モンハン小説[紅の舞姫]   作:Momiji712

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第2話 ココット村と電竜

 

 

 

モミジと出会った翌日。

山肌から太陽が顔を出し、村の市場が開く頃にヤマトはユクモの村長の元を訪れていた。

 

「あらヤマトさん。おはようございます」

「おはよう村長」

「昨日は旅のお方を助けたと伺いました。流石ですわ」

「たまたまだよ。━━━━それで、そいつに関してなんだが。…どうやら探し人がいるようでな。協力してくれと言われたんだ」

「まぁ、それで女性ひとりで旅とは…お強い方ね」

「あぁ。…それで、なんだけど。…俺はその旅について行こうと思ってる。ここを離れることになるが…村長、構わないか?」

「そうですか…。えぇ、構いませんわ。少し寂しいですが、あなたの人生ですもの。ご自分の思うままにしてください。」

「何だかんだ、長い間世話になった。また顔出すからさ」

「こちらこそ、大変お世話になりました。是非またいらしてください。歓迎致しますわ」

「ありがとう」

 

村長に一通りの挨拶をした後、家で待つモミジを迎えに行き村の広場へ向かう。

 

「世話になった者達への挨拶かや?」

 

そういう彼女は先日と違い、しっかりと服を着ている。

ヤマトが村の雑貨屋で購入した村娘の格好だ。

 

「ああ、二年ぐらいこの村にいたからな」

「そうか。人にとっての二年はさぞ長かろうて」

「長く生きるお前はやっぱり感覚が違うのか」

「わっちからすれば瞬きしている間に過ぎていくような年月じゃ」

 

昨晩夕食を共にした時聞いたが、彼女は既に数百年の時を生きているらしい。ジンオウガが特別そこまで長寿だとは聞いた事がないが、基本的に竜の寿命は人より遥かに長いと言わている。

古龍種と呼ばれる自然災害にも等しい力を持つ龍たちに関しては数千年の時を生きる…とも言われているくらいだ。

だがやはりこう聞くと人とはかけ離れた存在なのだなと改めて実感する。

 

「…年寄り扱いしたら容赦せぬ」

「してねぇって」

 

ギロリと横目で睨むモミジに苦笑いしながら歩みを進め、目的だった場所へと到着する。

まだ午前中だというのにもかかわらずそこは熱気に包まれ、建物の奥からはカーンカーンという金槌の音が響く。

 

「じいちゃん」

 

ヤマトは店の入口に立つ背の低い老人にそう声をかけた。

 

「あぅ!ヤマトでねぇか!!今日はいつもより早ぇな!何の用でぃ!!」

 

村長と同じ竜人族のこの老人は、ユクモ村の加工屋の店主。ヤマトの装備[ユクモ極天]の作成者であり、愛刀の[天上天下無双刀]の整備を担当してくれていた人物だ。

 

「いや実はな、色々あってこの子と旅に出ることになってな。今日村を出るんだ。だから挨拶に来た」

「あぅ、なんでぇそうかい。そりゃあちと寂しいなァ」

「じいちゃんには世話になりっぱなしだったからな、俺も寂しいよ」

「そうけぇ、まぁおめェもまだ若いからなぁ。動けるうちになんでもやるのが1番でぇ。えれぇ別嬪さん捕まえて、羨ましいなぅ!!」

 

少し寂しそうな、それでいていたずらっぽい笑みを浮かべてじいちゃんはバンッとヤマトの腰を叩く。

 

「痛てぇよじいちゃん。けどありがとな、マジで世話になった。また来るよ」

「あぅ!元気でな、気を付けて行けよォ!!」

「おう」

 

別れの握手をし、少し後ろでやり取りを見守ってたモミジの元へ戻る。彼女もじいちゃんに微笑みながら一礼した。このあたりの所作は完璧だ。だれも人外だとは思うまい。

 

「悪いな、付き合わせて」

「何を言うか、わっちの都合でぬしを付き合わせるんじゃ。詫びるのはぬしではない」

 

