村長宅の中へ入ると、ちょうど話し合いが始まったところだった。
家の中にいるのはナグリの村長、我らの団団長、村の鍛冶師三名。
「お、来たな。あんちゃん」
「待たせたな団長」
「今ちょうど、船の件について話そうとしてたところだ」
団長はそう言って、三人に飲み物を渡してくる。
木でできた器に入った薄黄色の飲み物。
飲んでみると、どうやら林檎の絞り汁のようだ。
三人が飲み物に口を付けると同時に、ナグリの村長が話し始める。
「さて、オイラ達の村を救ってくれたお前さん達にはそれ相応の礼をしなきゃならん。そんな話をしてたところに、ギルドからの伝書が届いた」
部屋の中央にある石製のテーブルの真ん中に、村長は羊皮紙に書かれたハンターズギルドの正式な書類を提示した。
「それがこれだ。"我らの団"及びそのキャラバンに属するハンター三名 ヤマト、モミジ、レンへの特命調査依頼のため、気球船建造の依頼を命ずる。…どうやら建造資金等はギルド持ちのようだ。」
そこまで言って言葉を切ると、村長は別の羊皮紙を取り出した。
そこには船の設計図らしい絵が描かれている。
しかし、描かれているのはよく見る一般的な船の形では無かった。
「これは…」
「クジラ…?」
海洋生物の一種である鯨が、船の形をしている…
そんなようなデザインだった。
「デザインはとりあえず置いといて、この船は既に初期設計段階に入っている。これでも武装船だ。装備は撃龍槍、大砲四門、バリスタ二門━━」
「…まるで撃龍船だな」
団の船となれば、ある程度の対竜兵器ぐらいは搭載するんだろうと予想していたヤマトだが、この装備にはさすがに驚いた。
これでは対竜装備どころか対古龍装備である。
「いやこれだけじゃねぇ、最後にもうひとつ、とっておきがある」
「とっておき…?」
レンの問いに、村長は自信満々に腕を組みながら驚くべきことを口にした。
「撃龍槍の上部…まぁ船首なんだが、そこにギルドが開発した試作段階の兵器を搭載する。その名も…『巨龍砲』…!!」
「はぁ!?」
村長の言葉に、思わずヤマトは声が裏返った。
ヤマトの反応に驚いたモミジが問いかけてくる。
「ぬし、その きょうりゅうほう…?とやらはなんじゃ?」
「巨龍砲("きょ"りゅうほう)。ハンターズギルド ドンドルマ本部と古龍観測隊が共同で開発した馬鹿でかい大砲だ。人類兵器の中でも最高レベルの威力を誇るらしいが…ただあれは船に搭載できるような大きさじゃなかったはずじゃ…」
「その通りだハンターさん。だから俺らはあれを小型化した。それでも普通の船じゃ砲身が飛び出ちまうから、船のデザインがああなのよ」
巨龍砲の小型化…そんなことが出来るのかと驚きながらも、船のデザインが鯨(船首が顔になっており大きい)なのが理解出来た。恐らくこの鯨の頭の中にその小型化した巨龍砲を格納するのだろう。
「まぁその威力故に、一度の航海で使用できるのは1回までだ。ただ、これ以上安心できる装備はねぇだろう??」
「まぁ確かにそうだが…」
「なァに、心配するこたァねぇよあんちゃん。ナグリ村産の気球船は古龍観測隊や龍歴院の主力を担うほどの人気ぶりだ。いい船に仕上げてくれるさ」
団長がそう笑いながらバンバンと背中を叩いてくる。
「いてて…まぁそうだな。俺たちは造船に関しちゃ知識がない。任せるさ」
「おぅよ、任せな!!」
そうして僅か1週間後。
急ピッチで進められた造船作業が終わり、遂に我らの団の船『勇魚丸』が完成した。
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以下、勇魚丸の性能
船名 勇魚丸(イサナマル)
全長 約45m(撃龍槍格納時)
航行可能環境 海上・砂上・空中
最大速度 海上:21knots
砂上:27knots
飛行時:130kph
武装 大砲 四門
バリスタ 二門
船首 撃龍槍
船首 格納式巨龍砲
帆船なのにかなり高性能な船が出来てしまった…
悔いはありませんBy作者
