PC故障&仕事でしばらく更新出来ていませんでした。
ストックが無いので毎日更新できるかまだ未定ですが基本二十時に投稿していきます。
シャーレ執務室。
机の上には七枚の紙が並んでいた。
『説明不足』
『引き継ぎ不足』
『正式決定前の調整』
『伝達経路の固定』
『先生の経験への依存』
『責任範囲が定められていない』
『先生だけが決定権を持っていない』
昨日まとめた原因を、修司は改めてホワイトボードへ書き写していく。
最後の一行を書き終えると、ペンを置いた。
「これで全部です。」
黒瀬先生はホワイトボードを見つめる。
「改めて見ると、多いね。」
「はい。」
修司は頷いた。
「ですが、全部直そうとしてはいけません。」
ミコリが首を傾げる。
「全部悪いなら、全部直した方がいいんじゃないですか?」
「それが、一番失敗する改革です。」
修司は迷いなく答えた。
「組織改革では、一度に変えるものが多いほど現場は混乱します。」
「だから最初の一手だけを決めます。」
黒瀬先生も腕を組む。
「優先順位ってこと?」
「はい。」
修司はホワイトボードへ新しく三つの丸を書いた。
『効果』
『実現性』
『反発』
「改善案は、この三つで判断します。」
ミコリがメモを取り始める。
「効果が高い。」
「実現できる。」
「反発が少ない。」
「その三つですね。」
「はい。」
修司は一番上の『効果』へ丸を付ける。
「まず効果だけを考えるなら、先生へ決定権を与えるのが最も早いでしょう。」
黒瀬先生は苦笑した。
「それは駄目だよ。」
「私も反対です。」
修司は即答した。
「先生は風紀委員会でも万魔殿でもありません。」
「権限を先生へ集めることは、新しい依存を作るだけです。」
ミコリも納得したように頷く。
「先生が休んだら終わりですね。」
「その通りです。」
修司は今度は『実現性』へ線を引く。
「では、風紀委員会と万魔殿へ説明責任を戻す。」
黒瀬先生は少し考える。
「理屈は正しいね。」
「ですが現実的ではありません。」
修司は昨日の聞き取りを思い返した。
「風紀委員会も万魔殿も、現状でも余裕はありません。」
「説明資料の作成、経緯の整理、引き継ぎ資料の整備。」
「全てを同時に始めれば、通常業務が止まります。」
ミコリが息を吐く。
「改善したいのに、仕事が増えるんですね。」
「はい。」
「改革で一番避けるべきなのは、現場が改革を嫌いになることです。」
黒瀬先生は思わず笑った。
「耳が痛いな。」
「私も昔、改善案を増やし過ぎて失敗しました。」
修司は珍しく自分の経験を口にした。
「正しい改善でも、現場が回らなくなれば続きません。」
「だから改善は、続けられることが重要です。」
先生は少し意外そうな表情を見せる。
「修司でも失敗したことがあるんだ。」
「あります。」
修司はあっさり認めた。
「改善そのものより、改善を続ける方が難しいと学びました。」
執務室に少しだけ柔らかい空気が流れる。
ミコリがホワイトボードを見上げた。
「じゃあ先生の仕事を減らすのは?」
「それも最初には行いません。」
「え?」
「先生の仕事を減らしても、その仕事を受ける人が準備できていません。」
修司は七枚の紙を見回す。
「受け皿がない状態で仕事だけ移せば、先生の代わりに誰かが困るだけです。」
黒瀬先生も納得したように頷いた。
「確かに、今急に渡されても大変だと思う。」
「はい。」
修司はホワイトボードへ一本の横線を引いた。
「つまり。」
「大きく変える改善案は、全部最初には選べません。」
ミコリは思わず声を上げた。
「全部駄目じゃないですか。」
「いいえ。」
修司は静かに首を振る。
「だから、小さく始めます。」
執務室が静かになる。
先生もミコリも、その言葉の続きを待っていた。
修司はホワイトボードの端へ、新しく一行だけ書く。
**『最初の改善 情報を共有する』**
黒瀬先生がその文字を見る。
「情報?」
「はい。」
修司は振り返った。
「昨日調査して分かったことがあります。」
「風紀委員会も万魔殿も、先生へ仕事を押し付けたいわけではありません。」
