劉備に転生した俺、三国志が思ったより治安悪すぎる ~ニートになりたいだけなのに、関羽と張飛が俺を覇王にしようとしてくる~ 作:ブンチョウ
──世界最強の居候が、我が家にやってきてしまった。
天下無双の脳筋ガンダムこと
義理の父親を二人もブチ殺している前科百犯の裏切り者に対し、
だが、現代人である俺──
「断ってブチギレられたら、今ここで徐州ごとミンチにされるだろ!! とりあえず丁重にお迎えして、機嫌を取って、面倒な戦闘は全部呂布に丸投げしよう!」
俺は呂布の軍勢を、徐州の目と鼻の先にある小城──
呂布の軍勢は小沛に駐屯させたが、家族と私邸は
とはいえ、いつ後ろから刺されるか分かったものではない。
毎日が生きた心地がしなかった。
そこで、俺の弱気な保身戦略がまたしても火を噴く。
「前世のブラック企業でも、気性の荒いヤクザまがいの下請け業者には、社長自らが菓子折りを持って挨拶に行くのが鉄則だった。よし、呂布の私邸にアポ無しで突撃して、俺がどれだけ従順で無害な男かアピールしよう!」
関羽たちを「役所の留守を頼む」と体よく残し、俺は高級な絹の生地──要するに賄賂──をしっかりと小脇に抱え、夜の下邳の館へとコソコソと向かった。
その頃、裏で俺をストーキングしていた
(主君が単身で、あの呂布の館へ……。護衛ごときに邪魔をさせるわけには参りません)
彼女は勝手な忠誠心を爆発させ、館の外周にいた護衛たちへ特殊な香を流し、さらに案内役の動きまで混乱させていた。
しかし運悪く(あるいは運良く)、呂布は深夜のパトロールに出ており留守だった。
混乱した案内役に、なぜか館の奥──厳氏の私室に近い奥座敷まで通され、俺は一人ポツンと待たされる。
「あーあ、社長が留守か。じゃあ、菓子折りの絹と『名刺代わりに置き手紙』を置いて、さっさと帰ろう。変に長居して不法侵入で斬られたらたまらんしな」
俺は持参した竹簡に、現代のビジネスメール顔負けの丁寧な挨拶文を、前世の綺麗なペン習字のノリでサラサラと書き残した。
『お忙しいところ恐れ入ります。本日は日頃の感謝を伝えたく、つまらないものですが絹を置いておきます。また日を改めて、何卒よろしくお願い申し上げます。劉備拝』
「よし、ミッション完了! 帰って寝よう!」
俺がソコソコ良い仕事を終えたビジネスマンの顔で部屋を出ようとした、その時だった。
部屋の帳の奥から、息を飲むほど妖艶な美女が音もなく現れた。
呂布の正妻であり、後宮の激しい権力闘争を生き抜いてきたファーストレディ──
彼女は、筋肉バカの夫の浮気や破滅的な暴走に、もう慣れきって疲れ果てている、冷徹な現実主義者だった。
呂布のように、力で壊して奪うだけの危険な男には、もはや何の期待もしていない。
それゆえ男の欲望には非常に敏感である。
最初は「あの劉備とかいう男、うちの旦那を誑かして徐州を乗っ取る気ね」と、袖の奥に暗殺用のナイフを忍ばせていた。
一方の俺は、彼女を見た瞬間に心臓が口から飛び出そうになっていた。
(ひええええ! 呂布の嫁さん!? 夜中に人妻の部屋に二人きりとか、不倫疑惑で呂布に一刀両断される100%死亡ルートじゃねえか!!)
