モンハン小説[紅の舞姫]   作:Momiji712

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第17話 天空山に蠢く

 

 

 

「おい、おいおいおい待て待て」

「くふ、怖いかや?」

「いや怖いだろこれは!?なぁレン?」

「……」

「あ、俺以上にダメだこいつ」

 

そんな会話が行われている勇魚丸甲板。

先程山脈のそびえる大陸に到着したこの船は、現在飛行形式へと変化して空へと飛びだったところだった。

ヤマトは初めて体験する高度に思わず尻込みし、レンに至っては表情が固まったまま必死に外を見ないよう床を凝視している。

それに対しモミジは…

 

「こんなに高いところは初めてじゃ!!気分が良いの!!」

 

━━思いっきり楽しんでいる。

現在の高度は上空二百メートル程だ。眼下には岩肌の露出した荒々しい山脈が連なる。

普通であれば怖がる高さだと思うが…。

彼女はそんな事ないようだった。

 

「俺、船室にいるわ。レン、来るか?」

コクリ。

「ははは…よし行こう。モミジ、あと一時間ぐらいで飯だ。それまでに戻れよ」

「分かっとる〜!」

「……あの人の前世、鳥か何かですか」

「…かもなぁ」

 

一人盛り上がるモミジを後目に、ヤマトとレンは船室へと入って行く。

その途中で、団長とすれ違った。

 

「おぅ、あんちゃん達。空の旅はどうだ?」

「勘弁してくれ…」

「……」

「ガッハハハハハハ!!そうか、高い所はダメだっか!!まぁあと二日も無い辛抱だ!!」

「あぁ…」

「はい…」

 

笑いながら甲板へと上がっていく団長が、思い出したかのように手を打って振り返る。

 

「っ…と、そうだそうだ。レン君。」

「はい?」

「今晩の夕食の後、少し話したいことがあるから、俺と一緒に食堂に残ってくれ。良いか?」

「…?わかりました」

 

レンがなんの事だろうとヤマトの顔を見たが、ヤマトも特に何も聞いていなかったので

さぁ?

と首を傾げる。

 

「まぁ、そうゆうことだ!!ゆっくり休めよ!!」

 

そう言うと今度こそ団長は甲板へと上がって行った。

 

「話って何のことでしょうか…?」

「さぁなぁ。ただあの人がマンツーで話したいってのは中々無いからな。何か、大事な事かもな。とりあえず夕飯の後聞いてみろ」

「そうですね…」

 

そう答えながらも、レンは相変わらず

なんの事だろう…と首を傾げていた。

 

❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀

 

食堂でネコの作った晩飯を食べたあと、ヤマトとモミジはレンを置いて一足先に部屋へと戻っていた。

 

「それにしても珍しいの。団長殿がレン坊に話とは」

「あぁ。結構真面目な表情だったし…どうしたんだろうな」

 

勘のいいモミジも流石に今回は分からないらしく、顎に手を添えて考えていた。

しばらく考え込んでいたが、諦めたかのように首を振ると座っていた部屋の椅子から立ち上がる。

 

「まぁ特別何かをして怒られる━━とかではなかろう。…さて、わっちは湯浴みをしてくる」

「おう、行ってこい」

 

有難いことに、この勇魚丸には簡易的な風呂まで備わっている。長旅を想定しての事だろうが、これがとても助かるのだ。

鼻歌交じりにタオルを手に取り、彼女は部屋の外へと向かう。ドアに手をかけると、悪戯っぽい笑みを浮かべ振り返った。

 

「ぬしも一緒に入るかや?」

「…ふたりじゃ狭いだろ」

 

危うく飲んでいたお茶を吹き出すところだったが、何とか耐えると至って冷静に返した。

 

「くふ。照れてるの、見え見えじゃ」

「うるせぇ、早く行ってこい」

 

ヤマトが少しぶっきらぼうに言うと、モミジはそれに対しても笑いながらヒラヒラと手を振って船室の外へと消えていった。

まったく、年頃の男子をいじめ過ぎである。

 

その後モミジが風呂から上がってくるまでレンは帰らず、ヤマトも風呂へ。

二人が就寝の支度を始める頃に、やっと彼は戻ってきたのだった。

何か、大きな選択を迫られている様な表情で。

 

❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀

 

「着いたぞ、シナト村ァ!!」

 

