【遺跡平原】
その名の通り、遥か彼方へと広がる小麦色の平原に古代の民が作り上げた建造物が並ぶ狩場だ。
「ケチャワチャ…でしたっけ。奇猿狐って言うだけあって猿と狐を取り合わせたような見た目なんでしょうか…」
レンが支給品ボックスから取り出したマップを見つめながら呟いた。
今ヤマト達がいるのは遺跡平原のベースキャンプ。ケチャワチャ狩りの準備をしている所だ。
「どうだか…想像つかねぇな」
「わっちもそのような竜は……竜…?…はたして竜という表現であっているのかや…?」
モミジも自分で言った言葉に自分で突っ込んでいる。
今回のターゲットであるケチャワチャに関して、ヤマト達はあまり情報を持っていない。
ソフィアからも「鼻水には気をつけてくださいね!!!」とだけしか言われていなかった。
「鼻水って…どうゆう事だ…」
「自分の鼻水でも飛ばして来るんですかね」
「ババコンガかよ…」
「ぬしよ、あ奴は鼻水ではなく糞━━」
「言うな言うな軽いトラウマだ……まぁいい、会ってみりゃわかんだろ。行くぞ」
「うむ」
「はい!!」
準備を終えたヤマト達は、狩場へと向かっていった。
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遺跡平原エリア2━━━
「すごい…これは……植物…でしょうか」
エリア2に入ると、そこにはネットのように広がった植物がテントのように上を覆っていた。
「だろうな…こりゃあ高低差のある戦いが要求されそうだな」
一応周りに警戒しながらも、ヤマトは今まで見たことの無い地形に圧倒されていた。
しかしそこで、モミジが立ち止まった。
「モミジ?」
見ると、彼女の耳がピクピクと動いている。
「ぬし、気配がするのに姿が見当たらん…気を付けよ」
モミジのその言葉に、ヤマトとレンは身構えた。
彼女のその危機感知力は人間のそれを大きく上回り、人間であるヤマトが気づけないような微かなモンスターの気配を真っ先に感じ取るのだ。
ヤマトは腰に据えた天上天下無双刀の鯉口を切り、いつでも抜刀できるようにする。レンもセクトセロルージュの盾を体の前に寄せ、いつでも戦闘が開始できる姿勢になった。
━━カサッ
「そこかっ!!!!!!」
背後からの僅かな音。それにモミジが反応し、即座に蝕竜虫弾を打ち込んだ。
━グギャアッ!!!
茂みの中に飛んで行った蝕竜虫弾が"何か"に当たり、オレンジ色の物体が地面に落下した。
「あれが…ケチャワチャ!」
レンが驚愕の声を上げる。
それはまるで様々な生物を混ぜたような見た目で、巨大な耳にゾウのような鼻、手には巨大な鉤爪を持ち獰猛な目をしていた。
「奇猿狐か…なるほど分からなくもないな」
「ぬし、あやつは気が短いようじゃ。もう怒っておる…来るぞ!!」
━ブギイイイイイイイイイイイィィィ!!!
その身体に似つかないバインドボイスを放ったケチャワチャは、攻撃を仕掛けたモミジに向かって突っ込んでくる。
「下品な咆哮じゃな…」
咆哮に下品とかあるんだ…とモミジの言葉に心の中でコメントしながらヤマトは抜刀、レンもそれに続く。
「さぁ、とっとと片付けて帰って飯だ!!!」
「うむ!!!」
「はい!!」
ヤマトの掛け声に二人が続き、三人まとめて一気にケチャワチャへ肉薄する。
「悪いが依頼なんでね…」
そう言いながらヤマトが天上天下無双刀を袈裟懸けに一閃、見た目通りそこまで強固でない皮膚が裂け血が吹き出た。
━グワァァッ!?
まさか一撃目から痛手を食らうとは思っていなかったのか、ケチャワチャはたたらを踏む。
「モミジ!!!」
「請け負った!」
ヤマトの声がけに、打てば響く答えが返ってくる。
後退すると共に、入れ替わるようにモミジが腰の刀を抜刀。老山龍の素材でできたその刀身がモミジの力を受けて赤黒く光り威力が増す。
「せああっ!!」
短い気合いと共に振り下ろされた刃は、ケチャワチャの皮膚をヤマト同様に切り裂いた。レンも、モミジを支援するかのように後ろへと回り込み片手剣を袈裟懸けに一閃する。
━ギァアアアアァァア!?