ニカッとそう笑う彼女。

こうやってすぐに言えるあたりさすが歳上といったところか。

その後も村の雑貨屋や集会所のコノハにササユ、ギルドマスターに温泉の番台ネコ、よく一緒に酒を飲んだ村の門番などと別れの挨拶を交わし太陽が真上に登る頃、二人は村から出発した。

 

「あの娘、コノハといったか?…号泣じゃったなぁ」

「俺もあんなに泣かれるとは思わなかったよ。ギルドの受付嬢なんだからこうゆう事はよくあるだろうに…」

「…ぬし、ひょっとして女子(おなご)の気持ち分からぬ男かや?」

「え、どうゆう事だ?」

「…いや、なんでもない」

「はぐらかすなよ、気になるじゃねぇか」

「気にするな」

「なんだよそれ…」

 

疑問符を浮かべるヤマトを置いて彼女は村の入口に設置されている門を小走りにくぐり抜けると、こちらを振り返った。

 

「さて、まずはどこへ向かおうか!」

 

ヤマトとしても久々の旅。

目的を忘れてはならぬが、心躍らないと言えば嘘になる。誰かとの旅は楽しいものだ。

 

「とりあえず大都市のドンドルマを目指す。あの街には俺らハンターが所属するハンターズギルドって組織の大元があるからな。情報も集まりやすいだろう」

「ほう、それは良いな。遠いのかや?」

「ここからだと足を止めず順調に歩いても1ヶ月はかかる。だからその途中の村で休憩しつつ資金を稼いで向かおうと思う。構わないか?」

「うむ、ぬしに任せる。兄が消えたのは二年前。今になって一日一日を急いだところで仕方がないし、どうせならばわっちも人々の生活を見て楽しみながら旅をしたい。」

「そっか。そう言ってもらえてよかったよ。」

 

ユクモからドンドルマへは最短距離で行くならば大砂漠を進む砂上船に乗りこんで向かうのが一番だ。

しかし砂上船は危険地帯を進む事もあるので狩り以外の目的で使うにはそれなりのお金が必要。加えて素人が乗り込むには多少の審査が必要で、身体検査を受ける必要がある。犯罪者などが乗り込み、船上でのトラブルを避けるため…らしい。

姿を隠してはいるが、人では無いモミジが乗り込むには少なからずのリスクが伴うのでわざわざ危ない橋を渡るのは得策ではない。

そのため、ヤマトは大砂漠を迂回して一度北上して向かうルートを取ろうと考えていた。

日数は余計にかかってしまうがモミジもそれで良いと言っている。ならば遠慮する必要は無いだろう。

 

「まずはここから五、六日ぐらいの所にあるココットっていう村を目指す。そこで一旦休みを入れて、その後はさらに北の山脈を目指す。この時期は特に寒くなる方角へ向かう事になるが…お前なら大丈夫だよな?」

「全く問題ありんせん。獄狼竜じゃからな」

 

ジンオウガ亜種は火山地帯や寒冷地帯などの厳しい環境によく生息している事が確認されている。

ならばこれから向かう場所も平気だろうと思ったヤマトだったが、やはりその通りらしい。

 

「わっちはともかく…ぬしは平気なのかや?」

「心配すんな。俺はそっちの生まれだ」

「ほぅ、そうなのか」

「出身の村にも立ち寄る予定だし、その時にまた紹介するさ」

「そうか、ならば楽しみにしておこう」

 

こうして二人の旅が始まった。

 

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ユクモを発って三日。

今、ヤマトとモミジのふたりはココットへ向かう道中にある小さな農村を訪れていた。

 

「ガーグァが?」

「そうなのです。ここのところ全くと言っていいほど姿を見なくなりまして…。お急ぎのところ申し訳ないのですが森の様子を探って来て頂きたいのです。」

 

そう話すのはこの村の長だと名乗る老人。

たまたま食料調達の為に立ち寄った村で、家畜や食材として重宝され普段は近くの森に多数棲息しているガーグァがここのところ全く姿を見せなくなってしまい困っている…との相談を受けたのだ。

小さな村だ。ハンターズギルドは存在しないし、狩人が立ち寄ることすら珍しいのだろう。

 

