━━リーンゴーン リーンゴーン
聞き覚えのある不気味目な鐘の音で、ヤマトは目を覚ました。
「この音は……まさか」
弾かれるようにベットから起き上がり、部屋の窓を開け通りを見下ろす。
「住民は早く避難を!!」
「鍛冶屋は火を落とせ!!」
「下位クラスハンターは住民の誘導へ!!」
「上位、G級の資格を持つハンターは直ぐに集会酒場へ迎うんだ!!」
逃げ惑う街の人々に、その人々を誘導する衛兵、装備を整えて走る狩人たち。ドンドルマの街は騒然としていた。
「ぬし、何が起こっている?」
振り向くとモミジも目を覚ましてベットから起き上がり、外の喧騒に驚いている。
「古龍襲来警報だ」
「襲来警報…古龍がここへ?」
「あぁ。朝っぱらから悪いが支度してくれないか?集会酒場へ行く」
「うむ」
それから直ぐに支度を終えた二人は、駆け足で集会酒場へ向かった。
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酒場に駆け込み、カウンターで各職員に指示を飛ばしているシズクを見つけ声をかける。
「シズク!!」
「あ!ヤマト君!!良かった来てくれて…」
「古龍か?」
「うん、さっき観測所から緊急連絡が入ったわ。到着予想時刻はあと2時間ってとこ」
「種類は?」
「老山龍よ」
「ラオシャンロン…そんな近くに来るまで気づかなかったのか?」
「わたしも思ったけど、考えてる暇無さそう」
「まぁそうだな」
「ヤマト君、我々ハンターズギルド本部は、接近中のラオシャンロンに対し防衛戦を展開する事に決定したわ。戦闘に加わってくれる?」
「もちろんだ、参加しよう」
「ありがとう。ヤマト君は…そうね、遊撃班に入ってもらうわ」
「任務内容は?」
「少数精鋭で最前線部隊の人たちをフォローしたり状況によってバリスタや撃龍槍の操作もしてもらう」
「わかった、じゃあ30分後ぐらいに集まればいいな?」
「えぇ、お願い。場所はここで。」
ヤマトは頷くと、アイテムなどの準備をするために一旦自分達の部屋に戻ることにした。
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「モミジ、今回の戦闘にお前は参加するな」
部屋に戻るなり、ヤマトはそう言った。
「…何故じゃ?」
「今回の作戦は約100人体制で行うんだ。確かにお前も加わってくれると心強いが…」
「わっちの戦闘形態は半分獄狼竜の姿だから…じゃな」
「察しが早くて助かる」
「じゃが…何もしないというのはどうも落ち着かんの…」
「って言ってもな………あ、そうだ、モミジ」
「?」
「お前、アイツと交渉って出来るか?」
「老山龍と?」
「あぁ。交渉して、物分りの良い奴で自分からルートを変えてくれれば俺らも老山龍も傷付くことなく済むからな」
「…まぁ…元から気性の荒い輩では無いからの……わかった、やるだけやってみよう」
「ありがとう、助かるぜ」
「ぬしも頑張るのじゃぞ」
「おうよ」
ヤマトが支度を終えると、モミジも外套のフードを深く被り、酒場へ向かった。
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「…以上が今回の作戦内容になります。」
襲来予想時間まで残り一時間半。集会酒場はハンターズギルドの作戦本部に成り代わり、シズクが正面の大きなボードにマップを張り出して大まかな作戦内容をハンター達に告げる。
「作戦…と言うよりかは…ただの総当たり戦じゃな…」
「まぁいきなりだったからな…準備も何も無いんだろうよ」
今回の作戦は、まずはガンナー班がラオシャンロンを地点Aと称する場所まで誘導、そこに設置してある大量の大タル爆弾Gを到達と同時に起爆、ダメージを与える。
それを合図に最前線班及び遊撃班が戦闘を開始する。そして最終防衛エリアに到達してしまったら、遊撃班が砦に入りバリスタ、大砲、撃龍槍で応戦…
というものだった。
「充分な準備が出来てなくてごめんなさい。各員の奮闘を期待します。それでは、解散」
シズクはそう告げると、カウンターの奥へ入って行く。
「…よし。モミジ、俺も行く。」
「うむ、気を付けてな」
「あぁ、交渉頼んだぜ」
ヤマトはモミジにそう言うと街の外へと駆け出していった。その背中を見送りながらモミジは一人呟く。
「…老山龍…おぬしは人の住むところを自ら襲うような阿呆では無かろう…?何故…」
以前から老山龍とは面識があった。彼は理由もなく人里を襲うような龍では無いはずなのだが…。
考えていても仕方が無いと一息吐くと、モミジは外套のフードを深く被り直してヤマトとは違う方向に駆け出した。
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「雨…か」
モミジと別れてから一時間と少しが経った頃。
ヤマトは指定された場所で待機しながら空を見上げる。先程からポツポツと降り始めた雨が、今はかなり強めになっていた。
「老山龍、地点A到達!!!!繰り返す!!老山龍、地点A到達!!!!」
待機していた遊撃班にその声が響く。ガンナー班の誘導が成功したようだ。そしてその直後━━━━
━ドォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!
