━━老山龍迎撃作戦から2日。
「これを、わっちに…?」
「あぁ、持っとけ。護身用だ…まぁお前には必要無いかもしんねぇけど」
ヤマトがそう言ってモミジに渡したのは、刃渡り40cm程の小刀。素材には先日の戦いでラオシャンロンから剥ぎ取った甲殻などがふんだんに使われている。
あの戦いの後━━ヤマトがラオシャンロンの素材を持ってすぐに鍛冶屋へ向かい、特注で作ってもらったのだ。
「これであいつも、お前と共に生きていける…と思う」
「……ありがとう」
哀しく笑いながら、モミジは手渡された小刀をしっかりと抱え見つめる。
彼女にとってラオシャンロンの死は、とても深い傷となって心に刻まれた。ヤマトがそれを全て癒すことは出来ない。だからせめて、何か形にして老山龍の形見を残したかったのだ。
しばらく見つめていたモミジの瞳からひとつ、ふたつ、と静かに涙が流れる。
「すまぬ…ぬしの前ではどうも…感情が抑えられぬ…」
「俺でよけりゃ、いつでも頼れ。」
「うむ…ありがと」
涙で濡れながらも、モミジはヤマトに笑いかけた。
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そしてラオシャンロン迎撃作戦から更に一ヶ月近く時は流れ、ヤマト達はドンドルマ付近の狩場で情報収集と資金稼ぎを兼ねて依頼をこなしながら過ごしていた。
「モガの村?」
「えぇ、知ってる?」
ギルドの喫茶カウンターに座り、シズクが出してくれた珈琲に口をつけながら答えるヤマト。
「あぁ、孤島の近くにある漁村だろ?…たしか、タンジアの港と貿易関係を結んでるんだったか」
「流石、詳しいわね。そこでひとつお願いがあるのだけれど」
「なんだ?」
「最近、モガ村近海で謎の巨大地震が多発しているの。ギルドとしても調査隊を送り込みたいんだけど…今は何かと人手不足で…」
「…俺らに調査に向かって欲しいと?」
「察しが良くて助かる。何か大事な旅の途中という事は重々承知しているわ。でも、君くらいにしか頼めないの。」
少し考えてから、口を開く。
「…わかった、モミジにも話を聞いてみるよ。アイツが良ければ、引き受ける」
「ありがと、良い返事待ってるわ」
「おう」
そう言うとヤマトは立ち上がり、ゲストハウスの自室へと向かった。
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「おかえり」
「ただいま。モミジ、早速なんだが相談だ━━━」
ヤマトは部屋に帰るなり、モミジに事情を話した。
「━━━寄り道?」
「あぁ、シズクから頼まれてな。モガの村という所で頻繁に起きている地震について調査してほしい…だそうだ」
「ほう、行くのかや?」
「いや、俺はお前の判断に任せようと思う。お前の兄を探すための旅だ。お前が寄り道はしたくないと言えば、俺はそれに同意する」
「むぅ……」
モミジは少し考え込んだあと、口を開いた。
「…困っている者達がおるのじゃ。行こう」
「良いのか…?」
「焦っても兄は見つからぬ。」
「そりゃそうだが………いや、わかった、行こう」
その後、モガの村へ行くことをシズクに伝えるとすぐに手続きをとってくれた。
行き方としては、ドンドルマから竜車で五日の位置にある大陸最大の港町『タンジア』まで行き、そのあと定期船に乗り換え海を半日という事だった。
「海…!?海が見れるのかや!?!?」
「あ、あぁ。そうだが…もしかしてお前」
「うむ、見たことがない」
「そっか…ずっと山の中にいたんだもんな」
カウンターで手続きの書類を書きながらヤマトが興奮気味のモミジとそう話していると、シズクもその話に参加してくる。
「そっかぁ…モミジちゃんは海知らないのね〜。今の時期なら最高だと思うわ!景色も食べ物も!!」