開戦から僅かしか経っていないのにも関わらず、ヤマトたちの猛攻撃により数多くの痛手を受けたケチャワチャは悲鳴にも近い声を上げ怯む。
しかしこの状況でもヤマト達三人は一切気を抜かない。モンスターというのは、弱ってからが怖いのだ。
そして、やはりその予感が的中する。
ケチャワチャが何かを溜め込むかのような動作をする。大抵の場合、そのような動作の後にはブレスと呼ばれる大技が繰り出されることが多いので、ヤマト達は身構えた。
そして"それ"はなんと"鼻"から発射され、思っていたより遥かに速い速度で1番近くにいた者━━モミジに的中する。
「あうっ!?!?」
吹き飛ばされる程では無かったが、その質量に彼女は思わずといった様子で尻もちを着いた。
「モミジ!!」
ヤマトが名を呼びながらモミジの元へ駆け寄る。
「大丈夫か?」
「うへぇ…すまぬ、大丈夫じゃ」
少し粘性のある液体を受けた彼女は気持ち悪そうに自身の身体を見て、ブルっと震える。
「寒いか?」
「うむ…少しだけじゃがな」
体を芯から冷やす特性のある液体をくらい、俗に言う「水やられ」の状態だった。
「ほら、食っとけ」
一先ずモミジが無事なことを確認したヤマトは、彼女に状態異常を消滅させる効果のある木の実━━ウチケシの実を投げ渡して戦線へと戻る。
「レン、大丈夫か?」
「えぇ、問題ありません。やつも大分弱ってきています。」
「よし、じきにモミジも戻る。一気に畳み掛けるぞ!!」
「はい!!!」
レンが返事をするや否や、武器を腰に仕舞い拳を構える。
「一気に決めます…!!!」
スゥ、と息を吸い、目をつぶる。
刹那、体の至る所が漆黒の鱗で被われた。
半竜人であるレンの本気状態"竜化"である。
「黒曜拳法ッッ!!!」
その場から消えたのではないかと思うほどの速度でレンがケチャワチャへと肉薄する。
そして大きく振りかぶった右の拳が、とてつもない速度でケチャワチャの胴体へとめり込んだ。
「破龍拳ッ!!!」
ドォンッ!!!と音と共に、拳を打ち込んだ反対側から血が吹き出す。
竜の力により強化された筋肉から打ち出された拳は、音速にも等しい速度で対象を捉え、そしてその先から真空の拳を発生させ破壊する。レンが繰り出す技の中でも特に強力な技の一つだ。
余りにも人間離れしたその技にヤマトは思わず目を丸くした。
━ギアアアアアッァァァァァッッ!?!?!?
その場で転げ回るケチャワチャに、水やられから復帰したモミジが急接近する。
「これで…終いじゃ」
モミジがケチャワチャの頭部に向かって手を向け━━
バシィンッ!!!
掌から発生した黒雷がその脳を一瞬で焼き付くし、奇猿狐は絶命した。
「ふぅ…」
「ナイスだ、モミジ」
汗を拭うモミジにヤマトが太刀を納刀しながら歩み寄り、ハイタッチを交わす。
「お二人共、お疲れ様でした」
更にそこへ竜化を解除したレンも集まり、二人と同じようにハイタッチを交わした。
「さて…これで依頼は達成だ。とっととバルバレに戻って飯にでも━━━━━━ッ!?」
「!?」
「えっ!?」
ヤマト達が帰ろうとした時、一瞬だが物凄い殺気を三人とも感じてその場に凍りつく。
「ぬしよ」
「あぁ、"何か"いる」
━━━━━━━━━━━━━━━!!!
突如、遺跡平原全体に巨大な咆哮が響き渡った。
「い、今のは!?」
「わからねぇ、ただ、やべぇって事は確かだ。モミジ、咆哮はどこら辺からのものか分かるか?