元ネタである本来の『イサナ船』を知りたい方はGoogle先生にお聞き下さい。
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「…とんでもねぇ船が出来ちまったな」
「う、うむ…わっちも船はわからぬが、これが凄いということはわかりんす」
「僕もこんな船は初めて見ました…国の軍艦━━いや、それよりより立派なんじゃないですか…これ」
1週間後。完成した船が進水し、それを見に来たヤマト達は呆然と船を見上げながらそんな風に話していた。
レンの言うとおり、大きさ・武装といい最早軍艦である。
「随分立派な船だなこりゃぁ!カッコイイじゃねぇかァ!!勇魚丸!!」
しかしながら団長はいつものテンション…いや、いつも以上のテンションで笑っている。
「出航はいつでも可能だ。どうする、団長さん」
村長の問いに、団長は手を顎に当て少し考え込む。
「う〜ん。ここからシナトまでは海で役一週間、天空山の存在する山脈まで着いたらそこから飛んで三日間ってところらしい。」
「最初から飛んでは行けないのですか?」
レンの至極真っ当な問に、団長は首を横に振る。
「残念だが海上から飛び立つのは不可能だ。硬い地面が下にないと離陸が安定しないんでなァ」
「なら早めに出発した方が良いだろう。団長、俺らはいつでも大丈夫だ。そっちの予定に合わせよう」
ヤマトの提案に、団長は頷く。
「俺らも準備万端だ。よし、出発は明日の早朝!!進路、シナト村だァ!!!!」
オオオォォォ!と、ナグリの鍛冶師たちが団長の掛け声にのって雄叫びをあげる。
いきなりの大声に、ヤマトの隣にいたモミジがビクッと肩を跳ねさせた。
「な、なんじゃあ奴らは…自分たちはここに残る身だと言うのに随分な気合いじゃのぅ…」
「はは…そういうもんなんだよ、人間の男ってのは」
ヤマトの言葉に よくわからぬ…とモミジは首を傾げている。こればかりは彼女でも分からないだろう。ロマンってやつだ。
「さて、出発は明日早朝だ。俺らに出来ることは十分な準備と睡眠、良いな」
「うむ」
「はい」
再び海上での旅。何があるか分からない以上、ハンターとして何が起きてもいいように準備するのがヤマト達にできることだ。
まだ周りが盛り上がっている船に背を向け、ヤマト達はキャラバンのテントへと引き返したのだった。
その夜。
モミジは一人、村の海岸で海を眺めていた。
いつもの黒い、椛の刺繍が入った着物に深い紅色の馬乗り袴。腰には新たにこさえた刀
『覇龍一文字』
穏やかな海風に、自慢の長い銀髪がサラサラと揺れている。
「父上…母上…。兄様…。見ててくりゃれ。わっちは…精一杯生きておるぞ」
ヤマトと出会って半年。旅を続けるうちに、心の中では分かっていた。
旅の理由。自分の兄はもしかするともう…。と。
しかしそれでも旅を続けた理由。
わっちは━━━━あの男に…。
暫しの思考の後、ぶんぶんと首を振る。
"そうだったとしても"、考えるべきではないだろう。人と竜。古来より相容れぬ存在同士なのだ。こうして共に旅ができているだけで奇跡なのだ。
腰の刀に手を添え、引き抜く。
キィィンと心地よい音を立てて漆黒の刀身が顕になった。
中段構え。刀を使う者において基本中の基本。
彼が━━ヤマトが教えてくれた刀。
目を閉じる。
━━刹那、強い風が吹いた。
「ふっ!!!!」
その風を斬るように一閃。ヒュンッと振り抜かれた刀は、そのまま流れるように鞘へと納刀された。
一息ついてふと空を見上げると、そこには満月が煌々と光っている。ヤマトが出会って最初に褒めてくれた、その紅色の瞳が月明かりを受けてキラキラと光る。
「…よし」
ぺちっと両頬を軽く叩き、くるりと向きを変えるとモミジは村の中へと戻って行った。
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「出航だあああああっ!!!!」
━━ゴォォオォン!!
