人柱力? いいえ違います。ただの超魔王バールの憑代です   作:華洛

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第十一話 魔チェンジは便利だけど、だいたい使われる側の意思は尊重されない

 

 九尾のチャクラが夜の修練場を黄金色に染める。

 崩れかけた社と砕けた石畳、その中央に立つヤヨイの姿は、なお異様だった。

 角を生やし、赤い瞳を光らせ、尾獣玉の直撃すら受け流した女。

 サラダは父と七代目の背中を見ながら、それでも喉の奥の緊張が消えないのを感じていた。

 戦力は揃った。

 なのに、安心できない。

 目の前の相手が、強いという言葉だけでは足りない何かに変わり始めているからだ。

 ヤヨイが、ゆっくりと両手を持ち上げた。

 

「…………」

 

 赤い魔法陣が展開される。同時に、空気が引きつった。

 サラダが反応するより早く、プリニーイタチとプリニーオビトの足元にも、同じ魔法陣が走る。

 次の瞬間、二人の姿は赤い光に呑まれた。

 

「なっ――」

「チィッ……!」

 

 ヤヨイの左右に出現した魔法陣から、プリニーイタチとプリニーオビトが現れた。

 次の瞬間、その身体が光に包まれた。

 黒いプリニーも、灰色のプリニーも、輪郭が崩れる。

 

「え……?」

 

 サラダが目を見開く。

 変形が終わった時、ヤヨイの両手には二本の杖が握られていた。

 

 一つは黒い杖。

 細身のステッキで、先端にはプリニーの頭が施されており、その眼は万華鏡写輪眼であった。

 もう一つは灰色の杖。

 同じような形状。違うのは色と瞳に浮き出ている万華鏡写輪眼だ。

 

「……は?」

 

 サラダの理解が追いつかない。

 ボルトも同じだったらしい。

 九尾の尾の上から、思わず声を上げる。

 

「今、武器になった!?」

 

 デスコMSFが、なぜか少し得意げに胸を張った。

 

「魔界では魔物は武器にも乗り物にもなるデス。常識デス」

「どんな常識だってばさ!」

 

 ボルトのツッコミが夜の修練場に響く。

 あまりにももっともだった。

 サラダも心の中では完全に同意していた。

 だが、デスコMSFは真顔のまま続ける。

 

「魔チェンジしたものの扱者は、元々の能力を使えるデス」

 

 その一言で、場の空気が変わった。

 サスケの目が細まる。

 ナルトの表情も引き締まる。

 サラダの背筋を、冷たいものが走った。

 

「……それって」

 

 口に出したくなかった。

 だが、デスコMSFは容赦なく言い切る。

 

「つまり今のヤヨイは、『天照』『月読』『神威』を扱える状態デス」

 

 最悪だった。

 ただでさえ尾獣玉を受けても立っている相手が、そこにさらにうちはの最上級ともいえる能力を使える。

 もはや悪夢みたいな話だった。

 

「冗談じゃないってばよ……」

 

 ナルトが低く呟く。

 その声には、珍しくはっきりとした警戒が滲んでいた。

 ヤヨイは何も答えない。

 ただ、黒いステッキをゆっくりと持ち上げる。

 その先端が向いた先にいたのは、デスコMSFだった。

 

「え」

 

 デスコMSFが固まる。

 

「ちょっと待つデス。嫌な予感しかしないデス」

 

 ヤヨイの赤い瞳が、静かに細められた。

 黒いプリニーステッキの先端、左側の万華鏡写輪眼が怪しく光る。

 

【月読】

 

 その瞬間、世界が軋んだ。

 万華鏡写輪眼に射抜かれたデスコMSFの身体が硬直する。

 逃げようとした足が止まり、触手がびくりと震え、そのまま動かなくなる。

 

「――っ!」

 