……モミジ?」
ヤマトが彼女に索敵を頼もうと振り返ると、彼女は目を恐怖に見開いたまま固まっていた。
「モミジ?おい、どうした?」
「あ、ぁあ…あぁ…」
「おい!?しっかりしろ!!」
「モミジさん!!!」
今までに見た事のない彼女の様子に、ヤマトとレンは慌てて呼びかける。
「ぬしよ…」
「なんだ?」
「あの咆哮は…あの時の……渓流の時の…」
途切れ途切れのモミジの言葉から、ヤマトはある節に辿り着いた。
「まさか!?」
その時、視界が暗くなる。
「や、ヤマトさん!!!上!!!」
レンの叫び声にヤマトが空を見上げる。
モミジは俯いたままだ。
そして、そこには太陽を覆い隠すかのように…
━━━━━━━━━━━━黒。
黒い"何か"が羽ばたいている。
「おいおい…嘘だろ…」
間違いない。あれがヤマト達の追っていた竜。
紛れもない、黒蝕竜ゴア・マガラだった。
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『人間風情が
そんな声が響き渡った。
男性の声で、低すぎず高すぎない、威圧のある声だ。
「しゃ、喋った…」
レンが思わずつぶやく。
ヤマトも驚きつつも、ある程度予想はしていた。モミジ達の一族を全て屠るほどの力の持ち主。つまり、そのゴア・マガラも恐らくモミジ同様、王族であるのではないか…と。
『ん?なんだ、妙な気配があると思えば…貴様、人の皮を被ってはいるが竜だな?━━この
「"王"に対して…?まさか…」
『ふむ、話のわかる人間が居るか。如何にも。我は黒蝕竜…いや、全ての竜の王と言っても過言では無い存在だ。』
ゆったりと羽ばたきながらそう言うゴア・マガラは、正体を見抜ぬかれていながら、全く反応しようとしないモミジへ鋭い視線を向けた。
『おい、娘。なにか喋ったらどうだ。貴様はどこのトカゲだ?』
"トカゲ"…そう呼ばれてピクリとモミジが反応した。
「……が」
『ん?聞こえぬな』
「貴様が…わっち達一族を…!!!父上と母上を!!」
━━バチバチィッ!!!
モミジの白銀の髪が逆立ち、紅い稲妻が迸る。
刹那、彼女の手からノーモーションで本気の龍光が放たれた。
━━━━━━だが
『つまらん。それで攻撃したつもりか。』
なんとゴア・マガラは、モミジの放った本気の攻撃を羽虫を払うかのように翼を使って容易く防いだ。
「な…にっ…!?!?」
流石のモミジも自分の攻撃が無効化されるとまでは思っていなかったらしく、驚愕の声を上げる。
『王に手を出した事、後悔するがいい。』
声に怒りを宿したゴア・マガラが、大きく息を吸い込むような動作をする。
あの動きは…間違いない。ブレスだ。
「ぬし、レン!!早くここから離れよ!!!!!!」
モミジがそう叫ぶが、今から逃げたとしても間違いなく奴の射程範囲内。被弾は確実だ。
そうとなれば、あとは如何にダメージを減らすか…。
ヤマトは少しでも被弾地点から距離が取れるように姿勢を低くして回避の構え。
レンは竜化して身体能力を倍増させた。
そしてモミジは…。
「甘く見てくれるなよ…牙狼の一族を!!!」
手を突き出し、龍光エネルギーを集束。
風車の様な形で展開したエネルギーが高速回転を始めた。
「おい!?何する気だ!!!」
「このままでは全滅じゃ。ならば…ヤツのブレスを防ぎ切る!!」
「馬鹿な事はよせ!!それじゃあお前が!!」
「良いからぬしは少しでも距離を取れ!!」
ヤマトの説得に、モミジは応じない。
そして━━━
『滅びろ。雑種。』
ゴア・マガラの口から漆黒の炎が放たれ、モミジの展開したシールドに直撃する。
「ぐうぅうっ…!!!」
苦悶の表情を浮かべながらも、彼女はそのシールドでブレスを━━━━
『…ほう』
「なめるなああああああああっ!!!」
爆音にも等しい音を轟かせてブレスが爆散、なんとか防ぎきることに成功した。しかし、その威力故かシールドを展開したモミジはボロボロだ。ジンオウUシリーズを模した鎧は所々砕け散り、腕からは煙が上がっている。
「はっ…はぁっ…っ…!!!」
「モミジ!!大丈夫か!?」
肩で息をしながら今にも倒れそうだったモミジにヤマトが駆け寄り、身体を支える。
「大丈夫…じゃ…この程度…」
「無茶しやがって…」
しかしそれも束の間。
『我の攻撃を止めるとは…少々侮っていたな。娘、貴様何者だ』
怒りを含んだ声が響く。
「渓流の…牙狼の一族。貴様が滅ぼした王族の姫。それがわっちじゃ…」