翌朝、太陽が水平線より姿を表した頃。
団長の掛け声と共に村の海岸沿いにある大銅鑼が鳴り響き、それを待っていたかのように我らの団の船『勇魚丸』のすべての帆が降ろされた。
続いて船の後方に二つ着いているプロペラが起動、高速回転を始め、後方に大きな風が巻き起こった。
その風に押されるように、勇魚丸はゆっくりと動き出す。
「気をつけてなああああ!!」
「頑張れええええ!!」
「行ってらっしゃああああい!!」
村人たちから声援が届く。
その光景を、ヤマトとモミジ、そしてレンの三人は甲板後方の手すりから眺めていた。
その横では我らの団団長とその他の団員たちが手を振っている。
「…これだけの人達に助けられて、応援されて…なんて言うか…幸せ者ですね。僕らは」
レンがそう呟いた。
「…あぁ、ホント、そうだな」
ヤマトも小さくなっていくナグリ村を見つめながら、呟くようにそう答えた。
「さて、そんなわけでこれからまた一週間は海の上だ。…駄々こねるなよ、モミジ」
「む、失敬な。船は好きじゃ」
━━いつまでそう言ってられるかな
心の中でヤマトが笑っていると、それに気づいたのだろう。モミジがむぅ、と眉間に皺を寄せると踵で足の甲を踏んできた。
「いっっ…!!!!」
「ふん」
…なんだそのドヤ顔は。
「心の中でもわっちを小馬鹿にするとこうなりんす」
「…はいはい、わかりましたよ」
ヤマトは苦笑いしながらそう答えた。
「とりあえず暫くはこのままだろう。船室にでも行って各々好きに過ごそうぜ」
ヤマトがそう提案すると、二人は頷き船室への階段を降りていった。
ヤマトも後に続いて下へ降りようとした刹那。
何か、とてつもない気配を感じて咄嗟に水平線を睨む。
━━が、何も見えない。
「気のせい…か?」
暫く見つめていると、階段下からモミジが顔を出した。
「ぬし、何しておる?」
「…いや、なんでもねぇ。今行く」
ヤマトは今の感覚を頭から振り払うと、船内へと下って行った。
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航海は順調に進んでいた。
3日目の夜を迎えるまでは。
特に何も起きず、ヤマト達は各々武器や装備の整備を行っていたりして穏やかに過ごしていた。
が。ナグリを出発して3日目の深夜。
皆が眠りについた頃、突然咆哮が響き渡った。
━━ ゴアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!
反射的にヤマトが飛び起き横を見ると、隣のベットで寝ていたモミジは既に体を起こして船室の窓を凝視している。
「や、ヤマトさん!!今のは!?」
ヤマトと同じ二段ベットの上で寝ていたレンも起きたらしく、上からこちらを覗いている。
「…モミジ」
「…ここで…見つかるとはの…」
「やっぱり、そうか」
今の咆哮は聞き覚えがあった。
以前、遺跡平原で聞いたものと同じ。
「まさか…!!」
レンも思い出したようだ。
「あぁ、奴だ」
装備を整えた三人は船室を飛び出すとそのまま甲板へ駆け上がる。
外の天候はあまり芳しくなく、波も荒れている。
月は雲に霞んでぼんやりと光っており、その月を背に飛んでいる"漆黒の竜"
「黒蝕竜…!!」
モミジの怒りを含んだ声の通り、それは以前対峙した特異個体の黒蝕竜ゴア・マガラだった。
『ほぅ。何やら感じたことのある気配がすると思えば、この間の雌犬ではないか』
「貴様ぁ!!!!」
「待て、食ってかかるな」
モミジが先制攻撃を仕掛けようとしたので、ヤマトはそれを止めた。
ここは船の上。戦いになれば逃げ場は無い。
「くっ…!!」
彼女もそれは分かっていたようで、拳を固く握りながらも踏みとどまった。
『相変わらず頭の回転が早いな、人間。