約十日の旅路の果て、ついに我らの団は天空山の麓━━シナト村へと到着した。

村全体は少し殺風景に感じるほど色味が少なく、所々にある風車がカラカラと音を立てている。

流石は古の時代からずっとここにあった村と言うべきか、見ただけで歴史を感じる。そんな村だった。

 

そんな村の端に突如現れた巨大な鯨に、村の人々はさぞかし驚いただろう━━

そう思っていたのだが、案外村人たちの反応は穏やかだった。

 

「こんにちは、旅のお方達。ようこそシナトへ。こんな辺境になんの御用で?」

 

村の入口に近い畑を耕していた穏やかな顔つきの青年が、我らの団団長に話しかける。

 

「うむ、実はな━━━━━」

 

団長がこの村の長老と会いたいと話すと、対応した青年は穏やかな表情で「案内します」と、代表で団長とヤマト達三人を連れ村の奥へと歩みを進めた。

途中、ヤマトは村の中からもしっかりと見える天空山を見上げる。周りの山に比べ標高は高く、しかし頂上付近に雪があるようには見えない。この辺りの気候の影響なのだろうか。

そうこうしている内に、長老の家だという建物に案内される。

扉を開けると、待っていたかのようにシナト村の長老が出迎えてくれた。

 

「ようこそ皆の者、風鳴りの村へ。ワシが、この村の長老じゃ!!」

 

小柄な竜人族の翁が、にこやかに笑って答えた。

ヤマト達もそれぞれ挨拶を交わすと、本題へと入る。

口を開いたのは、モミジだった。

 

「長老殿、突然の来訪失礼する。いきなりですまぬがここに来た要件を伝えよう」

「ふむ、可憐な娘さんじゃ。御用とは何かな?」

「黒蝕竜…という竜を知っておるか」

 

ガチャ。

 

と、突然後ろで鍵の閉まる音。

どうやら案内した青年が発した音らしい。

少しの間があり、長老が口を開く。

 

「…なぜ、その竜を?」

「わっち達は、遥か彼方の地よりかの竜を追って来た。この村には、古くからかの竜についての伝承があると聞いておる。」

「…ふむ。…その表情…興味本位などでは無いの」

 

長老はそこで一呼吸。

部屋の中に、緊張した雰囲気が漂う。

 

「廻り集いて回帰せん━━かの竜に対しはるか昔、この村の者が残した言葉じゃ。」

「廻り…集いて…?」

「お前さん達はかの竜が"古龍種"だと知っておるかの」

 

「何!?!?」

「古龍…じゃと!?」

「やはり、知らぬか。かの竜はな、天廻龍シャガルマガラと呼ばれる古龍の幼体なんじゃよ」

 

長老の言葉に、モミジが身を乗り出す。

 

「幼体!?馬鹿な、彼奴はもう何百年と生きておるというのに幼子じゃというのか…?」

「うむ。かの竜が以前現れたのは数百年前。ワシらがお天さんと呼ぶ山…おぬしらには天空山と言った方が良いかの。実はあの山の頂の奥地に禁足地がある。」

「禁足地…ギルド指定の踏み入ることが許されない禁忌の場所か」

「そうじゃ。その地はかの竜が生まれ、繁殖の為種を撒いて、成体となって帰ってくる故郷。じゃから、"廻り" 集いて "回帰"なんじゃ」

 

繁殖のため、種をまく。

…つまり。

狂竜ウイルスの本来の役目は。

 

「ウイルスは…奴の卵の様なもの。それに対応できた竜は、新たな黒蝕竜となるため天空山へと訪れ、幼体となり、そして再び世界を廻る。…こうゆうことか?」

 

ヤマトの言葉に、長老はゆっくりと頷いた。

 

「ヤマトさん、対応…って?」

「狂竜ウイルスに負けず、それを克服した竜は極限化という状態に陥るとされている。だが今分かった。あれは克服じゃねぇ、適用だ」

 

つまりは。

黒蝕竜は繁殖の為に狂竜ウイルスを用い、その力に適用できるものを選別する。

選ばれた竜は、内側から黒蝕竜へと強制的に変えられてゆく。

わかりやすい例えは、寄生虫だろう。

動物の脳などに寄生し、その宿主を思うがまま操り自分の体の一部にしてしまう。それと似たようなことが、かの竜にはできるのだ。

そして種を世界各地にまき終えた竜は、故郷へと戻り成体となる。

 