ヤマトに肩を抱かれながらも、鋭い眼でゴア・マガラを睨みながらモミジが応える。
『渓流…?牙狼……??……あぁ。あれか』
対する黒蝕竜は、そんな事もあったかなと言わんばかりの口ぶりだ。
『そうか…思い出したぞ。あの時我に無礼を働いた雌犬か。既に死んだものだと思っていたが』
「っ貴様ああぁぁぁっっ!!!!」
「モミジ、よせ!!」
「なぜ止める!?!?」
ゴア・マガラに対し再び攻撃しようとしたモミジを、ヤマトが制した。
「お前、その体で勝てると思うのか」
「っ…」
「今は…悔しいが退こう」
おそらく今かの竜と戦えば、モミジは耐えられないだろうとヤマトは判断したのだ。
『良い判断だ。人間。……おい娘。』
ゴア・マガラの呼び掛けに、悔しそうな顔をしたモミジが視線だけを向ける。
『また見舞える時があれば…その時は改めて潰してやろう。』
黒蝕竜はそう言い残し、空高く飛び去って行った。
「…」
「モミジ」
「…わっちは…奴より弱いのかや…」
気付けば彼女は薄らと涙を流し、訴えかけるような眼でヤマトを見た。
「…わからねぇ。ただ、これだけは覚えとけ。もうお前はひとりじゃねぇんだ。俺らを頼れ」
レンもヤマトの言葉にゆっくり頷く。
「そう…じゃな…ありがとう」
「よし…。んじゃあ今度こそ、帰るか」
「うむ」
「はい!!!」
ヤマトがモミジに肩を貸し、レンが二人の装備を抱える。
そして三人は、バルバレへの帰路に着いた。
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「おいおい…そりゃあ本当か、ヤマト」
「ホントも何も、見りゃあ分かんだろ」
バルバレのハンターズギルドに着くなり、ヤマト達は遭遇したゴア・マガラについて報告をした。
「俺とレンはまだしも、直接やりあったモミジはこのザマだ。あれは間違いなく俺らの探している黒蝕竜だよ」
「むぅ…」
ヤマトの言葉にギルドマスターは黙り込む。
そして、暫しの沈黙の後。
「それで…その黒蝕竜は何処へ?」
これにはモミジが答えた。
「恐らく、この地は去ったじゃろう。奴の目的が何なのかわっちにも分からぬが、長居をするような様子でもなかった。この街が危機に晒されることはありせん。」
「そうか…それにしても嬢ちゃん、怪我は大丈夫なのかぃ?」
そう聞かれたモミジは、ゴア・マガラのブレスによる怪我を治療した為、身体中包帯だらけだった。
「心配無用じゃよ、全てかすり傷程度じゃ」
嘘つけ…死にかけてた癖に。
ヤマトが心の中でそう思うと、横から肘鉄が飛んできた。
「ぐぇ…」
…恐らく黙ってろと言う意味だろう。
「で、マスター。俺らは黒蝕竜を追おうと考えているんだが…なにか情報はないか」
ヤマトがモミジにどつかれた脇腹を擦りながら、ギルドマスターに問う。
「うむ…一つだけ…あるにはある」
「あるのか!?」
「ここより遥か北の山脈地に、【シナト村】という小さな村がある。そこには古くから、黒蝕竜に纏わる伝説が残されているそうだ。そこに行けば…何かわかるかもしれない。」
「シナト村…!!本で読んだことがあります。【天空山】と呼ばれる高い山の麓にあるとされていて、古龍に関する伝説が数多く眠っているとか…」
レンが考え込むようにそう言った。
「レン、知ってるのか」
「いえ、あくまでその名前だけです。僕はてっきり伝説上の架空の村かと思っていましたが…実在していたとは…」
「いや、知らなくても無理はねぇさ。なんたって行く方法が気球船ぐらいしかねぇからなァ」
ギルドマスターの聞いたことの無い言葉に、ヤマトは首を傾げた。
「気球…船??普通の気球とは違うのか?」
「あぁ。あの一帯は風が強すぎて、動力に風と炎だけを使う気球じゃとてもじゃないが辿り着けん。だからちょいと前まではシナト村なんて場所、誰も発見できなかったんだ。しかしそこで登場したのが、プロペラという高速旋回する小型の風車を幾つも携え、それを使って任意の方向に進むことが出来る、気球船って訳だ」
「…わっちにはよく分からんが…それは凄いのか?」
「あぁ、多分凄いんだろう。」
正直、ヤマトも想像することは難しいが、気球船ってのはすごい乗り物なんだろう。
「で、マスター、そのシナト村に行くための気球船ってのは何処で乗れるんだ?」
ヤマトがそう問うと、ギルドマスターは難しい顔をした。