…しかし…だ。貴様等、どうやら
━━勘づかれていたか。
『そんなにもこの我が憎いか、黒狼姫』
「…あたりまえじゃ。貴様はわっちの一族の仇、憎まない方がおかしかろう」
モミジは白銀の髪から龍光をはじけさせながら、鋭い目付きで黒蝕竜を睨む。
『ふん、まぁ良いわ。貴様では我の力に敵わぬ。好きなだけ恨むが良い』
悠々とそう喋る黒蝕竜は、ヤマトでさえ一目置く戦闘能力を持つモミジを鼻で笑った。
「…随分と舐められているの。じゃが、わざわざ貴様から接触して来たからには理由があるのじゃろう?」
『なに、ずっと後をつけられていては気分が悪いのでな。…ここで、葬っておこうかと…な』
ガバッと翼を広げるゴア・マガラ。
━━まずい。
ヤマトの直感がそう告げた。
「散開!!」
ヤマトの掛け声に咄嗟に反応した二人が、横へと飛ぶ。同時に、黒蝕竜の放った漆黒のブレスが甲板へと着弾した。
━━船は…無事か
ブレスの直撃を受けつつも、流石は軍艦クラスの船。甲板は無傷だった。
「あんちゃん!!無事か!!って…うおぉ!?」
船内より甲板へ駆け上がってきた団長が、目の前のゴア・マガラに怯む。
「おっさん上がってくんな!!下で皆を守れ、いいな!」
「わかったァ!!あんちゃん達も無理すんなよ!」
帽子に手を当てながら引き返す団長。
この船なら黒蝕竜相手でも簡単には沈まないだろう。ならば、ヤマト達は船が損傷を受ける前に少しでも早くこの竜を退ける必要があった。
「抜刀!」
ヤマトの単語に、ほか二人が反応。
全員が戦闘状態へ移行する。
モミジが赤い光に包まれ、和装からジンオウUシリーズへと形態変化。レンも竜の血を呼び覚まし、腕が黒曜甲へと変化、体の至る所に同じ甲殻が現れる。砕竜ブラキディオスの血を次ぐ彼の本気だ。
ヤマトも腰の天上天下を抜刀。
研ぎ澄まされた刀身が顕になる。
「黒蝕竜。わっちらは本気じゃ、覚悟せい」
ドスの効いたモミジの声に、黒蝕竜は"嗤う"。
『くっはははははははは!!よいぞよいぞ、我を楽しませろ!』
ギュイイインという音と共に、ゴア・マガラの口に黒いエネルギーが収束し始める。
狂竜ウイルスを含んだ爆散ブレスだ。
こんな狭いところであれを撃たれては、避けるのは難しいだろう。
「させるか」
ヤマトが全力で駆けだす。
腰の天上天下の柄に手を添え、鯉口を切る。
「全力全開…!!」
「東雲流滅龍抜刀術」
「『彼岸花ッ!!!!』」
高速抜刀と同時に全力の連撃、体を横倒しにする勢いで黒蝕竜の周りを一周する。
抜刀から攻撃、一周回って納刀 ここまでで1秒弱。納刀と同時に、ゴア・マガラの身体中から血が吹き出た。
『彼岸花』東雲流の中でもかなり難易度の高い技である。
『人間…!!やるではないか!面白い、気に入ったぞ』
「…普通なら痛みでのたうち回るんだがな…」
ヤマトの全力技に笑って応えるゴア・マガラに、半分呆れて呟くヤマト。しかしそこに、レンが飛び込む。
「ならば僕も全力でいきます!!」
「黒曜拳法!! 奥義ッ!」
カアァァッとレンの腕が赤く染っていく。
ブラキディオスの固有能力、爆破粘菌の活性化だ。
「豪爆連滅拳ッッ!!」
ゴア・マガラの眼前までレンが接近。両拳を握りしめ深く構える。
『何…!?』
流石の黒蝕竜も驚いたのか、咄嗟に顔を腕でガードする。そこに、レンが連撃を叩き込んだ。
「はあああああああああああああああああッ!!」
気合いとともに物凄い速さで拳が叩き込まれていく。
そしてトドメのアッパーカット。
「せあああああああっ!!!!」
同時に黒蝕竜の腕に蓄積された爆破粘菌が起爆。
ゴア・マガラの姿が爆煙の中に消えた。
「はぁっ、はぁっ」
肩で息をするレンはヤマトの横まで後退すると、思わずと言った様子で膝を着く。