「食べ物…!?」
「そうよ?モガの村には、一昔前なら王族しか口にできなかった『キングトリュフ』っていう絶品キノコとか、海産物とかいろいろあるのよ。あと甘〜いハチミツとか━━」
「シズク…そのへんでやめてくれ。俺の財布がまた寂しいことになっちまう」
「それでも奢ってくれるのがぬしじゃろ?」
「対価をもらった覚えがねぇよ」
「…ふむ。対価か…このわっちが毎晩共に寝てやっているだけでは不満かや?」
「おまえっ…その言い方はっ!!」
突然、モミジがそんな事を言った。
結構大きな声で。
その途端に酒場の喧騒がビックリするぐらい綺麗に消えた。目の前にいるシズクの顔も固まる。
いや、確かに共に寝てはいる。決して間違っていない。だがあくまで睡眠の話だ。モミジとしては、こんな美人な娘が一緒に毎日寝てやってるのだからそれが対価だ…とでも言いたいのだろう。しかし今の彼女の言い方では、他の人間には違う意味に取られてもおかしくない。
一ヶ月以上もこの街で過ごしていれば、顔見知りもたくさん出来る。それにモミジは10人中10人が振り向く別嬪だ。気づけば、『自称:モミジ親衛隊』が出来上がってるくらいである。
その彼女がそんなことを言えば勿論━━。
「ヤマトォ!!!!どうゆう事だテメェ!!!」
「モミジちゃんに手ぇ出してんのかゴルァ!!」
「詳しく話を聞きましょうかヤマトさん…!」
「そんなああああモミジちゃああああああん」
酒場のハンターがヤマトに明らかな敵意を向ける。
極めつけは、シズクの一言
「……如何わしい」
「違ぇかんな!?てめぇモミジ!!」
「む?何かおかしいことでも言ったかや〜?」
そう言いながらモミジは酒場内を走り回る。
こいつ、わかってて紛らわしい言い方しやがったな…!!
ヤマトは彼女を全力で追いかけながら叫んだ。
「わかった、わかったよ!!何でも食わせてやるから他の奴らに変な噂を広めようとするなぁ!!」
「ん〜?ならば仕方ないの〜」
ニヤリと笑うモミジに歯が立たないヤマトは、その場に崩れ落ちる。
「…もう…バカばっか…」
カウンターから静かに見守るシズクは、そう呟いたのであった。
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五日後。
ヤマトとモミジはドンドルマから砂上船で移動の後、大陸最大の港町『タンジア』へ到着した。
「これが…!!!海!!!」
モミジが目の前に広がる大海原をみて感嘆の声をあげる。
「圧巻だろ?俺も最初見た時はそうなったよ」
━━おい姉ちゃん!!これが海か!?!?
すっげぇ〜!!
━━こら、あんまりはしゃぐな恥ずかしいだろ…
まだ幼かった頃、ユズカに初めてタンジアへ連れてこられた時に、今のモミジと同じ顔をしていたなとヤマトは思い出しながら笑う。
二人で市場の出店を物色しながらしばらく歩き、ふと港の大時計に目をやるとまだ時間に余裕があるようだ。
「モミジ、船の出航までまだ時間がある。酒場で一杯どうだ?」
「む、ぬしもわかっとるの」
と笑いながらモミジは何を思ったか、ヤマトに手を差し伸べてきた。
「え?」
「なんじゃ?わっちと手を繋ぐのは嫌かや」
「え、あ、いや、そんなんじゃなくて…いいのか?」
「…ぬしなら良い」
胸を張ってそう言うモミジだが、明らかに赤面しているのをヤマトが見逃すわけが無かった。
「…んじゃ遠慮なく」
そう言ってヤマトはモミジの手を握り、指を絡ませた。
「ふぇあ!?!?」
訳の分からない声がモミジの口から発せられる。
「ぬ、ぬし、その繋ぎ方は…」
「ほう、嫌かや?」
「むぅ…」
ヤマトがモミジの口調を真似してそう返すと、モミジは頬を膨らませてヤマトを睨む。
