モンハン小説[紅の舞姫]   作:Momiji712

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第4話 過去との決着

 

 

 

「俺が行く」

 

そう言ってクエストの契約書にサインをしようとしたヤマトの手を、受付嬢が止める。

 

「ま、待ってください!!いくらユズカさんのお弟子さんでも、危険すぎます!!!相手はあの隻眼の悪魔ですよ!?」

 

『隻眼の悪魔』

そう呼ばれた恐暴竜イビルジョーの歴戦個体は、五年前ユズカの命を奪いヤマトが雪山の奈落へと叩き落としたかの竜だ。死んではいないだろうとあの時も思っていたが、モミジに過去を打ち明けた僅か二日後。何の因果か、奴が雪山へ再び現れたとの報告が入ったのだ。

クラスは当然G級。古龍級生物の歴戦個体という事もあり、本来であればドンドルマやメゼポルタ、タンジア等周辺の大都市から救援が来るのを待つべきなのだが、イビルジョーは既にこのポッケ村へ近づいてきているらしい。皮肉な事に、状況は五年前に告示していた。

 

「誰かがやらなければこの村に被害が出る。それでもいいってのか」

「しっ…しかし!!」

 

いつもの雰囲気とは一変し殺気に満ちた視線でヤマトがポッケ村の受付嬢に問うと、彼女は怯えた顔をしながらも首を縦には降らない。当然だろう、とヤマトも心の中ではわかっている。今の自分よりも遥かに実力が上だったユズカでさえ命を落とした相手━━単独狩猟など認める訳にはいかないのだ。

だが、ヤマトは知っている。あの時ユズカは自分を庇ったせいで命を落とした。ヤマトがあの場にいなければ、彼女はかの竜に勝利し今も生きていただろう。

決して実力不足などでは無かったのだ。

だからこそ、今の(ヤマト)なら━━━

 

「ミカ。行かせてやりなさい」

 

ヤマトの背後からそう声が掛かる。、

振り向くと、そこにはモミジと村長が立っていた。

恐暴竜出現の報告を受けた時、ギルドに行く前モミジに連れてくるよう頼んでおいたからだ。

 

「…いいんですか?村長」

「構わん。こいつは、どうせ行くなと言っても行ってしまうじゃろうしな」

「…ありがとう。村長。」

 

説得してくれた村長に礼を言い、手早く契約書に自分のサインをして契約金を渡す。

そこに、モミジが割り込んだ。

 

「わっちも行くぞ」

「モミジ」

「よもや待っていろ━━などと言うまいな」

「だけど…」

「師と同じ道を辿る気かや?わっちも力を貸す。二人でやれば、必ず勝てる」

「…わかった、頼む」

 

モミジに礼を言い、共に狩場への出発口へ向かう。

準備は既に整えた。頼りになる相棒も居る。

最後にヤマトは足を止め振り返ると村に向かって。

出来ることなら、ユズカに届くことを願って━━━。

 

「行ってきます」

 

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雪山は猛吹雪だった。

あの時━━━ユズカが死んだ日も、こんな吹雪(てんき)だったのをヤマトは覚えている。

 

「モミジ!ついてきてるか!!」

「大丈夫じゃ!!」

 

雪で視界がほぼ遮られている中、後ろにいるであろうモミジに対して叫ぶように声をかけ、雪を凌げる洞窟に向かう。恐らく奴は以前同様、雪山の頂上付近にいるはず。ならばエリア4、5の洞窟を抜けて行くルートが安全かつ最短だ。

そして吹雪の中を歩いて20分。やっとの思いで洞窟の中に入ると腰を下ろし、休憩をする。

 

「モミジ、この先は山頂付近だ。イビルジョーは、間違いなくそこにいる。気を引き締めていこう」

 

山頂側の出入口を見ながらヤマトが横に座るモミジにそう言うと、彼女も頷いてそちらを見る。

 

「今回ばかりは相手が相手じゃ。わっちも手を抜くわけにはいかぬな」

「あぁ、俺も本気で行く」

 

ヤマトがモミジの言葉に頷くと彼女は立ち上がり、身につけているユクモ村で買った旅装を脱ぎ始める。

 