だがここでひとつ気になるのは、今追っているかの竜が"特異個体"だということ。

狂竜ウイルスの運用だけでなく、喰らった他の竜の力を自分の物にしてしまうという桁違いの力は、本来の黒蝕竜には存在しない力なのだ。

今までヤマト達は、かの竜と対峙しても他の竜の力を使っている場面を明確に見ていない。

もし、かの竜が成体となり、今まで制御出来なかった他の竜の力をも司る龍となった時。

その龍は、禁忌の存在となるのではないか。

 

「ぬしの考え、大方その通りじゃろうな」

「…あぁ」

 

そんな竜を…否、龍を野放しにしておいていたらどうなるか。

下手をすれば、世界の均衡が崩れる。

即ち、第二次竜大戦の勃発。

それだけは━━━

 

「何としても防がねばならぬ」

 

ヤマトの心の声を継ぐかのようにモミジが言った。

 

「長老殿、わっちらはドンドルマよりかの竜の調査を任されておる狩人じゃ。天空山への立ち入り許可を頂きたい」

 

モミジの言葉に、長老は難しい顔で再び考え込むが、暫くして頷くとこちらを見据える。

 

「良いじゃろう。君たちの調査を許可する」

「ありがとう。助かりんす」

「じゃが、あの山は今、何か嫌な風が吹いておる。充分に気を付けられよ」

「うむ、承知した」

 

その後、ヤマト達が調査を終えるまで我らの団がシナトに留まることや、村の人々もその調査のバックアップをしてくれる事が決まり三人は翌朝、山へと向かうこととなった。

 

その頃、山頂奥地━━━禁足地にて。

 

 

 

一陣の、黒い風が吹いた。

 

❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀

 

「お前とふたりでこうやって酒を飲むの、なんか久々な気がするな」

 

その日の夜、レンは相変わらず調べ物をすると言って団のギルド職員━━ソフィアと共に村の書物庫に篭ってしまったのでヤマトとモミジは部屋で酒を飲んでいた。

 

「そうかや?…あぁ、でも確かにそうかもしれんの…」

「最近なんだかバタバタしてたもんなぁ」

「船の中では悠長に飲んでいられんかったしの」

「あの揺れる船の中で酒が飲めるのはお前ぐらいだよ」

 

ヤマトの冗談に、モミジはくふふっと笑う。

暗い部屋を照らすロウソクの火に浮かぶその顔は、何とも綺麗で。その顔をヤマトは穏やかな表情で見つめながら、ふと天井を仰ぐ。

 

「お前と出会って…もう半年…いや、もっと経つか」

「…じゃな。色々あったの。」

「あぁ。ほんと、こんなに濃い生活は久々…いや、初めてかもな」

 

ははっと笑うヤマトに、モミジは穏やかな━━しかし少しだけ羨ましそうな顔を向ける。

 

「…わっちにとって、半年という期間はぬしよりとても短く感じてしまう。…それでも、確かにこの半年はわっちにとっても濃厚な期間じゃったかもしれぬ」

 

少し物悲しそうなその表情を見て、ヤマトはこう投げかけた。

 

「なぁ、モミジ。今も、俺と居て楽しいか?」

 

いつだかモミジがヤマトに言ってくれた言葉。

"わっちは、ぬしといると…とても楽しい"

その質問にモミジは一瞬ぽかんとした顔をして、すぐに笑った。

 

「たわけ。聞かれるまでもない。」

「そっか。…ならこれからも、この先も。楽しい旅をしようぜ」

「っ……ぬし━━━」

「大丈夫だ。」

 

モミジが言わんとした事を、言葉でねじ伏せる。

恐らくここから先、今まで以上に辛い事が待っているかもしれない。いや、それはほぼ確実だろう。命の危険だって、充分にある。

しかしそれでもヤマトは。

 

━━あぁそうか。"俺は"

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、お前と共に行き(生き)たいんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

そんな言葉を、無意識に口にした。

 

「………ぬし、それ、ずるいぞ」

「え?」

「…なんでもないわ、たわけ」

 

"その言い方はまるで…"

モミジは出かけた言葉を飲み込んだ。

彼はそうゆう人だから、今の言葉も恐らく"本心であって"、"意識した言葉"では無いのだろう。

 

「……あぁもう!!━━ぬしという奴は!」

 