「結果がどうであれ、お礼はさせていただきますので」

「いや別に報酬はいいんだが…」

「ぬし。かなり困っておるようだし、助けてやれば良かろ?」

「お前はそれでいいのか?」

「以前も言ったが、急いでも仕方の無い旅じゃ。わっちは一向に構わぬ。」

「まぁ、モミジが言うなら異論は無い。…村長さん、じゃあ任せてもらおう」

「ありがとうございます…!どうかお気をつけて下され」

 

モミジの了承も得たのでヤマトは最低限の装備を整えるとその足で村の人間が 森 と呼ぶ近くの森林区域へと向かった。ギルドから狩場指定などはされていない所だが、流浪の狩人をやっていれば割とこうゆう事も多い。

ザク、ザク、と枯れ木や葉を踏みしめながら小一時間ほど森の奥へと足を進める二人。

確かに村の人間が言うように、ガーグァどころか小型の竜1匹さえ今のところ見当たらない。

 

「これは…大型がいるかもな」

「そうじゃな。大方、肉食の飛竜でも住み着いたのやもしれぬ」

 

草食のモンスター達が一斉に姿を消す。

その原因は幾つかあるが、基本的に大型肉食竜などの捕食者の出現で住処を移す…というのが多い。

あとは古龍種の出現の前兆であったり、大規模な気候変動が原因だったりもするが今回は違うだろう。

 

「ぬし」

 

少し先を歩くモミジがそうヤマトを呼び、足元を指さす。

見れば、巨大な足跡が残されていた。

 

「これは…やっぱり飛竜だ。でも形状を見る限りリオス科じゃねえな」

 

しっかりと残された痕跡は紛うことなき飛竜種のもの。

しかし人々が飛竜と聞いて真っ先に思い浮かべるであろうリオス科━━俗にリオレウスやリオレイアとよばれる竜のものでは無かった。

ヤマトもそこまで生物学に詳しい訳では無いので、よっぽどよく見かける種でない限り足跡ひとつで標的を特定するのは無理だった。

 

「お前は分かるか?」

「流石にわっちもこれだけではな…」

「だよな」

「じゃが周囲から気配が一切せぬ。もしかすると既に住処を移したあとかもしれぬな」

 

ここまで三日間モミジと行動を共にして、彼女についてわかっていることの一つ。

モミジが持つ竜の気配察知能力は人間のそれを遥かに凌駕している…ということだ。

昨日、依頼を受けた農村にたどり着く前に通った渓谷でジャギィの群れと遭遇したのだが、モミジは彼らが姿を現すよりも遥かに前にその接近を察知していた。

聞けば、余程気配を消すのが上手い者で無い限り、事前に接近がわかるそう。

感知の方法は匂いであったり音であったり、地面からの振動であったりするそうで…流石は無双の狩人とよばれる竜なだけある。ハンター顔負けだ。

そしてそのモミジが足跡の持ち主の存在を感知できないという事は、本当に既に姿を消したあとなのかもしれない。

飛竜はその名の通り大きな翼を持つ生き物だ。もちろん普段の移動や狩りにおいて飛行するためのものなのだが、その翼を用いて長距離を移動し頻繁に住処を変える種も多く存在すると聞く。

もしかするとここに住んでいた竜は、その類だったのかもしれない。

 

「もう少しだけ周囲を調べて、大丈夫そうなら村に戻ろう。あまり時間をかけて探索しても仕方ないしな」

「承知した」

 

モミジにそう声をかけヤマトはその後も1時間ほど周囲の様子を探ったが結局大型竜は見つからなかったため、村へと帰還して村長へその旨を伝えた。

 

「そうでしたか…では、じきにガーグァ達も?」

「あぁ、捕食者が消えたなら元いた環境へ戻ってくるはずだから、数日もすれば姿を現すと思うぜ」

「わかりました。申し訳ない、無駄に時間を割かせてしまって。これは、お礼です」

 

村長はそう言って金貨が入っているであろう皮袋をヤマトにて渡そうとするが、彼はそれを手で制す。

 

