人柱力? いいえ違います。ただの超魔王バールの憑代です 作:華洛
渦を巻くように歪んだ空間が閉じる。
ナルトとサスケ、そしてヤヨイの気配が完全に消えた瞬間、夜の修練場に残された空気は一段と冷えた。
静寂は、ほんの一瞬だった。
「――来る!」
サラダが叫ぶより早く、ウラシキの持つ紅いチャクラの釣竿がしなった。
空気を裂く鋭い音。
ボルトは反射的に身を沈める。
頭上をかすめた釣り針が、物理的な硬度を無視して背後の石灯籠を音もなく両断した。
「チッ!」
着地と同時にボルトがクナイを投げる。
だがウラシキは避けない。
「おっとっと!」
不敵に笑いながら左手をかざすと、空間に黒いひび割れ――『黄泉比良坂』を展開し、クナイを虚空へと飲み込ませた。
次の瞬間、ボルトの真後ろに開いた別のひび割れから、先ほどのクナイが逆方向に飛び出す。
ボルトは寸前で身をねじって自身のクナイをかわす。
「相変わらず短気ですねぇ、ボルト先輩」
にたり、と。
あの癇に障る笑み。
その顔を見た瞬間、ボルトの奥歯が軋んだ。
「うるせぇ!」
ボルトが一気に踏み込む。
右からクナイ、左手で印。
同時に二体の影分身が生まれ、左右へ散った。
感情に飲まれ単純な攻撃。
目の前の姿が、あまりにもあの時のままだったからだ。
ウラシキが釣竿をくるりと回す。
次の瞬間、しなった糸の先にある釣り針があり得ない角度で跳ねた。
正面へ向かったはずの軌道が途中で折れ、誘導されるようにボルトの脇腹――チャクラの経絡系が集中する急所を正確に狙う。
「っ!」
サラダが割り込んだ。
クナイにチャクラを込め、強引に釣り針を弾く。
火花が散り、強烈な衝撃が腕に重く響いた。
「落ち着いて、ボルト! 本物じゃない!」
「分かってるってばさ!」
そう叫び返しながらも、ボルトの心には焦りがあった。
目の前の敵は、デスコMSFの【ナイアーラトテップ】で生み出された偽物だ。
そう頭では理解している。
だが身体が、何回にも渡り相対した記憶から、勝手に拒絶反応を起こす。
その隙を、ウラシキは見逃さない。
「おやおや。やはり動揺しているじゃないですか。では、お馴染みのやつを……!」
ウラシキが腰の魚籠に手をかけ、そこから溢れ出たチャクラを喰らうように吸い込んだ。
ウラシキの目が怪しく輝く。
「『風遁・大突破』!」
ウラシキの口から放たれたのは、かつて彼がどこかの忍から奪ったであろう凄まじい暴風だった。
「しまっ――」
ボルトが飛び退く。
サラダは横へ跳び、ミツキは身体をしならせるように後方へ流れた。
大筒木の固有能力だけでなく、ストックされた他人の術を平然と使いこなしてくるいやらしさ。これこそがウラシキの真骨頂だ。
だが、元六代目火影は動じない。
「千鳥!」
暴風の隙間を縫うように、蒼白い雷光が走る。
写輪眼がないとはいえ、全く使えないわけではない。
カカシはウラシキの死角へ回り込み、その背中へ雷撃を突き出そうとした。
確実に捉えた――はずだった。
「おっと、危ない」
ウラシキの目がいつの間にか、青い光を放つ輪廻眼へと切り替わっていた。
カカシの突きが放たれる直前、まるで最初からそこに攻撃が来ると知っていたかのように、ウラシキは最小限の動きで上体をそらし、雷切を紙一重で回避した。
(……避けた? いや、こちらの予備動作を完全に読んで動いていたな……!)