「お前…だから脱ぐ前にひとこと言えって」

「ほれ、持っててくりゃれ」

 

ヤマトの文句を遮るように脱いだ服を投げ渡した彼女が赤い稲光に包まれる。

すると頭から狼の耳、額から獄狼竜の剛角、腰からは獄狼竜の尻尾が生え、手先と足先は獄狼竜の剛爪を人間サイズに合わせたかのようなものへと変化。身体には獄狼竜の滅龍毛や滅龍殻と呼ばれる物が鎧を形成し纏う。そして周囲に一気に蝕竜蟲が集まり、龍光により白銀の髪が逆立ちパチパチと赤黒い稲妻が弾けた。

まるでジンオウガ亜種がそのまま人間になった様な姿だ。━━━実際、彼女は紛れもなくそうなのだが。

 

「…すげぇ」

 

先程まで文句を言っていたヤマトもその光景に目を見開いて驚く。

単純に感心してしまった。

これがモミジの力…いつ見ても圧巻である。

 

「くふっ、驚いたかや?流石に本来の姿になるとぬしを巻き込みかねぬからの。ただし、これは人の姿での限界じゃ。不格好だが、わっちも全力でゆく」

 

まだ出会ってから間も無いのにも関わらず、モミジは自分のために戦ってくれる。今までそんな仲間は出来たことがなかったヤマトが心から感謝していると、彼女が自信に満ちた笑顔で言う。

 

「さぁ、行くかや」

「…あぁ…!」

 

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洞窟から抜け、光に一瞬目を細める。

いつしか吹雪は止んでいた。

そして、ヤマトの目線のその先に。

 

「よぉ…久しぶりだな…」

 

まるで来るのを待っていたかのように、こちらを見ながらその場に佇む竜。

━━━恐暴竜 イビルジョー

五年前のヤマトによって片目を潰されながらも、その圧倒的な強さから『隻眼の悪魔』の異名を持つ、特異個体。

 

「モミジ」

「いつでも。」

「…行くぞ」

 

スゥッとモミジが大きく息を吸い込むと、イビルジョーも同じく息を吸いこむ。

ヤマトはそれを確認して一旦後ろにバックステップ、咆哮に備える。

 

━━ウオオオォォォォォォォオオンッッ!!!

━━ゴアアアァァァァァァァァァァァッッ!!!

 

咆哮する竜と、竜の化身。

その咆哮が終わるとともに、ヤマトは駆け出す。

手加減は必要ない。

━━全身全霊、全力をもって俺はこいつを…!!

 

「東雲流滅龍抜刀術…!天雷剣!!」

 

神速抜刀で放たれる剣撃。しかし恐暴竜は普通ならば避けることの出来ない速度のその攻撃を、軽く躱す。

 

「やはりな…!!」

 

ユズカは、ヤマトと同じ技を使っていた。恐らく、こいつはそれを覚えている。生半可に攻撃を仕掛けても避けられるのがオチだろう。

しかし、今回はヤマトひとりじゃない。

 

「モミジ!!」

 

叫んだ瞬間、後方に待機していた彼女が攻撃を開始。

ヤマトの横を凄まじい速度で通り過ぎて行く二つの赤い光弾。

獄狼竜の技の一つ、『蝕竜蟲弾』である。

 

━━ガァッ!?

 

顔面と胴体に直撃。決して小さくはないダメージが入り不意をつかれた恐暴竜が怯み、僅かな隙が生まれる。

そこを逃さない。

ヤマトは天上天下無双刀を完全納刀。

鯉口は切らずに、鞘ごと太刀を構える。

 

「東雲流滅龍抜刀術…!!」

 

脚に力をこめて一気に距離を詰め、そのまま大上段の構え。

 

「流星剣…!!!!」

 