モミジはそう言うと、それぞれのベットに向かい合うよう腰かけていた体を寄せ、彼の頬に軽く━━本当に軽く口付けをした。

 

「…へ?」

「へ?じゃないわ、このたわけ!」

「え、な、なんで?」

「…〜っ!! 酒のせいじゃ!久々に飲んで少し気分が舞い上がりんす。それだけ、それだけじゃ!良いな!!」

「お、おう…?」

 

モミジは踵を返すように自分のベットに戻ると、そのまま横になり背を向けた。

ヤマトはその姿を唖然と見つめながら、口付けをされた頬をずっと抑えていたのだった。

 

「…え、なんで?」

 

❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀

 

翌朝。

ヤマトが顔を洗っていると、起きてきたモミジと目が合った。

 

「あ」

「…」

「モミジ、あの」

「皆まで言うな、昨日のあれは…その…」

 

もじもじと語尾を濁らせる彼女の顔は、赤く染っている。

そんなモミジの様子を見て、ヤマトは思わず笑ってしまった。

 

「わ、笑うなたわけ!」

「すまんすまん、思わず…な」

「あれは別に…」

「いいって、昨日は結構飲んでたもんな」

「……へ?」

「お酒。久々に酔いが回ったんだろ、気にすんなって」

「………はぁ」

「え、なぜため息?」

「なんでもありんせん」

 

ぶっきらぼうにそう言った彼女を不思議に思いながら、ヤマトはタオルで顔を拭く。

と、そこにレンが合流した。

 

「あ、お二人共、おはようございます…って、モミジさんどうしたんですか?」

「気にするな、たわけに呆れておっただけじゃ」

 

モミジの言葉に、レンはヤマトに視線で問うが、それに対しヤマトは肩をすくめるばかりだった。

なんだろうと首を傾げていたレンだったが、突然「あ、そうだ」と手を叩き、懐からボロボロの本を一冊取り出した。

 

「この村の書庫からこんなものが出てきました」

 

微かに読み取ることができた、表紙に記された本の題名は━━。

 

「"漆黒王と人間"…?」

 

ヤマトは読み上げると、レンから本を受け取り開く。

相当昔の物なのだろう。紙もかなり傷んでおり、そっと扱わなければすぐに破けそうだ。

中は文字と、絵が描かれている。

書かれている文字は古来のものであり、学者ではないヤマトには解読は出来そうもない。

しかし、絵に関しては別だった。

 

「これ…ゴア・マガラと人間…だよな」

 

ヤマトの言葉に、モミジが横から覗き込んでくる。

 

「…じゃな。かの竜を人々が崇めておる様に見えるが…」

 

モミジの言葉通りその絵は、高台に君臨し天高く咆哮するゴア・マガラを人々が下から崇める様な構図となっていた。

そしてヤマトはゆっくりとページをめくる。

 

「これは…!」

 

現れた絵に息を飲む。

傍らにいるモミジも、目を見開いている。

そこには、この本が書かれた時代では恐らくとても高価だったであろう━━否、現在でも本に使われることは稀である金箔を使用して色付けされた絵。

 

「これ、まさか」

「うむ。天廻龍…じゃろうな」

 

天廻龍、シャガルマガラ。

空高く舞い上がり、集落━━恐らくシナト村だろう━━を背に金色の翼を広げた天廻龍が何かから人々を護っている。

その"何か"は黒く塗り潰されるように描かれており全貌は分からないが、その姿はこの世界に存在しないはずの"双頭の龍"のようにも見えた。

 

「…なぁ」

「…なんじゃ」

「ゴア・マガラ…あいつは、人間が嫌いなのかと思ってたけどさ…本当にそうなんだろうか…」

「…」

「少なくとも、この絵に描かれた龍は人々を守る存在だったのかもしれませんね…」

 

三人は開かれたページを見つめたまま黙り込む。

しばらくして、モミジが呟いた。

 

「…直接聞いてみるしかあるまい。"これ"が彼奴自身なのかどうかは知らぬが、関係ないわけでもないじゃろう」

「…だな」

「そうですね」

「よし。んじゃあ気を取り直して支度再開だ。天空山、行ってみようぜ」

「うむ」

「はい!」

 

❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀

 

天空山。

古くからここは人々の信仰の地として崇められ続けてきた神聖な山だ。

━━しかしそれも、今となっては。

 