大量の大タル爆弾Gが爆発する音が響き渡る。
空気が揺れ、かなりの距離がある筈なのにも関わらず爆発による衝撃が熱風となってここまで届いた。
「前線班、突撃ィィィ!!!!」
「「うおおぉぉぉぉお!!!」」
前線班隊長の掛け声とともに大勢のハンターが一斉に走り出す。
今回の編成は主力となる前線班55名、誘導及び牽制を行うガンナー班25名、いざとなった時の切り札となるG級ハンターのみで構成された遊撃班20名で成っている。
「いやぁ…前線班は元気がいいね…」
「俺らは取り敢えず待機だってよ」
「ちっ、つまんねぇなぁ」
ヤマトの属する精鋭部隊、遊撃班の会話である。
全員がハンターランク300以上のG級で、一人一人がそれぞれ古龍の狩猟経験がある者達だ。
「とりあえず、命令待とうぜ」
「おぉ、さすが冷静だなシノノメ」
ヤマトの呼び掛けに反応して声をかけてきたのは、何度か一緒に狩りに出たことのある顔馴染み。
ランク400越えのハンマー使い。
名をシシオウ ライキ。
赤髪短髪、真っ黒な瞳、身長はヤマトよりも少し高く、体格もそれなりに良い。まさに兄貴肌というやつだ。
「ライキ…シノノメ呼びはよしてくれよ、まだ姉貴に代わって名乗れるほどじゃねぇ」
「ユズカさんか。懐かしいなぁ、もう一度だけ会いたかったぜ」
「え、お前姉貴と会ったことあんのか?」
「おうよ、一緒に狩りに行ったこともあるぜ。まぁ…俺が手ェ出す前に終わっちまったがな」
「姉貴はケタ違いだったからな…ったく…可愛そうだから普通のモンスターには抜刀術使うなって言ってたんだがなぁ」
「いや、そん時の相手はテオ・テスカトルだ」
「あ、そう…」
…勝ち目ねぇな
そんなことを考えていると前線班から伝令が掛けてきて、応援要請がかかる。
「遊撃班!!前線班が押され気味だ、準備を頼む!!!!」
「お、やっとお声が掛かったか。シノノメ、行くぞ」
「お前呼び方…まぁいいや」
ヤマトはそう言うと駆け出す。
そういえば、ラオシャンロンがここまで来てるってことは…モミジ…交渉はダメだったのか…?なら何故戻ってこない…?
