人柱力? いいえ違います。ただの超魔王バールの憑代です   作:華洛

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閑話 逆だったもしもは最悪を作り出す可能性に満ちている

 

 終末の谷。

 そう呼ばれる可能性があった場所。

 木ノ葉隠れの礎となった二人の名を刻むはずだったその地は、今や皮肉と血に塗れていた。

 

 谷底に立つのは、うちはマダラ。

 木ノ葉隠れの初代火影にして、里を率いる者。

 もう一人は、千手柱間

 里を去り、力のみを求め、禁忌や禁術を重ねた果てに、もはや人の理から外れかけている。

 

 砕けた岩盤の上で、マダラは片膝をついていた。

 須佐能乎はすでに砕かれ、鎧の残滓が紫の火の粉のように周囲へ散っている。

 肩で息をしながらも、その双眸だけはなお鋭く柱間を睨み据えていた。

 

「……ぐ……柱間……」

 

 対する柱間は、静かに歩み寄る。

 その顔に、かつての温厚さはない。

 あるのは、目的のためなら何を奪うことも厭わぬ、冷えた執着だけだった。

 

「マダラよ」

 

 柱間は、倒れ伏す旧友を見下ろして言う。

 

「輪廻眼を開眼するには、お前の眼が要る。もらうぞ」

 

 マダラの目が見開かれる。

 怒りより先に、理解できぬものを見るような色がそこに宿った。

 

「柱間……なぜだ」

 

 掠れた声が、谷底に落ちる。

 

「俺とお前とで……木ノ葉を……」

 

 その言葉には、火影としての責務だけではない。

 かつて共に里を築こうとした、消えきらぬ願いの残滓があった。

 だが柱間は答えない。

 いや、答えはすでにその眼にあった。

 

「所詮、この世は弱肉強食よ」

 

 淡々とした声だった。

 

「弱ければ、抵抗も空しく喰われるだけだ」

「何を……言っている……」

 

 マダラの声が震える。

 目の前にいるのは、確かに柱間の姿をしていた。

 だが、その中身はもう、自分の知る男ではなかった。

 柱間が手を伸ばす。

 狙うのは、マダラの万華鏡写輪眼。

 

 その瞬間。

 空間が鋭く裂けた。

 飛雷神の術

 閃光のように現れた千手扉間が、柱間とマダラの間へ割って入る。

 その全身には、幾重もの起爆札が巻きつけられていた。

 

「兄者ァッ!!」

 

 次の瞬間、轟音が谷を揺らした。

 互乗起爆札。

 起爆札が新たな起爆札を口寄せすることで、長時間の長時間の継続的かつ連鎖的な大爆発を引き起こす。

 爆炎と閃光。

 岩肌を抉り飛ばすほどの爆圧が、柱間のいた地点を呑み込む。

 谷底の川が逆巻き、断崖の表面が一瞬で削り取られる。

 爆風は空へ駆け上がり、雲を吹き散らした。

 だが、爆煙の向こうに立っていたのは、傷ひとつない柱間だった。

 その足元には、焼け焦げた木片が散っている。

 先ほど扉間が自らの身体で行った互乗起爆札は、木遁・木分身の術で作ったものであった。

 

「……扉間か」

 

 柱間が、わずかに目を細める。

 

「まさか己を穢土転生させてまで、兄である俺の邪魔をするとはの」

 

 爆炎の向こう、塵芥が集まり再生しつつある扉間の姿が現れる。

 裂けた肉が灰のように崩れ、術の力で再構築されていく。

 死人の身体であるが、その眼に宿る意志だけは、生前よりなお鋭かった。

 マダラが歯を食いしばる。

 扉間は重傷を負い、生者の身ではもう兄を止められなかった。

 だからこそ禁術を遺し、マダラに託し、自らを死人として戦場へ戻した。

 里を守るために。兄を止めるために。

 

「兄者」

 

 扉間の声は低く、重い。

 

「もう止めよ」

 

 その言葉に、柱間は一瞬だけ沈黙した。

 だが次の瞬間、その眼に宿ったのは諦念ではなく、冷え切った断定だった。

 

「もう止まらぬ」

 

 その声が響いた瞬間、谷の空気が変わる。

 殺気とも、闘気とも違う。

 もっと根源的な、災厄そのものの気配。

 柱間の足元から、木が生えた。

 いや、木などという穏やかなものではない。

 地脈そのものを食い破るように、巨大な根が岩盤を突き破って噴き上がる。

 谷底を埋め尽くすほどの樹海が、一瞬で広がった。

 

 木遁・樹界降誕

 