「ぬし!!北東方向より敵接近!!かなり来るぞ!」

「分かってる!! レン!」

「はい!」

「ここは人の目も無い、竜化を頼めるか」

「承知しました!!」

 

天空山のベースキャンプに辿り着いてすぐにモミジが山の異変を感じ取ったので、警戒しながらキャンプを出てみると、三人はすぐにその異変の正体を掴んだ。

小型から中型の肉食モンスター、そして草食モンスターまでもが狂竜化し、物凄い数でヤマト達を襲ってきたのだ。

現在ヤマト達が戦闘しているのは小型肉食竜のジャギィとジャギィノス合わせて約五十匹以上。

 

「黒曜拳法!! 土龍拳!!!!」

 

竜化したレンが両拳を合わせ、地面に叩きつける。

刹那、彼を中心に衝撃波が生まれた。

 

「御二方とも!!跳んでください!」

 

レンの掛け声にヤマトとモミジは跳躍、衝撃波を乗り越える。そして攻撃の餌食になったジャギィ達はその場から吹き飛んだ。

 

「今です!!」

「ぬし!!」

二人の掛け声に、ヤマトが手を挙げて答える。

 

「東雲流滅龍抜刀術…!!」

 

天上天下無双刀の鯉口を切る。

足に力を込め、その場から一気に加速。

レンの衝撃波によって散らばったジャギィ達に沿うように、円形に走り抜けた。

 

「彼岸花!!!!」

 

閃光とともに、レンとモミジの前に納刀したヤマトが現れる。

と、同時に血飛沫が飛び散り、殆どのジャギィ達が絶命した。

 

「ふぅっ…」

「ある程度片付いたでしょうか」

「いや…まだじゃ。来るぞ!!」

 

三人が一息つこうとした瞬間、上空より火球が襲来する。

 

「ちぃ!!」

「防壁展開!! 」

 

咄嗟にモミジが龍光による防壁を展開、火球を打ち消した。

上空を見上げれば、蒼と桜色の二匹の竜

蒼火竜リオソウルと、桜火竜リオハート

 

「今度は火竜か…!」

「全く、キリがないの」

 

モミジが一歩前に踏み出し、空へと手を伸ばす。

途端に彼女の周囲に蝕竜蟲が展開、高エネルギー弾となる。

 

「穿て」

 

モミジの一声で、計六発の蝕竜蟲弾が高速射出、避ける間も与えず二匹の竜に着弾した。

 

━━ガアアアアアアアアッ!?

 

まるで投影したかのように揃って地に落ちた二匹に、モミジが肉薄。腰の覇龍一文字を抜刀。

 

「牙狼式滅龍一刀道、六ノ撃」

 

龍光エネルギーを足に纏い加速、一刀道の構え。

 

目の前の二匹を同時に攻撃する━━連撃。

 

 

『八岐大蛇…!!』

 

 

袈裟懸け、切上げ、横薙ぎ、くるりと身を翻して縦切り、踏み込んで逆袈裟、再びの横薙ぎ、切り上げて最後に、突き。

ここまでほぼ二秒程の強烈な八連撃技だ。

その全てが二匹の頭へと叩き込まれ、あっと言う間に甲殻をはじき飛ばす。

悲鳴の様な鳴き声を上げながら頭から血を流す蒼火竜と桜火竜。

振り払うように踵を返すと、そのまま飛び去って行った。

 

「っ…はぁ」

止めていた息を吐き出す。

 

「お疲れ様。大丈夫か」

「うむ、無論じゃ」

「流石です、モミジさん」

 

三人はハイタッチを交わし、辺りを見回す。

 

「とりあえず…敵はいなさそうですね」

「だな、一旦各自装備を整えよう」

 

ヤマトの言葉に二人は頷くと、各々武器に砥石をあて携帯食料を口に放り込んだ。

 

「…さて、山は混沌と化してるわけだが…モミジ、奴がもうここにいる可能性は?」

「まず間違いなく居るじゃろうな」

「やはり…ですか」

「だとしたら山頂だろうか…」

「うむ。村の者が言っておった禁足地…そこにおるじゃろう」

「なら、山頂を目指すとするか」

 

 

 

 

━━━━━━ 。

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

刹那。とてつもない気配をヤマトは感じ、咄嗟に山頂を見上げる。

太陽が重なってよく見えないが、何か…来る。

 

