Persona x Classroom of the Elite   作:仔羊肉

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IntermissionⅢ

 

 

【The Chariot RankⅠ】

 

 特別棟での審議会を終えた翌日、土曜日。

 

 ケヤキモールのカラオケ店にて、Dクラス主催のささやかな祝勝会が執り行われていた。

 

 クラス全員が入ってもなお余裕がある巨大なパーティールームには、カラオケ機器だけでなくダーツやビリヤード台まで完備されており、生徒たちは思い思いに土曜の休日を楽しんでいる。

 

 そんな賑やかな喧噪の中、オレは部屋の最奥にある端のソファ席で、静かに身体を休めていた。

 

 何故か色々な面子から引っ張り回され、これまで経験したこともないようなゲームや行動につき合わされた後に人混みから抜け出してきたのだ。

 

 オレの頭の上にちょこんと乗ったヒュロポスは、未だに「可愛いーのはあたしー!」とご機嫌な様子で謎の歌を口ずさんでいる。どうやらカラオケが気に入ったようだ。それはそれとして今後もこの調子で頭の上で歌われるとかなり困る。

 

 今回の事件の決着──須藤がCクラスの龍園たちから毟り取った六十万プライベートポイントは、クラス全員へ均等に頭割りされることとなった。一人あたりおよそ一万五千ポイント。

 

 大半の生徒は棚から牡丹餅だと楽天的に喜んでいたが、一部の真面目な生徒の中には「自分たちは大して役に立っていないのに……」と恐縮した面持ちを浮かべる者もいた。

 

 そんな一人一人を回り、真摯に頭を下げてお礼を言っていた須藤の姿は、Dクラスの面々の目にどう映っただろうか。

 

 きっと悪い印象ではないはずだ。だが、それがどういう感情として蓄積されるかは当人にしかわからない。

 

 無粋な心理学的解釈を試みるならば、ゲイン効果や期待違反理論の好例とも言える。

 

 ふと視線を遊ばせると、パーティーの熱気から逃れるように、部屋の隅の陰にひっそりと佇む影がひとつあった。

 

 ──山内春樹。

 

 山内本人は本来、楽観的で能天気な思考の持ち主だ。しかし、櫛田経由で「オレたちが裏切りに気づいている」という事実を祝勝会直前に知らせられれば、あのような縮こまった態度になるのも無理はない。

 

 現状で山内の裏切りを明確に把握しているのは、ペルソナに覚醒した堀北、櫛田、須藤といった復興部の面子。そして審議会に同席した幸村と、裏で龍園に情報を流していた軽井沢くらいだろう。もっとも、勘の鋭い人間であれば何かしら察しているかもしれないが。

 

 ──それにしても、高円寺のやつ……何をやらせても完璧だな。

 

 視線の先では、高円寺がビリヤードとダーツで独壇場を築いていた。鮮やかなキューさばきと完璧なハットトリック。

 

 果たして堀北はどうやってあの男をこの場に連れてきたのだろうか。たかだか一万五千ポイント程度の利益で動くような人間には思えないのだが。

 

「──ふぃーっ、疲れたぜ……」

 

 ひと通りクラスメイトと遊んできたらしい須藤が、荒い息を吐きながらオレの隣のソファに腰を下ろした。

 

「あんがとな、綾小路」

 

「どうした? お礼なら既に何度も聞いたが」

 

「何度でも言いたくなるっての……お前らには、ほんとでっけぇ借りができちまった」

 

 須藤は頭の後ろで手を組み、しみじみとした様子で呟く。

 

「まーったく、そーなのよ! マッカッカさんってばずっとヤンチャすぎなのよー! これからはあたしがビシっビシっ指導してあげるからね!」

 

 オレの頭上から、ヒュロポスが威張ったように胸を張って言い放つ。

 

「おぅ! 頼むわ、ヒュロ公! オレもガンガンやるからな!」

 

「その意気なのよー!」

 

 新メンバーと謎の鳥の相性は悪くないらしい。

 

「それで……何か相談でもあるんだろう?」

 

 オレはテーブルに置かれたヨーグルト味のフロートをストローで一口口にしながら尋ねた。

 

 須藤は一瞬だけ目を泳がせると、気まずそうに言った。

 

「やっぱこういう腹毛は、俺には無理だわ……」

「腹毛じゃないのよ! ハラゲーなのよ!」

「そうそう、それそれ」

 

 ……どちらも間違っている。心の中で小さく突っ込みを入れつつ、言葉を待つ。

 

「……春樹のやつ、どうするつもりなんだ?」

 

 須藤の瞳に、真剣な光が宿る。

 

 山内春樹の処遇──それについて、オレは静かに口を開いた。

 

「オレは何も。ただ、意見だけで言えば、オレは櫛田寄りではある」

 

 山内春樹をどう扱うかについて、復興部内では意見が二分していた。

 

 オレとヒュロポスの意見が真っ向から割れ、堀北と櫛田も対立していたため、新参者である須藤としては意見を出しづらかったのだろう。

 

『あれはもう無理でしょ。あたしとおんなじで、根っから腐ってる。あの性格の悪さは直らないよ。だからといって何かできるわけでもないけど、距離は取るべきだと思う』

 

 櫛田はそう冷酷に切り捨てていた。露悪的なポーズを取りながらの言葉だったが、そんな言い方をしたせいでヒュロポスから暑苦しい擁護を受け、堀北からは諭すような言葉を投げかけられ、顔を真っ赤にさせていたのは記憶に新しい。

 

「……俺が春樹をなんとかしたいって言ったら、反対するか?」

 

 須藤の問いかけに、オレは小さく首を横に振った。

 

「反対はしない。ただ、どうしてそこまでするのかという純粋な疑問はある」

 

「……確かに、クラスを裏切るのはやりすぎだと思う。正直な話、櫛田があぁいうのもわかっちまう。でもよ……友達の俺くらいがあいつの気のいいところを信じて、悪いところを口に出して言ってやらねぇと……あいつ、この学校じゃ生き残れねぇ。いつか退学になっちまう……そんな気がするんだ」