 だが、それはかつて里を守るために使われた柱間の木遁ではなかった。

 生まれた木々は異様に黒ずみ、脈打つようにうねり、まるで周囲の生命力そのものを吸って肥大しているようだった。

 

「マダラ!」

 

 扉間が叫ぶ。

 

「飛雷神で支える! 兄者を止めろ!」

 

 マダラが、血を吐きながらも立ち上がる。

 その眼には怒りが燃えていた。

 火影としての責務。旧友を止めねばならぬ痛み。

 そして何より、目の前の男をこのまま行かせてはならぬという確信。

 

「柱間ァァァァァッ!!」

 

 咆哮とともに、マダラの周囲に青紫のチャクラが噴き上がる。

 骨が軋むような音を立てて須佐能乎が再構築され、肋骨が、腕が、鎧が、巨人の輪郭を成していく。

 完全体には遠い。

 だが、それでも火影たるマダラの闘志は折れていなかった。

 須佐能乎の巨腕が、轟音とともに木遁の樹海を薙ぎ払う。

 数十本の巨木がまとめて断ち切られ、谷底へ崩れ落ちた。

 だが次の瞬間には、その断面からさらに枝が噴き出し、蛇のように絡みついてくる。

 

「ちっ……!」

 

 マダラが舌打ちする。

 斬っても斬っても増殖する。

 しかもただの木ではない。

 触れた須佐能乎の表面から、チャクラがじわじわと吸われていく。

 

「兄者の木遁が変質している!」

 

 扉間が印を結ぶ。

 次の瞬間、飛雷神の印が須佐能乎の肩へ走り、マダラの巨体が一瞬で位置を変えた。

 直後、先ほどまでいた空間を、無数の木槍が貫いた。

 もし一瞬遅れていれば、須佐能乎ごと串刺しだった。

 

「助かったぞ、扉間!」

 

「礼はいい! 次が来る!」

 

 柱間は印を結ばない。

 ただ手をかざすだけで、樹海そのものが意志を持ったようにうねる。

 谷の両岸から巨大な木龍が二体、三体と生まれ、咆哮を上げながらマダラへ襲いかかった。

 マダラの須佐能乎が刀を振るう。

 一閃。

 木龍の首が飛ぶ。

 だが、切断面から新たな頭部が生え、勢いを殺さぬまま喰らいついてくる。

 須佐能乎の腕へ牙が食い込み、チャクラが吸われる。

 巨人の輪郭がわずかに揺らいだ。

 

「くっ……!」

 

 その隙を、柱間は見逃さない。

 地面が爆ぜた。

 マダラの足元から、今度は巨大な木人がせり上がる。

 かつて柱間が誇った木人の術。

 だが今のそれは、仏像めいた慈悲ではなく、異形の鬼神のような威容を帯びていた。

 木人の拳が、須佐能乎へ叩き込まれる。

 衝撃で谷底の川が左右へ割れ、断崖に無数の亀裂が走る。

 須佐能乎の胸部がひしゃげ、マダラの身体が内部で大きく揺さぶられた。

 

「がはっ……!」

 

 血が飛ぶ。

 それでもマダラは倒れない。

 須佐能乎の刀を逆手に持ち替え、木人の腕を肘から断ち切る。

 さらに踏み込み、そのまま柱間本体へ斬りかかった。

 だが、柱間の前に、巨大な木の壁が幾重にも立ち上がる。

 須佐能乎の刃は三枚、四枚と貫く。

 しかし五枚目で止まり、六枚目で完全に勢いを殺された。

 

「まだ足りぬか、マダラ」

 

 柱間の声は静かだった。

 その静けさが、かえって絶望を深くする。

 

「兄者ァァァッ!」

 

 扉間が飛雷神で柱間の背後へ回る。

 手には、圧縮された水刃。

 首を狙った一撃。

 だが柱間は振り向きもしない。

 背後の木が、扉間の腕を絡め取った。

 

「なっ――」

 

 次の瞬間、柱間の肘打ちが扉間の胸を打ち抜く。

 穢土転生の身体が大きくひしゃげ、扉間は砲弾のように吹き飛ばされた。

 断崖へ激突し、岩壁ごと崩れ落ちる。

 

「扉間!」

 

 マダラが叫ぶ。

 その一瞬の視線の揺れ。

 それすら、柱間には十分だった。

 柱間の背後に、巨大な木の観音が立ち上がる。

 

 仙法木遁・真数千手。

 

 終末の谷の空を覆い尽くすほどの巨躯。

 無数の腕が、まるで天そのものが落ちてくるかのような圧で持ち上がる。

 

 マダラの瞳が見開かれた。

 かつて共に戦場を駆けた時、何度も見た術。

 だが今、目の前にあるそれは別物だった。

 腕の一本一本が黒ずみ、脈打ち、周囲のチャクラを吸い込みながら膨張している。

 慈悲の仏ではない。世界を磨り潰すための鬼のようだった。

 