頼むから無事でいてくれよ…
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「老山龍よ!!この先には人間の住む街があるっ!!歩みを止めよ!」
まだガンナー班が誘導を始める前。モミジはラオシャンロンの元へ辿り着き、交渉を始めていた。
「貴女は……黒狼姫か。久しいな」
「っ…!!わっちをその名で呼ぶな!!!それより言ったであろう!!この先は人間の住処じゃ、止まらねばぬしは攻撃を受けてしまう!!!」
「…いくら姫の頼みでもそれは聞けぬ」
「何故じゃ、ぬしは争いが嫌いだったはずじゃろう!?」
「あぁ…儂は争いは嫌いだ…未だにな」
「ならば何故…!!」
「この身体は…もう儂のものでは無いからの…」
そう言うと老山龍は口を開ける。
その途端、口からドス黒いオーラのようなものが溢れる。
モミジはそれに覚えがあった。ある漆黒の竜が持つ、
『狂竜ウイルス』と呼ばれるものだ。
「まさか…それは…!?」
「漆黒の竜によって儂の身体はこれに侵食されてしもうた…もう…儂の意思では自分の体を動かすことは出来ないのだ」
「そんな!!…このままでは…ぬしの意志に反して人間を襲うというのか!?」
「その通りだ…」
「そんなの…許すわけがないじゃろう!街には沢山の人間がおる、彼奴らを危険に晒すなど…!!」
「そんな事はわかっている!!…だがどうしようも出来ないのだ。そのうちこの意識さえ侵食され、儂は儂でいられなくなるだろう…黒狼姫、君を巻き込みたくはない…引け」
その言葉を聞いた途端、パシンッ…とモミジの白銀の髪から赤黒い稲妻が弾ける。
「引け…じゃと…?あの街にはわっちの相棒も居るのじゃ…そんなことが出来るわけない……。よかろう、ぬしが自分で止めることが出来ないというのなら…わっちが止める!!!」
そう言うと被っていた外套を放り投げ、同時にモミジの身体が赤い光に包まれて戦闘形態へと変化する。
悠長に脱いでいる暇など無かったので着ていた服は変身の衝撃で破けてしまう。
後でヤマトに謝らなければ。
「儂と一戦交えようと…?いくら君だろうと儂には勝てぬぞ…!!」
「そんなもの…やってみなければわからぬ!!」
…相手は自分よりも遥かに長く生き、腕の一振で山をも崩す力を持つ古龍。正直、勝てる気がしないが…やるしか無い。
目にも留まらぬ速さでモミジは懐に潜り込む。
「はあぁぁっ!!!」
龍光エネルギーを足に集中させ、加速。音速に等しい速さで老山龍の右前脚に強力な蹴りを入れると、少しだがその巨体が揺れる。
「よせと…言っておるだろう…!!」
モミジに向かって老山龍の左前足が唸りを上げて襲う。
蹴りの直後で体制が崩れており避けられない。
ならば、受け止めるまで!!
足を地面に固定、両手で防御体制をとる。
ズンッッッ!!!!
「ぐぅ…!?」
身体がバラバラになるのではないかと思うほどの衝撃。なんとか吹き飛ばずに済んだが、両腕が痺れて動かなくなる。
「耐えた…か。やはり…貴女は強い…だが無茶を…するな…!!儂も…そろそろ…正気が保てなくなっテシ…まう」
そう言っている端からラオシャンロンは片言になり始めていた。
「っ…嫌じゃ、嫌じゃ!!!!しっかりしろ!!友人であるぬしを失うなど嫌じゃ!!」
「姫…すマぬ………!!」
ラオシャンロンの目が赤黒く不気味に光った。
━グルルオオォォォォォォォォォォォ!!!!
耳を
モミジに今までとは違う、明らかな殺意を持った視線が向けられる。
「そんな…!!」
物凄い速さで振られる老山龍の右手が、呆然と立ち尽くすモミジに迫る。
今度ばかりは構えも取れず、彼女は『く』の字になって吹き飛び、崖に激突する。
「かはっ!?!?」
血を吐きそのまま地面に倒れるモミジ。侵食されたラオシャンロンはそれを尻目に歩き出す。
「……待…て!!…まだ、終わっておらんぞ!」
震える腕で上体を起こし、フラフラと立ち上がる。気づけば、雨が降り出していた。
刹那━━
赤黒い光が再びモミジを包み込む。
その光に目を閉じたラオシャンロンが再び目を開けると、そこには獄狼竜の姿へと変貌した彼女がいた。
━━ゥオオオオオオオォォォォォォォォン!!!!!!