 

 野生の勘か、それとも己の頭を振り絞って辿り着いた結論か。

 

 須藤のその予測は、大きく間違っていない。

 

 山内春樹という人間の総合的なスペックは、Dクラスの中でも最下位に位置している。もし人間に点数を付け評価するのであれば、山内の劣等ぶりは抜きん出ていると言っていい。

 

 もしも今後、クラスで『誰か一人を切り捨てなければならない』という局面が訪れたなら、真っ先にその候補へ挙がるのは間違いなく山内だ。

 

「俺は、この学校に来て良かった。心の底からそう思ってる。だから──友達のあいつにも、そう思って欲しいんだ……へへっ、臭ぇこと言ってんな、俺」

 

 照れ隠しのように、須藤は短く刈り込んだ坊主頭をポリポリと掻いた。

 

「そんなことないのよー! すっごい素敵なの! んもー! 人間さんに足りないのはこういうところなのよー!」

 

 ヒュロポスが感極まったように声を張り上げ、オレの頭の上から小さな翼でペシペシとおでこを叩く。

 

「じゃ、じゃあ……ちょっと声かけてくるわ──またな、清隆!」

 

 恥ずかしそうにオレの「名前」を呼ぶと、須藤は勢いよく立ち上がり、部屋の隅にいる山内の方へと歩き去っていった。

 

 ──その結末がどうなるのか、今のオレには想像がつかない。

 

 須藤の行動が、本来であれば退学へ向かうはずだった未来を変えるきっかけになるのか。それとも、すべてが徒労に終わるのか。

 

 ふと、『もしも』の可能性を頭に浮かべる。

 

 例えば、須藤が四月の試練で勉強会を経ていなかったら。

 

 オレが異世界と遭遇せず、復興活動という潤滑油を利用せずに、Dクラスの内部で目立たぬように行動していたら。

 

 ──中間テストの時点で、須藤は退学になっていたかもしれない。

 

 万が一それを乗り越えたとしても、粗野な態度は改まらず、今回のCクラスの罠にも耐えかねて暴力を振るい、過剰防衛という末路を辿っていたかもしれない。

 

 有り得ない『もしも』を頭に浮かべ、無意味な仮定だと切り捨てる。

 

 人間の相互作用というものは『カオス理論』に近く、どんなに優秀な頭脳を持っていたとしても予測することはできない。

 

 だから山内春樹がどう変化するかなどオレにわかるはずもなく、また櫛田にもわかるはずがなかった。

 

 櫛田が「治らない」と断じたのは、自分自身への諦悪を含んだ自傷行為に過ぎない。

 

 その櫛田自身が既に大きな変化を遂げている以上、「人は変わらない」という証明は破綻している。

 

 だが──それでも。

 

 真に誰かを犠牲にしなければならない盤面が訪れた時、オレは容赦なく山内春樹を第一候補に挙げるのだろう。佐倉のストーカー事件への関与、そして今回の暴力事件での裏切りというカードを使って。

 

 遠くで、須藤が山内に声をかけているのが見えた。

 

 山内は驚き、困惑しながらも、引きつった笑みを浮かべてダーツの輪へと混ざりはじめる。

 

 そして時間が経つにつれ、その作り笑いは本物の笑顔へと変わり、いつもの調子を取り戻して大声で騒ぎ出した。

 

 ──その微笑ましい光景すらも、将来訪れるかもしれない『サクリファイス』のための有効な一手となり得る。

 

 人間には、自分が嫌っている相手の欠点ばかりが目につくという習性がある。

 

 坊主憎けりゃ袈裟まで憎いという諺があるように、一度負の感情を抱いた相手に対しては、その全てを負として捉えてしまう心理的構造が存在する。

 

 須藤のようにゲイン効果により評価を覆すこともあれば、ホーン効果や確証バイアスといった心理により貼られたラベルでより嫌われ続けることもある。

 

 果たして山内は成長するのか。そして、もしも成長したとして──それを『認め』られるのか。須藤の成長を認めた人間たちは変わりようを受け入れられるのか。

 

 これも、また意味の無い仮定であった。予測不可能な未来を推測することに何の意味もない。ましてや関心の薄い事情なのだから。 

 

 それに、オレがわざわざ手を打たずとも山内を嫌っている人間は勝手に山内を嫌い続ける。

 

 同じように見えてもたった一つの差異で結果は真逆を辿る──人間にはこれほどまでに矛盾に満ちたシステムが詰まっている。

 

 オレはこの高度育成高等学校という環境で、それを学び、観察し続けている──。

 

 

 

【The Magician RankⅠ】

 

 

 日曜日の午前。期末試験も終わり、夏休みに入って数日が経った。

 

 まだ八時を回ったばかりの時間帯、自室で静かに過ごしていれば、唐突に部屋のインターホンの音が響いた。

 

 こんな朝早くから誰が何の用だろうか。少なくとも連絡が取れる範囲内の知り合いならば事前に端末で一言くらいありそうなものだが。

 

 不審に思いつつ扉を開ければ、そこには真剣な表情を浮かべた池寛治が立っていた。

 

 そしてその少し後ろには、丸坊主になったばかりの須藤が、すっかり疲弊しきった顔で佇んでいる。

 

「綾小路ぃッ!」

 

 開口一番、池が張り上げた大声が静かな廊下に響き渡った。

 

 まだ朝の八時過ぎという時間帯。休みともあれば寝ている生徒がいてもおかしくはない。いくらヒュロポスの存在やこれまでの騒動のせいで校内では悪目立ちしているとはいえ、オレ自身は進んで目立ちたいわけではない。

 

「うっせーぞ! 誰だ、ゴラァっ! 殺すぞ!」

 

 案の定、どこかの部屋から荒々しい怒鳴り声が返ってきた。池の一言がどれほどの声量だったのかが一瞬で理解できる。

 