「…どうやら、頂に行く手間は省けたようじゃな」

「あぁ…みたいだ」

「まさか!!」

 

━━ゴアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

「二人ともわっちの後ろに!!!!」

 

反射的にヤマトとレンがモミジの背後に飛び込み、彼女が防壁を展開した瞬間。

漆黒の炎弾が降り注いだ。

辺りを砂埃が包み、一寸先も見えなくなる。

 

「おい無事か!!」

「無論じゃ!」

「大丈夫です!」

 

ヤマトが咄嗟に二人の安否を確認すると、すぐに応えが帰ってきて一安心…というわけにもいかず。

 

『…いい加減にせよ。雌犬共』

 

聞き覚えのあるそんな声と共に突風が吹き、視界を阻んでいた砂埃が晴れる。

そして現れたのは、金色の━━"龍"。

 

「貴様…黒蝕━━否、天廻龍」

『ほう、姿が違えど(おれ)が分かるか。雌犬』

「…あの程度で死ぬ様な奴ではないと思ってはおったが…よもや既に古龍と化していたとはの」

『あの時は少々油断しておったわ。全く、雑種も侮れぬな』

 

鋭い眼光がヤマトを睨む。

相変わらず物凄いプレッシャーだ。背中に変な汗が流れるのを感じる。

それでもヤマトはニヤリと笑って応えた。

 

「あまり人間を舐めるなよ、"漆黒王"」

『くっははははははは!!━━良い、良いぞ。やはり貴様達はそこらの雑種と違うな。その名を見つけて来るとは、面白い。』

「お褒めに預かり光栄だ。さて、お前に聞きたいことが結構あるんだが…話し合いをする気はあるか」

 

ヤマトの言葉に、天廻龍の気配が変わる。

 

『…ふむ、おかしな事を言う』

「おかしな事…?」

『我は龍だ。そして貴様は人間、いつの世も龍には勝てぬ劣等種族。そんなモノと呑気に話をすると思うか』

「…随分な言われようだな。今さっき俺らの事を面白いと言っていたから、てっきり話ぐらい聞いてくれると思ったんだが」

『貴様等の言いたい事など大方予想できる。どうせ漆黒王の名が載っていた本の事か、何故他の竜に人間を襲わせるか…であろう』

「貴様、分かっておるならば何故━━」

『黙れ"黒狼"!!!!』

 

天廻龍が突然 声を荒らげた。

そして、鋭い眼光が再びヤマト達を睨む。

 

『話し合いなどせぬ。そして貴様達には此度こそ、ここで消えて貰おう』

 

━━━━━━。

 

「っ!!散開!!」

 

先程襲われる前に感じたプレッシャーに、ヤマトは叫ぶ。

刹那、漆黒の炎が一瞬前まで居た場所に着弾━━大地が爆ぜる。

 

「抜刀!!」

 

ヤマトの一声に、すぐさまレンが竜化━━モミジが戦闘形態をとる。

 

「黒曜拳法!!」

 

レンがシャガルマガラの懐に肉薄、拳を構える。

竜化したレンの速さには、ヤマトもついて行くことが出来ない。

 

「破龍け━━」

『させぬわ馬鹿者』

 

しかし━━━。

 

「がっ…!?!?」

 

天廻龍は冷静にレンの拳を前足で払い除けると、お返しとばかりに彼の腹部を殴った。

めしゃ、と彼の身に着けたインゴットシリーズから普通ならば聞くことの無い音が発せられた。

決して全力の一撃ではない。傍から見れば、埃を払うかのような動きだ。

しかし、人間相手ではそれも、強力な一撃と化す。

もろに攻撃をくらったレンは、身体をくの字にして吹き飛び、地面を転がる。

 

「レン!!」

「レン坊!」

 

二人の呼びかけに、レンは答えない。

━━気絶したか。

 

『小僧め…いつぞやの仮は返したぞ』

「貴様…っ!!」

 

モミジの白銀の髪から、紅い稲妻が迸る。

 

『やめぬか雌犬、貴様では我に敵わぬ』

「言ってくれるな天廻の。忘れたかや、貴様の"大技"をわっちは以前止めておるぞ」

『減らず口を叩くな…雌犬!!!!』

 

ギュウゥンと音を立てて、天廻龍の口に漆黒の光が収束する。

 

