一番信頼していた幼馴染が実は全ての元凶だったやつ 作:全ての元凶
続き
村を滅ぼす前、まだ俺とリュークが同じ村で生活していた頃。
俺は村はずれの丘で村の人々が動いている様子を見ることにハマっていた。
丘にそこそこの高さがあって、人の動きがジオラマみたいに感じられるのが気に入っていたんだと思う。
あの時も例に漏れず、もうそろそろ日が暮れるという時間まで俺は丘にいた。
◆◆◆
「ねえねえリアナ〜」
「ん、どうしたのリューク?」
いつものように丘にいたら、後ろから声をかけられる。
良いところだったのに、と振り向けば、他所通りそこにいるのは俺の幼馴染、リューク。
彼は村ののちょっと体が大きいガキ大将に凄まれるとすぐにビビってしまうほど気が弱い。
だけど、両親からの愛をたくさん受けていてとても優しい男の子だ。
それに対して、俺はもちろん両親は存在しないし、家もない。
若い頃、村の外で孤児院を運営したこともあるシスターに預けられている。
別に冷遇されているという訳もないけれど、シスターは実の子ではない俺にはそこそこ厳しい。
その代わりと言ってはなんだがリュークの両親を含む村の大人は俺に同情して何かと世話を焼いてくる。
「だって女の子を一人にするなってお父さんとお母さんがうるさいんだよ……」
「ボクはいっつもここにいるしそんな心配されなくても大丈夫だけどなぁ」
「それは分かってるよぉ……」
一人で丘にいる俺の元にリュークが派遣されてくるのもその一環。
これに関しては、皆までは言わないが……まあ、そういうことだ。
まだ年齢も二桁になったばかりの子供たちに何を期待しているんだと声を大にして言いたいけれど
まあ、村にとっては人口が増えるのは増えるだけ大歓迎か。
別に飯が足りないわけでもないし、労働力はこんな辺境の小さな村にとって大事だもんな。
「じゃあ前みたいに手繋いで戻る? きっとみんなボク達を見て喜ぶよ?」
「そ、それは恥ずかしいから嫌かも……」
いやぁ、それにしてもリュークは本当に揶揄いがいがある。
叩けば鳴るおもちゃみたいな良い反応をリュークが見せてくれるの気づいたのは、ついこないだのことだが……。
なんで今まで気づかなかったんだろう。
そう思うくらいに彼の反応は面白い。
あまりにも彼の反応が面白かったものだから、俺はある計画を立ててしまった。
……そのためにも、今日はまだこの丘に留まってもらわないといけない。
だって、今からやることはリュークがここにいることで初めて成立することだから。
「もうちょっとだけここにいようよ。ね?」
「うん……でもその代わりリアナも一緒に怒られてくれる?」
「えー、でもリュークのお母さんとお父さん、ボクには甘いしな~」
「や、約束だよ!? 守ってね!?」
そして、無事にリュークを引き止められたところで。
今から前々から考えていた計画を実行しようと思う。
さっきも言った通り、リュークはもう両親からこれでもかと言うほど愛されている。
父親も母親も見るからに優しそうで、この二人だからこそリュークが生まれたのだと思う。
そこで、だ。
リュークからそんな二人を奪ったら、彼はどんな反応をするんだろうか。
突然愛する両親を奪われた子供はどんな風に育つんだろうか。
それが気になって仕方がない。
幸い、俺にはその疑問を確かめることができるだけの力がある。
……ああ、楽しみだなぁ。
「ねぇ、リューク? 今日は帰ったら何食べたい
?」
「うーん……急に言われてもなぁ。……あ! 母さんが作ってくれる料理ならなんでも良いかな?」
「お父さんは?」
「父さんは、ちょっと料理が下手だから。頑張って美味しいものを作ろうとしてくれてるのは分かるんだけど……」
訪れることのない未来の話を聞けば、リュークは嬉しそうに両親のことを語り出す。
彼が愛されているのと同じくらい、またリュークも両親のことが大好きなのだ。
この数十分後には、この両親を想う可愛らしい顔が絶望に歪むんだろうと思うと正直笑いが止まらない。
さて、それじゃあ村に魔物を放り込むとしますか。
彼には自分の家が魔物に襲撃される様子をこの高い丘から存分に見てもらうとしよう。
「リアナ、そろそろ母さん達が心配しちゃうから村に戻ろ……ッ!?」
……あ、ちょっと待って。
流石にそれは魔物に気づくのが早すぎる。
村を襲わせる魔物にはリュークの匂いを覚えさせてるのに。
リュークが今村に戻れば、魔物が両親じゃなくて、匂いがより強い彼自身を襲ってしまう。
「ど、どうしたの?」
「狼が、大きな狼が何体も村に向かっていってるッ! 村の人達に知らせないと!」
リュークは、今にも丘から駆け下りて村に戻ってしまいそうな勢いだ。
だけど、それだけは絶対に駄目。
俺の計画はあくまでもリュークが生きていることが前提だから、村に向かわせる訳にはいかないのだ。
こんなこと、全く想定してなかったけど。
かくなる上はリュークが俺に懐いていることを利用するしかない。
「ダメッ、行かないで!」
「り、リアナ!?」
「リュークが今行ったらリュークが襲われちゃうかもしれない! それは嫌だよ!」
「リアナ……」
よし、なんとか引きつけることに成功した。
後もう少し。
リュークが信じてる両親をダシに使うんだ。
「リュークのお父さんはいつも魔物を狩って帰ってきてるでしょ? きっとあの狼もリュークのお父さんが倒してくれるよ!」
「だけど……」
「リュークが傷ついてる姿なんて見たくない!
