「雑貨屋の奥さんのお願いでキノコを取りに来ただけのはずだったんだがなぁ…」
ため息混じりにそう言った一人の青年。
金色の瞳に少し長めの赤みがかった茶髪。身長は180cm程。身に纏うのはユクモ極天シリーズ。彼はユクモ村のハンターであり、かの大都市『ドンドルマ』でも知る人間の多いランク500越えのG級ハンターだ。
━━さぁてと…どうすっかな。
今彼が立っているのはユクモ地方の渓流と呼ばれる狩場。空には満点の星空が輝き、煌々と光る満月が松明など要らぬほど明るく地面を照らしている。
それだけならば酒でも飲みたくなるほど粋な状況なのだがそれを覆す光景━━━目の前には今まで見たこともない大きさのジンオウガが帰り道を塞いでいる。どう見たって最大金冠である。
しかも一般的な雷狼竜ジンオウガと呼ばれる種とは別の亜種、獄狼竜ときた。
この地方での目撃例は殆ど…というか聞いた事がない。
いや、自分だって確かにハンターだ。だが、明らかにG級の強さであろう獄狼竜と、回復薬もなしに戦うのは嫌だ。
「てな訳で…帰っていいか」
相手は竜なのに思わずそんなふうに話しかけた
━━通じるわけなど無いのに
『……ダメじゃ』
「……はい?」
声が━━聞こえた。
表現するとしたら難しいが、高音と低音の2種類の若い女性の声が重なったような、人ならざる…ドスの効いた…威厳のある…そんな声。
思わず周りを見渡すが、この場に居るのは自分と目の前で帰り道を塞ぐこの竜のみだ。
━━━いやまさか。そんな事があっていいのか?
警戒を解かず、好奇心のまま話し掛けてみる。
「今…喋ったか、お前」
『うむ。喋った』
「…えぇっと…ちょっと待ってくれ…頭整理するから」
『構わぬ、だが逃げようなどと思うなよ』
「いやめっちゃ逃げたいが」
竜が言葉を話す。
子供の頃どこかでそんな物語を読んだことがある。
王国に仕える騎士が森で道に迷った時、突然目の前に現れた美女が助けてくれた。しかしその正体は金色の雌火竜━━現代では狩人たちにリオレイア希少種と呼ばれるモンスターで、人の形に姿を変えていた。
後になってそれを知る騎士だったが、仲睦まじくなった彼女に対し騎士はそれでも共にいたいと願い、二人は生涯を共にした━━━。
そんな御伽噺だったはずだ。
今その御伽噺と同じ状況が目の前にある。いや、正確には人の姿ではなく人の言葉を話す竜なのだが。
「…聞いていいか」
『うむ』
「お前は…俺を殺しに来たのか」
御伽噺の金火竜は騎士に敵意を向けなかった。
18にもなってこんなことを考えるのは自分でもどうなのだろうと思ってしまうが、お話の通りならばこの獄狼竜も敵意はないはず━━━━
『場合によってはそうかもの』
前言撤回、こりゃまずいかもしれない。
「場合によっては…か。じゃあ俺に何か用でもあるってのか」
『その通り。おぬし、見たところ相当腕が立つと見える。そこらの人間の狩人より隙が無いからの。先程からその腰の獲物、いつでも抜けるようにしてあるじゃろう。まったく油断ならぬが…その腕を見込んで頼みがある。』
驚いた。思わず目を見開く。
目の前の獄狼竜の言う通り、出会った瞬間から自分の狩人としての生命線━━
愛刀である太刀[天上天下無双刀]の鯉口を切った状態…つまりいつでも攻撃に転じられるようしていたのだ。
狩人…いや、ましてや人でも無いのにそれを見抜くとは。
ほんとに一体、こいつは何者だ…?