カカシの目が細まる。
ウラシキはそのまま釣竿を逆手に持ち替え、カカシの胸元へチャクラの針を突き出してきた。
喰らえばチャクラを根こそぎ持っていかれる。
「カカシさん!」
ミツキの腕が蛇のように伸びる。
ウラシキの手首へ絡みつき、軌道を無理やり逸らした。
チャクラの釣り針はカカシの肩口をかすめるだけで空を切る。
「助かった」
カカシが短く言う。そのまま後退しながら即座に印を結ぶ。
「土遁・土流壁!」
地面がせり上がり、土壁がウラシキとの間を遮った。
だが次の瞬間、ウラシキは『黄泉比良坂』のゲートを土壁の真上に開き、そこからひょいと顔を出した。
「そんなもの、意味がありませんよ」
釣竿が振り下ろされる。
赤く光る糸が土壁を真上から真っ二つに裂いた。
「本当に嫌な野郎だってばさ!」
ボルトが舌打ちし、印を結ぶ。
「雷遁・迅雷箭!」
放たれた雷の矢が一直線にウラシキへ走る。
しかし、ウラシキの目が再び青く輝く。
ウラシキの身体が一瞬だけブレたかと思うと、次の瞬間には、彼はすでに雷の矢の軌道から完全に外れた位置に「最初からいた」かのように着地していた。
「偽物だと分かってるけど、まるで本物のようだってばさ!」
ボルトがクナイを握り直す。
呼吸を整える。
未来を予知されるなら、予知された先ごと潰すか、予知の処理速度を超えるしかない。
怒りに飲まれれば、その思考すら奪われる。相手が狙っているのは、まさにそこだ。
「ボルト、深呼吸」
ミツキの声は静かだった。
だが、不思議とよく通る。
「相手は君を怒らせたい。なら、乗った時点で負けだよ」
「……分かってる」
「いや、まだ分かりきれてない顔だね」
ミツキは淡々と言いながらも、視線は一瞬たりともウラシキから外さない。
その横でサラダも写輪眼が爛々と輝いている。。
「ボルト。あいつの動き、全部が速いわけじゃない」
「何?」
「速いんじゃなくて、“先にそこへいる”ように見せてる。予知と空間移動、それにあの変な再現精度が噛み合ってるだけ。だから、読めない相手じゃない」
カカシが小さく頷く。
「サラダの言う通りだ。厄介だが、無敵じゃない。むしろ厄介さの正体が見えてきた分、やりようはある」
「やりよう、ねぇ……」
ボルトは息を吐いた。
胸の奥に渦巻いていた苛立ちを、無理やり押し込める。
目の前の敵はウラシキに似ている。
だが、ウラシキそのものではない。
なら、今ここで倒すべき相手は“過去”じゃない。
この場にいる偽物だ。
「……だったら、ぶっ壊してやるってばさ」
その声には、先ほどまでの空回りした熱ではなく、芯の通った力が戻っていた。
ウラシキが肩をすくめる。
「おや。少しは冷静になりましたか。ですが、それで勝てるほど甘くは――」
言い終える前に、カカシが動いた。
「ミツキ!」
「うん」
ミツキの腕が地を這う蛇のように伸びる。
ウラシキは即座に跳んだ。
だが、それは誘導だ。
「上だ!」
サラダの写輪眼が、跳躍の軌道を捉える。
その声に合わせ、ボルトの影分身二体が左右から飛び上がった。
一体はクナイで牽制。
もう一体は印を結び、雷遁を放つ構えを取る。
「小細工ですねぇ!」
ウラシキが釣竿を振るい、影分身をまとめて薙ぎ払う。
分身が煙となって消える。
だが、その煙の向こうから本命は来ない。
「――下か」
カカシが呟いた瞬間、地面が爆ぜた。
土遁で潜っていたボルト本人が、真下から飛び出す。
右手には螺旋丸。
だが、それだけではない。
その横に、ミツキも並んでいた。
「ボルト、一人じゃ足りない。大筒木の耐久力を一撃でぶち抜くよ」
「分かってる!」
ボルトの右手で回る螺旋丸へ、ミツキが仙術チャクラを惜しみなく流し込む。
青白い回転球が、淡い翠を帯びて爆音の唸りを上げた。
表面には蛇の鱗にも似た紋様が浮かび、密度を増した超回転が周囲の空気を歪ませる。
「仙術・大玉螺旋丸ッ!!」
ウラシキの白眼が、その莫大なチャクラ量を捉えて見開かれる。
予知も、巻き戻しも、空間転送も間に合わない完全なコンビネーション。
仙術を帯びた螺旋丸が、ウラシキの胸元へ容赦なく叩き込まれた。
轟音が響く。
衝撃が爆ぜ、ウラシキの身体が大きく吹き飛ぶ。
地面を何度も跳ね、石畳を派手に砕きながら転がっていく。
白い大筒木の装束が裂け、その肌の外殻にピキピキとひびが走った。
「まだ終わりじゃない!」
サラダが駆ける。
写輪眼が捉えていた。今の一撃で、ウラシキの動きは確かに鈍った。
だが、大筒木のしぶとさは異常だ。まだ立てる。
ならば、ここで完全に決めるしかない。
ウラシキがよろめきながら起き上がる。
胸を焦がされながらも、その口元には、なおもあの不快な笑みが残っていた。
「なるほど……これは、少し効きましたよ……。ですがねぇ……!」
釣竿を持ち上げる。
だが、その動きはもう先ほどまでの滑らかさを完全に失っていた。
サラダの写輪眼には、それがはっきりと見えている。
(遅い――今なら完全に届く!)