 池はその怒声にビビり「ひいっ……」と小さな声を漏らした。ならするなよ、と思わなくもない。

 

「馬鹿っ、声を抑えろ……!」

 

 須藤が慌てて後ろから池の口を乱暴に塞ぐと、そのまま勢いよく部屋の中へ池の身体を押し込んできた。

 

 ドアを素早く閉め、小さく重い溜息を吐き出す須藤。

 

「よ、よぉ……清隆……すまん。後、博士と春樹も待ち合わせてる……来てくれ……助けてくれ」

 

「もーぅ、朝っぱらからなんなのよー」

 

 バツの悪そうな顔を浮かべ、頭を掻きながら呟く須藤。部屋の中にいたヒュロポスがパタパタとオレの頭の上に着地した。

 

 ……もうこの時点で、死ぬほど嫌な予感しかしない。

 

 オレは最小限の荷物を持って、寮の裏手へ。朝のこの時間帯にこんな辺鄙な場所に集まっているのはオレたちくらいなものだった。

 

 山内は「よ、よぉ……」と気まずそうに挨拶をしてきて、外村は「おはようでござる」と普通に挨拶をしてきた。オレは短く「おはよう」と声をかけてこの面子を集めた池を見る。

 

 池は自分の胸の前で拳を作り、高らかに宣言した。

 

「──女の子の水着姿を見たくはないか? 俺は見たい。だから、頼む、綾小路! 女子を誘ってくれ!」

 

「…………」

 

 オレは無言のまま、隣に立つ須藤へ視線を向けた。

 

 ハァと深く息を吐き、すべてを諦めたような顔で小さく首を横に振る。

 

 オレは一切の躊躇なくポケットから学生証端末を取り出し、迅速に画面を操作した。

 

 起動させたのは、堀北と櫛田のグループチャットアプリ。そこには最近は須藤の名前が登録されている。

 

 そこから音声チャットをオンにする。

 

「直接、本人に聞いてくれ」

 

「なんで、綾小路が女の子を誘ってくれねぇんだよ!」

「そうだそうだ! オレたちが誘って、きてくれるわけねぇだろ!」

「後生でござるー、後生にござるー」

 

 理不尽な要求を大声で突きつけてくる池、何故か後ろ向きに胸を張る山内、懇願する外村。意見を無視しながらオレは黙って学生証端末を操作し、グループチャットの音声スピーカーをオンに切り替えた。

 

『なにかしら、綾小路くん』

『休みの日に連絡なんて珍しいね』

 

 端末から流れてきたのは、堀北鈴音と櫛田桔梗の透き通った声だった。

 

 池は目玉が飛び出さんばかりに目を剥き、「なっ……く、くそぅ! どうしてそんなことするんだよ!」と顔を真っ赤にして小声で問い詰めてくる。

 

 オレとしては至極合理的な判断だ。クラスの問題児が持ち込んできた面倒な案件を、適切に処理できる人間にそのままパスしただけに過ぎない。その上、本人たちの希望を叶えられるかもしれない手段を提示しただけ。

 

『ねぇ、聞こえてるの?』

『綾小路くん……?』

 

 こちらの無言を不審に思ったのか、受話音越しに二人からの催促が重なる。オレは池の肩をポンと叩き、静かに告げた。

 

「池、続きを話してくれ」

 

 池は数秒の間に劇的な百面相を繰り広げた後、意を決したように大きく息を吸い込み、端末に向かって叫んだ。

 

「堀北! 櫛田ちゃん! 俺達とプールにいかないか!」

 

 青年の情熱が込められた渾身の誘い。

 

 そして、一秒の猶予すらない間髪入れずに返ってきたのは、二つの冷酷無比な言葉だった。

 

『嫌よ』

『死ね』

 

 無機質な拒絶と同時に、プツリとボイスチャットが強制終了した無情な電子音が響く。

 

 須藤なんて手で顔を抑えて「馬鹿野郎……」と嘆いていた。だが、そのセリフが池ではなくオレの方向へ向けられている……。

 

 これで問題は無事に解決したな、と思いオレは二人の方へ向き直った。

 

 すると流麗な動作で両膝を地面につき、頭をこすりつける池。

 

「綾小路。いや綾小路大先生! 俺にどうやったらモテるか教えてくれ! ついでに今日、プールに女子を呼んでくれ! そうじゃなきゃナンパの極意を伝授してくれ! じゃなきゃ、オレたちは兼ねて計画していた女子更衣室生着替え盗撮作戦を実行するぞ!」

 

 土下座の体勢から最悪な脅し文句が池の口から飛び出してきた。名前からして碌なもんじゃない計画。本来、お呼びではないはずのオレに声がかかった理由を察する。

 

 須藤が必死に止めたのだろう。その上で止まりきれなかった池たちをなんとかしようと頼ってきたのだ。

 

 彼自身は女っ気の無さと女子に対しての免疫の無さ、女子にどう対応すればいいのかよくわかんねぇと愚痴を零していたこともある。

 

 そのことから、須藤には池たちの欲望を止める手立てが無かったのだろう。

 

 だが、残念だったな。そんなもの、オレも持っていない。堀北と櫛田に断られた以上、どうにかする術はとうに失われた。

 

 佐倉や長谷部も山内が居る以上は誘えず。みーちゃんや松下といった面々も池や山内が居ると言えば断ってくるだろう。

 

 つまりは──オレに打つ手は存在しない。

 

 そんな中で頭の上の鳥だけが──。

 

「えっ!? プール! プールいきたいの! あたしの可愛い水着で人間さんをメロメロにしてやるのよー! 今度はあたしも泳ぐのよー!」

 

 ひよこ用の水着など高度育成高等学校の敷地には存在しない。プライベートポイントでも買えないものがある。一般には開示されていない監視カメラの映像は買えても、ないものは手に入れられないのだ。

 

 ヒュロポスの水着も、オレの平和な日曜日も。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

「これより、ナンパ作戦を開始するでござる……番号ッ!」

 