そして今、その竜が自分に言った言葉。
━━頼みがある。と。
ジンオウガからお願いをされるとは何事だ。
いきなりの度重なる非日常的な出来事に頭がパンクしそうなのだが、なんとなく…本当になんとなく、コイツはいい奴だ。と思った自分がいた。
他の狩人がそれを聞いたらすぐさま自分を病院送りにでもするのだろうが、生憎そんな心配をしてくれるような仲間がそんなに居ない。
そんなわけでこのまま断るのもどうかと思い━━というか断ったら殺されそうなので、そのお願いとやらを聞くことにした。
「…なんだ?」
『…わっちの兄を…共に探してほしい』
少し寂しそうな、焦りの籠った、そんな声色で目の前の竜が話す。
「どうゆう事だ?」
『…おぬしは二年ほど前…この地で起こった騒ぎは知っているか?』
「二年前…?」
竜の言葉に一瞬考え込んだ後、思い当たる出来事があった。
「もしかして…ゴア・マガラ…?」
━━二年前、突如この渓流に黒蝕竜ゴア・マガラと呼ばれる強大な力を持つ竜が現れ、生態系が壊滅。
ギルドの銘を受け調査に訪れた役30名の腕利きの狩人が1人残らず命を落としてしまった事件があったのだ。
報告が途絶え、後になって送り込まれた支援隊が目撃したのは小型から大型までの大量の竜の死体と、折り重なるように倒れた見るも無惨な人の死体だった。
『ゴア・マガラ…うむ、確か人はかの竜をそう呼んでおったはずじゃ。そしてその際、わっちの両親や一族は皆殺され、立ち去る黒蝕竜を追った兄は姿を消した…それを…探したい。』
たった一人の肉親の行方を知りたい。
この竜が頼んできたのは、あまりにも人間らしい…そんな内容だった。
自分の脳裏に、過去にあった出来事が一瞬フラッシュバックする。
━━力を貸してやりたい。そう思ったのはその出来事があったからだろうか。
「…俺に何をしろと?」
了承の意味を含めたそんな答えを返すと、獄狼竜はしばしの沈黙の後口を開いた。
『…旅を…共に兄を探す旅をしてくれぬか?』
旅…ときたか。
「なぜ、人間の俺にそれを頼む?」
『人という種は強い。わっちら竜がその体や技を駆使して戦うのに対し、ぬしら人間はその頭脳を使って蓄えた知識で戦うじゃろう。所詮わっちがここを離れ歩き回ったところで宛のない旅になるだけじゃ。しかし人の力を借りれば…ぬしら狩人が用いる情報を得ることができるかもしれぬ。ぬしら人間はその身を守るために竜の動向には敏感と聞くからの』
これまた驚いた。
この獄狼竜、そんなことまで知ってるのか。
自分たち狩人━━ハンターと呼ばれる職業の人間は、ハンターズギルドと呼ばれる団体に所属している。世界各地に展開されたギルドは自然との調和を目的としつつ、人々の生活を守るため街や里などに害をなす竜の討伐を民間の人間から依頼として受領し、所属する狩人達へその依頼をクエストとして発行、狩人はそれを受注し目撃のあった地へ赴き命を懸けて竜と対峙する。
そしてそのギルドや狩人を裏から支える王立書士隊や古龍観測隊、龍歴院といった組織も存在するのだ。
そんな知識を、人では無いこの獄狼竜は知っていた。
「よく知ってるな…だがおかげで理由はよく分かった。しかしまだ問題がある。俺は人間で、お前は獄狼竜だ。人の知識を借りるなら狩場以外にも街や里に行く事は避けられない。共に旅などできるわけが無いだろう」
しかしヤマトの言葉を聞いた獄狼竜は得意げな声でとんでもない事を言った━━
『ならわっちが人になれば良かろ?』
━━━━━━━マジ…か
言葉が詰まった。
脳裏に再び過ぎる、あの御伽噺。
「お前…まさか━━━━」
カッッッッ!!!という衝撃音と眩い閃光。
ヤマトが言葉を言い終える前にジンオウガ亜種の体が赤い稲妻に包まれた。
「…っ!!!」
思わず目をつぶり、光がおさまってから目を開けると…
そこには透き通るほどの白い肌に月明かりを受けてキラキラと光る腰まで伸びた長い白銀の髪、頭には狼の耳がちょこんと生え、少し切れ長の眼は美しい紅色。10人いたら10人は振り返るだろう紛うことなき美少女が立っていた。
「…誰だ…お前」
目の前の少女から即刻顔を背けながらそう問う。
背けた理由はどう見たって何も服を着ていないからだ。
「誰って、今の今まで話しておったろう」
芯の通った毅然とした、それでいて耳に心地よい女性の声。
御伽噺は…実話だったのかもしれない。
人の言葉を話す獄狼竜は、ほんとに人の姿へと変身したのだった。
「どうじゃ?これで共に旅ができるじゃろ?」
目の前の少女がいたずらっぽく八重歯を見せてかかかと笑う。その言葉のとおり、頭から生える耳はともかく他はどう見ても16、7歳の人間の女の子だ。
「………わかった。その旅、付き合ってやる。最近色々刺激がなくて退屈に思ってたしな」
こうなれば本当に断る理由が無くなった。
実際自分はユクモ村の専属狩人では無いし、出身も別の村だ。この地域はしばらく前に訪れて居心地が良く留まっていたに過ぎない。
「ほんに!?ありがとう…!」
独特の言葉を使う彼女が、目を輝かせて喜びそのすらっとした手を伸ばしこちらへ差し出す。
「人は出会った時このようにするのが礼儀なのじゃろう?握手といったか」
目を逸らしたまま愛刀の天上天下無双刀の鯉口をチンッと元に戻すと、手を伸ばしその手を握る。
「…ホントよく知ってるな、お前」
「…おぬし、なぜ先程からこちらを見ない…?」
握手をしたまま逸らした目線の先に入ろうとする獄狼竜の少女。更に目線を逸らして逃げながら、思わず声を荒らげる。
「人間は異性の裸を気軽に見ちゃいけないんだよ…!