「終わりだ、マダラ」

 

 柱間が、静かに告げる。

 次の瞬間。

 千の腕が、一斉に振り下ろされた。

 

 大地が沈む。

 谷が砕ける。

 川が蒸発し、岩盤が粉々に吹き飛ぶ。

 須佐能乎が両腕で受け止めるが、最初の数十撃で膝を折り、次の数十撃で肩が砕け、さらに続く連打で巨人の鎧そのものが剥がれ落ちていく。

 

 マダラは吼えた。

 火影として。里を背負う者として。

 そして、かつての友を止める最後の一人として。

 

「まだだァァァァァッ!!」

 

 須佐能乎の残る力をすべて刀へ集める。

 青紫の刃が、夜明けの稲妻のように輝いた。

 その一閃が、真数千手の腕をまとめて断ち切る。

 数十本の巨腕が宙を舞い、谷底へ崩れ落ちた。

 だが、足りない。

 断ち切った先から、さらに新たな腕が生える。

 まるで世界そのものが柱間へ味方しているかのように、術が尽きない。

 

 その時だった

 

 崩れた岩壁の中から、扉間が再び飛び出した。

 穢土転生の身体はひび割れ、再生の煙を上げている。

 それでもその眼は死んでいない。

 

「マダラ! 今だ!」

 

 飛雷神の印が、柱間の背後へ走る。

 マダラの須佐能乎が一瞬で転移し、柱間の目前へ現れた。

 至近距離。

 マダラの刀が、柱間の胸を貫かんと走る。

 しかし、その刃は寸前で止まった。

 

「マダラ。やはりお主は優しい男よ。友を殺せぬか」

 

 次の瞬間、木々がマダラの身体へ絡みつき、拘束した。

 扉間は再び飛雷神でマダラを飛ばそうとする。

 だが、マダラを飛ばすことはできなかった。

 

「扉間よ。俺の木遁の拘束を、穢土転生の未熟極まりないその身体で使う飛雷神で逃れられるはずがない」

「兄者ッ!」

「お前は木龍とでも戯れよ。――待たせたな、マダラ。お主の眼を頂くぞ」

「――柱間ァァァアアアア!!」

 

 柱間は木遁の拘束で須佐能乎の発動を封じ、マダラから写輪眼を奪うことに成功したのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 そして時は流れ、場所は変わる。

 

 緑深魔界。

 かつては、樹木が魔界全土を覆い尽くし、深い緑に支配された世界だった。

 しかし今は、その面影はどこにもない。

 水は枯れ、樹木は朽ち、豊穣の大地は荒野と砂漠へ変わり果てていた。

 生命の気配を失った大地の中央には、一本の大樹が天を衝くようにそびえ立っている。

 まるで星そのものから、生命力と魔力のすべてを吸い上げているかのようだった。

 

 木遁・世界樹降誕。

 

 その異形の大樹の頂に、ひとつの実が成っていた。

 星ひとつを食い潰してようやく結実する、圧縮された生命と魔力の塊。

 その実を食べる前の、ほんの軽い運動。

 その程度の気安さで、白い姿の男は二人の強者を相手取っていた。

 

 白き衣を纏い、背後に求道玉。

 その両眼にあるのは、うずまく波紋を刻んだ輪廻眼。

 額には第三の目。青白く輝く転生眼。

 六道柱間である。

 

 その前に立つのは、二人。

 千手柱間。

 そして、うちはマダラ。

 

 柱間の木遁・真数千手が大地を埋め尽くすようにそびえ立ち、その巨腕の群れが六道柱間へと襲いかかる。

 同時に、マダラは須佐能乎を纏わせ、その圧倒的な斬撃で世界樹そのものを断ち切ろうとしていた。

 だが、届かない。

 六道柱間がわずかに手をかざすだけで、木遁の流れが乱される。

 真数千手の巨腕は軌道を逸らされ、須佐能乎の刃は世界樹へ届く寸前で押し返される。

 同じ柱間の力。

 同じ木遁。

 それでいて、格が違った。

 

「別世界の儂よ。もう止めよ!」

 

 真数千手の上から、柱間が叫ぶ。

 その声には怒りだけではなく、痛ましさが滲んでいた。

 

「止められるものなら、止めてみよ」

 

 六道柱間の返答は、あまりにも静かだった。

 激情も、嘲りもない。

 ただ、事実を告げるような声音。

 それがかえって不気味だった。

 