「……分かった。リアナがそこまで言うなら、僕もここにいるよ」
俺が必死の説得を続けること数十秒。
ついに、俺の鬼気迫る様子に押されたのか、リュークはまだ迷いながらも今にも走り出そうとしていた足を止める。
そして、俺の方を数回見返して。
村へ向かっていく狼、魔物を見て祈るような仕草を見せながらその場に座り込んだ。
きっと、まだ村のことが、両親のことが心配でたまらないのだろう。
大丈夫、安心してくれ。
あの狼型の魔物は、一度視界に入った匂いを知る獲物は絶対に逃さないから。
姿を見られていないリュークはともかく、両親は確実に死ぬまで追われ続けるよ。
「リアナ、大丈夫だよね? 父さん達ならあんな狼倒してくるよね?」
「リュークのお父さんはもっと大きな魔物も倒してるし、きっと大丈夫だよ」
「だよね! そうだよね……」
リュークは、何度も村を見ながら再度不安を口にする。
だけど、今から起こることは彼にとって絶対に良いものにはならないのだ。
それを知らないで自分の両親を信じる姿は本当に滑稽でたまらない。
こんなにも焦るリュークの姿を見れただけで、この計画を実行した意味が大いにある。
しかもこの後にこれ以上の顔が見れるなんて……。
想像しただけで、笑いが堪えきれなくなってしまう。
ああ駄目だ。
この表情は絶対にリュークには見せられない。
それほど、今の顔は醜く歪んでいるだろう。
だから俺は村を見つめるリュークから目を背け、声を出さないように笑い続けるのだった。
◆◆◆
あの日のことを俺は、一生忘れないだろう。
いつものように村はずれの丘で一人座りながら村を眺めていたリアナを迎えに行って。
いつもなら俺が来たら直ぐに帰るリアナが珍しくまだ丘にいるとゴネたんだった。
愚かなことに、当時の俺はリアナに気があって、その我儘を認めてしまった。
もし、記憶を受け継いだままあの日に戻れるのならば。
俺は彼女の言うことなんて無視して村に迫るあの魔物を葬り去りたい。
「……リアナ、戻ろう。僕、やっぱり父さん達のことが心配だ」
「だ、駄目だよ! 危ない!」
一度はリアナの提案を飲んで大人しく騒ぎが収まるのを待っていた俺だったが、すぐに居ても立っても居られなくなる。
どうしても、父さん母さん、そして優しかった村のみんなが心配になってきたのだ。
その時も、やっぱりリアナは反対した。
村へ魔物が迫っていることを伝えに戻ろうとしたのを反対したさっきのように。
あの時——俺がちょっとした子供心で村の外に出て大怪我をして戻って来た時のことを引き合いに出しながら。
「駄目、本当に駄目なんだって……」
これは後から知ったことだが、俺の村を襲った魔物は匂いを知る標的を一度見るとどこまでも追いかける習性を持っていた。
あの時はいつも飄々としているリアナが何故あそこまで取り乱したのか分からなかったが、裏切られた今なら分かる。
おそらく、あの魔物はあらかじめ俺の匂いを覚えさせられていた。
……他の誰の手でもない、リアナ自身の手によって。
「絶対に怪我しないから」
「本当?」
「本当、約束する」
そんなことを知る由もない俺は、今までにないほど顔を青くする幼馴染を必死に落ち着かせ続けた。
あの時みたいにはならないと約束し。
約束を破ったら絶交なんて子供じみたルールも追加し。
なんとか、丘から降りたくないと言うリアナを説得することに成功した。
——そして、リアナを連れて村へ駆け戻った俺が見たのは。
どんな魔物にも後れを取らなかった父さんが狼に咥えられている姿と。
その横で、血まみれになりながら倒れている母さんの姿だった。