モンハン小説[紅の舞姫]   作:Momiji712

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第19話 全てを喰らう、紅蓮の龍

 

 

 

『来たか━━牙狼の』

「天廻龍…」

 

天空山頂上、その奥地。

ハンターズギルドより禁足地指定された場所は、確かに存在した。

天廻龍シャガルマガラの、正しく王の間。

その中央にかの龍は佇んでいた。

 

『良くぞここまで…と、まずは褒めてやろう。遥か東の渓流より(おれ)を追うために費やした時間、無駄にはならなかったな』

「貴様…」

 

バチン。と、モミジの髪から龍光が弾ける。

 

「待て」

 

それを、ヤマトが制す。

 

「モミジ、その前に聞きたいことがあるんじゃねぇのか。俺らがここまで来た、本来の目的だ」

「……」

 

ヤマトとモミジがあの日渓流で出会い、この旅のきっかけとなった目的。

モミジの、兄を追うという目的。

 

「…天廻龍、貴様を追っていた我が兄…金雷公はどうした」

 

モミジの問に天廻龍は少し考え込むような素振りを見せた後、あぁ。と思い出したように語り出した。

 

『…奴か。あぁ、懐かしいな。奴は我が対峙した竜の中では大分強かったぞ。そうだ、あの戦いは楽しかった』

「……かった…?」

 

モミジの声が震える。

いや、心のどこかで彼女も分かっていたはずだ。

 

『あぁ。奴は我が殺めた』

 

そう言った天廻龍は、ある方向に目を向けた。

禁足地のフィールドの端、美しい麓の景色が拝める崖。そこには幾つもの竜の"一部"が転がっている。

 

『アレは我が殺し、能力を奪った竜達の亡骸よ』

 

「兄…上…?」

 

その亡骸達の中できらりと光るもの。殆どが腐敗して尚、輝きを失っていなかった金雷公の極旋角(ごくせんかく)が、遺されていた。

 

「…あ……あぁ……」

 

覚束ぬ足取りで"それ"に歩み寄ったモミジは、ぺたんと座り込む。

 

…見ていられなかった。

レンは顔を背け、ヤマトはただ涙を流す彼女を見つめる。

姉であるユズカを目の前で失った時の自分の姿が重なって見えた。

 

そしてこの後の展開は、嫌でも予想できる。

 

「…天廻龍…貴様…ッ!!貴様ああああああああ!!!!」

 

ヤマトとレンがモミジの叫びと同時に抜刀。

ここからは死闘の始まりだ。

 

 

━━━━。

 

❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀

 

 

「かはっ…!?」

 

バシャッと言う音と共に、地面が赤く染る。

モミジは最初何が起こったか咄嗟に分からなかった。しかし、今自分の足元にぶちまけられたこの血は…

 

「まさ、か…」

 

嘘だ。よりにもよってこんな時に。

 

━━━ドクンッッ!!!!

 

「ああっ!!…っ…」

 

心臓が激しく鼓動し、目が霞む。

息が荒くなる。

足には力が入らず、思わず膝を着いてしまう。

 

「モミジ!?」

「モミジさん!!!!」

 

ヤマトとレンの声がする。

いきなり血を吐いて呻き出したのだ。驚くに決まっている。

だが、この状況を見て嗤う龍がいた。

 

「ふ、ふははははははははははは!!牙狼の!貴様、感染していたのか!」

 

歯を食いしばり、天廻龍を睨む。が、その姿は霞んではっきりしない。

かの龍との決着をつけるまで耐えなければと思っていた狂竜症が、ここで発症した。

 

「こんな…ところで…ッッ!!』

 

体の奥から何かが蝕んでくる感覚。

口からは次第に黒い息が漏れ、頭がクラクラしてきた。自分でもまともな判断ができなくなり始めているのを自覚しながらも、止めることが出来ない。

 

『や…まと…!』

 

思わず彼の方を見て、その名を口にしたのを最後にモミジは自我を失った。

 

❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀

 

━━━━━━━━━━ッッッ!!!!

