人柱力? いいえ違います。ただの超魔王バールの憑代です 作:華洛
こういう掛け合いもあったんだなー程度で見てもらえると嬉しいです。
小話 「妹になってください」という人に愛が重いとはいわれたくない
神威空間は、相変わらず落ち着かない場所だった。
空とも地面ともつかない灰色の空間が、どこまでも無機質に広がっている。
音も、風も、温度の感覚すら曖昧で、長くいると自分がちゃんと立っているのか座っているのかも怪しくなってくる。
そんな場所で、サラダは腕を組み、じっとヤヨイを見ていた。
見れば見るほど、警戒心が薄れない相手だった。
遠縁とはいえ、うちはの血を引いている。
写輪眼を持っている。
しかも妙に自分へ距離が近い。会うたびに「妹」「お姉ちゃん」と言い出す。
ここまで条件が揃うと、逆に一周回って別の可能性が気になってくる。
サラダは少しだけ目を細めた。
「……写輪眼」
ヤヨイがきょとんとする。
「うん?」
「本当は、パパが狙いなんじゃ……」
一瞬、神威空間に妙な間が落ちた。
少し離れたところにいた黒いプリニーと灰色のプリニーも、ぴたりと動きを止める。
ヤヨイは数秒ほど黙ったあと、ぶはっと吹き出した。
「ないないないない!」
全力だった。
否定の勢いだけで空間が少し明るくなった気すらした。
「何その誤解! 違う違う! 私がなりたいのはサラダちゃんのお姉ちゃんであって、お母さんじゃないもん!」
サラダは無言になった。
否定としては成立している。
たぶんしている。だが、安心していい方向に話が進んだ気がまったくしない。
「いや、そこじゃなくて」
「そこだよ!」
ヤヨイはびしっと人差し指を立てた。
なぜか誇らしげだった。
「私はサラダちゃんの家族になりたいのであって、サクラさんの席を狙ってるわけじゃありません!」
「席って言い方やめて」
「ちゃんと区別してるもん!」
何をどうちゃんとしているのか、サラダにはさっぱりわからなかった。
ただ少なくとも、ヤヨイの中ではかなり真面目な話らしい。
サラダはこめかみを押さえた。
「……でも、うちはの遠縁で、写輪眼持ちで、妙に私に執着してて、しかも年齢的にはパパの方が自然っていうか」
「自然じゃないよ!?」
ヤヨイが即座に食いつく。
「何その基準! 自然って何!?」
「いや、だって」
「だってじゃないよ! 私、サラダちゃんのお姉ちゃんになりたいのであって、サラダちゃんのお母さんになりたいわけじゃないんだってば!」
「だからそこを強調されると余計に困るのよ!」
サラダが思わず声を上げる。
ヤヨイも負けじと身を乗り出した。
「それにね!」
まだ続くらしい。
サラダはうっすら嫌な予感を覚えた。
「うちは一族って、女性より男性の方が愛情クソ重い抱き方する傾向にあるんだよ」
さらっととんでもないことを言った。
サラダの眉がぴくりと動く。
そしてヤヨイは、なぜか自信満々に後方を振り返った。
「だよね、黒プリ、灰プリ」
振られた二体のプリニーは、見事なくらい同時に明後日の方向を向いた。
沈黙。
とても気まずい沈黙だった。
黒いプリニー――イタチプリニーが、こほん、と小さく咳払いする。
「……人によると思うッス」
灰色のプリニー――オビトプリニーも、一拍遅れて頷いた。
「そうだな。人によるなッス」
目は合わせない。
ものすごく合わせない。
その不自然さが、逆にすべてを物語っていた。
サラダはじとっとした目で二体を見る。
「否定しないのね」
「うちはマダラのこともあるので否定はできないッス」
イタチプリニーは慎重に言った。
慎重すぎて、ほぼ自白みたいになっていた。
「傾向の話をされると困るなッス」
オビトプリニーも続く。
こちらも困っているだけで、やはり強くは否定しない。
ヤヨイが得意げに胸を張る。
「ほらね」
「ほらね、じゃないわよ」
「だから安心して!」
何をどう安心しろというのか。
サラダは本気でわからなかった。
ヤヨイはぐっと拳を握り、妙に真剣な顔になる。
「私は結婚するとしても、写輪眼持ち以外にするって決めてるから!」
「その宣言いる?」
「いるよ!」
「なんで!?」
「大事だから!」
大事らしい。
何に対して大事なのかは、やはりよくわからない。
ヤヨイはさらに一歩踏み込んだ。
「だからサラダちゃんは安心して、私の妹になってよ」
言い切った。
ものすごく真っ直ぐな目だった。
変なことを言っている自覚があるのかないのか、たぶんない。
サラダはしばらく黙った。
パパ狙いではなさそうだ。
そこはたぶん本当だろう。
サクラの立場をどうこうする気も、たぶんない。
それもまあ、わかった。
わかったのだが。
だからといって、安心できるかと言われると、別問題だった。
むしろ別方向に警戒が増した気さえする。
サラダは視線を少し逸らし、どうにか一番角が立たない言葉を探した。
だが、探した結果、結局いちばん正直な一言しか出てこなかった。
「……ごめんなさい」
きっぱりしていた。
ヤヨイが固まる。
「えっ」
「ごめんなさい」
「そんな二回言わなくてもよくない!?」
「大事だから」
「今の絶対仕返しでしょ!?」
サラダは答えなかった。
答える必要もない気がした。
少し離れたところで、イタチプリニーがそっと顔を背ける。
オビトプリニーは肩を震わせていた。笑っているのか、気まずさに耐えているのかは微妙なところだった。
神威空間は今日も灰色で、静かで、そしてたぶん、こういうどうでもいい会話をするには少しだけ広すぎた。