「大丈夫か」
「はい…大丈夫、です。」
見るに、あれがレンの持つ技の中で最強のものなのだろう。かなり体力を消耗した様だ。
「レン、一旦引け」
ヤマトの提案に、レンはばっと顔を上げて首を振る
「ですが!」
「引くんじゃ、レン坊」
モミジもレンの頭に手を置きそう言った。
実際、かなり体力的には限界のはずだ。本人もそれは分かっているのだろう。ぐっと歯を食いしばり、未だ晴れない爆煙を見つめる。
「…わかりました。」
言うと、よろっと立ち上がる。
「下の皆を頼む」
「はい…!!お二人も、気をつけて…!!」
レンはそう答えると、踵を返して船内へと走っていった。
「…さて、ぬしよ」
「…こっからが正念場だ」
二人とも、わかっていた。
レンの全力攻撃。並の竜であれば消し炭になっていたかもしれない。
だがかの竜は━━
果たして、その予感は当たりだった。
『半竜人め…未だあの様な力を持つ者がいたとは…正直、驚いたぞ』
やっと晴れ始めた煙の中から姿を表したその竜は、腕の甲殻から血を滴らせながらも悠々と歩いてくる。
「ふん。なんじゃ、強がりか。黒蝕竜」
煽りにも近い口調でモミジがそう言うが、額には汗を滲ませ拳を固く握っている。
━━レンの全力でも、この程度か。と。
そしてまるで此方のその思いを分かっているかのように、黒蝕竜は嗤いながら翼をガバッと広げ
た。
『遊びは終わりだ。雑種共』
「っ…!?」
黒蝕竜の気配が、今までと打って変わったように強烈なものとなる。
予備動作もなしに上空へと飛び立つと、そのまま高速で船の周りを旋回。船首前方で留まると力を貯めるかのように体を反らせた。
「モミジ…あれは…!!」
ヤバいんじゃないか━━とヤマトが言う前にモミジが船首へ駆け出した。ヤマトも慌ててその後を追う。
「ぬし!!奴は本気でこの船ごとわっちらを沈めるつもりじゃ!!…わっちは何とか攻撃を防ぐ。ぬしはあれを!」
モミジが指さすは、船首に備えられたレバー。撃龍槍の起動レバーとは異なった形状のそれは、格納されたこの船の最終兵器、『巨竜砲』の起動スイッチだ。
「だが…!!お前…!」
前回、モミジは黒蝕竜のブレスを受け止めて怪我を負っている。今回は恐らく前回の比にならない威力で仕留めに来るだろう。それを彼女は受け止めようとしているのだ。
「…正直…防ぎきれるか分からぬ。じゃが、僅かでも"あれ"を止められるのはわっちしか居らぬ!!」
正論だった。ヤマトにはどうやってもかの竜の攻撃は止められない。モミジに、託すしか無かった。
「…わかった。耐えろよ、相棒!!」
「くふっ…渓流の姫、舐めるでないぞ」
ヤマトの言葉にニヤリと笑い応えた彼女は、船首に立ち両腕を真っ直ぐと前へ突き出す。
刹那、モミジの手先に龍エネルギーが収束。いつか見たように、風車のような形で龍光が展開され高速回転を始める。
『我の全力、防げるのならばやって見せよ!!』
今までにない勢いで黒蝕竜の口にエネルギーが収束し始めた。
ヤマトはそれをしり目に、モミジの後方に位置する巨竜砲起動レバーへと走り思い切り引く。
ガコンっ!と音を立てて内部機構が動き始めた。
クジラの口内に備わる撃龍槍がさらに中へと格納され、交代するように奥から巨大な砲身が姿を現す。
巨竜砲は火薬ではなくモミジが使用するのと同じ龍属性のエネルギーを使用して砲弾を飛ばす。
そのため、起動から発射までかなりの時間が必要なのだ。
衝撃を拡散させるための措置なのか、クジラの口が大きく開き始める。それに、黒蝕竜は気付いたようだ。
『我を堕とさんとしているな…だが。先に滅ぶのは貴様達だ。覚悟せよ』
━━━さぁ躍れ、死に物狂いで逃げ惑え
天上天下、森羅万象、万物滅すは我が轟咆
これは冥界への切符だ、受け取るがいい…!!