「先生しか知らない情報があるから、先生へ聞いているんです。」
ミコリは昨日の聞き取りを思い出した。
イロハも。
風紀委員会も。
口を揃えて言っていた。
**『先生なら分かる。』**
修司は続ける。
「なら、最初に変えるべきなのは仕事ではありません。」
「先生だけが持っている情報です。」
黒瀬先生は目を丸くした。
「……仕事じゃなくて?」
「はい。」
修司は力強く頷く。
「仕事を減らす前に。」
「先生の頭の中を、組織全体で共有できる状態を作ります。」
その一言で、執務室の空気が変わった。
先生の仕事を奪うのではない。
先生が一人で抱えている情報を、皆で持てるようにする。
改善の第一歩は、そこから始まるのだった。
「先生の頭の中を共有する……。」
ミコリはホワイトボードの文字を見つめた。
「でも、それってどうやるんですか?」
修司はペンを持ち直した。
「その前に、一つ確認したいことがあります。」
先生へ向き直る。
「昨日だけで、『先生を通してください』と言われた案件は何件ありましたか?」
黒瀬先生は少し考える。
「正確には覚えてないけど……七、八件くらいかな。」
「内容は覚えていますか?」
「大体なら。」
修司は頷いた。
「一件ずつ教えてください。」
---
「まず一件目。」
先生は思い出すように話し始めた。
「風紀委員会から、『万魔殿へ提出した資料は届いているか』って。」
修司は書き出す。
**案件① 資料到着確認**
「先生はどう答えましたか?」
「昨日イロハから届いたって聞いてたから、『届いてるよ』って。」
「なるほど。」
修司は紙へ丸を付けた。
「先生しか知らない情報ですね。」
ミコリが首を傾げる。
「イロハさんへ聞けば済みません?」
「本来は、その通りです。」
修司は答える。
「ですが現場は、先生へ聞く方が早いと判断しています。」
---
「二件目。」
「予算申請。」
「どこまで進んでるか聞かれた。」
修司が書く。
**案件② 進捗確認**
「先生は?」
「財務部で確認待ちって。」
「その情報は誰から?」
「昨日リンさん。」
修司は再び丸を付けた。
---
「三件目。」
「共同訓練の日程。」
「変更になったか聞かれた。」
「変更した人は?」
「ヒナ。」
「つまり先生は?」
「ヒナから聞いてた。」
また丸。
---
四件目。
五件目。
六件目。
修司は黙々と書き続ける。
やがてホワイトボードには案件名が並んだ。
* 資料到着確認
* 予算進捗
* 訓練日程
* 備品発注
* 許可申請
* 会議予定
* 人員調整
どれも先生が処理した仕事ではない。
先生が**知っていた**仕事だった。
---
修司はペンを置いた。
「見えてきました。」
ミコリも気付く。
「あれ……。」
「先生、何も決めてない。」
先生もホワイトボードを見て苦笑する。
「本当だ。」
「全部、人から聞いたことを伝えてるだけだ。」
「はい。」
修司は頷く。
「昨日先生へ集まった案件のほとんどは、判断を求めていません。」
「情報確認です。」
---
ミコリが目を丸くした。
「じゃあ、先生は決裁者じゃない?」
「少なくとも昨日の案件では違います。」
修司は七件を指差す。
「誰が決めたかを見ると。」
「イロハ。」
「ヒナ。」
「リン。」
「財務部。」
「各担当部署。」
「決定権は最初から現場にあります。」
先生は腕を組んだ。
「でも結局みんな俺へ聞きに来る。」
「そこです。」
修司は一枚の紙を持ち上げた。
「昨日まで私は、『先生へ依頼が集まる』と思っていました。」
「ですが違いました。」
先生もミコリも耳を傾ける。
「集まっているのは仕事ではありません。」
「情報です。」
---
静かな空気が流れる。
修司は続けた。
「皆さんは、先生へ仕事を押し付けているのではありません。」
「先生が知っている情報へアクセスしているだけです。」
先生は小さく息を吐いた。
「だから俺に聞けば全部分かる、か。」
「はい。」
修司は即答した。
「先生が一番情報を持っている。」
「だから先生が窓口になる。」
「これが今の仕組みです。」
---
ミコリは少し考え込む。
「でも……。」