 声にならない悲鳴。

 精神を直接掴まれたのだと、サラダにもわかった。

 ただの拘束ではない。

 意識そのものが、ヤヨイの作った悪夢の中へ引きずり込まれている。

 デスコMSFの瞳から、意思の光が急速に薄れていく。

 立っている。

 だが、もう自分の意思では動けない。

 

【ナイアーラトテップ】

 

 背後に浮かんでいた黒い触手が一斉にデスコMSF自身へ絡みついた。

 腕に。脚に。胴に。首に。

 まるで自分自身を繭に変えるように、触手がその小柄な身体を包み込んでいく。

 

「まずい!」

 

 最初に動いたのはカカシだった。

 雷切を纏ったまま、一気に間合いを詰める。

 

「ボルト、ミツキ、サラダ!」

「はい!」

「うん」

「了解!」

 

 三人も同時に駆けた。

 木ノ葉隠れで変化したラハールは脅威だった。

 ボルトはクナイを抜き、ミツキは蛇のようにしなる腕を伸ばし、サラダは写輪眼を見開いたまま一直線にデスコMSFへ向かう。

 変化が完了する前に止める。

 全員の判断は同じだった。

 だが、その瞬間。

 

 ずん――ッ!

 

 地面が鳴動した。

 

「なっ!?」

 

 デスコMSFの四方、東西南北を囲むように、巨大な剣が地面から突き出した。

 一振り一振りが人の背丈をはるかに超え、墓標のように、あるいは結界の柱のように重々しく突き立つ。

 刃には禍々しい紋様が走り、地面へ深く食い込んだその瞬間、周囲の空気がびり、と震えた。

 

 それは超魔王バールの技の一つ、グランソードだった。

 本来は四方に現れた剣が結界となり、内側に閉じ込めた敵を逃がさず討ち滅ぼすための技。

 だが今、ヤヨイはそれを防御へ転用していた。

 閉じ込めるための檻を、近づかせないための壁として使っているのだ。

 カカシが低く呟く。

 

「……なるほどね」

 

 咄嗟に身をひねる。

 雷切の軌道が剣の腹をかすめ、火花が散った。

 

「チッ……!」

 

 ボルトとサラダも急停止を強いられる。

 ミツキの伸ばした腕は、剣の間合いに入った瞬間、見えない圧に弾かれた。

 

「結界か!?」

「いや、違う」

 

 ミツキが短く言う。

 

「もっと重い。押し返されてる」

 

 サラダが歯を食いしばる。

 目の前でデスコMSFが固められているのに、届かない。

 ヤヨイが、黒いステッキをわずかに傾けた。

 

「くそっ……!」

 

 ボルトがクナイを握る手に力を込める。

 だが、どうにもならない。

 変化はもう止められなかった。

 やがて、変形が止まる。

 そこに立っていたのは、もうデスコMSFではなかった。

 

 白い肌。

 白い装束

 人を食ったような笑み。

 額の角。

 そして、釣竿を思わせる武器を携えた、あまりにも見覚えのある姿。

 

「……は?」

 

 ボルトの声が、凍りつく。

 

「なんで……」

 

 目の前の存在を見つめたまま、言葉が続かない。

 

「なんで、お前になるんだってばさ……!」

 

 大筒木ウラシキ。

 

 かつてボルトが、過去へ飛ばされた先で少年時代のナルトと共に倒した相手。

 螺旋丸で打ち砕き、消えたはずの敵。

 もう二度と現れないはずの存在だった。

 

 サラダの写輪眼が、相手の輪郭を追う。

 姿だけではない。

 立ち方。

 視線の運び方。

 そこにいるだけで周囲を不快にさせるような、あの底意地の悪さまで、妙に似ていた。

 

「チャクラの質も似せてる。気味が悪いくらいに」

 

 ミツキの声は静かだったが、その静けさの奥には、はっきりとした警戒があった。

 仙人の感覚に触れる彼には、それがただの見かけ倒しではないとわかる。

 似せている。しかも、かなりの精度で。

 ウラシキは、にたりと口元を歪めた。

 その笑い方まで、ひどくそれらしい。

 