 水着になったオレたち。レジャー施設内は開園時刻直後ともあって人は少ない。そんなプールサイドで池、山内、須藤、オレと並び、目の前には外村。池と山内は「ワンっ!」「ツー!」と気合全開で叫び、須藤は「スリー……」とくたびれたような表情で呟いた。

 

 その疲れた表情は見たことがない。部活の練習が終わった後も、フォーラムの探索を終わった後も人一倍体力のある須藤を僅か数週間でここまで疲労させるとは流石の池と山内である。

 

 暴力事件後に三馬鹿と呼ばれることはなくなり、男子のリーダーとも呼べる人間に成長した須藤。勿論、未だに体育会系が苦手な人間もいるだろう。

 

 しかしながら一年生にしてバスケ部のレギュラーになり、粗暴だった態度は鳴りを潜め、バスケ部をブロック大会まで導いた立役者ともなればそれだけで評判はうなぎのぼりである。その上、池や山内といった人間が暴走しそうな時は平田よりも先に仲裁に走り、場を収めるといった活躍まで見せていた。

 

 男子生徒はここにいる面子以外でも幸村、三宅といった面々と交流している。そういう意味ではとても優秀なバランサーを担っていた。

 

 そんな須藤の隣でオレは「フォー」と声出せば頭の上で「ファイブなの!」と元気よく叫ぶ鳥のロボットマスコット。

 

「では、今からオペレーション、紅き衝動を実行するでござる! この作戦にはアルゴス4をトップフォーメーションとして、スリーを補佐にワンとツーはバックアップ要員としていつでもいけるように準備しておくでござる。拙者は本部に待機して、貴殿らの作戦の成功のために備えるでござる」

 

 要はオレが声をかけて、須藤が補佐して池と山内が後で話に入ってきて、外村はびびったので様子見ということだろう。

 

「ほんとはナンパなんてけしからんことなの! でもあんまりにも可哀想な男子に人間さんがイケメン力を見せてやるといいの! 魚はその場でリリースアンドリリースなの!」

 

 ただ逃がしているだけであった。そんなヒュロポスに哀れまれた筆頭二人は笑みを浮かべていた。

 

「ふっ、勝ったな、この作戦。顔がいいのに残念な人ランキング一位の綾小路がいれば貰ったも同然だぜ」

 

 山内の口から嫌なランキングを耳にしてしまった。

 

「そうだな、二位の高円寺と僅差だが残念一位の綾小路が俺達にはついている。さぁ、いってくれ! アルゴス4!」

 

「いってくれと言われてもな……」

 

 オレは周囲を見渡した。開場直後の朝一番ということもあり、視界に入るのは速攻で着替えて飛び出してきた男たちの集団くらいしか見当たらない。声をかけようにも、そもそも対象となる女子生徒自体が圧倒的に不足していた。

 

 そんな時──不意に一人の男が現れた。

 

「おや、そこにいるのは綾小路ボーイにレッドヘアーくん、そして愚かなDクラスのボーイ達じゃないか」

 

 独特の優雅さと傲岸さを孕んだ声が、静かなプールサイドに響き渡る。

 

 振り返れば、朝の光を反射して眩しく輝く金髪とブーメランパンツ、寸分の狂いもなく鍛え上げられた肉体を晒した男が立っていた。

 

 Dクラスの自由人であり、学校内の誰の手にも負えないアンタッチャブル、顔がいいのに残念な人ランキング二位──高円寺六助だ。

 

 オレが黙っていると、代わりに池が「なんでここに高円寺がいるんだよ!」と不満げに噛み付いた。

 

「ふーむ、特段と君には用は無いんだがね。最近、堀北ガールを始めとした色んな人物に興味深い変化を与えた綾小路ボーイに些か興味はあるのだよ。特にレッドヘアーくんの変わりようはこの私も一目置くほどには驚いているからね。だからこの前のパーティーにも参加したってわけさ! 最も謎は深まるばかりで何も得られなかったがね。実に興味深い……」

 

 高円寺はフッ……と不敵な笑みを浮かべ、オレの後ろに立つ須藤へと視線を注いだ。

 

 予期せぬ高円寺からの評価に、須藤は毒気を抜かれたように目を丸くし、「お、おぅ、サンキュ……」となぜか戸惑いながらもお礼を口にしていた。

 

「だが今日の私は先約があってね。おっと、レディー達が来たようだ。それでは、Dクラス諸君、今日、この私に会えた喜びを噛み締めて夏を過ごし給え。ハーッハッハッハッハ!」

 

 高円寺は高らかな高笑いを響かせると、更衣室から現れた上級生女子達を両サイドへ侍らせて、別の場所へと消えていった。

 

「なんか、何もしてねーのに、あいつを見かけるだけで練習終わりくらい疲れるんだが……」

 

 去っていく高円寺の背中を見送りながら、須藤がぐったりとした様子でぼやいた。

 

 そして、男だらけのオレたちと女子を侍らせている高円寺。圧倒的な格の違いを見せつけられた池は、しばしの静寂の後に絶叫した。

 

「オレはっ!」

 

 その魂の慟哭は、天に叫ぶようにプール全体へ響き渡る。

 

「オレは悔しい! どうして高円寺がモテモテで! オレがモテないのか! モテたい! モテたいよっ……綾小路、オレ、モテたいです……」

 

 池は流れるような動作でプールサイドに両膝をついてこちらを向き直りながら、切実な眼差しでそう言ってきたのだった。

 

「そうか……頑張れよ」

 

 もう、須藤に任せて帰ろうか、と思ったその時、楽しそうな声が響き渡る。陰鬱なオレたちとは異なり、どこまでも明るく楽しそうな大集団。その中に見覚えのある生徒が一人、二人。

 

 あれは、一之瀬と神崎か。そうなるとあそこに集まっているこはBクラスだろうか? 