頼むからなんか着てくれ…」
「わっちはそんなもの持っておらぬ」
「ならもうこれでいいから羽織ってくれ!!」
淡々と答える彼女に、防寒のためいつも持っていた自分のフード付きの黒い長めの羽織を投げるように渡すと、目の前の少女は「そうなのか…」と呟きつつそれを受け取り、まるで着方がわかっているようにサッと身につけた。人間について色々知っているようで知らないところもあるようだ…。
羽織の前を閉じたことを横目で確認し、改めてしっかりと向き直る。やはりとんでもなく綺麗な少女の姿だ。
「よろしくな」
自分が目を合わせてそう言うと、獄狼竜の少女はこちらをしっかり見てくれたのが嬉しかったのか、先程同様八重歯を見せてニカッと笑う。
「おぬし、名前は?」
「ヤマトだ」
「ほう、ヤマトか。良い名じゃ。ぬしの名はこの先未来永劫、わっちが美談にして語り継がせよう」
獄狼竜の少女は、ヤマトとの握手の手に力を込めそう言った。
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とりあえず本来の目的だったキノコ採取は終わっていたのでそのままユクモ村に帰還したヤマトと少女。
化身の姿になってはいるが元はジンオウガ亜種なので、彼女の頭上あたりを蝕竜蟲と呼ばれる龍属性の力を宿す小さな甲虫が数匹、ふよふよ飛んでいる。
通常種である雷狼竜ジンオウガは雷光虫と呼ばれる雷属性を宿した小さな甲虫と共生関係にあり、天敵から雷光虫を守る代わりにその雷属性を使い狩りや攻撃を行う。それに対し亜種の獄狼竜は同じような理由で蝕竜蟲と共生関係にあり、龍属性を使うのだ。と、文献で読んだことがある。
「…それどうにかならないか?」
「こやつらはわっちの
そう彼女が言ってしばらくすると、言葉を発したり何か動作をした訳では無いのにも関わらず頭上の蝕竜蟲達はふわ〜っとどこかへ去っていった。
「流石だな……さて、村入るぞ、ボロ出すなよ」
獄狼竜の耳を出したまま村に入って、忌み子だのなんだのとケチをつけられたのではたまったもんじゃない。
「人の姿は初めてでは無い、心配無用じゃ」
そういった途端頭からぴょこりと出ていた耳が引っ込む。
…すごい機能だな
「まぁ耳を引っ込めると聴覚がガクンと落ちてしまうがの」
「俺の心を読むな心を」
「くふふ」
他愛ない会話をしながら暖簾をくぐり、集会浴場と呼ばれるユクモ村のハンターズギルド施設に入る。
その途端、施設の中央あたりに位置するカウンターからドタドタと慌ただしくこちらに向かってかけてくる人物が一人。
ハンターズギルドユクモ村支部の受付嬢のひとり。
コノハだった。
「ヤマト!!やっと帰ってきた!!キノコ取るだけなのに遅すぎよ!ってあれ…?そちらは…?」
鬼の形相でこちらに声を荒らげる彼女だったが、斜め後ろに佇む羽織を着た少女に気づき疑問を投げかけてきた。もちろん、こうなる事は予想していたので打ち合わせ済み。
「わっちは遠くよりこの地を訪れた旅人でありんす。道に迷い食べるものが尽きてしまってな…空腹で倒れそうになっておったら、こやつが助けてくれたんじゃよ」
事前の台本通りのセリフを言う獄狼竜。
実際、そのような事例が結構あるためかコノハは全く疑いなどせずモミジに駆け寄った。
「それは大変だったね…!!大丈夫?」
「心配ありんせん。この者が親切にしてくれてな」
「ヤマト……変なことしてないでしょうね」
「なんでそうなるんだよ!助けただけだって!!」
「ふ〜ん」