恐暴竜の頭に向かって力一杯、しかし雑では無い動きで鞘ごと太刀を振り下ろした。

頭蓋骨ごと頭を破壊する技、流星剣。

大上段に構えた剣を納刀したまま、真上から振り下ろす打撃技。だがしかし恐暴竜はこれに反応、頭をもたげて回避したため直撃せず、左頬を少し抉っただけだった。

一瞬の睨み合いの後、恐暴竜とヤマトは双方共にバックジャンプで距離をとる。

溜め込んでいた息をふぅっと吐き出し、ヤマトは隣にいるモミジと頷き合う。言葉は無くとも意図は伝わった。

今度はふたりで恐暴竜に突っ込む。

 

『ガルルルアァァッッ!!!!』

 

半竜化により、とてもその容姿から放たれたとは思えないドスの効いた声を出しながら、モミジが鋭利な爪で恐暴竜を殴る。ドンっという衝撃音とともにイビルジョーの頭か大きく揺れた。

しかしそれだけで怯む恐暴竜では無い。攻撃直後の僅かな隙を狙ってモミジに噛み付く━━が、彼女はこれを身体を捻って回避。その隙にヤマトが恐暴竜の股下に潜り込み太刀を抜刀、切り下ろし、突き、切り払いの三連撃。

恐暴竜はそれを振り払うかのようにその場で体全体を使った回転攻撃を行う。ヤマトは咄嗟に身体を地面に這うように下げ回避したが、唐突な動きに反応し切れなかったモミジは尻尾に当たり吹き飛ぶ。

 

「モミジ…!!」

 

彼女は地面を何度も転がるが、最後に体制を立て直し片膝立ちで耐えると、こちらに向かってニヤリと笑う。

あの様子ならダメージはあまり無い。大丈夫だろう。

ヤマトはモミジが無事なのを確認して、再び恐暴竜と向き合う。今まで自分を狩りにきたハンターと違う動きをしていることにイライラしているのか、恐暴竜は乱暴な動きで突進してくる。━━━速い…!!

半端な回避では間に合わないと判断しヤマトはその場で納刀、ギリギリまで恐暴竜を引きつける。

あと一歩という所でヤマトはスライディング、恐暴竜の下を滑りながら抜刀。

五年前のあの日、ユズカがやった戦法。

 

「東雲流滅龍抜刀術…!! 飛天剣ッ!!」

 

前から後ろへと大剣のように切り上げる。

龍の尻尾を切り落とすことを目的とした剣技。あの日ユズカが先端部分を切り落とすも再生していた恐暴竜の尻尾は、此度は真ん中から見事に切り落とされた。

 

━━━ガァァアアアッ!?

 

いきなり尻尾を失いバランスを失ったためか、そのままイビルジョーは転倒する。そこにすかさずモミジが肉薄し、右手を大きく振りかぶる。

 

「はぁぁぁぁぁっっ!!」

 

彼女の右拳に龍光エネルギーが収束していき、そのまま恐暴竜の頭に向かって全力の右ストレート。

 

━━━━ガァァァァアアアァァァア!?!?

 

ドォォオンという衝撃音と共に、イビルジョーの頭が地面にめり込んだ。

 

「いいぞ…!!」

 

思わずそう叫ぶと、モミジはこちらを見て笑顔で応えた。だがイビルジョーはすぐに頭を持ち上げると、そのまま彼女の肩にその鋭利な歯で噛み付く。

ヤマトの方を向いていたモミジは反応が遅れてしまった。

 

「あぁっ!!」

 

モミジが顔をしかめ、声を上げる。

 

「っモミジ!!」

 

ヤマトは全力で駆け寄り天上天下無双刀を納刀したまま、恐暴竜の頭に一閃する。

 

「流星剣ッ!!!」

 

今度こそ刀身は頭の真ん中を捉え、イビルジョーは悲鳴を上げながらモミジから離れる。軽い脳震盪を起こしたのか、よろめきながら頭を振っているのを見たヤマトはモミジに駆け寄り肩を抱く。

 

「大丈夫か…!」

 

傷を見る限り、出血こそしているものの骨まではやられていない。獄狼竜の甲殻で作られた鎧が守ったのだろう。さすが、竜の化身だ。

 

「っ…大丈夫じゃ…この程度ならすぐに塞がる」

 

そう言ううちに、シュゥゥと音を立てて傷口が少しずつ再生していく。やはり竜の回復速度は半端ではない。

 

「もう大丈夫じゃ。少し油断した…すまぬ」

「気にすんな。それより、来るぞ」

 

流星剣によりダメージを負い目の前の生物を排除するべき外敵と認識した恐暴竜は、ついに怒りを露わにする。

身体中の筋肉や古傷が浮き出て、口からは龍エネルギーが溢れ出す。五年前にも見た光景。

かの竜がスゥゥと、大きく息を吸いこんだところでモミジは狼の耳をしまい、ヤマトは耳を塞ぐ。

刹那。

 

━ゴアアアアァァァァァァァァァァァ!!!!!