「いらないよ。ちょこっと森を散歩しただけだ。」

「………ありがとうございます」

 

小さな村だ。これから訪れる冬に備えて無駄な出費は抑えたいだろう。それもあってか、ヤマトが断ると村長は深々と頭を下げながら素直に引き下がってくれた。

 

「じゃあ村長、俺らはこれで行くから。今後何かあったら近くのギルド支部がある村━━━ここからならユクモが近いだろう。そこへ頼るんだ、助けになってくれるはずだから。」

「何から何までお世話になりすみません。ありがとうございました。どうか、この先もお気をつけて」

「ありがとう」

 

村の小さな雑貨店で少しだけ食料を買い、二人はふたたびココットを目指し歩み始めた。

 

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農村を発ってからは特にトラブルに見舞われることも無く旅は順調に進み、ユクモを出発してから六日目の昼頃に二人は最初の目的地であったココット村へと到着した。

 

「これは…見事じゃな」

 

村のあちこちに咲く桃色の綺麗な花を見てモミジは目を輝かす。極東地方を起源とするらしいこの種はサクラと呼ばれる木で、通常は春の時期に一気に開花してそれは見事な物なのだが何故かこのココットのサクラだけは一年を通して定期的に花を咲かす不思議なものだった。

 

「あぁそうだ。綺麗だろ?間違っても取ったりするなよ」

「たわけ。見てるだけで十分じゃ」

 

そう言ってモミジはサクラを眺めてうっとりとした表情をしている。

 

「その辺のベンチで少し待っててくれ。村長に挨拶しに行ってくる」

「ついでに酒とつまみを━━━」

「わがまま言わずに待ってなさい」

 

舌打ちするモミジを尻目にハンターズギルドの支部のある集会所へ向かう。過去に何度か訪れた事のある村なので迷うことはない。

 

「村長、お久しぶりです」

 

他の家々よりも少し立派な作りのギルドの建物の入口に、その人物は立っていた。

 

「ん〜?……キミは…もしかしてヤマトか!!」

「確か、最後に会ったのは四年前かな」

「もうそのぐらいになるか。これまたでかくなりおって。ほっほっほ」

 

そう笑うココットの村長はユクモ同様竜人族である。

杖をついた小柄で穏やかな老人だが、これでも昔は相当名の通った狩人だった過去を持ち、現在のハンターと呼ばれる職業の祖となった人物なのだ。

 

「久々に顔が見れて嬉しいわい。して、今日はどうしてまたこの村に?」

 

この村長にはヤマトが幼子だった頃から世話になっていた為、下手に嘘をつくのも嫌だったヤマトはモミジには悪いが、ある程度の真実を交えて話すことにした。

もちろん、彼女の正体に関しては内緒だが。

 

「━━━てなわけで。」

「ほう…ではその娘の兄は、ユクモでの事件の生き残りだった訳じゃな」

「どうやら、そんな感じらしい」

「ふむ。まぁ要件はわかった、今日はもう夕暮れじゃ。まだ宿はとっておらぬじゃろ?わしの家に泊っていきんさい。」

「いいのか?」

「構わんよ、好きに過ごすといい」

「ありがとう。世話になるよ」

 

ヤマトは村長に礼を言うと、モミジのもとへ戻る。

二十分ほど経っていたはずだが、彼女は先程と同じ場所のベンチに座りまだサクラを眺めていた。

しかし見たところ一人ではなく周りには村の人間であろう少年が二人、なにやら話し込んでいる。

 

「モミジ」

「お、戻ったかや。━━あれがわっちの連れ」

 

こちらを指さし、少年たちにそう言うと彼らはヤマトがハンターだった事に驚いたのか少し慌て気味に姿勢を正す。

 

「どした、なんか用か?」

「あっ、いえっ、すみません!大丈夫です!!ほら行こうぜ」

「う、うん!」

 

少年ふたりは吃りながらそう言うとパタパタと駆けて行ってしまう。

確かにハンターは柄の悪い人間も多いが、そんなにビビらなくても…。

 