「先生が全部知ってるのは悪いことなんですか?」
修司は首を横に振った。
「悪いことではありません。」
「ですが。」
ホワイトボードの七件を見渡す。
「先生一人しか知らないことが増えるほど。」
「先生が休めなくなります。」
先生は昨日を思い出す。
「休憩中でも呼ばれたな……。」
「はい。」
「先生が休憩していても。」
「会議中でも。」
「昼食中でも。」
「情報が先生しか持っていなければ、組織は先生を呼ぶしかありません。」
ミコリは静かに呟いた。
「先生が忙しい理由って……。」
修司は頷く。
「仕事量だけではありません。」
「情報が集中していること。」
「それ自体が、先生を忙しくしています。」
先生はホワイトボードを見つめたまま、小さく笑う。
「……なるほど。」
「俺は仕事を抱えてたんじゃない。」
「情報を抱えてたのか。」
修司はその言葉に頷いた。
「そして、その情報は先生だけのものではありません。」
「本来、組織全体で共有されるべきものです。」
その一言で、改善すべきものがはっきりと形になった。
仕事を減らす前に。
情報を、一人から組織へ。
改革の最初の目標が、ようやく全員の中で一致した。
「情報を共有する。」
ミコリはホワイトボードの文字を見つめた。
「方向性は分かりました。でも、それだけで本当に変わるんでしょうか。」
「良い質問です。」
修司は頷いた。
「情報共有にも方法があります。」
「やり方を間違えれば、現場の仕事が増えるだけです。」
黒瀬先生が苦笑する。
「また新しい報告書を増やす、とか?」
「それは避けます。」
修司は即答した。
「報告書が増えれば、情報を残すための仕事が増えます。」
「今回の目的は逆です。」
「現場を楽にすることです。」
---
修司はホワイトボードの空いている場所へ一本の線を引いた。
```
案件
↓
担当
↓
現在地
```
「例えば、この三つだけ分かればどうでしょう。」
ミコリが読み上げる。
「案件。」
「担当。」
「現在地。」
「はい。」
修司は説明を続ける。
「資料到着確認なら。」
彼は先ほどの案件①を書き換える。
```
案件 資料提出
担当 イロハ
現在地 万魔殿到着済
```
「これだけあれば。」
「『届いていますか?』と先生へ聞く必要はありません。」
先生も頷いた。
「見れば分かる。」
「その通りです。」
---
「では、予算申請。」
修司は続ける。
```
案件 予算申請
担当 財務部
現在地 確認中
```
「誰へ聞けばいいかも分かる。」
ミコリが言った。
「先生じゃなくて財務部ですね。」
「はい。」
修司は笑みを浮かべた。
「情報が見えるだけで、問い合わせ先も変わります。」
---
先生はホワイトボードを眺めながら考える。
「つまり……。」
「俺は説明しているんじゃない。」
「案内してるだけなんだ。」
修司は頷いた。
「まさにその通りです。」
「先生は仕事をしているようで、実際は『今どこに聞けばいいか』を案内しています。」
「だから先生へ人が集まるのです。」
---
ミコリは少し考え込む。
「でも、その情報って毎日変わりますよね。」
「はい。」
「じゃあ誰が更新するんですか?」
修司は迷わず答えた。
「案件を動かした人です。」
先生が少し驚く。
「俺じゃない?」
「はい。」
「例えばイロハさんが資料を受け取ったなら、イロハさんが『到着済』へ更新します。」
「財務部が確認を始めたなら、財務部が『確認中』へ更新します。」
「担当が変われば、その担当者が更新します。」
---
ミコリはホワイトボードを見つめた。
「……なるほど。」
「だから先生に聞く人が減らなかったんですね。」
「はい。」
修司は頷く。
「先生が更新すると、結局先生へ情報が集まります。」
「今回やりたいのは、その逆です。」
---
黒瀬先生は腕を組みながら笑った。
「なるほどなぁ。」
「俺が書き始めた瞬間、また俺が窓口になる。」
「その通りです。」
修司も小さく笑う。
「先生が頑張るほど、改善は失敗します。」
「……耳が痛い。」
執務室に穏やかな笑いが広がった。
---