 

爆音のような咆哮とともにビリビリと衝撃波が襲う。

 

「くっ…!!」

 

流石はかつてユズカを含め多くの精鋭ハンターを圧倒した恐暴竜。咆哮も並のそれとは比べ物にならない。

間髪入れずに、地面をえぐり人の大きさほどもある岩石を飛ばしてくる。これをヤマトは太刀で、モミジは拳で粉砕。すぐにヤマトは駆け出し、恐暴竜の懐に一気に肉薄。そのまま東雲流滅龍抜刀術、飛天剣を発動。恐暴竜の右脚を切り裂く。

しかし怒り状態のためかこの程度では怯まず、全体重をのせてヤマトにタックルを仕掛けてくる。咄嗟に回避しようとしたが間に合わない。

 

「がはっっ!?」

 

ヤマトは身体を『つ』の字にして吹き飛び、雪の積もった地面を何度も転がる。

 

「ヤマト!!」

 

モミジが援護するように立て続けに蝕竜蟲弾を放ち、牽制してくれる。視界が地面と空を何度か行き来したあと、体制を整えたヤマトは手を挙げて彼女に無事を伝え、天上天下無双刀を納刀する。

 

「ユズカ、力貸してくれ…!」

 

そうポツリと呟くと、ヤマトは太刀の鯉口を切る。そのまま腰を深く沈め、足を地面に食い込ませる。

 

「全力全開……!!東雲流滅龍抜刀術…!!」

 

その瞬間、モミジにはその場からヤマトの姿が消えたように見えた。

否。正確には、見えないくらいの速度でイビルジョーに肉薄したのだ。

 

撃龍連斬(げきりゅうれんざん)!!!!!」

 

イビルジョーの体に、二本の閃光が走る。

モミジは、それが剣の斬撃によるものだと気付くにはヤマトが再び天上天下無双刀を納刀してからだった。

 

『撃龍連斬』

 

東雲流滅龍抜刀術の二連撃技。

抜刀と共に全力で切り下ろしと横切りを行い、そのまますれ違い納刀。敵は切られたことに気づかず、一拍置いてから傷口が開く。

その通りに、ヤマトが納刀すると同時にイビルジョーの体から血飛沫が上がった。

 

━━━ガアァァアアァアァァアァア!!!!!

 

イビルジョーの左手が吹き飛び、身体に大きな刀傷が刻まれる。激痛に悲鳴を上げた恐暴竜は、そのまま地面をのたうち回った。

これで決着かと思ったが、半ば無理矢理に体制を立て直した恐暴竜は目の前にいたモミジに向かってブレスを━━━

━━━ユズカを殺したあのブレスを放つ。

ヤマトの脳裏に、あの時自分を庇ったユズカの後ろ姿が重なった。

 

「っっ!!させるかああああああぁぁ!!!!!」

 

ヤマトは全力で走り、あの時彼女が自分にしてくれたように、モミジを抱え込んだ。

しかし━━━

 

「もう…ぬしに悲しい思いはさせぬ」

 

耳元でモミジがそう囁いた。

刹那。

 

ズガアアアアアァァァァァァァァァン!!!!!!!!

