

新たな世界、新たな案件、そして新たな出会い。

修司とミコリの次なる物語も、ぜひ楽しみにお待ちください!

これからも『先生はモームリ』をよろしくお願いいたします!
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