修司はホワイトボードを消し、新しく表を書き始める。
縦に区切られた、シンプルな一覧表だった。
「完成形ではありません。」
「まずは試作品です。」
ミコリが表を見つめる。
「これが情報共有の仕組み……。」
「はい。」
修司は最後の線を引いた。
「大切なのは、立派なシステムではありません。」
「誰でも三十秒で更新できることです。」
先生も頷く。
「続かなきゃ意味がない。」
「はい。」
修司は静かに言った。
「改革は、一度成功することより。」
「一年後も続いていることの方が重要です。」
先生とミコリは、その言葉に静かに頷いた。
改善は、派手な制度から始まるものではない。
誰もが無理なく続けられる、小さな仕組みを積み重ねること。
その第一歩が、今、形になろうとしていた。
修司はホワイトボードいっぱいに書かれた表を見渡した。
「では、実際に形へします。」
黒瀬先生とミコリも前へ集まる。
「まず必要なのは、誰でも同じ情報を見られることです。」
修司は表の一番上へ書き込んだ。
| 案件番号 | 案件名 | 担当 | 現在地 | 次担当 |
| ---- | --- | -- | --- | --- |
ミコリが首を傾げる。
「案件番号って必要ですか?」
「必要です。」
修司は即答した。
「理由は二つあります。」
一本目の指を立てる。
「案件名だけでは、同じ案件か判断できません。」
「例えば『資料提出』だけでも、今日は何件ありますか?」
先生は苦笑した。
「十件以上あるかも。」
「はい。」
修司は頷く。
「『資料提出』ではなく、『案件23』と言えば一つに特定できます。」
---
二本目の指を立てる。
「もう一つ。」
「電話や無線でも伝えやすくなります。」
ミコリも納得する。
「案件二十三、確認してください。」
「って言えるんですね。」
「はい。」
「情報は短く伝えられるほど、間違いが減ります。」
---
修司は次の列を指した。
「案件名。」
「ここは簡潔で構いません。」
「長い説明は不要です。」
先生が尋ねる。
「詳細は?」
「必要になった時だけ見れば十分です。」
「一覧表は、『探すため』のものです。」
「読むためではありません。」
先生は思わず笑う。
「なるほど。」
「説明書じゃないんだ。」
---
修司は三列目を示す。
「担当。」
「ここが最も重要です。」
ミコリが聞く。
「現在の担当ですよね。」
「はい。」
「誰が持っている案件なのか。」
「それだけ分かれば、問い合わせ先は決まります。」
先生は表を見ながら呟く。
「俺じゃなくなる。」
「はい。」
修司は静かに頷いた。
「担当が見えるようになれば、先生は案内役である必要がなくなります。」
---
続いて四列目。
「現在地。」
「これは進捗です。」
修司は例を書き込む。
> 作成中
> 確認中
> 承認待ち
> 完了
「細かく書く必要はありません。」
「今どこまで進んでいるか。」
「それだけ分かれば十分です。」
先生は納得したように頷く。
「昨日も聞かれたのは、そればかりだった。」
「はい。」
「ほとんどが進捗確認でした。」
---
最後の列。
「次担当。」
ミコリが首を傾げる。
「担当が分かれば十分じゃないですか?」
修司は首を横に振る。
「担当だけでは、案件が止まっている理由が分かりません。」
先生も興味深そうに見る。
修司は例を書いた。
> 担当 財務部
> 現在地 確認完了
> 次担当 万魔殿
「この状態なら。」
「財務部の仕事は終わっています。」
「次に動くべきなのは万魔殿です。」
ミコリは小さく頷いた。
「誰が待っているかも分かる。」
「その通りです。」
---
先生は表全体を見渡した。
「思ったより項目が少ないな。」
「少なくしています。」
修司は迷わず答えた。
「項目が増えるほど、更新されなくなります。」
「現場は忙しいです。」
「一分で終わる作業も、百件あれば百分になります。」
先生は思わず苦笑した。
「積み重なるんだよな。」
「はい。」
「だから最低限です。」
---
執務室は静まり返る。
ホワイトボードには、五つの項目だけが並んでいた。