 

モミジの手から放たれた龍光が、なんと恐暴竜のブレスを打ち消し、そのまま口をかっぴらげたかの竜に直撃。

口から体内を貫いた龍光で大ダメージの入ったイビルジョーは、鳴き声を上げる間もなく最後に大きく仰け反ると、そのまま地に伏した。

 

「…終わった…かや…?」

 

息を荒くしながら、モミジが聞いてくる。

 

「あぁ…終わったな…」

 

師匠…仇…取ったぞ。

ヤマトは腰の天上天下無双刀に目を落とし、その柄を深く握りしめた。

 

「ヤマト、帰ろう?」

「あぁ……帰ろう。ちょっと待っててくれ、素材を剥ぎ取ってくる。」

「あ、そうじゃったな」

 

二人で地に伏した恐暴竜の元へ駆け寄る。

剥ぎ取りナイフを腰から抜き、亡骸に突き立て━━

突然、恐暴竜が目を見開く。

 

「ッッ!?!?」

「なっ!?」

 

━━━━ガアアアアッ!!

 

まだ生きていた…!?

最後の力を振り絞り、恐暴竜はその太い脚で地面を深く抉る。その衝撃により足元の地面が崩れた。

まずいと思いモミジの方を見ると、崖から放り出される彼女の姿が目に入った。

 

「っ…!!モミジ!!!!」

 

これ以上、こいつに大切な人を奪われてたまるか…!

ヤマトは崖から飛び出し、彼女を抱え込む。二人はそのままいつかの光景同様、恐暴竜と共に奈落へと落下していった。

 

 

✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿

 

「っ………」

 

目が覚めると、ヤマトは仰向けで倒れていた。

かなりの高さから落ちたはずだが、どうやら生きているらしい。恐らく吹雪により深く積もった雪がクッションになってくれたのだろう。

 

「…そうだ…!!モミジ…!!」

 

確かに彼女の事を抱えて落ちたはずだったのに、ヤマトの腕の中は空っぽだった。立ち上がろうとすると、胸に激痛が走る。

 

「ってぇ…」

 

落下した衝撃で肋骨あたりを折ったかもしれない。

だが、今はそんな事どうでもよかった。

 

「モミジ…!!モミジ!!返事しろ!!」

 

胸の痛みを庇うように立ち上がり、呼びかけながら周囲を見渡す。すぐ近くには、落下の衝撃で首があらぬ方向へ曲がり完全に息絶えた恐暴竜の亡骸があった。それを横目に見ながらあたりを見渡すと、少し離れたところに赤黒い光が見える。

━━間違いない、モミジの周りをいつも飛んでいる蝕竜蟲だ。

 

「!!…あそこか!!」

 

震える足で歩きながら、やっとの思いで辿り着き、蝕竜蟲が飛んでいる周辺の雪を手で掘り進める。ただでさえ気温が低く手の感覚がほぼ無い状態だったが、構わず雪をかき分けていくとモミジの姿があった。

 

「モミジ!!おい!しっかりしろ!!」

 

彼女の体を雪から引っ張り出し、軽くゆさぶって呼びかける。しばらくすると、閉じられていた瞼がうっすらと開いた。

 

「ぅ………ヤマ…ト…?」

「…っ…よかった…」

 

思わず、彼女のことを強く抱きしめる。

 

「こ、これ、あまり強く締めると苦しいじゃろ…」

 

そう言うモミジも苦笑いしながらヤマトの背中に腕を回してポンポンと叩く。

 

「心配無用じゃ…わっちはこの程度じゃあ死にはせんがな…」

「…お前、怪我は?」

「う、む。右足が思うように動かん…折れてはいないと思うがの」

 

言われた通りに右足を確認すると足首が真っ青になっていた。本人の言う通り、骨折はしていないようだが重度の捻挫といったところだろう。

 

「捻挫だな…これは歩くのは難しいか」

「それよりも、ぬしの方が重症じゃろう?」

 

ヤマトの様子を見てすぐにわかったのか、モミジが心配の目を向けてくる。

 

「これくらい大したことは無いさ」

「意地を貼るなたわけ。…ここにいては凍えてしまうな、どこか風の凌げる場所へ行こう」

 

モミジの言う通り、ここはどうやら谷間のようで、冷たい風が強く吹き込んできている。

上を見上げるが落ちた崖は遥か高く、ここから登れそうもない。

 

「…!ぬし、あそこに洞窟が」

モミジの言われた先を見ると、小さいが人1人づつくらいなら抜けられる穴があった。

 