響き渡る獄狼の咆哮。
『わっちを…舐めるなぁァァァ!!!!』
モミジの背中が赤黒い稲光に包まれる。
再びそこに迫るラオシャンロンの右手。しかしそれを龍光エネルギーによる雷撃で押し返し、勢いのまま右眼を潰す。
━━グルルルアアアァァアァ!?!?
ラオシャンロンは大きく怯んだが、退くことは無く間髪入れずに尻尾での攻撃。これをジャンプして回避したが、空中で身動きの取れないモミジにラオシャンロンが噛み付く。この巨体でなんという速さか。
『あっぐぅっ!!!』
そのまま地面に叩きつけられ、立ち上がろうとするもラオシャンロンはその剛腕を何度もモミジに叩きつける。
衝撃で地面が抉れ、彼女の甲殻が破壊され弾け飛ぶ。
『━━━━ぁっ!!』
声にならない悲鳴が漏れ、意識が飛びそうになるのをなんとかこらえる。しかし、モミジもやられてばかりではなかった。何度も叩きつけられながらも、着々と自身の周りに蝕竜蟲を集める。
『せめて一撃…!!!』
周囲にいた蝕竜蟲がモミジの元に収束。
カッ と、閃光が走る。
━ドガアアアアァァァァァァァァァァン!!!!
大量の龍光エネルギーを暴走させ、大爆発を引き起こした。
その衝撃により、モミジをさらに叩きつけようとしていたラオシャンロンの右手の爪や指が吹き飛ぶ。
━グギャァァァアァアアァアァ!?!?!?!?
怯んだラオシャンロンは攻撃の手を止めたが、今まで受けたダメージに加え自身の全力の攻撃までもろに受けたモミジは、今度こそ体力の限界だった。
━━力が…入ら…ぬ…
ズン、と倒れたモミジは人の姿に戻り、そこで意識を手放した。
✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿
「あの老山龍…右眼が潰されているな…それに右の手も負傷している…あそこまでの傷を…いったい誰が」
ふと、横にいたライキがそう言った。
「え?」
言われた通りに右眼と右手を見ると、確かに眼は潰されている。それも、刃などではなく…まるで雷に撃たれたかのように焦げていた。右手に関しては、爪が無い指や指自体がふきとんでいる指もあり…
「っ!!モミジ…!!」
ヤマトはそう言うなり戦線から離脱する。
「おいシノノメ!?何やってんだ!!」
「すまん!!すぐ戻る!!!」
「はぁ!?」
混乱するライキとその他諸々を置いてヤマトは横道へ入る。ラオシャンロンを迂回し、奴がやって来た方向へと全力で駆ける。
大タル爆弾Gが大量爆発したであろう場所、ガンナー班が会敵したであろう地点を通り過ぎ、さらに走る。
数分後、老山龍が歩いてきた道の先になにか見えた。
「あれは…!」
一糸まとわぬ姿をした白銀髪の少女が倒れている…もはや間違えようがなかった。
「モミジ!!!!!」
倒れている彼女の元へ駆け寄り抱き起こす。
顔も体も泥だらけになり、身体の至る所にはアザや切り傷。出血もしていた。
「ヤマト……か」
「どうした!?何があった!?」
「すま…ぬ…彼奴と…戦うはめになった…それに…止められなかった…」
「っ…!!無茶しやがって…!!」
ヤマトはポーチから回復薬グレートと秘薬を取り出してゆっくりとモミジに飲ませ、雨で身体が冷えないように近くに落ちていた彼女の外套を被せる。
「ぬし、服、破いてしまった…すまぬ…」
「そんなのまた買えばいい。それよりお前の回復だ」
「ありがとう…」
そうして暫く様子見をしていると苦しそうだったモミジの表情は穏やかになり、だいぶ落ち着いてきた。
「具合どうだ?」