「くふっ、若いの〜。わっちのことをこのサクラと一緒で可憐な華などと言って来よった」

「それ、しっかり口説かれてないか」

「なんじゃ嫉妬か?」

「違ぇよ…ってそうじゃなくて、村長と話してきた。家に泊まってっていいってさ。宿代が浮いた。」

「む、それはありがたい。そうと来れば待たせてはいかぬな」

 

そう言ってベンチから腰を上げたモミジは、未だ遠くの方でこちらを見ている少年ふたりに笑顔でヒラヒラと手を振り、踵を返して歩き出す。

…魔性の女って、こうゆう事を言うのだろうか。

 

「ぬしよ、今なにか失礼なこと考えてなかったかや」

「とんでもございません」

 

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村長が貸してくれた部屋は、特別広い訳では無いが泊まるには十分な広さだった。

 

「すまないの、一部屋しか貸せなくて」

「全然、気にしないさ」

 

村長が設けてくれた食事の席でしっかりと酔っ払ったモミジは既に部屋の布団で寝てしまい、まだ寝付けなかったヤマトは居間で村長と話をしていた。

 

「偉く別嬪な娘で驚いたわい。キミもなかなか隅に置けないのぉ」

「よせよ、そんなんじゃないさ」

「どうだかの〜」

 

そういうと村長はほっほっほと笑う。

その後もくだらない話を続け、夜も深まってきた頃、ヤマトは村に着いてからずっと気になっていたことを話すことにした。

 

「…村長、何かあったのか?なんだか村全体に活気が無い気がしてさ。…困ってるなら力になるよ」

 

ヤマトがそう切り出すと、村長は真剣な顔になる。

 

「…やはり気付くか。流石じゃな」

「俺じゃなくても気づくだろうさ。村のみんな、なんだか不安そうな雰囲気だった」

「……実は、つい最近 森と丘にな…ライゼクスが現れたのじゃ。それも今まで見たことの無いくらい強い電竜じゃ。もう、何人ものハンターが狩猟に失敗しておる」

 

森と丘とは、このココット村のすぐ近くの狩場のことだ。自然が豊富な森林地帯であり、多くの竜が棲息している。村長の話ではそこに、恐らくG級クラスに認定されるような強さの電竜ライゼクスが現れたというのだ。

ライゼクスは飛竜種に分類され、その名の通り雷属性を扱うことの出来る強力な大型モンスターだ。

雷の反逆者の異名で呼ばれ、その実力は空の王者リオレウスにさえ引けを取らない。

そんな強力な竜が村のすぐ近くに住み着いた━━村の人間が不安がっていても不思議は無い。

 

「ライゼクス…か………わかった、俺が出る」

 

ヤマトがそう言うと、後ろから突然声がした。

 

「その電竜、心当たりがある」

「モミジ、起きてたのか」

「ぬしの声が大きくてな」

「あ、わりぃ…」

 

寝巻き姿のまま居間の入口に立つ彼女は、少し眠そうな目を擦りながらこちらへ歩いてくる。勿論、きちんと耳はしまっていた。

そのモミジに対し、ココットの村長は疑問の言葉を投げかける。

 

「お嬢ちゃん、心当たりとは…?」

「うむ、ヤマトならば思い当たるじゃろ?」

「俺…?…あ、まさか、こないだの農村の」

「十中八九、そうじゃろう」

 

先日立ち寄った農村で調査した森を住処にしていたであろう飛竜。その正体は不明のままだったが、まさかここに来て分かるとは。

 

「どこかでかの竜の事を知っておったのかね?」

「つい3日か4日前にな、ここへ来る道中で立ち寄った農村で近くの森のガーグァがめっきり姿を消しちまったから調査して欲しいって頼まれてな。いざ行ってみたら大型モンスターが住み着いていた痕跡があったんだ。おそらく、そのライゼクスだったんだろう」

「電竜は単独で生きる竜じゃ。住処を頻繁に移すことも多いと聞くからの。あの森からここまではそこまで距離もないし、聞く話によればかの竜も寝床として気に入りそうじゃしな」