「よし、とりあえずあそこに入ろう。」

 

二人はお互いに肩を貸して立ち上がると、洞穴に向かって歩き出す。恐暴竜は葬った。あとは、何としてでも帰らねば━━。

 

✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿

 

洞窟の中は外に比べれば比較的暖かく、なんとか凍死はしなくて済みそうだった。

 

「さてと…ぬしよ、どうする…?」

「…どうやら俺らが落ちたのはポッケとは反対側の山脈だ。戻るには、かなり時間がかかる。とりあえずは、この洞窟を奥まで行ってみようと思う」

松明に火打ち石で火を灯し、マップを見ながらヤマトはモミジの問いにそう答える。

極寒の地での長居は命に関わる。手持ちのホットドリンクや食料を使い切ったとしてもあと一日持ち堪えられるかどうかだ。一刻も早く村への帰り道を見つけなければ二人揃ってこの雪山に骨を埋めることになる。

 

「まぁ名案じゃな。じっとしていれば、それこそ凍え死にしてしまうからの…っ…」

 

 

そう言いながら立ち上がったモミジが歩き辛そうだったので肩を貸すと、彼女は困ったような顔でヤマトを見上げた。

 

「ヤマト、無理をするでない。ぬしだって怪我しとるじゃろ」

「いいから黙って掴まってろ。お前に無理して欲しくない」

 

モミジはヤマトの少しぶっきらぼうな"それ"を聞いてしばらくポカンとしていたが、くふっと笑った。

 

「…ぬしもなかなかの阿呆じゃの」

「うるせぇ」

 

そんなやり取りをしながら歩くこと10分、洞窟の奥に僅かな光が見えた。

 

「どこかに繋がってるな…」

「村の方だといいんじゃが」

 

そして、僅かに上り坂になっている道を進み、光の差し込む隙間から出ると━━━━

そこは一面が氷に覆われた巨大なホールのような場所だった。ホールの上部には大きな穴が空いており、そこからは満月が覗いている。光の正体はこの月光だったようだ。だが、そんなことよりも目を引く光景が二人の目に飛び込んだ。

そのホールの真ん中に佇む巨大な竜。

 

「うそだろ」

「ほぅ…」

 

数十メートルはあるであろう巨大な体、雪のように白い体表。そして特徴的な円形の顎。

 

「崩竜…ウカムルバス…!!」

 

飛竜種に分類されながらも翼を持たず、原始的な骨格が特徴的なウカムルバスは古龍に匹敵する力をもつとされ、ポッケ村の古い言葉で[白き神]という意味がそのまま名前として定着した。

咆哮を轟かせばその音圧により雪崩や落盤を引き起こし、尻尾を一振りするだけでも地形すら創り変えるとされ、その様から「凍土と吹雪の支配者」と称される。

そんな強大な竜を目の前に、ヤマトは咄嗟に天上天下無双刀を構える。

しかし、それをモミジが止め、穏やかな声でウカムルバスに向かって話しかけた。

 

「…白き神よ…お初にお目にかかる。わっちは獄狼竜の化身。名を…モミジと申す」

 

すると眠っていたかのように目を閉じていた崩竜は目をゆっくりと開ける。

 

『ほう。このような所に客人とはまた珍しい…歓迎するぞ獄狼竜、人間。……ん?…おぉ、君はもしかすると噂に聞く"黒狼姫"か。会えて光栄だ。━━━━━して、先程から何やら上が騒がしかったが、あの小煩い若造を黙らせたのはそなた達か…?』

 

地の底から響くような威厳に満ちた男性の声。

モミジ以外にも言葉を話す竜がいたとは━━。

ヤマトは驚愕しながらも、ウカムルバスの言葉の中にあった『黒狼姫』という単語は聞き覚えがなく疑問に思った。モミジがその言葉を聞いた瞬間、眉間に皺を寄せ嫌がるような素振りを見せたので彼女の事を指すのだろうが、話の流れだと崩竜とモミジは初対面のはず。それなのにも関わらず、かの竜はモミジに関して何か知っているようだった。

今それをモミジに聞くべきではない━━そう直感が告げていたので言葉には出さなかったが…。

 