パニックに陥った俺の脳内で、現代人の『防犯・ハラスメント対策メンタル』が限界突破した。
絶対に彼女の体に触れないよう、背中をガリガリと壁にぴったりと押しつける。
下心を疑われないよう、視線は彼女のセクシーな胸元を絶対に見ないよう、おでこに一点固定。
そこからマシンガンのごとく早口のビジネス敬語を繰り出した。
「あ、厳氏様! 大変失礼いたしました! 呂布社長が留守でしたので、こちらの賄賂の絹と置き手紙を置いて即座に退散します! 私は決して怪しい者ではございません! それでは、おやすみなさい!」
俺は彼女が差し出そうとした手(暗殺用のナイフを持った手)を、恐怖ゆえの超反応でサッとすり抜け、全速力で部屋を飛び出した。
残された厳氏は、手紙を読み、劉備の異様な挙動を反芻して──雷に打たれたような衝撃を受けていた。
(……ハッ! なんという恐ろしい男……!)
彼女の背筋に、呂布に対してはとうに失っていた、ぞくりとした感覚が走る。
(夜中に、夫の留守を狙って、最高権力者である私の寝室に単身で乗り込んできた。そして、私の色香をストイックに拒絶し、張り詰めた圧倒的な殺気──過呼吸の一歩手前──を放ちながら、『つまらないもの(徐州の領土)はすでに置いてきた(掌握した)。日を改めて、またよろしく(お前をいつでも寝取れる、あるいは排除できるぞ)』という内容の手紙を残していった……!)
さらに、暗器を突き出そうとした瞬間、劉備はそれを完全に予期していたかのように、達人の体術で紙一重でかわして去っていったのだ。
(呂布は、私を力で壊して、飽きれば他の女を漁りに行く男だった。私はそれに慣れきり、疲れきっていた。 だが、この劉備元徳は違う。私を壊せると分かったうえで、指一本触れずに去った。私を道具ではなく、一人の女として、恐怖だけで、わたしの心を支配しようとしている……! 恐ろしい。なのに、なぜ胸が熱くなるの……? 夫を捨てる価値のある男は、この人しかいない!)
冷徹だった厳氏の心は一瞬で硬度を失い、顔を真っ赤に染め、瞳孔の開いた目で、劉備が去った夜空を見つめるのだった。
その頃、俺が館から全速力で逃げ帰る道中、裏で俺をストーキングしていた夜桜が、物陰からぬっと現れた。
彼女は俺の不倫疑惑(※ただの挨拶)を隠蔽するため、あらかじめ館の護衛たちを特殊な香で綺麗に眠らせ、案内役の動きまで乱していた。
「主君……さすがです。呂布の最も身近な弱点である『正妻』を、一夜にして肉体的・精神的に完全掌握されるとは。これで呂布軍の内部情報は、我が手の内にあります」
「違う!! 俺は呂布殿にご挨拶に伺って、怪しまれたから逃げ帰ってきただけだ! 不義な真似も、籠絡した覚えもない!」
翌朝、パトロールから帰宅した呂布に、厳氏は赤面しながら告げた。
「あなた、劉備殿は本当に素晴らしい御仁です。昨夜、わざわざ私に『丁寧なご挨拶』をくださいました。あなたも劉備殿には、絶対に逆らってはダメですよ(私の最愛の人のために)」
「な、なんだと……?」
呂布の顔面からスーッと血の気が引いていく。
「あ、あの耳の大きな男、俺の留守中に我が城の防衛を完全にすり抜け、妻の寝室に侵入して挨拶(※呂布の脳内では『お前の命などいつでも取れるという脅迫』)していったのか……!? 妻が恐怖で洗脳されておる……! なんて恐ろしい、神出鬼没の怪物だ……!」
呂布の劉備に対する恐怖度と警戒心が、妻の歪んだ惚気のせいで天を衝くほどに跳ね上がった。
こうして劉備は、ただの「ビビりゆえの深夜の挨拶回り」をしただけなのに、世界最強の男・呂布の嫁をマイハーレムの8人目にロックオン。
世界からは「世界最強の呂布の城に単身で夜這いし、その身内を恐怖で平伏させた、底知れぬ覇王」としてさらなる誤解を深め、きな臭い徐州混迷編へとトコトコ進まされていくのだった。