 

 最後尾に杖をつきながらゆっくりとついていく生徒に、手を差し伸べながら前の集団との距離を調整する女子まで含めればかなりの人数である。

 

「チャンスだ! 綾小路!」

 

「いや、チャンスも何も男連れだろう……」

 

 池が意気込むが集団の中には神崎とは別に三人ほど男子がいる。明るくムードメーカーっぽい男子生徒、体格が大きく病気か何かの影響か髪の毛が一切ない強面の男、その男に楽しそうに話しかけるもみあげの長い男子、最後尾を歩く髪が長く表情が見えづらい男。

 

「馬鹿野郎! 諦めんなよ! お前のナンパに対する気持ちはその程度だったのかよ! もっと熱くなれよ! あそこにいる女、全て奪ってやるぜ! 世界の女はオレのトロフィーにしてやるってくらい熱くなれよぉぉぉぉ!」

 

 凄く最低なセリフを大声で叫ぶ山内。その大声が集団まで響いてなんだなんだと近づいてくる。

 

「あっ……綾小路くん……」

 

 一之瀬は目が合うと気まずそうに逸らした。その様子から集団の数人から敵意を放たれる。

 

「……おい、お前ら」

 

 神崎が前に立って敵意を放ってきた人物へ嗜める。周囲の生徒たちを制すると、再びオレに向き直った。

 

「まずはこの前のこと、謝罪させてもらおう。すまなかった。見くびっているつもりは無かったが……それでも、すまない」

 

 神崎が真摯に頭を下げて謝ったことで、周囲の生徒たちの間に漂っていた刺々しい敵意は一瞬で困惑へと変化した。

 

 そして一之瀬も隣で申し訳なさそうな笑みを浮かべながら言った。

 

「私もごめんね、綾小路くん。堀北さんにもそう伝えておいてほしい」

 

 オレは短く「あぁ」と答えた。

 

 すると、彼女たちの後ろに立っていた大柄で厳格な雰囲気を纏った男が口を開いた。

 

「そうか、お前が綾小路……俺はAクラスの葛城、そしてこっちが戸塚、鬼頭で神室に坂柳だ」

 

 オレが軽く頭を下げると──

 

「綾小路……?」

 

 凛とした声が静かに響いた。

 

 手を引いていた神室と呼ばれた少女が目を見開いて驚いている。そして、それは葛城と鬼頭も同様だった。他にも周囲にいた数人の女子が驚きに目を見張っている。

 

 オレは声の発端となった少女を見る。

 

 麦わら帽子に紫色のパレオ。美しい少女ではあるのだろうが、その容姿よりも先に目に入るのは彼女が手に持っている杖だ。日常的に使っているとなれば何らかの身体的な事情を抱えているのだろう。

 

 須藤や池たちも異質な空気を察して不審に思っているのか、「なんだ、一体……」と頭上に疑問符を浮かべていた。

 

「いや、すまない。元々、彼女は身体が弱くてな、その上、入学直後に大きな事故に巻き込まれて以来、入院して、目を覚ました時には記憶喪失だったらしい……」

 

 葛城は淡々と事情を口にした。

 

「復学してからはあまり感情らしい感情を見せなくてな、だから綾小路、お前の名前を呼んだ時に少し驚いたというか、なんというか……いや、すまない。俺も少し混乱している」

 

「いいのか? そんな事情をオレ達に話しても」

 

「構わない、むしろ学校で何かあれば手助けしてやってほしいと思っている。BクラスやCクラス、それにDクラスの一部の生徒も知っていることだしな。幾らクラス間での競争があったとしてもこれは別の話だろう」

 

 葛城は一切の躊躇いもなく、真剣な眼差しでそう口にした。

 

「──なるほどな。そういう使い方もあるか」

 

 オレの呟きに葛城は視線を細める。

 

「それは一体、どういう意味だ?」

 

「坂柳だったか……? 他クラスからしてみればこれほど都合のいい人質はいないな。記憶喪失の上に身体的にハンデを持つ生徒。嫌がらせの一つや二つでもされればAクラスが割くリソースは多大なものになるだろう。だからこうやって弱々しさと儚さを見せて外交として利用──」

 

「美少女的制裁パンチっ!」

 

 ヒュロポスは頭から飛び降りざまに顔面に突撃してきた。後ろで須藤が「ナイスっ! ヒュロ公!」と口に出していた。言葉を投げかけられた葛城本人は──想像よりも遥かに狼狽していた。

 

「違う、俺はそんなつもりでは──」

 

 顔面に張り付くヒュロポス。オレは剥がそうと掴むが「むぎゅぎゅぎゅー!」と引っ付いていた。しょうがないのでオレはこのまま続きを口にする。

 

「そうなのか? オレがAクラスだったならそうやって他クラスが坂柳に気遣ってリソースを割いて貰えれば得だからな。それに有用なスパイにすらでき──」

 

「まだ言うのよ!? めっ! めっ! 人間さん、めっー!」

 

 ヒュロポスが引っ付いたまま鼻根をつついてくる。

 

「ま、まー! まー! 落ち着けって綾小路! 俺達はここに何をしにきた? ナンパだろ!」

 

 須藤がヒュロポスと一緒にオレを止めに入る。

 

 ここでAクラスとBクラスの間に不和を埋め込んでおくのは今後、有効になりそうなんだがな。

 

「そ、そーだぜ! 綾小路! こんなことしてたらナンパなんて成功できやしねーって」

 

 池も必死になってオレの腕を掴んできた。

 

 ヒュロポスが顔面から離れて坂柳の麦わら帽子へ飛び降り、そしてタンタンと肩、杖を持つ手へと移動する。

 

 視線を回してみれば一之瀬と神崎の表情は引きつっていて、葛城は狼狽していた。そして今にも飛びかかってきそうな男が一人──鬼頭と呼ばれた男がオレを睨みつけている。

 

 そんな空気を打ち破ったのは──坂柳だった。

 

「かわいい……とってもかわいい」

 

 手元に乗るキーホルダーのロボット鳥を生き物を扱うかのように撫でていた。擽られるヒュロポスは「ひゅぽわー! 擽ったいのよ! でもかわいいから仕方ないのよねー!」と調子に乗っている。