「それが…問題だ。シナト村方面への定期便は出ていねぇ。というよりそれ以前に、気球船なんて代物、まだ普及はしてねぇんだよ。現時点でそれを持ってんのは古龍観測隊と王立書士隊ぐれぇだ。」
「じゃあダメじゃないか。」
「いや、諦めんのはまだ早ェ。その気球船を作っている村がある。ここから海を渡って三日ほどの距離にある【ナグリ村】って場所だ。そこへ行って、おめぇら【我らの団】の専用船を作っちまえば良いのさ」
このオヤジ…とんでもねぇことを言いやがった。
「…マスター殿よ、作ると言ってもその気球船は決して安上がりな代物ではあるまい。わっちらにそんな資金は無いし、団の皆もその為だけに動いてくれたりはしないじゃろう。」
ヤマトと同感のモミジがギルドマスターにそう言う。
━━━━だが。
「金は心配要らねぇ。黒蝕竜の件は、俺らハンターズギルドからの依頼でもある。資金はこちらで確保しよう。ナグリの村長にも此方から話は通して置く。」
なら心配は要らなそうだ。残る問題は…
「団の皆が同意し、同行してくれるか…否か。じゃな」
「あぁ」
「…いえ、どうやらその心配は無さそうですよ」
レンがそう言って、ギルドの入口を指差す。
そこには…
「話は聞かせて貰ったぜ!!あんちゃん!!」
我らの団の団長が、何やら羊皮紙を掲げて立っていた。
その羊皮紙は…
「団長、それは…?」
「ここからナグリまでの海上船承諾証だァ!!俺らの旅はこの甲殻の正体を知るための旅。宛がない以上、あんちゃん達に付き合うってもんだろ!!それに、これがもし古龍の物なら、そのシナト村にヒントがあるかもしれねぇ!!」
団長は金色に輝く甲殻を掲げて、相も変わらないテンションで言う。
━━まったく。あの人は…。
「感謝…じゃな」
「ああ。」
危険と隣り合わせの旅であることを承知で、自分たちに協力を惜しまない団長に、ヤマトとモミジは心から感謝をした。
「さァて、条件は整ったな。」
手をパンと鳴らしてギルドマスターが言う。
「ヤマト、さっきも言ったが、これはハンターズギルドからお前らに出す依頼━━つまり特命クエスト扱いになる。各地を移動してシナト村を目指し、生態系を狂わせている黒蝕竜ゴア・マガラを食い止めろ。残念ながら、狩場が確定していない以上、ギルドからの支給品や気球による追跡は困難だ。加えて、狩場の環境、乱入モンスターの有無もわからん。その中でお前さん達は団の皆の護衛をしながら戦うことになる。…以上のことを踏まえた上でもう一度聞く。この任務を受ける覚悟はあるか?」
ギルドマスターが真っ直ぐな目でこちらを見据える。
ヤマトは、入口付近にいる団長を見た。
「やろうぜ。あんちゃん。」
「…ありがとう。」
そして、横にいるここまで来た仲間━━
レンを見る。
「何処までもついて行きます。僕はあなた方の剣であり盾です。」
「頼りにしている。」
そして、モミジを見た。
彼女は何も言わず、ゆっくりと頷く。
だが、それだけでモミジが何を言いたいのかわかる。
もはや慣れ親しんだやり取りだ。
「マスター、答えは全会一致で━━YESだ」
そう言ったヤマトは手元の特命任務書類に手早くサインをする。
「よっしゃあ!!そうと決まれば直ぐに出発の準備だ!海までの砂上撃竜船とナグリ村までの海上撃竜船を用意しろ!!」
マスターの一声に、ギルド職員が動き出す。
「ありがとう」
「それはこっちのセリフだ。お前さんが来てくれなきゃこの任務は託せなんだ。…頼むぜ、滅龍姫の一番弟子さん」
「…知ってたのか」
「かっかっかっ、俺らハンターズギルドの情報網を舐めんなよ」
「…ったく…」
少し頬を緩めながら気まずそうに頭を搔くヤマトに、モミジが隣でそっと呟く。
「流石、ぬしの姉上じゃ」
「ホント、敵わねぇな。」
まったく、どこまで名を轟かせてたんだか…
しかし、そのお陰で今自分たちがこうやって助けられているのもまた事実。素直に姉の残した功績に甘えることにしよう。
「さぁ行きな。旅の安全を祈ってるぜ」
ギルドマスターはそう言うと、指をパチンと鳴らした。
━ゴオオオォォォン!!!!
するとどこからとも無く砂上船の大銅鑼が鳴り響いた。
次なる旅への出発の合図だ。
横でモミジが少し音にびっくりしていたが、それには敢えて気づかなかった振りをする。
「……いい心掛けじゃ」
…どうやらバレていたようだ。
ヤマトは誤魔化すようにモミジの頭をポンと叩くと、深呼吸。
「準備はいいか」
「勿論」
阿吽の呼吸。息はいつも通りピッタリだ。
さぁ、いざ次なる目的地━━━ナグリ村へ。