「怒るなって。タンジアビール奢るから」
「奢るのは当たり前じゃ」
「…あ、そーですか」
やはり尻に敷かれるのがオチのようだ。
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「いらっしゃい!!!!お客さん、今カウンターしか空いてねぇんだがいいかい??」
酒場へ入ると威勢のいい挨拶とともに、ガタイの良い女性が出てきた。
「あぁ、いいよ。二人だ」
「あいよ!お二人ご来店!!!!」
「「にゃぁぁぁ!!」」
女性の掛け声に合わせて、奥の厨房で働いているアイルー達が鳴く。
そのまま案内されてカウンターの隅に座ると、タンジアビール二つとつまみを一品注文する。
暫くして出てきた名物のビールで乾杯し、くだらない会話をしながら酒場の雰囲気を眺めていたモミジが口を開いた。
「…まさに海の酒場といった感じじゃの〜」
たしかにタンジアの酒場はドンドルマの酒場と比べると、荒々しい雰囲気がより強かった。
「海の猛者が集まる酒場だ。このくらい威勢がないと━━━」
「どうゆうことですか!!!!!!」
突然酒場に響く幼い声。
思わず二人とも振り返ると、すぐ近くのテーブルでまだ幼さの残る少年が立ち上がり、同じテーブルにいた男三人に向かって叫んでいた。
少年の年は十歳と少し…だろうか。
対してその叫び声に顔色一つ変えず、むしろニヤニヤと笑いながら対峙する男三人は防具を外した簡素な服装だが、傍らに置かれた武器を見るに明らかにハンターだろう。年はヤマトよりもずっと上だ。
「だからよォ…テメェの依頼を達成してやったのに金が足りてねぇっつってんだ!!!!」
少年に対して、おそらくリーダー格なのであろう一人が怒鳴る。その男のイスには大剣『アッパーブレイズ』が立てかけられている。
アッパーブレイズは甲虫や鉱石を中心に作られる独特の形をした大剣で、展開すると刀身からさらに刃が突出する凶悪な大剣だ。
「最初に提示した金額はちゃんと払いました!!!礼金だなんて、そんなものは知りません!!!」
「あぁ?テメェこっちは命懸けで依頼を達成してやったんだぞ?ほらみろォ!!この傷!!」
そういった男がシャツを開くと、胸の右上から左下まで袈裟懸けに斬られた傷跡があった。
「こんな傷まで付けられても頑張ったんだぜ?こりゃあ、少しばかりの礼金があってもいいんじゃねぇのかチビ助」
「そ、そんなの…」
理不尽だ━━━━
その言葉は彼の口からは出なかった。優しい性格なのだろう。
「ぬし…あれは…」
モミジが横でつぶやく。
「あぁ、ただの古傷だ。その今回の依頼とやらで出来たものじゃねぇ」
「なぜ…あのようなことをする。それに礼金とは…?」
「たまにいるんだよ…ああいうタチの悪ぃハンターが。礼金ってのは、依頼主が本当にハンターに感謝した時に渡す…まぁ要はチップみたいなもんだ。払わなければいけないものじゃねぇ。あの小僧、嵌められたな」
そう言うとヤマトは静かに立ち上がる。
モミジも、まるでヤマトがそうするのを分かっていたかのように同時に立ち上がった。
「払えねぇって言うのかゴルァ!!」
「そんなふうに言われたら払う気も失せます!!」
ぎゅっと拳を握り、涙ぐみながら反抗する少年に対して男は傍らのアッパーブレイズの柄に手を伸ばす。
「生意気なガキ…痛みつける必要がありそうだなぁ…?」
そう後ろの仲間に語りかけると、ヒヒヒと笑いながら残り二人も武器(双剣とライトボウガン)に手をかける。
少年の目が恐怖に見開かれる…
そしてリーダー格の男が大剣を持ち上げ━━━
「待てよ、おっさん」
ヤマトがそれを抑えた。
「…なんだ若造。テメェは関係ねぇだろ」
「『ハンターは人に武器を向けるべからず』訓練生時代にそう習わなかったか」