 

「はい、とっても、かわいい、ぴよ、ぴよ、可愛い」

 

「んまー! この子ったら見る目あるじゃない! ヒュポポポ!」

 

 手に乗ったヒュロポスをあやす仕草が鬼頭の毒気を抜く。

 

「馬鹿馬鹿しいにらみ合いしてないで、行くわよ葛城。坂柳、こっちよ」

 

 神室がしびれを切らしたように吐き捨て、坂柳の手を引いて歩き出す。

 

 自分の肩にのるヒュロポスを撫でながら、「はい……ぴよ、ぴよ……」と幼子のように素直についていく。

 

「いや、待て……」

 

 オレが静かに制止の声をかけると、神室は即座に振り返り、鋭く冷ややかな視線でオレを睨みつけてきた。

 

「なに? 言っとくけどあんたみたいなろくでもない奴と関わりたくないんだけど?」

 

「ろくでもない?」

 

「だってそうでしょ。コイツのことを聞いて、利用するだの使うだのっていう発想が出ること自体がろくでもないひとでなしじゃない」

 

 坂柳を背中に隠し、こちらから守るような体勢で神室は睨みつけてくる。

 

「そうなのか、為になるな」

 

「馬鹿にしてんの?」

 

「そうじゃないが……返してくれないか?」

 

 オレが淡々とそう告げた、その時だった。

 

「んふふー、擽ったいのよー! はっ! ち、違うのよ! これは浮気じゃないの! 信じて、人間さん!」

 

 坂柳の肩の上で身をよじらせていたヒュロポスが慌てたように声を張り上げ、小さな翼をばたばたさせながら飛び立った。そのままオレの肩へと着陸し、耳元で必死に言い訳を騒ぎ立てる。

 

 お気に入りの玩具を奪われたかのように坂柳が「あっ……ピヨピヨ……」と小さく声を漏らし、悲しそうに眉根を落とした。

 

 その守ってやりたくなるような可憐な表情は、Aクラスの面々どころか、様子を窺っていた一之瀬たちBクラスの生徒たちの心まで一瞬で味方につけていた。

 

 周囲から注がれる無言の非難の視線。

 

 そんな空気を切り裂くように、葛城が「ふぅ……」と深く重い溜息を吐き出すと、真摯で一切の揺らぎのない瞳でオレを真っ直ぐに見つめてきた。

 

 そして──。

 

「綾小路、その玩具幾らだ? 言い値で買おう」

 

 ……頭が痛くなってきた。

 

 優秀だと噂のあるAクラスのことだ。もしやこれはオレたちの動揺を誘う高度な心理作戦の一環なのだろうか──そう思考を巡らせ、後ろに立つ神室や鬼頭の方へと視線を向ける。

 

 しかし、鬼頭は「か、葛城が買ってやるから安心しろ……」と強面を必死に歪めて坂柳を宥め、神室も「少しだけ待ってなさい」と優しく頭を撫でて坂柳をあやしていた。

 

「いや、売らないが……」

 

「五万ポイントを出そう」

 

 葛城の言葉に後ろの池や山内が「五万!?」と驚いていた。

 

「いや、売らないって言ったのだが……」

 

「ならば、十万ポイントならどうだ?」

 

 オレは首を横に振る。すると葛城の視線はさらに鋭くなり──。

 

「くっ……なら二十万だ。俺が個人で出せる限界だ」

 

 と悔しそうに口にした。

 

「葛城さんが出すなら俺も出します!」

 

 その時、集団の後ろの方に居た男子生徒が声を挙げる。葛城は感極まったように「弥彦……」と呟いていた。

 

「二十五万だ! どうだ、これなら売るだろDクラス!」

 

 得意気な戸塚が猛々しく提示する。背後の池や山内は「に、二十五万んぅぅぅぅ!?」と驚いていた。

 

「だから、売らないと言っているだろう……」

 

 コメカミを抑えながらヒートアップしている二人に告げると悔しそうに「くっ……」と呻いていた。

 

「そ、そもそもどこで売ってるのか聞けばいいんじゃないかなぁ? ねぇ、綾小路くん、それってどこで売ってるの?」

 

 一之瀬の助け舟に冷静になった二人は「そ、それもそうか」と顔を赤くしていた。大丈夫か、Aクラス。

 

「いや、これは自作AIをプログラミングしたロボットだ。かなり精密な部品ばかり使っているからその手の知識がないと再現は難しいんじゃないか?」

 

 そう口にすれば「はぁ!? 自作!?」と両クラスは驚いていた。同一商品を探されて無いとなれば出所を疑われるかもしれない。かといって高校生の自作レベルを大幅に超えた技術は些か苦しい言い訳かもしれない。

 

「な、なんで、こんな奴が不良品のDクラスに居るんだよ……」

 

 弥彦と呼ばれた男が戦慄していた。オレが戦かれるのは果たしてここで良かったのだろうか……。

 

「くっ……すまない、坂柳。俺の力不足だ」

 

 心底悔しそうに呟く葛城。そんな葛城に対して坂柳は見向きもせずにオレの肩の上のヒュロポスを見ては「かわいい、ピヨピヨ……」と呟いていた。

 

 そんな保護欲を誘う姿に一之瀬達は「どうしよう」と頭を悩ませていた。神室は「いいから、寄越しなさいよ」と言わんばかりの視線。

 

「諦めんのかよ、Aクラスッ!」

 

 そう声を挙げたのは山内だった。そして、その横には池も山内の肩に手をおいてフッ、とカッコつけた笑みを浮かべた。

 

 両クラスから何こいつらと白い目で見られている。オレも見ている。須藤だけが何やってんだよ、あいつらと頭を抱えていた。

 

「欲しいものがあるなら──奪えばいい。諦めるなんて──ダサくね?」

 

 カッコつけてるのかもしれないが一ミリもカッコよさがわからない。オレの勉強不足かと思えばそうではないらしい。

 