「もう、大丈夫じゃろう…骨や内蔵まではやられんように…立ち回っていたからの」
「流石だな」
「じゃが、やはり…古龍を一人で相手にするのは…厳しかった…」
「当たり前だ、ったく……それで?どうだったんだ?」
「…!!そうじゃ、実は━━━」
ヤマトはモミジからラオシャンロンが恐らく狂竜ウイルスに感染し、その影響で自我が保てなくなっているとを聞いた。
「マジかよ…なんてこった…狂竜ウイルスか…古龍でも感染しちまうんだな…」
「やはりぬしも知っておったか」
「あぁ、黒触竜ゴア・マガラによって撒き散らされているウイルスだろ。話ぐらいは聞いたことがある」
「その通りじゃ。ああなってしまったからには、もはや殺すしか無い」
「だけど…あいつはお前の友達なんじゃ…」
「もう、どうしようもない。気にするな」
「…そうか………わかった。」
「うむ。…それより、ぬしよ」
「ん?」
「砦に戻らんくて良いのかや?」
「やべっ、仲間に任せて来たんだった…」
「はぁ…何をしとるんじゃ…早う行かねば」
モミジにそう急かされて、走って砦へ帰ろうとするヤマトを彼女が引き止める。
「どうした?」
「ぬしが走るよりわっちが走った方が速いからの」
そう言ってヤマトに外套を投げ渡し、モミジが赤黒い光に包まれ、獄狼竜の姿になる。
「おぉ…何気に出会った時以来だな…お前のその姿」
『さっきまではこの姿で戦っとったんじゃがな…まぁ乗れ、近くまで運んでやろう』
「でも怪我してるだろ」
『そんなものは気にせんで良い』
「…わかった、頼む」
そう言ってヤマトはモミジの背に跨る。
『ぬしが毛を掴んだところで痛くもないからの、落ちぬようしっかり捕まっておれ!!』
わかった とヤマトが言う前に、モミジは全速力で走り始めた。
「ぐ…おぉ…!!」
速い…!!これがモミジの、真の力!!!
今までに体感したことの無い速度にさすがのヤマトも身体が強ばる。
『大層なものではありんせん。この姿をもってしても、彼奴には勝てなかったのだからな…』
「…気にしてるのか?」
『…わっちにだって、プライドの一つや二つ…ある』
「死ななかっただけ良かったと思えよ」
『まぁの…さて、そろそろ着く。ぬしはここで降りてくりゃれ』
「おう、ありがとな」
モミジが止まり、ヤマトがその身から降りると共に彼女が人の姿に変わる。
ヤマトは預かっていた外套を渡し、彼女はそれを羽織ると前方に見える老山龍の背中を睨んだ。
「急いで行かねば!!彼奴はおそらくぬしぐらいの力がなければ止めることは出来ぬ!!」
「あぁ!!」
二人は、揃って砦に向かい走り出した。
✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿
「攻撃、来るぞぉぉぉぉぉおお!!」
「ダメだ!避けられない…!!ぐああぁぁっ!」
「二人やられた!!引けっ!引けぇぇ!!」
上位ハンター、及びランク100代のG級ハンターで構成された前線班は、壊滅状態と言っていいことになっていた。
それをフォローする遊撃班も、流石に疲れが出ていた。
「こいつ…!異常に強くねぇか!?」
「ライキさん!一旦引きましょう!!切れ味がもたない!!」
「んな事分かってる!!!」
くそっ!!シノノメのやつ…何やってんだ!?
このままじゃ流石に…!!!
━━━━━━━東雲流
撃龍連斬
今まさに前線班のハンター達を押しつぶそうとしていたラオシャンロンの右手に、二本の閃光が奔る。
一瞬間を置いて、右手から大量の出血。
━━ガアアアアァァァァァァァッッ!?!?