「崩竜、それはイビルジョーの事か?」

 

ヤマトがウカムルバスにそう問う。

普通の人間からしたら伝説にもなっている強大な竜に向かって話しかけるなど頭のトチ狂った行為だろうが、ヤマトは隣にいる言葉を話す竜と1ヶ月以上旅をしている。

自然と話しかけることが出来た。

 

『人間達の間ではそう呼ばれていたはずだ』

「あぁ、それならばわっち等が殺った」

 

崩竜の言葉にモミジが答えると、かの竜は僅かに目を見開く。

 

『ほう…あれを容易く倒したか…その腕、なかなかのものと見る。争いは避けておこう』

「そうして貰えるとありがたいな。こっちも今道に迷ってる最中でね、それどころじゃないんだ」

『道に…?ポッケの里へ帰る道か』

「ん、そうだけど…崩竜がポッケの名前知ってるとはな」

『…』

 

ヤマトの言葉に一瞬黙り込んだウカムルバスに対し、モミジが口を開く。

 

「白き神よ、いきなりですまぬが、其方の力をお借りしたい」

『…噂に名高い黒狼姫の頼みなら、引き受けよう』

「ぅ……うむ。…わっち等は、その恐暴竜との戦いで崖から転落してしまった。先程この男が申した通り帰り道が見つからず、あまり時間もない。そこで一つ頼みがある」

『…なるほど、心得た』

「察しが早くて助かりんす」

「崩竜、帰り道知ってるのか…?」

 

すると崩竜は、ヤマトの問いには答えずゆっくりと動き出した。

 

『かつて白き神と呼ばれた我の力、舐められては困るな人間』

 

動き出した崩竜がヤマト達に背を向けると、二人が入ってきた入口とは反対の壁を向く。

そして、かの竜の口に冷気のような物が物凄い勢いで収束していくのが見えた。

 

「おい、まさか…」

「…一撃をもって万物を凍りつかせる、崩竜の吐息(ブレス)…」

 

 

 

━━━絶対零度の氷息(アブソリュート・ブラスト)

 

 

 

モミジが横でそう呟いた…瞬間。

 

━━━━!!!!!!!

 

崩竜の口から放たれた冷気の収束砲が、轟音と共に洞窟の壁を穿つ。

 

『…この道を行け。村の近くまで繋がっているはずだ』

「……こりゃあ…桁違いだな」

「驚いたかや?」

「あぁ。さすが伝説の竜…」

 

ウカムルバスが一瞬にして作った道(?)をポカンと見つめながらヤマトが言った。

 

『さらばだ人間…いや、確かヤマトと言ったか。そして黒狼姫…其方達の安全を願っている』

「あぁ、ありがとな」

「…世話になった。恩に着る。白き神」

 

ウカムルバスに礼を言い、二人は遠くに見える光に向かって歩き出す。

 

「そういえばあいつ…なんで俺の名前知ってたんだ」

「え?」

「いやだって、おれ崩竜の前で名乗ってないはずなのに、最後ヤマトって呼ばれたよな」

「たしかにの…なぜじゃろう」

 

 

 

 

ゆっくりと歩いてゆく背中を見ながら崩竜は呟いた。

 

『……あの刀…やはりお前の………ユズカ、あの様子ならばもう何も心配無い。…安らかに眠れ…我が友よ』

 

✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿

 

ウカムルバスの作った穴を抜けると、そこは先程までイビルジョーと死闘を繰り広げた雪山の麓だった。

 

「戻って…これたな…」

「一時はどうなるかと思うたぞ」

「ま、結果オーライだろ」

「くふっ。そうじゃな……さてぬしよ」

「ん?」

「帰ったら酒じゃ」

 

モミジの言葉に、思わず吹き出してしまう。

 

「あぁ、勿論だ。今日は飲むぞ!!」

「ふふ、そう来なくてはな!!!!」

 

二人は互いの拳を合わせ笑い合うと、ポッケ村へと走り出した。

 

「痛ったぁ…」

「お前走れるような足じゃないだろ」

「ぬしこそ、はしゃげるような身体ではあるまい…」

 

 

 

 

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