「なるほど……ヤマト。ならばその竜の狩猟、頼んでも良いかね?キミの腕ならば安心して任せられる」

「まかせろ。モミジもそれで良いか?」

「構わぬ」

 

決まりだ。

明日の朝にでも出発する事を村長に伝え、ヤマトはモミジと共に居間を後にして寝室へ向かう。

 

「そういや一緒に狩猟へ出るのは初だな」

「む?…あぁ、そうじゃな。ぬしの腕前、しかと見せてくりゃれ」

 

悪戯そうな笑みを浮かべて彼女が笑う

 

「そんな見世物になるようなものじゃねぇけどなぁ。まぁ、とりあえず明日はよろしくな、相棒」

「ほう。相棒か、悪くない」

 

村長が用意してくれた布団に潜り込み、手元の蝋燭を吹き消して天井を見上げる。

明日の狩猟に対する不安は、何故か全く無かった。

 

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翌日。

二人が狩場へ向かいベースキャンプで準備をした後、探索を進めて15分程経った頃。エリア5と呼ばれる洞窟のような地形の場所で電竜は眠っていた。

 

「でっけぇな」

 

おそらくかなり長い時を生き、戦いを重ねてきた個体なのだろう。その身体は非常に大きく、古傷が所々に目立つ。ハンターズギルドの調査隊がこれを見たら間違いなく歴戦個体に認定するだろう。

 

「さて、始めるか」

「うむ」

「別に俺だけでやってもいいんだぞ?」

「昨晩も言ったがせっかくのぬしとの狩りじゃ、その腕を見せてくりゃれ。その代わり━━」

 

言葉を切った彼女がおもむろに着ていたユクモの旅装をガバッと脱ぐ。

光の速さで目を背けるヤマト。

 

「お前…っ、だからいきなり異性の前で裸になるな!!」

 

そのヤマトの様子にニカッと八重歯を見せて笑ったモミジが赤い光に包まれる。その眩い光に思わずヤマトは目を閉じ、再び開けると━━━

 

「━━その代わりにわっちも少しだけ…乱暴するとしよう」

 

キラキラと輝く白銀の髪。頭からは狼の耳が生え、服を脱いだ身体には獄狼竜の甲殻を鎧のように身にまとい、周囲には下僕しもべたる蝕竜蟲が集まりパチパチと僅かな龍光を迸ほとばしらせている。

 

「すげぇ…」

 

なんの偽りもない感想が、ヤマトの口から漏れる。

なんというか、非常にかっこいい。

 

「まぁ本来の姿に比べれば出せる力は五分の一程度じゃがな。アレを相手にする程度ならば充分じゃろう」

「アレって…それなりに強い竜のはずだが…まぁいいか。━━獄狼竜本来の姿にはならないのか?」

「あの姿で吠えたらこの洞窟が崩れるが…いいのかや?」

「うん、そのままで頼む」

 

苦笑紛れのヤマトの言葉に対し、かかかと彼女は笑いながら一歩前へ出る。

 

「くふっ。少し刺激の強い目覚ましといこうかの…ぬしは離れて耳を塞いどれ。鼓膜が消し飛ぶぞ」

 

さらっと怖いことを言われたのでヤマトは言われたままに数メートル後ろに距離をとって耳を塞ぐ。

すぅっとモミジが息を吸い込み━━━

 

━━ウオォォォォォォォオオオンッッッッ!!!!

 

咆哮を武器とするティガレックスが足下にも及ばないほどの爆音。もちろんの事、ライゼクスは何事かと飛び起き、こちらを見る。

そして負けじと咆哮。

 

━━キシャァァァァァアアアアッ!!