 

それは最早、声ではなく爆発音だった。

 

モミジの咆哮を聞いたのは久々な気がする。

ヤマトは不覚にも、そんな事を一瞬考えた。

しかし、目の前の状況にそんな考えを振り払う。

もう少し彼女に近ければ、鼓膜が吹き飛んでいたかもしれない。人の姿の時でさえ、彼女の本気の咆哮はかの大轟竜ティガレックス亜種をも凌駕するのだから。

 

…そうか。お前、狂竜ウイルスに。

 

「モミジ………あのバカ」

 

音波による衝撃で砕け散った地面の破片から顔を守りながら、ヤマトは呟く。

なんでもっと早く言わなかった。

なんで我慢した。

狂竜症の恐ろしさはお前の方が知ってるはずだ。

 

━━━━否。

 

なんで俺は気付いてやれなかった。

あいつは、俺の事なんていつもお見通しだ。だが逆はどうだ。良く見てやれていれば、少なからず彼女の身体には異変があったはずなのに。

 

「ごめんな…気づいてやれなくて」

 

━━ゆっくり、歩み寄る。

 

警戒は解かない。しかしあくまで自然に、いつも通り彼女に近づくように。

自我を失う直前、彼女がこちらに何か言った。

その声は聞き取れなかったが、口の形でわかる。

俺の名を呼んだのだ。

なら、歩み寄ってやらねばならぬだろう。

 

━━モミジが唸りながら身構える。

 

いや、違うな。そんなのは建前だ。

本心は違う。

 

 

 

 

 

 

 

「惚れた女が苦しむ姿なんざ、見たかねぇや」

 

 

 

 

 

 

 

━━ガルルルアア!!

 

恐ろしい声と共に、ヤマトへモミジが飛び掛る。

遠くから名を呼ぶレンの声と、こちらをただ見つめる天廻龍の視線を感じた。

ヤマトは天上天下の柄に手は掛けていない。

彼女の鋭い歯がヤマトの首筋を狙う

 

…そんな事怖い顔すんなよ。美人が台無しだ。

 

時間がゆっくり流れているように感じる中で、ヤマトはそんなことを考えながら手を腰のアイテムポーチへと持って行く。

 

「団長には、礼を言わねぇとな」

 

 

 

 

パリンッ

 

 

 

━━!?

 

 

今にもヤマトを喰い殺そうとしていたモミジの口はその獲物に届かず、代わりにヤマトの手に握られた堅いものを喰らう。

 

「戻ってこい……たわけ」

 

 

 

動きが止まり

彼女の目から殺意が消えてゆく。

尖っていた爪は元に戻り、額に浮き出た血管も消え失せた。

 

『……っぁ………誰…が…たわけ……じゃ」

 

そう呟きながら倒れ込むように気を失ったモミジを受け止める。

それを見た天廻龍が、低い声で呟いた。

 

「貴様…それは」

「お前のウイルスに唯一対抗する術。抗竜石だ」

 

抗竜石━━黒蝕竜、及び天廻龍の有する狂竜ウイルスを沈静化させる効果を持つ小さな結晶だ。本来は武器に砥石のように付与するものだが、今回ヤマトはモミジに噛み砕かせて使用した。

この結晶、実はこの戦いに赴く前に我らの団団長よりもしもの事があればと渡されたのだ。

どうやら、遠きドンドルマにある研究所より取り寄せてくれたらしい。

 

━━いい加減、あのおっさんの正体も暴かねぇとな。

 

帰ったら絶対問い詰めよう。と決心しつつ、ヤマトはモミジを近くの岩にそっと寝かせる。

 

「さて、律儀に待ってくれてありがとう。と言っておこうか」

「…」

「どうした、気に入らないか?」

「いや…やはり貴様、面白い人間だ。…ヤマトといったか」

「あぁ」

「貴様の名は…未来永劫忘れずにいよう」

「…どっかで聞いたぜ、似た台詞。…まるで俺が今から死ぬみてぇな言い方だな」

「悪いがそうしてもらおう。……我にも、やらねばならぬ事があるのでな!!!!」

 

 

ゴゥッと音を立てて天廻龍が飛びかかってくる。

 

━━速ェ…!

 

やはり並の龍とは格が違う。

気を抜いたが最後、この命はいとも簡単に失う事となる。

 

「レン!!!!モミジを頼む!」

「で、ですが!」

「俺はいい!奴から絶対にそいつを守れ!!」

「…了解です!!」

 

意識のないモミジを守りながらの戦闘は流石のヤマトでも厳しい。故に、レンに彼女の護衛は一任する。自分より五つ以上歳の離れた少年だが、ここまで共に旅をした仲間。絶対の信頼がある。

彼が守りに徹すれば、例え天廻龍だろうとモミジに指一本触れることは出来ない。

 

「小癪な真似を!!小僧諸共葬ってやる!」

「させません!!━━━黒曜拳法ッ!!」

 

レンが両手を組み、勢いよく地面に叩きつける。

 