「待て待て、俺がそんなやつじゃないことぐらい知ってるよなコノハ…?」
何故か疑いの目を向けられている…誰か助けて…
なんて思っていると奥のカウンターで成り行きを見守っていたもう一人の受付嬢、ササユが助け舟を出してくれた。
「彼はそうゆう人じゃないでしょ。失礼な事言わないの。ヤマトくんほらこれ、クエストの報酬金よ。コノハ、そんなところで立ち話させてないで早くその旅のお方休ませてあげなさい」
「あ、はい…ごめんなさい…」
━━━すまん助かった。
目線でササユに礼を言うと彼女はお淑やかに笑って答えた。
「んじゃあとりあえず俺の家に行こうか」
背後にいる少女にそう声をかけ、集会所から村へ出る入口へヤマトは歩き出す。
「なかなか元気な娘じゃな」
少女はさっきまでの様子が面白かったのか、思わずと言った様子で笑いながらヤマトの後をついて行くのだった。
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「ここがこの村自慢の温泉だ」
とりあえずヤマトの家に邪魔な荷物やらを置いたあと、少女を連れてきたのはユクモ温泉。
この地の名物と言えばこの温泉だ。大陸でもかなり有名らしく、遠くの街から色々な人々がこの温泉を目当てに訪れる。
「おぉ…これは…凄いの!!」
更衣室で湯浴み用のタオルを体に巻いた少女はそう言って目の前の温泉に目を輝かせ、そそくさと湯船に入り奥の岩にもたれかかる
「ふぃ〜…たまらぬ」
オッサンかお前は。
ヤマトは苦笑いしながらそう心の中で突っ込むと湯船に入り、少女の隣で同じように岩にもたれかかって上を見上げる。すると視界に入るのは、空が見えないほど広がる紅色。
半露天になっているこの温泉はすぐ側に大きな椛の木があり、ちょうど紅葉の時期である今は美しい椛を見ながら温泉に浸かり、酒を飲む。
そんな贅沢すぎる時間を過ごせるのだ。
「モミジ…」
「ん?」
頭に浮かんだ言葉を思わず口にすると、少女が反応する。
「いや、これから旅するってんならいつまでもお前…とかジンオウガ…って呼び方じゃ変だろ」
「まぁ…そうじゃの」
「だからさ、名前決めないか?お前の。無いんだろ?名前。」
「…無い」
「ならさ、モミジって どうだ?その…お前の眼、この椛みたいに綺麗な紅色だから…」
我ながらネーミングセンス皆無だと思ったが、少女は目をキラキラさせてこちらを見ている。
「いいのかや?…名前なんてもらって」
竜にはあまりそういう習慣がないのだろうか。
どうやら名前をもらうなんてのはとても嬉しいことらしい。感情が高まったせいか頭から出かけた耳を手で咄嗟に抑えて引っ込めさせるとヤマトは笑う。
「あぁ、これからしばらく二人で旅をするんだ。名前くらい無きゃな」
「…そうか…ありがとう、嬉しい」
本日何度目かの笑顔。
やっぱり可愛かった。
「これから宜しくな。モミジ」
「こちらこそじゃ、ヤマト」
狩人と獄狼竜。
ある秋の日、ユクモの渓流から始まったこの二人の旅は。
━━━後に御伽噺となって語られる
英雄譚になる。
はじめまして。
このたびモンハン原作小説、[紅の舞姫]を書かせて頂きますMomijiと申します。実はこの作品、pixivさんにて僕がKUREHAという名義にて投稿させて頂いていたシリーズで、この度完結いたしまして…。せっかくなら、と、こちらにも投稿させていただいている次第です!!
拙い文章力ですが、読んでいただけると幸いです✨️
以後、よろしくお願い致します!!