 

「ほぅ、やる気かや…?命知らずじゃの」

 

出会ってから共に旅を始めて二週間ほど。

これまで見たことの無い不気味すぎる笑い方だった。

 

「ぬしよ、準備は良いな」

 

ヤマトの方を振り返りモミジが問う。

 

「…あぁ、こっからは…俺の番だ」

 

こちらに突進攻撃を仕掛けてくる電竜。

他の太刀使いが背中に武器を背負うのとは違なり、ヤマトは左腰に据えている愛刀、[天上天下無双刀]の鯉口を切る。

彼の振るう剣は、ハンター養成所で習うギルドスタイルと呼ばれる流派とは違い個人流派であり、得意技は抜刀術。前に立つモミジがヤマトに出番を譲るかのように横へとずれる。

 

「"東雲流滅龍抜刀術(しののめりゅうめつりゅうばっとうじゅつ)"」

 

ある人物よりヤマトが託された対古龍剣術。

 

天雷剣(てんらいけん)

 

天雷剣。龍の翼を斬り落とすことを目的とした技。

鞘から音速に等しい速度で太刀を抜刀。天から降り注ぐ1本の雷の様に、左上より右下に袈裟懸けに斬り下ろす一撃。

ヤマトはその場から一歩たりとも動かず、こちらへ向かってきたライゼクスの左翼先端、三分の一ほどを吹き飛ばした。

 

━━━キシャァァッ!?

 

ライゼクスは痛みと驚きで混乱し、ヤマトとすれ違いざまに転倒する。

チンッと音を立て刀身を鞘に収める。

 

「まだやるか、電竜」

 

転倒から体勢を立て直したライゼクスにヤマトがそう問うが、かの竜はそのダメージで目の前の小さな生物を、完全な敵として見なしたようだ。

黄緑色と黒い甲殻に包まれた身体が独特な緑色の雷を纏いエリア5の狭い洞窟の中なのにも関わらず上空へと舞い上がる。

飛行能力に長けた電竜の得意技のひとつ、高速滑空攻撃を仕掛けてくるつもりだろうか。

ヤマトはそれに対し再び抜刀の構えをとる━━が。

 

『穿て』

 

半竜化の影響なのか、人ならざる ドスの効いた声と共に、モミジが上空に向けて右手を伸ばしそう一言。

途端に彼女の周りに六つの赤い光弾が展開され、一瞬の間の後に高速射出、今まさにこちらへ突撃しようとしていたライゼクスへ着弾。大きな爆発を巻き起こし、かの竜を地面へと叩きつけた。

ジンオウガ亜種の得意技のひとつ、[蝕竜蟲弾]だ。

下僕たる蝕竜蟲の持つ龍光エネルギーを活性化させ、それをエネルギーの弾として打ち出す遠距離攻撃。

だがその威力は、ヤマトが今まで見た事のあるどの獄狼竜よりも桁が違った。

あんな攻撃、まともに受けたら例え一撃だろうと病院送り間違いないだろう。

 

━━━キシュルルル…

 

片翼の三分の一を失い、蝕竜蟲弾により甲殻の一部が吹き飛びながらも再び立ち上がったライゼクスはこちらを見つめて威嚇の声を上げながらも直ぐには向かってこない。相手が自分より遥かに格上の存在と認識し、警戒しているのだろうか。

 

「反撃の意思はもう無いようじゃ。あとはぬしに任しんす」

 

モミジはそう言うとヤマトの後ろへ下がる。

生かすか殺すか、判断を委ねるようだ。

 

「ん、わかった」

 

そう答えるとヤマトは腰の天上天下の鯉口は切ったまま、ゆっくりとライゼクスへと歩み寄って行く。

電竜はその行動に少し驚いた様子を見せながらも、攻撃はせず唸り声を上げながらヤマトを睨み続ける。

そして彼は、ライゼクスの目と鼻の先まで辿り着く。噛みつかれでもしたら普通は避けられない距離だ。

そしてそのまま手を伸ばし━━━

かの竜の鼻先に触れる。

 

「もういいだろ、ほら、もっと人里から離れた場所へ行け。」

 

その様子にモミジは目を見開き、「ほう…」と呟く。

唸り声を上げ、ライゼクスはヤマトとしばらく睨み合っていたが、ふと目線でモミジを見る。

彼女は何も言わずに頷いた。

 

数秒後。雷竜は翼を広げると、洞窟の上部に空いた穴から上空へと飛び上がりココットの村とは正反対の人が住んでいない地域の方角へ向かって去っていった。

 