「…!!まさか…詠唱じゃと…!?」
防御姿勢をとっているモミジが、驚愕した。
━━どうした
とヤマトが聞こうとした刹那。
『消え失せろ』
━━狂竜轟滅咆アザトース・ロア
ドオオオン!!という衝撃音と共に口から放たれた"それ"はブレスというよりは最早、光線だった。
漆黒の光線。恐らく狂竜ブレスの応用なのだろう。その攻撃が、今。モミジの展開した盾へ…着弾した。
バリバリバリと激しい音を立てながら、相殺し合うエネルギー。
「ぐっああああああああああああぁぁぁぁぁあぁ!!」
顔を顰め、身体を震わせながらモミジは耐える。
たちまち彼女の腕からは煙が上がり、その身を焦がしてゆく。身につけた装備も、次々と砕けて灰になっていた。
「頑張れ…!!」
後ろでただ見ているしかないヤマトは、届かないことを承知でそう叫ぶ。
未だ光線は途切れない。
「ああああああああああああああああッッ!!」
その華奢な身体で彼女は耐え続け…
「せあああああっっ!!」
なんと、耐え抜いた。
『な…に…!?』
黒蝕竜が初めて驚愕する。
それと同時に、ガコン!!という音が船首から響く。
巨竜砲の発射準備が整った。
ブレスを耐えきったモミジは方で息をしながら暫く立っていたが、不意にふらっとよろめくと後ろ向きに倒れた。ヤマトが咄嗟にそれを受け止めると、腕の中でモミジが力なく笑う。
「ぬし…やってやった…ぞ…」
「あぁ。ありがとう。充分だ」
ヤマトも笑ってそう返すと、そのまま手元の発射スイッチを引いた。
バリバリバリバリと音を立て始める巨竜砲。
クジラが、さらに口を開く。
刹那。
ドカアアアアアアアアアンッッッ!!!!
爆音と共に発射されたその砲弾は
避ける間も与えず。
船首前方にいる黒蝕竜を、見事に穿った。
『……!!』
声を上げる間もなく、砲弾の直撃を受けた黒蝕竜は着弾で生まれた煙に巻かれ、海へと堕ちて行く。
ガガガガ、とクジラが口を閉じる。
「これが…巨竜砲」
「とんでもない威力じゃな…けほっけほっ」
「大丈夫か」
モミジが唐突に咳き込んだのを心配し、ヤマトは背中をさする。
「心配無用じゃ」
「ありがとう。お前のお陰で助かった」
「じゃが奴を仕留めた訳では無い、気は抜けぬ」
「だな」
モミジの考えにはヤマトも賛同する。
いくら超高威力の巨竜砲とはいえ、あの化け物じみた竜の息の根を止められるとは思っていない。
だが、大きなダメージを与えたのもまた事実。
暫くは追ってくることもできないだろう。
「とりあえずまずはお前の治療からだ。皆も心配だし、船室へ戻ろう」
「かたじけない」
モミジに肩を貸して立ち上がり、二人は船内へと続く階段へ歩き出す。
階段をおりると、突然の襲撃を耐えきったモミジとヤマト、そしてレンに向けて拍手と歓声が巻き起こった。
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「っつぅ…」
「痛むか?」
ゴア・マガラ撃退から丸一日。
夕日の差し込む船内の一室で、ヤマトはモミジの包帯を取り替えていた。
ジンオウUシリーズを模したモミジオリジナルの装備を身に付けていたおかげで彼女に重傷箇所こそ無かったが、体の至る所に切り傷や火傷があった。
「むぅ…耐えられんほどではないがの…やはり少しは痛い…」
「無理もないさ。あれだけの攻撃を全て受け止めたんだからな……と。ほら、腕上げろ」