「土龍拳[堅城鉄壁]!!!!」

 

地面がうねり、衝撃波によりめくれ上がる。

壁のように幾つもせり立った自然の盾が、天廻龍の行く手を阻み二人の姿が見えなくなる。

レンの咄嗟の応用技なのかもしれない。

 

『ちぃっ!!』

 

ギュゥゥゥンと音を立て天廻龍の口に漆黒の炎が収束する。

ブレスで岩の壁を貫く気だ。

 

だが━━━

 

「させるかよ…!!」

 

ヤマトが駆ける。

 

「せあ…っ!」

 

抜刀からの三連撃。天廻龍の左前脚を切り刻み、そのまま空中で回るように身体をひねる。

 

『小賢しい!』

 

天廻龍は、今にもレン達の方へ放とうとしていたブレスの矛先を足元のヤマトへ向け、間髪容れずに放つ。

 

「くっ」

 

そのブレスを紙一重で躱し、スライディングしながら天廻龍の懐に潜りつつ背後を取る。

 

「飛天剣!!」

 

瞬速抜刀。おおきく振りあげるような一撃で尻尾の切断を狙う

━━━━が、ガキンという音ともに太刀は弾かれる。やはり、一筋縄では行かないようだ。

しかも一瞬間近で見えた天廻龍の尻尾には、何か棘のようなものが見えた気が…

 

「っ!?」

 

殺気を感じて、咄嗟に後ろへ跳ぶ。

刹那━自身のいた場所に金色の"棘"が突き刺さる。

 

「…おいおい…まさか」

 

ユクモ装備の笠を少し上にあげながら、天廻龍を見る。

かの龍は…まるで迅竜のように尻尾を揺らしながらこちらを睨んでいた。そしてその先端には、やはり見間違えようの無い棘が。

 

この龍は、特異個体だ。

それは知っていたつもりだが、まさか本当に。

 

「他の竜の能力…」

『ほぅ、わかるか』

「お前…本当に禁忌の存在になるつもりか」

『知らぬな。貴様ら人間からどの様な認定をされようが、我には関係の無い事よ…!!』

 

天廻龍の口に収束する、黒い炎…いや、赤い!?

異変に気づき、身体を投げるように全力で横へ跳ぶ。

赤い閃光が、地面を抉る。

 

「熱光線だと…!?」

 

火山地帯に生息する鎧竜グラビモスや、炎戈竜アグナコトルの切り札技の熱光線を天廻龍が放つ。

 

「一体何体の竜を喰らったんだ…」

『そんな程度か人間!!!!』

 

スゥ。と、大きく空気を吸い込む音。

まずい。

あの動作をとったあとの竜の行動はひとつ。

 

━━━ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!

 

大咆哮、もしくはバインドボイスとも呼ばれるそれは、威嚇等に使う咆哮を攻撃転用したもの。

モミジも持ち合わせる技だ。

だが、桁違いすぎる。

本来の姿のモミジならまだしも、人の姿のモミジではおそらく敵わないであろう音量。

地面がめくれ、岩は砕け、山が揺れる。

 

ヤマト自身も無事では済まなかった。

まるで鉄の塊にでも打たれたかのように吹き飛び、地面を何度も転がる。

一瞬天地が分からなくなるが、咄嗟に手に持っていた太刀を地面に突き立てて体制を立て直す。

口の中に広がる鉄の味。…頬でも噛み切ったか。

身につけたユクモ装備は泥で汚れ、所々が解れている。

破けたりしていないのは流石G級用の極天シリーズといったところか。

口から垂れる血を拭うと、砂埃漂う空間の向こうに金色の龍をしっかりと目視する。

見失う訳にはいかない。その時は死を意味する。

 

「…ここまでやられんのは久々だな…」

 

呟きながら、ユクモ極天の笠を脱ぎ捨てた。

頭を守る大事な装備だが、多少なりとも視界が狭くなる。それさえも、今は煩わしく感じたのだ。

睨み合う両者。先に動いたのは━━━金色の龍。

くるりと回りながら飛び上がると、そのまま間髪入れずに滑空攻撃を仕掛けてくる。

同様の攻撃方法を用いるライゼクスやセルレギオスなど足元にも及ばない速度。

恐らく下手に横に跳んでも巻き込まれる。

ならば━━

 

腰を低くして、足に力を篭める。

眼前までその凶悪な爪が迫る……今だ。片方の足の力を抜くようにして紙一重で避ける。そのまま力を抜いた足を軸に無理やり身体を捻って回転、背後に太刀を一閃━━捉えた。

ズバッと音を立てて天廻龍の鱗が引き裂かれ、赤い血が吹き出した。

 