「るせェなァ!!ガキは黙ってろ!」
「キャンキャン吠えるな鬱陶しい」
ヤマトがそう言い放つと、男の表情が変わる。怒りに満ちた表情でヤマトを睨む
「兄ちゃんよォ…俺ぁランク105のG級ハンターだ。テメェは見たところろくな装備もしてねぇなぁ?あぁ?痛い目みる前に消えろ」
男はそう言うと今度こそアッパーブレイズを構え、ヤマトに向ける。確かに、ヤマトが装備している防具はユクモノシリーズ。パッと見は初心者用装備だ。だが防具を見ただけで相手の力量を軽視するのは…
「ド三流かよ」
男がヤマトに武器を向けたのを見て、周りの一般客から悲鳴が上がり、様子を見ていた他の席のハンター数人がいつでも抑えられるように構える。
「…ここでやる気か?店の迷惑だ。」
「んなもん知るか」
自分以外はどうなってもいいってか。
ヤマトは溜息をつきながら、戸惑いながら成り行きを見ている少年の背中を押し、モミジに預ける。
「この子頼む」
「……やり過ぎんようにの」
「わぁってるよ」
え?え?と焦る少年に「大丈夫じゃ」とモミジが声を掛け、その場から離れるのを確認してから、男に向き合う。
「…なぁ、ホントにやめとかないか?後悔しかしねぇぞ?」
「それ以上喋ったら叩き斬るぞクソガキ」
…こりゃダメだ。
諦めたヤマトは腰に据えた太刀を引き抜━━かずに床に静かに置いた。
「…なんの真似だ」
「俺まで武器抜いたらお前と立場が一緒だからな。同類は御免だ」
「っ!?……………んな」
「ん?」
「ふざけんな若造がぁぁぁぁぁ!!」
怒りが頂点に達したのか、奇声を上げながら男は大上段でヤマトに斬りかかってきた。
咄嗟に避けようと足に力を入れるヤマトだが、そこであることに気づく。
このまま避けたら…店の床が割れる。
…それはまずい。
その場にとどまり、ギリギリまで引きつける。そして大剣の刀身が今まさにヤマトの頭を叩き斬る…寸前。
━━━━━━!!!
「なぁっ!?!?!?!?」
真剣、白刃取り。
男が驚愕の表情で固まる。
当たり前だ。本来、大剣は対飛竜用として作られた大型の剣。人の力で簡単に受け止められるような代物ではない。
だが、ヤマトに関しては別だった。
「っぶねぇなぁ。当たったら死んじまうだろが」
と言いながら大剣を持った手をクイッと捻る。
唖然としていた男はバランスが取れずにその場に倒れ込んだ。そして間髪入れずみぞおちにかかと落としが炸裂。男は泡を吹いて撃沈した。
「まったく…酒ぐらい楽しく飲もうぜ。あんたらもそう思わないか?」
周りから拍手が巻き起こり、それを少し嫌がるかのようにヤマトが残り二人の男に聞くと、彼らは顔を青ざめながら倒れた仲間を引きずって酒場から出ていく。
だが店を出たところには、騒ぎを聞き駆けつけたギルドバードが二名。見事に捕獲されていた。
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「ありがとうございました!!!」
そう言ってヤマトとモミジに向かってぺこりと頭を下げたのは、先程の少年。
名は ヤクモ レン。
ランク1のハンターであり、使用武器は片手剣『ヴァイパーバイト』防具は『ハンターシリーズ』
年は13歳。幼い頃両親が事故で亡くなり、彼が『恩師』と呼ぶ者に育てられたそうだ。
タンジアの港に来ていた理由は、現在拠点としていた近くの村の付近に火竜リオレウスが現れ、自分ではどうしようもない上に村にはその時ハンターが居なかった。そのため、腕利きの集まるタンジアのハンターズギルドに依頼をしに来た━━━との事だった。
「気にすんな」
「嫌な輩と関わってしまったの…もう大丈夫じゃ」
「本当に助かりました…なにかお礼を…!!」
「気にするでないと言ったじゃろ?それより、早く村へ帰った方がいいのではないか?」