派手さはない。
しかし昨日まで先生の頭の中だけにあった情報が、少しずつ形になり始めている。
修司は表を見つめながら言った。
「情報共有は、難しい仕組みでは続きません。」
「誰でも迷わず書けること。」
「誰でも迷わず読めること。」
「まずは、この形から始めます。」
その一言に、黒瀬先生は静かに頷いた。
改革は、大きく変えることではない。
**誰もが使える仕組みを作ること。**
その最初の形が、ようやく完成した。
ホワイトボードの表を見つめながら、黒瀬先生が口を開いた。
「形は分かった。」
「でも、これを誰が管理する?」
修司は迷わず答えた。
「最初は私です。」
「それと、ミコリさん。」
突然名前を呼ばれ、ミコリが目を瞬かせた。
「私もですか?」
「はい。」
修司は頷く。
「制度を作った直後は、必ず運用が乱れます。」
「書き忘れ。」
「更新漏れ。」
「担当の記入ミス。」
「最初から現場へ任せると、仕組みそのものが定着しません。」
先生も納得したように頷く。
「軌道に乗るまで支える人が必要なんだ。」
「その通りです。」
---
ミコリはホワイトボードを見つめながら尋ねた。
「私たちは何をするんですか?」
「監視ではありません。」
修司は静かに首を振る。
「更新されていなければ声を掛ける。」
「書き方が分からなければ教える。」
「改善点があれば記録する。」
「最初は、その三つだけです。」
「現場に代わって更新はしません。」
「はい。」
「代わりに書けば、その人は覚えません。」
---
黒瀬先生が腕を組む。
「じゃあ俺は?」
修司は先生を見る。
「先生は何もしません。」
「……本当に?」
「はい。」
先生は苦笑した。
「それ、俺が一番苦手なんだよな。」
「分かっています。」
修司も少し笑う。
「ですが今回は、先生が動かないことも改善の一つです。」
---
執務室が静かになる。
先生はホワイトボードを眺めながら呟いた。
「困っていたら、手を出したくなる。」
「それが先生です。」
修司は否定しなかった。
「ですが今回は、すぐに答えを教えないでください。」
「担当者へ確認してください、と伝えるだけで十分です。」
先生は少し考えた後、小さく笑った。
「我慢の訓練だな。」
「組織の訓練でもあります。」
修司は答えた。
「先生が答えを持っている限り、人は先生を頼ります。」
「担当者が答えを持てば、人は担当者を頼るようになります。」
---
ミコリが静かに言う。
「先生が変わるんじゃなくて。」
「組織が変わるんですね。」
「はい。」
修司は頷いた。
「今回の改革は、先生を優秀にするためではありません。」
「先生がいなくても仕事が進む組織を作るためです。」
その言葉に、先生は静かに息を吐いた。
「ようやく分かった気がする。」
「今まで俺は。」
「仕事を減らそうとしてた。」
「でも本当に減らすべきだったのは。」
「俺しか知らないこと、だったんだな。」
修司は穏やかに頷いた。
「そこが出発点です。」
---
修司はホワイトボードの端に、小さく日付を書き込んだ。
**『運用開始 明日』**
「いきなり全案件は対象にしません。」
「まずは風紀委員会と万魔殿が共同で進めている案件だけ。」
ミコリが確認する。
「試験運用ですね。」
「はい。」
「問題点を確認しながら改善します。」
先生も笑った。
「最初から百点を目指さない。」
「その方が続きます。」
---
その日の夕方。
修司は一人、生命の書を開いた。
ページをめくり、新しい案件を書き加える。
---
**案件No.21**
**案件名:ゲヘナ学園 情報共有の標準化**
**第一段階:情報共有の仕組み構築**
**達成率 0%**
---
修司はペンを置く。
まだ何も変わってはいない。
表を作っただけ。
運用も始まっていない。
だからこそ、達成率はゼロ。
しかし、そのゼロには意味があった。
初めて、「先生の頑張り」に頼らない改革が動き始めた証だからだ。
修司は生命の書を静かに閉じた。
「ここからです。」
小さく呟いたその声は、誰に聞かれることもなく夕暮れの執務室へ溶けていった。