『貴様ァ…!』

 

天廻龍は不意打ちを受けたのにも関わらず、たじろぐこと無くこちらを睨む。

ヤマトも隙を見せぬよう振り向くと同時に太刀を構えた。

 

「…聞かせてくれ、シャガルマガラ。お前を突き動かす原因はなんだ。ただの繁殖のために各地の竜達を狂わせてる訳では無いはずだ」

 

息を整えながら、ヤマトは問う。

どうしてもあの本に描いてあった天廻龍の姿が気になるのだ。

"人を守る存在として描かれた"あの姿が。

しかし、かの龍はその問いに答えない。

 

『ええい煩いわ。貴様たちには何も話さぬ。

…そろそろこの状況にも飽いた。貴様も、そこの雌犬同様黙ってもらおう。』

 

そう言うとシャガルマガラはヤマトの刃が届かぬ上空へと飛び上がる。

同時に、辺りに細かい金色の粉が舞った。

 

「これは…いったい…?」

 

こんな攻撃方法に覚えはない。という事は、他の竜の能力か。だが、こんな攻撃方法を用いる竜は……

 

━━━━いや、いる。竜ではなく、"龍"が。

 

「まさか…!!」

 

咄嗟に天廻龍から全速力で離れようとする。自分が思った通りの技だった場合、この辺にいてはまずい。"巻き込まれる"。

しかし、対比しようと走り出した瞬間目の前に金色のトゲが降り注ぎ退路を絶たれる。

 

「くそっ!!」

 

振り返ると、上空で嗤う天廻龍。そして、躊躇いもなく前足の爪を打ち合わせて"火花"を散らした。

━━刹那。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

辺りを爆炎が包む。

━━炎王龍ことテオ・テスカトルの持つ切り札。

《スーパーノヴァ》と呼ばれる巨大な粉塵爆発攻撃だ。発火性のある粉塵を辺りに撒き散らし、自らが起こした火花を火種に宙に舞う粉が連鎖して炎上し、一瞬にして焼き払う。人間がまともに喰らえば装備など意味を成さない。

回避方法はほぼ無く、いちばん確実なのはその爆破範囲から逃げること。

しかし退路を絶たれたヤマトは、その範囲内から逃れることは出来なかった。

 

❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀

 

 

『…他愛無い』

 

煙に包まれた地面を見つめ、鼻で笑う天廻龍。あの人間は確実に爆破範囲内に留めた。既に炭と化しただろう。

 

 

しかし、念の為死体の確認をしようとその高度を下げ始めた所で、煙の中に何かが見えた。

 

『……あれは…!!!!』

 

 

 

 

 

円形に高速回転する、紅蓮の雷。

 

 

 

 

 

見覚えがある。アレは、自分の持つ中でも最高峰の威力を誇る切り札をも一度防いだ事のある絶対防御の盾。

それを展開するは……白銀髪の少女。

 

『牙狼の…貴様…!!』

 

❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀❀

 

「ぬし、無事か」

「モミジ…!?」

 

死んだ。

そう思った。あの爆発を防ぐ術を持っていなかったヤマトは、その場から動けなかったのだ。死を覚悟し目をつぶったが、その灼熱は自分に届かない。聞き覚えのあるバチバチという音に目を開けるとその目に映ったのは、深紅の袴と漆黒の上衣に身を包み、紅蓮の盾を展開する相棒の背中だった。

 

「お前…身体は…」

「良いから、今のうちに態勢を整えよ!」

「あ、あぁ」

 

ヤマトは慌てて答えるとポーチの中にある回復薬の瓶を取り出し、カパッと蓋を開けて少しゼリー状のそれを体内へ流し込む。

そしてもう一瓶、通常の回復薬よりもより効果のある回復薬グレートを取り出した。

 

「モミジ!!」

 

名を呼んで投げ渡す。

彼女はとっさの出来事にもかかわらずしっかりとキャッチすると、助かる と言って同じように回復薬を飲み干した。

瓶を投げ捨て、口元を拭った彼女は少し気まずそうに、目を逸らして呟く。

 

「……すまぬ。迷惑をかけた」

「いや、俺こそ気付いてやれなくて悪かった。

…もう大丈夫か?」

「問題ありんせん」

「なら、いくぞ」

「承知」

 

二人同時、同じ速度で駆け出す。

 