「あ、いえ、村へは既に手紙を出してあります。ここから竜車で半日ほどの距離なので、村の人々はもう知ってるかと」
「そっか…んじゃまぁ、もうあんな連中には絡まれないようにしろよ」
「━━━あ、あの!!」
船の時間も迫ってきていたので、そのまま別れようとしたヤマト達を、レンが引き止めた。
「ん?」
「そ、その…お二人は…これから何処へ?」
「モガの村へ行くけど…何故だ?」
モガの村という単語が出た瞬間、レンの目が少しだけ見開かれた。
「あの、無理は言いません。本当によければなんですが…」
そこまで言って、言い淀む。
二人は目配せし、レンの言葉を待った。
「よければ…僕を同行させてはくれませんか」
「…理由を聞いても?」
「その…僕を育ててくれた恩師が、その近くの出身でして…その、一人で行くのは心細いので…」
少し考えてから、ヤマトが口を開く。
「…わかった。俺はいいぞ」
そう言いながらヤマトはモミジの方を見る。
「わっちも全然構わぬぞ」
ふふっと穏やかな表情でモミジも肯定した。
二人の承諾を得た途端、レンは目を輝かせて何度も頭を下げた。
「ありがとうございます!!!!」
「そんなペコペコしなくて良いって……っと。そろそろ乗船時間だ。行こう」
「はい!!」
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モガの村━━━━
孤島と呼ばれる狩場の麓に浮かぶ人工島に築かれた漁村である。
そこに住む住人達は『海の民』と呼ばれ、指の間にヒレがついていたりなど、ヤマトのような通常の人間種とは少し異なる身体の作りをしているのが特徴だ。
その村の船着場に、たった今到着した船が一隻。
「着いたゼヨ、荷物忘れぬようにな」
「ありがと船長、助かったぜ」
「ありがとうございました!!」
背に太刀『斬破刀』を背負った男━━この船の船長に礼を言い、ヤマト・モミジ・レンの三人は桟橋に飛び移る。
「っんん〜!!着いた〜!ここがモガの村かやぁ」
モミジが大きく伸びをし、感嘆の声を上げる。
「俺も来るのは初めてだ、意外とデカい村なんだな」
周りを見回しながら桟橋を渡り、村の中へと入って行くと、中央は広場のようになっており、その周りを様々な店が取り囲んでいる。
その中央の少し大きめな建物の前に座る、初老の男性。
「あんたが村長だな、ハンターズギルドより依頼を受けて地震調査に来た。俺はヤマト、こいつ等は連れのモミジとレンだ」
そう話しかけると村長は顔を上げ、俺らをまじまじと見る。
「ほぅ……。てっきりギルドバードの連中が来ると思ったが…まさかハンターが直々に来るとはな…」
ギルドバードとは、タンジアで悪漢三名を拘束していたハンターズギルド直属の精鋭部隊のことで、新たなモンスターの生態や環境調査、そして人を傷つける等の悪事を働いたハンターの処理など、一般のハンターとは異なる仕事を担当する特別職であり、元は凄腕ハンターだったものが所属することが多い。
「悪ぃな、連中は暇じゃないらしい。俺らみたいのじゃ不満だったか?」
思わずそう聞いてみると、村長は笑い出した。
「ガハハハハ!!!よく言うわい…お前、中々の腕を持っとるな…その装備も見せかけだろう?」
「へぇ……あんた、もしかして元ハンターか」
ハンターの実力など、一目見ただけでは分からない。しかし、歴戦の狩人ならば話は別だった。
「良い勘してるじゃないか若いの。まぁ、昔の話だ。もう腕は訛ってるよ」
「そう言う奴が一番怖ぇよ………で?」
「む?」
「詳しく聞こうか」
それだけで地震について聞いてきたと分かったのだろう。それまで笑っていた村長の顔が真剣な顔になる。