 原始的、あるいは蛮族的な解決方法に両クラスの生徒も「えぇ……」とドン引きしていた、

 

「あそこにあるビーチバレーで優勝したチームがそのオモチャを手に入れる、それでどうだ!」

 

 池の提案に山内が「うぉぉぉぉぉっ!」と乗っていた。ついでに弥彦とか呼ばれる生徒も「それだぁぁぁぁっ!」と雄叫びを挙げていた。

 

 それではない。

 

「あ、あはは……まぁ、みんなでビーチバレーってことでいいの……かな? 賞品とかは一旦、置いておくとして」

 

「そう! それで! それでお願いします! 優勝したらアレあげるんで!」

 

 山内は全力で肯定して、AクラスもBクラスもそれなら──と参加意欲を見せてきた。葛城の二十五万プライベートポイントの提示により具体的な価値がついてしまったヒュロポス。そんな鳥は「えーっ!? あたし、一体、これからどうなっちゃうのー!」と何故か嬉しそうに叫んでいた。

 

「おい、池、山内…………」

 

 オレが低い声で二人を呼べば──。

 

「だ、だってよぉ! こうでもしないと女の子と遊べねーだろ! あっちにはあんだけ女子が居るんだぜ! 一緒に遊べばチャンスあるかもしれねーじゃねぇか!」

 

 池の必死な言葉。須藤は「お前なぁ……だからって人のもんを勝手に賭けたら駄目だろ」と良心的な反応をしてくれる。

 

「まぁ、また作ればいいじゃねーか、綾小路。ここは俺らの顔を立てて、な?」

 

 果たして立てるべき顔は残っているのか。気軽に言う山内に頭を抱える須藤。

 

「しゃーねぇ、ここは本気でやるとすっか」

 

 須藤は坊主頭を掻きながら、呟く。

 

「本気か?」

 

「負けたら流石に渡すのはアレだけど貸すとか提案してみんのはどうだ。それに──そんなことをしなくても俺と清隆なら大丈夫だろ。全部、勝てばいい」

 

 自信満々な須藤は照れくさそうな笑顔を見せる。そんな須藤に向かってオレは言う。

 

「──ビーチバレーどころか、バレーすら未経験なんだが」

 

 笑顔が引っ込んで──青い顔が浮かんでいた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 二人一組の八チームによるビーチバレーのトーナメントは始まる前から盛り上がりを見せていた。

 

 Bクラスから三チーム。Aクラスから三チーム、そしてDクラスから二チームが選出された。そして籤アプリによりトーナメント表が埋まり、オレたちは第一回戦の第一試合。

 

 相手はなんと山内と池のペアだった。

 

「ククク、綾小路ぃ! お前、初心者なんだってな!」

「悪いがオレたちの一夏のためにお小遣いとなってくれやぁ!」

 

 ヒュロポスを売る気満々の二人、須藤も流石に笑顔が固まる。

 

「テメェらの性根をここらで一回叩き直してやらぁ!」

 

 須藤の声に山内は笑う。

 

「クククっ、けーん、幾らお前がスポーツできても初心者が一緒じゃどうしようもないなぁ。なんか最近、モテてるの腹立つからここでモテへの恨み百倍にして返してやるぜ」

 

「春樹、最初のサーブはオレな。健には俺の殺人サーブをお見舞いしてやるんだ」

 

 最悪の二人だった。そうして始まるDクラス同士の潰し合い。その勝負の行方は──。

 

「二十一対四、この勝負、須藤くんチームの勝ちだよ」

 

 審判席に座る一之瀬のジャッジに崩れ落ちる池と山内。

 

 オレが挙げたトスを全て須藤が強烈に叩き込むことで一方的な試合運びとなった。

 

 最初こそ、無理な体勢からのスパイクでアウトになっていたが数球打てば須藤が叩きやすい位置にボールをコントロールできるようになっていた。

 

 アンダーハンドでのトスからのツーアタック。須藤のアンダーハンドからオレのオーバハンドのトスによるスパイク。その練習としては池と山内、申し分ない相手だったといえる。

 

 次の試合はAクラスの女子二人とBクラスの女子二人。どちらも球技は苦手なのかゆったりとした試合運びで最終的にBクラス女子が勝利。

 

 そしてここからは同クラス同士の対決。まずはBクラスの一之瀬、網倉ペア対神崎、柴田ペアの対戦。かなり白熱した試合運びとなったが、性差による紙一重で神崎達に軍配が挙がった

 

 そしてAクラス対決。唯一男女混合グループである神室、鬼頭ペア対葛城と弥彦と呼ばれていた男子──戸塚の試合となった。

 

「悪ぃな、鬼頭、神室。俺と葛城さんが組めば無敵だぜ?」

 

 戸塚の謎の自信に神室は「だる……」と呟く。やる気が無いかと思えば──。

 

「げ、ゲームセット! 21-12で神室さんの勝ちです!」

 

 Bクラスの女子生徒が終了を告げる。戸塚と葛城の運動神経は悪くは無いのだろう。

 

 だが悪くはないだけで優秀な部類の二人を相手取るには分が悪かった。特に鬼頭と呼ばれる男子生徒の運動神経は須藤を除いて、ここに集まる面子の中で頭一つ分抜き出ている。

 

「やるな、あいつ。決勝はあいつらだな。とりあえず、次の試合は俺がボール上げるから清隆はスパイクを軽く打ってくれ。軽くだぞ?」

 

 隣で試合を観察していた須藤が俊敏な動きを見せた鬼頭を見て呟く。そして次の試合展開を須藤の指示通りに動けば──。

 

「に、二十一対ゼロ……須藤くんチームの勝ち……」

 

 引きつった笑みで勝利宣言をする一之瀬。対戦していたBクラスの女子二人は一之瀬に抱きついていた。池と山内から「手加減しろー! 卑怯だぞー!」とブーイングが投げられている。

 

 おかしい、あいつらは味方だった筈──いや、無能な味方の方が敵よりも恐ろしいからそのまま敵であってくれる方が助かる可能性があるな。

 