『雌犬め…何度言えばわかる…貴様がいくら足掻こうとも、我には敵わぬ!!!!』

 

天廻龍の口元が赤く発光する。

先程も見た、熱戦攻撃だ。

その矛先はモミジに向けられている。

━━が、彼女は避ける素振りも見せずに真っ直ぐ突っ込んでゆく。

それを見てヤマトは一旦モミジから離れる。

そして放たれた熱線を、彼女は前に突き出した手より迸る龍光で打ち消した。

 

「幾ら他の竜の能力を得たとしても所詮真似事…本来の性能には到底かなわぬ、まがい物じゃ!!」

『くっ…!!』

 

モミジが天廻龍へと肉薄。一番得意とする肉弾戦へ持ち込んだ。

今までの攻撃方法を見ていても何となくわかっていたが、かの龍は基本中〜遠距離での戦闘を得意としていた。その為、懐に潜り込まれると攻撃をせず距離を取ろうとする。

それが、彼女の狙い目だ。

 

『小賢しい…!!』

 

その狙い通り、天廻龍は翼脚を使ったバックステップで大きく後方に跳ぶ。

━━━が。その先には収束する龍エネルギー。

モミジの持つ技の中でも高威力の技。指定した場所に蝕竜蟲を集め、そのエネルギーを暴走させて中規模の爆発を起こす━━龍光雷爆。

それに気付かず自らエネルギー体の中に突っ込んだ天廻龍が、赤い雷に包まれた。

 

「手応えは?」

 

爆発により発生した土埃の中を険しい表情で見つめる彼女に問う。

 

「あった…じゃが」

「この程度じゃあ仕留めらんねぇか」

「…うむ」

 

二人が武器を構え直す。

同時に、漂う土埃の中から漆黒の炎が飛来する。

バク転をするようにそれを避けて顔を上げると、滑空攻撃を仕掛けてくるかの龍の姿が見えた。

二人はブレスを回避したせいでまだあの攻撃を避けられる状態にない。

しかし忘れてはならない。

 

 

この戦場には、もう一人いる。

 

 

「レン!!かましてやれ!!」

 

飛来する天廻龍の横の岩陰より飛び出す、インゴットシリーズを身につけた狩人。

 

「黒曜拳法ッッ!! 飛龍拳!!!!!」

 

半竜人化した彼の一撃は、正確に天廻龍の顔面を捉え━━その巨体を地面へと叩き落とす。

ドォンと派手な音をたてて落下した天廻龍。それなりのダメージが入っているはずだが━━

 

「そんな…」

 

落胆の声を上げるレン。

その目線の先には、しっかりと地面に足をつけ立つ金色の龍の姿。

 

『小僧…貴様…』

 

天廻龍の目が光る━━━

そう思った時には、漆黒の炎がレンの足元で爆ぜた。

 

「━━━━」

 

声を上げるまもなく吹き飛ばされると、地面を何度も転がり彼は動かなくなる。

 

「レン坊!!!!」

 

悲鳴にも近い叫び声をあげて駆け寄ろうとするモミジの手を、ヤマトが掴んで引き止める。

 

「どうして!?」

 

キッ とこちらを睨むモミジに対し首を横に振る。

 

「ヤツの前でほかのことに気を逸らすな。レンは大丈夫だ。あいつ、直にブレスを当てずにわざと少し外しやがった。…罠だよ」

「何…?」

「お前がそうゆう反応をするのをわかってんだ。

…そうだろ?」

 

戦闘でボサボサになり目にかかった髪の毛の間から、かの龍を睨む。

 

『ふん…相も変わらず勘のいい奴よ』

 

天廻龍が鼻で笑う。

…正直、ヤマトも顔には出していないが先程から身体も頭も動きっぱなしで疲れている。

それは横にいるモミジも同様だろう。

何より彼女は先程のウイルスによるダメージが残っている。いくら抗竜石で沈静化させたとはいえ、再び発症しない可能性は無いとは言いきれないのだ。

━━体力的にも、時間は残りわずか。

何か、何かないか。

かの龍に決定的な一撃を与えられる何か━━。

コンマ数秒の間に、ヤマトの頭がフル回転する。

…ふと、目の端になにか映る。

ふよふよと浮かぶ、見慣れた赤い光。

モミジの周りにいつも漂っている蝕竜蟲だ。

 

 

 

━━━━そうだ。

 

 

 

頭によぎったいつかの会話。

 

これしかないか。

 

 

「モミジ」

「?」

「何秒だ」

「…なにがじゃ」

「俺が何秒持ち堪えればいい?」

「………!! ぬし、本気か」

 