老山龍が悲鳴をあげる。
ライキはそれがヤマトの攻撃によるものだと気付くのは、自分の横に納刀したヤマトが現れてからだった。
「待たせたな。無事かライキ」
「…遅ぇよ馬鹿野郎。ご覧の通り、なんとか生きてる」
「死者は、出てるか?」
「いや、今のところは大丈夫そうだ。死にかけは何人かいるがな…にしてもアイツ、ちとタフ過ぎやしねぇか」
「まぁ強いだろうな…モミジがやられたくらいだし」
「は?」
「いや、何でもねぇ。とりあえずあとは任せろ」
そう言うとヤマトはラオシャンロンに向かって走り出す。
「あ、おい!シノノメ!!」
「大丈夫!!何とかしてやっから!!!」
「何とかって…どうすんだよ!?」
「さてと、やるか…!! モミジ!!」
そう叫ぶと、ラオシャンロンに向かって一直線に走るヤマトの前にモミジが現れる。
「来いヤマト!!」
他のハンターからバレないようにモミジが一瞬だけ戦闘形態をとり、まるで排球バレーで球を受け止める時のように手を組む。
そしてヤマトがそれを踏み台にして一気に跳躍、ラオシャンロンの眼前まで飛び上がる。
「うちの相棒が…世話になった」
何とも言えぬ表情のヤマトがそう呟き、そのままラオシャンロンの鼻先を使いさらに跳躍、宙返り。空中で抜刀の構えをとった。
「全力全開…!!!
東雲流滅龍抜刀術…!!
『飛天流星剣』!!!!!!」
『飛天流星剣』
高所などからの落下を利用して対象を『叩き斬る』剣技。あまりに高威力のため、地形ごと破壊することもある東雲流滅龍抜刀術の上級技。
そしてヤマトの放った剣技がラオシャンロンの脳天を捉え━━━━
瞬間。
まるで何かに弾かれたかのような物凄い勢いでラオシャンロンの頭が地面に激突した。
━ガアァァアアアアァァァアァァ!?!?
脳天の甲殻が砕け散り、ドクドクと大量に出血するラオシャンロン。普通の竜ならば一撃で絶命するような威力だったが、それでも再びゆっくりと立ち上がり目の前の敵を攻撃しようとしている。しかし━━━
「…悪ぃな…」
ヤマトがそう呟き、老山龍の胸に天上天下無双刀を深々と突き刺す。
そして…声が聞こえた。
『あり…と…う…人…間………姫…を…頼…』
ズズン…と老山龍が倒れる。
「あぁ………任せろ」
ヤマトはそう言うと、円を描くように太刀についた血を振り払い、納刀。同時に周りから歓声が上がる。
街が救われたのだ。当たり前だろう。
ハンター達は雄叫びを上げながら街へと走って行く。
しかし━━
「ぁ…あああぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁ!!!!」
その歓声に紛れ、他の誰も気付くことは無かったが…
モミジが、亡きラオシャンロンの頭を抱え泣いていた。
「モミジ……」
「ぬし…わっちは…わっちは…」
ヤマトは嘆くモミジに声が掛けられず、ただ彼女の横へしゃがみこむ。
するとモミジは、震える声で呟くように言葉を続けた。
「…わっちは…こやつが好きじゃった…わっちと同じく争いが嫌いだと言うこやつが…なのに…何で…こんな別れ方…嫌じゃ…これ以上…仲間を喪うのは…嫌じゃ…」
絞り出すように吐き出された言葉にヤマトは固く目を閉じ、そして彼女の肩を抱いた。
「…なら…俺が、俺が守ってやる。これ以上、お前が悲しまないように…お前の大切な者達は、俺が守る」
ヤマトの言葉に、モミジの瞳が見開く。
「やまと…」
「あ〜あ〜、顔ベタベタじゃないか…ほら、これで拭け」
ヤマトはモミジに手拭いを渡し立ち上がると、腰から剥ぎ取りナイフを取り出す。
「ぬし…?」
「少し待ってろ」
そう言って老山龍の頭の前に座り、手を合わせる。
「あんたの命…無駄にはしない。どうか彼女を…守ってくれ…」
言い終えたヤマトは、老山龍の甲殻にナイフを突き立てた。