 死後、柱間とマダラは、一族や里というしがらみから解放された。

 かつて袂を分かった二人は、ようやく本来あり得たかもしれない関係へと戻りつつあった。

 本来ならば、罪を背負った魂としてプリニーになるはずだった。

 だが、異世界に存在する“六道柱間”という歪みを知った二人は、それを見過ごせなかった。

 異世界の自分たちが犯した過ちを、異世界の自分たち自身の手で正す。

 そのために二人は悪魔として転生し、この戦いに身を投じていた。

 

「そっちのマダラは、俺の細胞を移植して輪廻眼を開眼したようだの。こっちのマダラからは写輪眼を俺が奪ったのでそれはよい。だが――」

 

 六道柱間が、わずかに目を細める。

 

「むっ……!」

 

 次の瞬間、マダラの纏っていた威装・須佐能乎が、音を立てるように剥がれ落ちた。

 巨人の鎧が砕けるように消え、マダラの膝が地へつく。

 

「俺の細胞だ。俺が操れぬわけがないぞ」

 

 六道柱間の声は淡々としていた。

 そこに誇りも怒りもない。

 ただ、自分にとって当然の理を口にしているだけだった。

 

「俺の細胞を得たことが、仇になったの」

 

 マダラが歯を食いしばる。

 柱間は即座に印を結び直し、真数千手の残る腕をさらに前へ押し出した。

 だが、その瞬間にはもう遅い。

 

「弱い俺も、マダラも必要ない。消えよ」

 

 六道柱間の背後で、巨大な尾獣玉が生まれていた。

 十尾の人柱力たる証。

 圧縮された破滅そのものが、静かに、しかし絶対的な質量をもってそこにある。

 

「ただの尾獣玉ではないぞ。血継網羅である求道玉と同じ効果がある。魂ごと消し飛べ」

 

 次の瞬間、それは放たれた。

 巨大な尾獣玉が、真数千手を正面から呑み込む。

 無数の巨腕が砕け、千切れ、消し飛ぶ。

 そのまま爆発は須佐能乎の残滓ごと周囲一帯を巻き込み、緑深魔界の死にかけた大地をさらに深く抉った。

 

 轟音と閃光。

 そして、すべてを塗り潰す破壊。

 やがて爆炎が薄れたあと、六道柱間は静かに目を細めた。

 

「……直前のチャクラの揺れ。扉間の飛雷神で飛んだか」

 

 わずかに残った痕跡から、何が起きたかを即座に見抜く。

 だが、その声音に苛立ちはなかった。

 逃げられたところで、どうでもいい。

 そう言わんばかりの無関心だけがあった。

 

「まあよい。この魔界は、もう収穫の頃合いだ」

 

 六道柱間は、世界樹の頂へ視線を向ける。

 そこに実った果実は、もはや星ひとつ分の生命と魔力を凝縮した核そのものだった。

 彼はそれをもぎ取り、何の躊躇もなく口にする。

 果実が砕け、濃密な魔力がその身へ流れ込んだ。

 六道柱間の気配が、さらに一段階、深く、重く、底知れぬものへと変質していく。

 

 足元では、大地が砂のように崩れ始めていた。

 生命を吸い尽くされた魔界は、もはや世界としての形を保てない。

 風が吹くたびに地表は剥がれ、空気は乾き、空そのものまで色を失っていく。

 

 六道柱間は、それを一瞥しただけだった。

 ひとつの世界を食い終えた。

 ならば次へ行くだけ。

 空間が、ぐにゃりと捻じ曲がる。

 

 六道柱間はその歪みの中へ、何の感慨もなく歩みを進め、次の目的地へ向かうのだった。

 

 

 




◯六道柱間
異世界に存在する千手柱間。
初代火影のうちはマダラから万華鏡写輪眼を奪って自らに移植し、輪廻眼を開眼させた。
さらに、すべての尾獣を集め、自身を十尾の人柱力とした。
その後、月へ赴き、ハムラのチャクラと白眼を手に入れ、転生眼を獲得した。
大筒木カグヤを復活させるために黒ゼツが仕組んだことであるものの、大筒木カグヤが復活する前に黒ゼツは知識を全て吸い取られ倒されている。

ただひたすらに力を求める者。
数多の星を死滅させてきた破壊神。

大筒木が用いる神樹に似た術「木遁・世界樹降誕」を開発。
世界樹は星のエネルギーを吸収し、それを圧縮した実を生み出す。柱間はその実を喰らうことで力を増していく。
数多の魔王・魔神・勇者と戦い、勝利してきたため、戦闘経験は極めて豊富。
超魔王バール、魔王神ゼノン――
魔界二強の力を手に入れることを目論んでいる。

また、同じく星を喰らう存在である大筒木とは敵対しており、幾度となく戦いを繰り広げている。

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