劉備に転生した俺、三国志が思ったより治安悪すぎる ~ニートになりたいだけなのに、関羽と張飛が俺を覇王にしようとしてくる~ 作:ブンチョウ
──前世の格言に曰く、『虎の尾を踏んではならない』。
だが、今の俺の状況はそんな生易しいものではなかった。
虎の尾どころか、世界最強の狂犬ガンダムこと
厳氏から「劉備殿には絶対に逆らうな」とガチ恋混じりの釘を刺された呂布軍の陣営は、現在進行形で大パニックに陥っていた。
「あの劉備、我が妻を脅迫し、精神的に洗脳するとは……! だが、俺が直接動けば徐州の領民が暴動を起こす。誰か、奴の『底』を割ってこい!」
怯える呂布の前で、ドォンと胸を叩いて名乗りを上げた者がいた。
呂布の愛娘──
彼女は普通の可愛いお姫様ではない。
父親譲りの怪力と野生の勘を持ち、十代にして大の大人の兵士を素手で引きちぎる、愛用の
ただし、力任せに暴れるだけではない。
敵の足運びや陣の綻びを、獣じみた勘で嗅ぎ取る、戦場向きの目も持っていた。
一方、その頃の俺──
「ねえ関羽、張飛。最近、役所の周りを異様に殺気立った女の子がうろついてるんだよね……。お願いだから二人とも、彼女と絶対に目を合わせないで! 現代の防犯の基本は『ヤバい不審者には近づかない』だからね!」
俺の「近づくな」は、二人には「相手を刺激せず、役所の外で正体を探れ」という密命に聞こえたらしい。
「承知した、兄者」
「へへっ、じゃあ外を見てくるぜ!」
関羽と張飛が役所の外周へ散ったのと入れ違いに、その『ヤバい不審者』は、正面からやってきた。
バガァァァァン!!!
凄まじい爆音と共に、俺の執務室の頑丈な木扉が文字通り「木っ端微塵」に粉砕された。
飛び散る木片の向こうから、目をらんらんと輝かせた呂玲綺が乱入してくる。
「お前が劉備か! 母上をたぶらかし、父上を恐怖で縛った化け物め! 父上が動けぬと高をくくっていたのだろうが、そうはいかん。娘である私が、貴様の正体を暴いてやる!」
フンッ! と彼女が小方天画戟を振り下ろすと、俺のデスクが綺麗に一刀両断された。
鋭い刃先が、俺の鼻先数センチのところでピタリと止まる。
風圧だけで前髪が吹き飛んだ。
「ひええええええええ!!?」
恐怖のあまり脳のヒューズが消し飛んだ俺は、無意識に机の引き出し(奇跡的に残った側)を開け、中にあった「ある物」を彼女の顔面に突き出した。
それは、前世の記憶を頼りに、暇つぶし──もといニート生活の準備──として地元の鍛冶屋に作らせていた鉄製の『知恵の輪』だった。
「暴力反対! ほら、これあげるから! 落ち着いて! 現代の教育に良いとされる知育玩具だよ! それが解けたら戦ってあげるからぁぁ!!」
とにかくこれで時間を稼ごう。
彼女が戸惑っている隙に、裏口から夜逃げして徐州から失踪してやる。
そんな下心100%のパニック状態で、俺は鉄のパズルを彼女の手の中へと無理やり押し付けた。
「ぬお!? なんだこれは……新手の妖術か!?」
呂玲綺は戸惑った。
だが、ただの力自慢ではない。
今、この距離で劉備が武器でもない鉄輪を差し出してくる理由を、武人の勘で読もうとした。
彼女はこれまで、力と殺戮の中で生きてきた。
敵を倒すには首をハネる。
扉を開けるにはぶち壊す。
だが、目の前の鉄輪には、力をぶつける以外の答えがあるように思えた。
「うぬぬぬ! 外れん! この私が全力で引いても千切れんとは……。いや、違う。これは力を測る物ではないのか……?」