ヤマトの言葉の意味に気づいたらしい彼女が、心配の目を向けてくる。

 

「あぁ。」

 

迷い無く答える。

 

「……三十秒。」

「わかった」

「任せて良いのか?」

「誰だと思ってんだ」

「…承知した。頼む」

 

短いやり取りで、作戦会議は終了。

モミジが、一歩後ろに下がる。

そしてヤマトが、太刀を納刀。抜刀の構えをとる。

 

『…仲間一人動けなくなって、まだ来るか』

「諦めが悪いんでね」

『はぁ………もうよいわ。我も飽いた。……死ね』

 

言うや否や、天廻龍が翔ける。

ヤマトもその場から一気に走り出す。

天上天下の鯉口を切る。対する天廻龍の攻撃は、恐らく爪によるもの。

右か左、どちらからくるか━━━

━━僅かに右足で踏み込んだ。

左…いやフェイントか。右。

 

ガキィン!!

と音を立てて刃と爪が交わる。

いつもならここで爪をいなしてカウンターするところだが、今回はそのまま全力で受け止める。

 

━━流石に重い。

まぁ当たり前だろう。相手は自分の何倍もの大きさを誇る龍。攻撃を受け止められただけでも上出来なのだ。

だが耐えねばならない。

"彼女が準備を終えるまで"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━"絶技発動(ぜつぎはつどう)"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凛と響く、少女の声。

 

 

 

 

 

『っ!?!?』

 

 

天廻龍は、そこで気づいたようだ。

いつもヤマトと共に前線に出るモミジが、この場にいないことに。

 

目の前の人間から目を逸らし、竜の化身の姿を探す━━━見つけた。かなり後方、先程の位置から全く動かずその場で手を突き出している。

 

その眼は、まるで迅竜のように赤くゆらゆらと輝いていて。

 

━━嫌な予感がする。

 

そう思った天廻龍の考えは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━"獄狼に仕えし下僕(しもべ)達よ"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら当たっていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━"牙狼の姫が、今その力を解き放つ"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まさか……!?』

 

 

 

 

あれは自分も持つ最高位の技の発動条件だ。

どんなものか分からぬが止めないとまずい。

 

龍の直感が、そう告げる。

 

 

 

 

が。それを目の前の人間が許さない。

 

 

「悪いな、あいつには手出しさせねェ」

 

爪で太刀を弾き、もう片方の剛腕で押し潰す…が、紙一重で避けられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━"情け無き我が暴状を赦したまえ"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチバチという音が、次第にギュゥゥゥンと言う音に変化する。

モミジの手に、紅蓮の光が輝く。

 

『貴様ァ!!そこを退けェ!!!!』

 

小さくバックジャンプして足元に特大のブレスを放つ。

しかしヤマトは━━━既にその地面から消えている。

 

『何!?』

「舐めるなよ、天廻龍」

『っ…!!』

 

上を見る。宙に浮かぶヤマトの姿。

ブレスを予測して跳んだのか。

しかし、彼は何故か太刀を納刀している。

代わりにその手に握られているのは、円筒状の何か。

 

 

否、あれは見たことがある。

狩人が用いる道具の中でも、凶悪極まりないものの一つ。以前も一度、モミジが使っていた…

 

『…!!!!』

 

ブレスを撃った直後で、"目を守れない"

 

そしてヤマトが、その円筒状の道具を地面へ投げつけた。

 

 

 

 

カッと言う音と共に、辺り一帯を閃光が包む。

 

 

 

 

 

 

 

「モミジ!!ぶちかませ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━"全てを喰らう、紅蓮の龍"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

限界まで蓄積された龍エネルギーを、解放。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"百龍滅喰 牙狼顎(ひゃくりゅうめっそん がろうのあぎと)"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━巨大な龍が姿を現す。

 

 

 

否。龍のように見えるだけで、それはモミジの手から放出された龍エネルギーが形を成したものなのだろう。

どの"竜"にも、"龍"にも見えるし、見えない。そんな言い表しようのない形をした巨大な顎が咆哮のような音と共に口を開ける。

 

 

『━━━オレ()は…何を見ている…?』

 

思わず天廻龍は呟く。

見上げれば、天を覆うほどの巨大な龍が今まさに自分を飲み込もうとしている。なのに、動けない。

 

あぁ。これが、"恐ろしい"という感覚か。

 

 

 

バクン、と、紅蓮の龍が金色の龍を飲み込んだ。

 

 

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