 そしてBクラス男子対神室鬼頭ペア。一進一退の攻防は接戦を制したAクラスに軍配が挙がった。

 

 そして五分間の小休憩を入れたところで試合は再開される。一試合目はトスを、二試合目はスパイクを重点的に練習させて貰えたが──今までの速度とは異なるサーブやスパイクが地面に突き刺さる。

 

「2−6、神室さんのサーブから」

 

 そして神室は手前にトスを挙げて──ジャンプして撃ち込む。その弾丸のような勢いのサービスに須藤は追いつくもののあらぬ方向へと飛ばしてしまう。

 

 そして、試合はAクラスが優勢で進み──迎えた8−16。鋭いサービスをオレは潜り込み、勢いを殺して前へ出す。そしてそのまま須藤はボールをトスしてきて──叩き込む。

 

「……相変わらずエグい成長スピードだよな。自信なくすぜ」

 

 須藤の笑みにオレは「それでもバスケなら負ける気無いんだろう?」と聞けば「あたぼうよ!」と胸を張る。

 

 事実、須藤、堀北、櫛田と交流も含めてバスケットボールをしたことがあるが──流石は本職である須藤。経験の差は大きく、その腕前は身体能力の優位では追いつきそうにない。

 

 それこそオレ自身がバスケ部に入部して復興活動も縮小して、バスケに本腰を入れて時間を費せば可能性が見えるといった程度である。

 

「健、バレーくらいは勝たせてもらう」

 

「はっ、バレーでもまだ負ける気はねぇよ」

 

 須藤が突き出してきた拳にこちらも合わせて──サーブの定位置に。エンドラインを越えないようにトスを挙げて、踏み込み、中空から撃ち込む。

 

 なるほど、スパイクと同じと考えれば普通にサーブをいれるのに比べて一手番攻撃が早いな。問題は難易度、砂場と踏み込みを考えれば要求される身体能力は高く、むしろ自滅を考えれば多様しないのも理解できる。

 

「じゅ、10−16……」

 

 審判をしていた一之瀬がこちらを見ている。オレは首を傾げて周りを見れば同様の視線を感じる。そんな中で池と山内だけは「負けろぉ! カッコいいとこなんて見せんなー!」なんて野次っていた。

 

「あいつら、後でしばく」

 

 応援席でぎゃいぎゃい騒いでいる池と山内を見て、須藤が「じゃあ、さっさと決めちまおうぜ、清隆」と言った。

 

 そこから、無失点のまま、逆転し、オレと須藤はヒュロポスを賭けたビーチバレーで優勝した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 鬼頭と神室がとぼとぼとAクラスの席へと戻り「……ごめん」「すまん」と落ち込んでいる様子が見て取れた。

 

 オレたちも坂柳に近づき、声をかける。

 

「約束通り、返して貰おうか」

 

 坂柳の膝に乗っていたヒュロポスはパタパタパタパタと飛んできて「やっぱり、人間さんが優勝してくれたのねー! んもぅ、それだけあたしを手放したくないなんてあたしのこと好きすぎなのよー! んもぅ! やんやん! マッカッカさんもよく頑張ったのよ!」と頭の上で騒いでいた。もう少し預けててもよかったかもしれない。

 

 そんな中、戸塚が俺の前にやってきて頭を下げてきた。

 

「頼む! 売ってくれ! お前にとって大事なものかもしれないけど、坂柳の記憶を取り戻す手立てになるかもしんねぇから。ポイントなら今は少ししか出せねぇが、毎月少しずつでも出す! 考えてくれねーか!」

 

「……悪いが、売れない」

 

「どうして!」

 

「お前は随分とクラスメート想いなんだな、そこの葛城も神室や鬼頭だってそう見える」

 

「わかってくれるんだったら──」

 

「なら、お前は坂柳や葛城をポイントで売ってくれと言われたら売るのか?」

 

「そ、そんなわけねーだろ!」

 

「だったら、オレも同じだ。仲間は売れない」

 

 そう言うと、戸塚の瞳が揺らぐ。そして、諦めたように笑い。

 

「そっか、仲間は売れねぇよな。その気持ちならわかる……悪かったな、綾小路。不良品の中にもお前みたいな奴がいるなんてな……いいや、不良品じゃねぇ、Dクラス! 次は負けねぇからな!」

 

 右手を差し出してくる戸塚。オレはその手を握り返して話は終わりと周りを見渡せば──。

 

「鳥が仲間……」「オモチャが友達」「顔はいいのに残念ランキング一位」「可哀想」「カッコいいのに可哀想」「ピヨピヨ」「ちょっとっ、坂柳、あいつは危ないやつだから近づいちゃ駄目」「神室、鬼頭、離すなよ」「……うむ」

 

 須藤を見ればいい笑顔を浮かべた後に首をゆっくりと横に振った。太陽はまだまだ沈みそうにない、けれどオレはもう帰りたかった──。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 プールの日から翌日。

 

 何故か夜に行った復興活動では堀北と櫛田の機嫌が非常に悪く、チクチクとした言葉を貰った翌日の話。

 

 さぁ、ゆっくりしようとヨーグルトメーカーのスイッチを入れた時に部屋のインターフォンが鳴る。

 

 嫌な予感しかしない。

 

 扉を開ければ──。

 

「頼む! 綾小路ぃ! 俺をモテモテにしてくれ! 弟子にしてくれっ! 残念だけどナシじゃないかなランキング一位! 俺をアリにしてくれぇ!」  

 

 そこには池が居た。そして、その背後には山内と存在を殆ど忘れられたまま過ごさせた外村が居た。

 

 御目付役の須藤が居ない。恐らく、部活だろう。

 

 どうやら、オレの平和な月曜日は来ないらしい──。




【コープによるアビリティ】


【7.戦車】
Rank1 
探索時に須藤健を誘うことができる

【2.魔術師】
Rank1
放課後のコミュ回数が低確率で+1される
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