「ぬし!!」

「ああ!」

 

モミジが防護壁を展開、ヤマトが彼女の背後に回る。

そしてかの龍の口から炎が放たれ━━━

 

「なっ!?」

 

否。それは炎などという生温いものではなかった。

例えるならばそれは、光線。

超高威力のそれは、以前黒蝕竜の大技を受け止めきったモミジの紅蓮の壁をいとも簡単に打ち砕いた。

 

「あああっ!!」

 

攻撃を受けた彼女はそのまま吹き飛ばされ、後方のヤマトの元へ転がってくる。

 

「モミジ!!」

「うっ…ぐ…」

 

咄嗟に抱き起こすと、モミジは眉間に皺を寄せ呻き声をあげる。

気を失っているわけではない様だが、とても戦闘が継続できる状態では無い。

 

「…すまん…俺が無力なばかりに」

「そんな、事より…ぬし、逃げ━━」

「逃げるかよ馬鹿」

 

そう言うと彼女をそっと地面に寝かし、ユクモ極天の笠越しに目の前の龍を睨む。

 

『その眼、良いぞ…貴様とはしっかりと手合わせしたかった』

「そりゃあ良かった。お前相手なら俺も、全力で戦える」

 

ヤマトはそう言うと一度天上天下を納刀。

抜刀の構えをとる。

 

『ゆくぞ人間。我を楽しませよ』

「あぁ…死なねぇ程度に遊ぼうぜ」

 

両者共に一瞬の沈黙。

刹那。

 

ヤマトがその場から飛び出した。

 

「東雲流滅龍抜刀術!!」

 

対して天廻龍は、その強靭な腕でヤマトを潰そうとしてくる。

 

「天雷剣!!」

 

斜め上からの抜刀袈裟懸け。

そしてそれが、かの龍の腕と交わる。

 

ギィィン!!!!

 

「……ったく、どんな甲殻だよ」

『いくら貴様の獲物でも我の身体は簡単に斬れぬぞ』

 

まるで鍔迫り合いのように剣と前足を交差させ向かい合う一人と一匹。

一見両者ともに互角の様な絵面だが、人の身であるヤマトと天廻龍では、有利なのは勿論後者だった。

 

『どうする人間。このままでは貴様が押し負けるぞ』

「生憎、龍と力比べする気は無いんでね…っ」

 

ヤマトはそう言うと、一瞬だけふっと力を抜く。

それによりこちらへと迫ってくるシャガルマガラの身体の下を縫うように背後へと回り込み、再びの納刀。

 

「東雲流滅龍抜刀術!!」

 

抜刀し、太刀使いの間では馴染み深い構え。

 

"気刃大回転斬り" の "二連撃"

 

『それで隙を突いたつもりか!!』

 

天廻龍の爪が迫る。

それを一回転目の気刃大回転斬りで流しながらすれ違い、二回転目。が、それも堅い甲殻に弾かれる。

両者が背中合わせの状態になり、一瞬の硬直。

先に動いたのは━━━天廻龍。

振り向きざまに、次こそはその鋭利な爪でヤマトの身体を引き裂かんと背後に迫る。

 

 

 

が。これで良い。

技にはまだ続きがあるのだから。

 

 

 

大回転斬りの体制のまま、太刀だけをくるりと回転させて逆手に持ち替える。

そしてそのまま振り向かず、背後に強力な突き。

 

『何っ!?!?』

 

その切っ先は、見事に天廻龍の額を穿つ。

 

━━ガアアアアアアアアッ!!??

 

「乱レ桜…!!」

 

 

脳を貫くことは叶わなかったが、その強力な一撃は天廻龍の額の甲殻をはじき飛ばし大きな痛手を与えることに成功した。

 

『くっ…調子に乗るなよ、人間!!!!』

 

しかし天廻龍の勢いは衰えない。

流石は古龍、とてつもない生命力である。

対してヤマトは無理な体制からの攻撃により、一瞬の硬直が発生していた。

 

その身に、天廻龍の爪が迫る。

 

「くっそ!!」

 

身体を倒すようにギリギリで回避に成功するも、ヤマトの目に飛び込んできたのは天廻龍の口に漆黒の炎が収束してゆく光景だった。

 

━━やられた…!!

 

 

刹那。ヤマトの身体を黒い爆炎が包み込み、彼の意識はそこで途絶えた。

 

 

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