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「…なぜ殺さなかった?」

 

帰り道、モミジがそんなふうに聞いてきた。

 

「ん?あー…なんとなくかな。あの竜からそこまでの敵意を感じなかったから。俺の勝手な想像だけど、アイツは人里を襲ったりする気は無くて単純にあの場所を気に入ってたんじゃねぇかなって思ったんだ…ダメか?」

「いや、構わんよ…くふっ」

「なんで笑ってんだ?」

「別に、何でもない」

 

そういうモミジの横顔は、どこか嬉しそうだった。

そのまま村に戻り、村長に脅威は去ったと伝えると、そのまま村人たちが設けてくれた宴になだれ込んでしまう。村の集会所に用意された座敷の長机には、これでもかと言う量のごちそうと酒が用意されていた。

 

「まぁ飲め飲めェ!今夜はお前らが主役じゃあ!!」

「ありがとよハンターさん!!ささ、遠慮せず!!」

「いや、俺あんま飲めない━━━━」

 

もうほぼ強制的に酒を飲まされる。

一方、少し離れたところで村の連中に囲まれて浴びるように飲んでいるモミジは全く赤くなっていない。

かかかと笑いながら、もう何杯目かも分からない手元の酒を一気に飲み干すと、ヤマトの視線に気づき四つん這いで移動してくる。

 

「なんじゃ、ぬしは酒飲めないのかや?」

「弱いんだよ、悪いか」

「ほう。弱点発見じゃな、ふふ」

 

そうやって楽しそうに笑うと、ヤマトの袖を引っ張り立ち上がる。

 

「ほれ、酔い覚ましじゃ。夜風にでも当たろう」

 

村の人間たちも酔いが回り、ヤマト達がいなくなろうと気づく様子は無さそうだ。

集会所の外に出ると、目の前には大きなサクラの木がある。特に話すこともなかったので、二人でベンチに座りながらぼーっとを眺めていると、モミジが口をひらく。

 

「明日には、ここを出るつもりかや?」

「そうだな。あまり長居しててもしょうがないし、とりあえずドンドルマまではなるべく早く行きたいからな」

「サクラが見れなくなるのは寂しいの…」

 

彼女が少し残念そうな顔をしたので、そこで先ほど狩りから帰ってきたついでに雑貨屋で買ったものを渡す。

布に包まれた、小さな箱。

 

「モミジ、これからよろしくって証だ。貰ってくれ」

「え…?」

 

そう言ってモミジが布を解き箱を開けると、中から出てきたのはサクラの花が彫られた木製の櫛くし。

これから旅を共にする仲間に何かしてやれないかと思い、少し値が貼ったが奮発して買った1品だった。

櫛を贈るという行為には諸説あるようで、あまりいい意味を持たないという話も聞くがヤマトはそうゆう類を気にしない性格だ。

 

「お前、髪綺麗なのにボサボサだからな。良かったら使ってくれ。……どした?」

 

先程から目を伏せたまま動かないので、もしかしたら気に入らなかったかと思い、覗き込む。

 

「…気に入ってくれたか?」

「……わけ…」

「え?」

「…わざわざわっちのために…たわけ。嬉しくて泣きそうじゃ。ばか。」

 

顔を上げてこちらを見たモミジは、少し目を潤ませながら今までにない程の綺麗な笑顔をしていた。

 

「…喜んでくれて何よりだ」

 

なんだかこっちの方が照れ臭くなってしまい、ヤマトは素っ気なく返してしまう。

 

「くふ、ぬしが照れてどうするんじゃ、このたわけ」

 

照れ隠しはあっさりと、彼女に見破られてしまったようだった。

 

 

 

 






この物語において、注意点がございまして……
ストーリー自体、僕がまだ学生だった頃に書き出したものなので旅で巡っていく土地がモンハン公式の世界地図とだいぶ異なるのです。
知っている方からするとなんでそっからそこ行くねん!?ってなるかもなのですがどうか暖かい目で見守って頂けると助かります(遠い目)


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