「おやおや。そんな顔をするなんて失礼ですねぇ、ボルト」

 

 その声を聞いた瞬間、ボルトの記憶が嫌でも引きずり起こされる。

 時間を越えた戦い。

 追い詰められた感覚。

 少年ナルトと並んで放った螺旋丸。

 確かに倒したはずの相手が、また目の前にいるという理不尽。

 胸の奥がざわつく。

 怒りとも、戸惑いとも、嫌悪ともつかない感情が一気にせり上がってきた。

 

 サスケの視線が、鋭くそちらへ向く。

 

「……ウラシキ」

 

 低い声だった。

 その一言に、かつて大筒木と幾度も渡り合ってきた警戒が滲む。

 だが次の瞬間、サスケは自分の意識がそちらへ引かれかけていることを悟った。

 目の前にあるヤヨイは難敵である。

 だが、ウラシキの姿は無視しがたい。

 大筒木というだけで、戦場の優先順位を狂わせるだけの重みがある。

 

「パパ」

 

 サラダの声が飛んだ。

 サスケがわずかに目を向ける。

 サラダは写輪眼を開いたまま、まっすぐ父を見ていた。

 

「こっちは私たちがやる」

 

 短い言葉だった。

 だが、その声には迷いがなかった。

 ただ勢いで言っているのではない。

 自分がやるべきだと理解したうえで、そう言っている声だった。

 ボルトもすぐに続く。

 

「そうだってばさ。あんたはそっちに集中しろ」

 

 その言葉には、強がりだけではない意地があった。

 目の前の相手がどれだけ嫌な記憶を呼び起こそうと、ここで父たちの手を煩わせるわけにはいかない。

 そういう反発心が、ボルトの中でまっすぐ形になっていた。

 ミツキも静かに頷く。

 

「僕たちだけじゃ足りないなら、六代目もいる」

 

 カカシは軽く肩をすくめた。

 

「若い子たちに全部任せるつもりはないよ」

 

 その時、ナルトがふっと笑った。

 

「聞いただろ、サスケ」

 

 九尾のチャクラを滾らせたまま、それでも声だけは妙に穏やかだった。

 

「俺達の子供だ。それにカカシ先生だっている」

 

 その言葉に、サスケはほんの一瞬だけ黙る。

 ボルト。

 サラダ。

 ミツキ。

 未熟さはある。危うさもある。

 だが、もう守られるだけの子供ではない。

 サスケは短く息を吐いた。

 

「……そうだな」

 

 それだけ答える。

 視線をウラシキから切り離し、再び正面のヤヨイへ向けた。

 超魔王バールの力と、「天照」「月読」「神威」を扱う。

 特に「月読」の幻術に対応できるのは、この場では自分だけだとサスケは考えた。

 一方、ボルトたちの前では、ウラシキがくつくつと喉を鳴らして笑っていた。

 

「任せる、ですか。ずいぶんと買われたものですねぇ」

 

 その目が、細く歪む。

 嘲るようでいて、どこか試すようでもある。

 相手の心を逆撫ですることにかけては、本物と見紛うほどだった。

 

「では、期待に応えてみせてくださいよ」

 

 釣竿が、ひゅん、と空を裂いた。

 その音を合図にしたかのように、全員の身体が同時に動く。

 ボルトが即座にクナイを構える。

 サラダは一歩前へ出て、写輪眼で軌道を追う。

 ミツキは低く姿勢を落とし、蛇のようにしなやかに間合いを測る。

 カカシは少し引いた位置から、全体を見渡していた。

 

 またヤヨイも動いた。

 ナルトとサスケの位置まで瞬時に移動すると、灰色のプリニーステッキを掲げた。

 超魔王バールの魔力で強化された神威が、渦潮のように空間を大きく捻じ曲げる。

 九尾モードのナルトとサスケ、そしてヤヨイ自身までもが、その渦に呑み込まれた。

 

 

 

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