顔を真っ赤にして、知恵の輪をガチャガチャと弄り始めるゴリラ美少女。
よし、今だ。
俺はジリジリと部屋の隅へ避難を開始する。
だが、あまりにも彼女が力任せに壊そうとするので、鍛冶屋への修理代がもったいなくなり、つい口が滑った。
「あ、あの、力入れたらダメだよ。角度をこう、ひねって、優しくスライドさせるんだよ。……じゃあ、私はこれから有給消化に入りますので……」
俺がビビってガタガタ震える指先で、彼女の手元をちょんと突いて「正解の角度」へ導いた──その瞬間だった。
カチャリ。
心地よい金属音と共に、複雑に絡み合っていた鉄の輪が、嘘のように鮮やかに外れた。
「あ……」
呂玲綺は、外れた二つの輪を見つめた。
力では壊せなかったものが、角度と順序を変えただけで、するりと外れた。
「貴様は最初から、私が父と同じ答えしか出せぬかを試していたのか」
「この輪は玩具ではない。兵を動かす者のための、小さな戦場だ」
筋肉では絶対に解決できなかった世界の謎が、劉備の「優しい指先(ただの怯え)」によって一瞬で解き明かされたのだ。
(な、何これ……。力では解けなかったものが、順序一つで開いた……! 私の圧倒的な武力を、この人は汗一つかかずに『知略』だけで無力化した。そればかりか、私に、兵を動かす者のための別の勝ち方を教えてくれた……!)
彼女の脳内で超解釈の嵐が吹き荒れる。
(母上が言っていたことは本当だった。この人、ただの天才じゃない。私の『野生』を完全に支配した覇王だわ……!)
さっきまで獣のように荒々しかった彼女の目は一転し、武人の鋭さを残したまま、仕えるべき主を見定めた者の熱を宿していた。
「師匠……! いや、我が主よ! 私に……私にその『力に頼らぬ勝ち方』を、もっと教えてください!」
「えっ? いや、俺はただの無職希望の──」
そこへ、部屋の惨状を聞きつけた
呂玲綺の顔を一瞥し、すべてを察したように冷たい笑みを浮かべる。
「劉備様、執務室の備品損壊に関する始末書です。……あら、呂布の娘さん。劉備様から『武力以外で勝つための教え』を受けているのですね。素晴らしいことです」
公孫蘭は、進捗管理表の下から別の木簡を取り出した。
「武力だけでは兵站も財も回りません。劉備様の高みに少しでも近づきたいならば、まず数字を読めるようになりなさい。こちらの『九九の暗唱』と『帳簿の初歩』からです」
「は、はい! 劉備様の教えなら、私、なんでもやります!」
こうして、武一辺倒だった呂玲綺は、公孫蘭の手によって「劉備を崇拝し、武と算術を両方学ぶ英才女騎士」へと強制的に育成枠に入れられてしまうのだった。
数日後──。
呂布の元へ帰ってきた娘は、見違えるほど丁寧な口調で、陣営の収支報告書(見やすく整理された木簡)を提出した。
「父上、これからは暴力だけの時代ではありません。劉備師匠の『徳』に従い、我が軍も無駄な出費を改めるべきです」
「な、なんだと……!?」
呂布はガタガタと震え、白旗を掲げた。
「お、俺の誇り高き愛娘まで、わずか数日で頭の中まで塗り替えられて帰ってきた……! 劉備元徳、お前は一体どれほどの怪物を裏で飼っているんだ……!!」
こうして劉備は、ただの知恵の輪一つで、世界最強のDNAを持つ呂布の娘(呂玲綺・主従忠誠)をマイハーレムの9人目に獲得。
世界からは「呂布軍の親子二代を、一滴の血も流さずに『知略と洗脳』で完全支配した、底知れぬ恐怖の魔王」としてさらなる凶悪な誤解を深めていくのだった。