鎖骨から胸部にかけての火傷に包帯を巻くため、モミジに両腕を上げさせてぐるりと体に一周、二周と回復薬を染み込ませた布を巻いてゆく。
当然彼女は上半身の服を脱いでいるので、向かい合って堂々と処置する勇気はヤマトには無く、背中側から巻いている。
「てゆうか何で俺が巻いてんだ。ソフィア辺りに頼めばいいものを…」
この船の乗組員の中で女性はモミジと我らの団所属のギルド職員、ソフィアの二人だけだ。
付き合いがそれなりに長いとはいえヤマトも男性、仲も良いし同性のソフィアに頼んだ方が気楽では無いかとヤマトは素直に疑問に思ったのだが。
「…ぬしは…まったく…まぁ良い。別に、わっちはぬしにこうしてもらった方が気楽じゃ」
「…?そっか」
なら別に構わないが。と作業を続けるヤマトを横目に見て、ため息を吐くモミジだった。
「ほい、終わったぞ。動きにくくないか?」
「うむ、大丈夫じゃ。ありがとう」
腕をぐるぐるとゆっくり回し、動きに支障がないことを確認したモミジは着崩していた服を整える。
「それにしても…」
「む?」
「傷跡、残らないといいが」
以前遺跡平原で黒蝕竜のブレスを受け止めた時も、彼女は防御壁を展開した右腕に傷跡が残ってしまった。その事を思い出し、思わずそう呟いたのだ。
「…わっちはぬしと違って竜じゃ、回復力には自信がある。今回受けた傷も、ほとんど綺麗に治るじゃろうよ。じゃから安心せい」
「…あぁ」
ふふっ、と。ただ笑って答える彼女に対し、ヤマトはただ謝罪の心しか無かった。
遺跡平原の時と言い、今回の船上での一戦といい。
かの竜が放つ攻撃は一狩人にはとてもじゃないが対処することが不可能な代物だった。
しかしそれでも、自分が何も出来ない状況で彼女だけが傷つくのがどうしても嫌なのだ。
故に、何とも言えぬ感情が心の奥底に漂う。
「━━ぬし?」
何も言わず少し俯くヤマトに、モミジが声を掛ける。
それに対しハッと顔を上げ、無理やりに笑う。
「すまんすまん、ぼぅっとしてた。さぁ、明日か明後日には天空山の聳える山脈に到着だ。」
心に叱咤する。
━━俺がこんなんでどうする。
いつもの調子に戻さなくては。これからの旅路、何が起こってもおかしくは無いのだから。
無理やりにでも気張って━━━
「ぬしよ。無理をするな」
「っ…」
また、見抜かれた。
モミジはヤマトの心の声を読むのが得意…というのは抽象的な考えで。実際は観察能力が優れているのだ。相手の様子で、いつもと違うところが見受けられたらその原因を推測して相手の考えていることを当てる。そして、それに言葉で返す。
彼女は出会った頃からそれが非常に得意だった。
それは今も昔も変わらずで。
「はは、参ったな。また"読まれたか"」
「わっちに隠し事をするなど千年早い。」
「悪かった。でもな、やっぱりあの時俺は━」
「わっちは。いつもぬしに助けられとる。借りは返させてくりゃれ」
ヤマトの声をさえぎって、彼女はそう言った。
「…助けてるつもり、無いんだが」
「それでもわっちは助けられてると思っておる」
「そう…か」
「そうじゃ」
相手方にキッパリ言われてしまっては、返す言葉がない。
━━まったく。相変わらず敵わない。
「降参だよ。…ありがとう」
「うむ」
モミジの頭に手を添える。
彼女はそれに対し、いつも通り笑って答えた。
それで良い。と、言わんばかりの顔で。
ふと窓の外に目を向ければ、夕日が水平線に殆ど沈み、美しい光が世界を紅色に染めていた。