「…ここ最近、この近辺で今までにないクラスの地震が週に一度程のペースで起きている。原因はわからないが…恐らく」
「…恐らく…?」
「古龍によるものだと儂は思っておる」
「っ…」
古龍、という言葉が出た瞬間、後ろでモミジが息を飲んだ。
「…何故そう思う?」
「地震が起き始めたあたりから、近海で海竜ラギアクルスが頻繁に目撃されている。それも…酷く怯えている状態でな」
「ラギアクルスだと…?海の食物連鎖の頂点に君臨する竜がなぜ怯える…?」
「単純なことだろう。奴を超える存在が現れた」
「そんな奴が…?」
「………大海龍」
そう、モミジが呟いた。
「ほぉ〜、お嬢ちゃんよく知ってんな」
「待て、大海龍ってあのナバルデウスだろ!?」
ヤマトは思わず声を上げた。
大海龍ナバルデウス━━
古龍種に属し、かつてこの大海原を支配していた巨大な龍だ。
「だけど奴は…」
「数百年前、別の古龍との戦いで敗れて、永い眠りについた…ですよね?」
「お、レンよく知ってんな」
「そうゆう歴史を勉強するのが好きなんです」
少し照れながらそういうレンの頭を、モミジが撫でる。
「勉強熱心なのはいい事じゃ。偉いの〜」
「も、モミジさん!!やめてください〜!?」
ヤマトはその様子を見て苦笑いしながら村長に向き直る。
「すまねぇ、話が逸れたな。」
「構わんよ、見ていて微笑ましい」
「で、仮にそのナバルデウスが眠りから覚めたとして…どうすればいい?」
「遥か昔、傷を負いながらも尚暴れ続けた大海龍にトドメを指したのは我々海の民だ」
「へぇ…どうやったんだ?」
「この近海にある海底洞窟を抜けた先に、古代文明が残した海底遺跡がある。そこに迎撃設備を設け、撃退した。」
「そりゃまた…すげぇな…」
「恐らく本当にやつが目覚めていたとしたら、あの場所にいるはずだ。ならば昔のようにそこで撃退するしかない…危険を承知で、頼めるか」
村長の真剣な眼差しに、ヤマトは頷く。
「…わかった。明日、孤島に様子を見に行くよ」
「すまんな、ありがとう。ゲストハウスはすぐそこの…あの建物だ」
「ありがとう、世話になる」
そう村長に礼を言い、三人はゲストハウスに向かった。
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翌日、孤島のベースキャンプにて━━
「「おぉ…すごい(の)」」
モミジとレンが感嘆の声を上げる。
「俺もこの景色はすげぇと思う。なんたって一番生態系が豊かな狩場って言われるぐらいだからなぁ」
孤島のベースキャンプは、海に面した崖の上に設立されており、そこから島の全体像と蒼い海の両方が望める。
そこから細道を少し登り、小さな穴を潜った先が…孤島 エリア1。
「さてと…まずは海の様子を見に行かねぇとな」
「エリアでいうと…10,11辺りですかね?」
「そうだが…。レン、お前泳ぎの経験は?」
「あります!!…そこまで上手くないですけど」
「なら問題ねぇな。…で。モミジ」
ヤマトの後ろで静かにしていた彼女に声をかけると、あからさまに動揺している。
「な…なんじゃ」
「泳ぎのご経験はございますか」
「………」
「だよなぁ」
「なっ、なんじゃその言い方は!!経験がなくとも問題ありんせん!!!」
━━強がってるなこいつ。
ヤマトは心の中でニヤリと笑った
「お、そうか、なら全然大丈夫だな!!よし、じゃあ浜辺に向かうぞ」
「なぁっ…!」
「ん?どうしたモミジ。泳ぎは大丈夫なんだろ?」
「ぐぅ……」
頬を赤らめて少し涙ぐみながらの上目遣い。
…ずるいなこの表情は
「…ったく、泳げないんなら素直に言えよな。俺が教えてやるから、安心しろ」
「むぅ……」
それでも不服そうなモミジの頭をわしゃわしゃと撫ぜてから、一行は海に向かった。