サラダの右手に、激しい雷が集束する。
千鳥ではない。
より鋭く、より一点へ。
六代目火影であるカカシが生み出し、サスケへ継承された技。
写輪眼で見切り、最短最速で急所を穿つための一撃。
【千鳥】
千の鳥の羽羽ばたきを超える音が、鋭利な雷鳴が夜を裂いた。
サラダは真正面からではなく、ウラシキが壊された右腕側の死角へ回り込む。
写輪眼が、釣竿の残された軌道、足運び、重心の流れ、そのすべてを捉える。
そして、ウラシキが反応するすべての可能性を置き去りにする速度で踏み込んだ。
「はああああっ! しゃーんなろー!!」
雷光が一直線に走る。
ウラシキが振り向くより早く、その胸元へ、サラダの雷切が深く突き立った。
「――っ! が、は……っ!?」
白い装束が完全に裂け、激しい雷がウラシキの内部を容赦なく焼く。
ウラシキの身体が大きく仰け反り、その手から紅い釣竿が滑り落ちて光の粒子となって消えていく。
その光景を見たカカシの胸に、一瞬、別の景色が重なった。
真正面から突っ込む、真っ直ぐな螺旋丸。
その横で静かに支える澄んだ力。
長年の宿敵の瞳を宿し、雷を纏って確実に決めに行く一撃。
ナルト。
サクラ。
サスケ。
かつての第七班。
未熟で、危うくて、それでも互いを補い合いながら前へ進み続けた子供たち。
その面影が、今、目の前の三人に完全に重なる。
だが、同じではない。
ボルトはボルトの、サラダはサラダの、ミツキはミツキの力で、かつての親たちを超えようとしている。
受け継ぎながら、もう新しい形へ進んでいるのだ。
(……新時代、か)
カカシは小さく息を吐いた。
感傷に浸る暇はない。だが、それでも確かに思った。
もう自分たちの時代だけではない。この子たちなら、どんな因縁だって打ち破れるのだと。
「サラダ、離れろ!」
カカシの声に、サラダが即座に千鳥を引き抜いて後方へ跳ぶ。
同時にボルトとミツキも距離を取る。
ウラシキの身体が、ぐらりと揺れた。
胸の傷口から、大筒木のチャクラではなく、黒い靄のような不気味なエネルギーが漏れ出している。
その輪郭が不安定にぶれ始めた。
「効いてる……!」
「いや、外側が剥がれてるよ」
ミツキが静かに言う。
その通りだった。
白い肌が、装束が、額の角が、まるで乾いた泥のようにひび割れ、ぼろぼろと音を立てて崩れ落ちていく。
「【ナイアーラトテップ】が解ける……!」
サラダが叫ぶ。
ウラシキの外殻の下から覗いたのは、見慣れた小柄な輪郭――デスコMSFだ。
まだ完全には元に戻っていない。だが、ウラシキという悪夢の変質は確かに解けかけていた。
ボルトが駈け出そうとしたところで、サラダが制止の声を上げた。
「待って! ボルトっ」
その瞬間だった。
夜空に、あまりにも巨大影が落下してきた。
それは巨大な蛙だった。
空中に突如と質量兵器のように現れ、そのままウラシキ――いや、変質が解けかけていたデスコMSFへ向かって落下した。
「デス!?」
避ける暇などない。
動きの鈍ったデスコMSFを、巨大な蛙が容赦なく圧し潰す。
凄まじい轟音。地面が激しく揺れ、周囲に濃い土煙が爆ぜた。
「デスコMSF!」
ボルトが叫ぶ。
だが、そのボルトたちの前へ、土煙を割って新たな影が次々と降り立つ。
一人。
二人。
三人。
四人。
五人。
六人。
カカシの目が恐怖に、そして信じられないものを見た驚愕に見開かれる。
土煙の向こうから現れたのは、全員が不気味な「輪廻眼」を宿した、かつて忍界を震撼させた死者たちだった。
長門。
自来也。
うちはイタチ。
猿飛ヒルゼン。
波風ミナト。
そして、うちはマダラ。
全員が木ノ葉と因縁がある者たちだった。
ある者は敵対者として。
ある者は火影として。
ある者は三忍の一人として。
自来也は蛙の頭部に佇み、他の五体はボルト、サラダ、ミツキ、カカシの周囲を静かに囲む。
完全に逃げ道を塞ぐように、冷徹な円を描いて立っていた。
自来也の死体の傍らには一人の女性。
メイド服に身を着て、手にはランタンと黒い杖、紫色の髪を夜風に揺らしながら、アルティナXENOは四人へ向けて柔らかく微笑んだ。
「抵抗しないでくださいね。みなさんは大切な人質なんですから」
その笑顔は穏やかで、あまりにも無邪気だった。
だからこそ、たった今ウラシキを倒したばかりの四人の心に、ぞっとするほど冷たい絶望を突き刺したのだった。
UA10,000超えた記念ssの短編話の内容はどんなのがいいですか?
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サラダ✕ヤヨイの話
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オビト・イタチの地獄編
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ヤヨイの傭兵日々
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自来也・ミナトの練武山
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IF火影サラダの話